モール出店の語られないデメリット、経験者にはわかる時間の大切さ
コンテンツは現場にあふれている。会議室で話し合うより職人を呼べ。営業マンと話をさせろ。Web 2.0だ、CGMだ、Ajaxだと騒いでいるのは「インターネット業界」だけ。中小企業の「商売用」ホームページにはそれ以前にもっともっと大切なものがある。企業ホームページの最初の一歩がわからずにボタンを掛け違えているWeb担当者に心得を授ける実践現場主義コラム。
宮脇 睦(有限会社アズモード)
心得其の506
お詫びして訂正
学生時代に反省文しか書いたことがなかった身ながら、文章を書いてお金を貰えるようになったのは、著書『楽天市場がなくなる日』を上梓してからのことです。
ユーザーのネットリテラシーの向上と、検索精度の高まりによって自在に好みの商品を探せるようになり、ショッピングモールが不要になるという予言でした。百年後はともかく、現時点では外れており「ゴメンナサイ」とお詫びしておきます。
とはいえ、今でもモールへの出店に懐疑的な立場です。そこには構造的な課題があり、ド素人はもちろん、「片手間」や「あわよくば」といった甘い目論見なら、デメリットのほうが大きいと考えるのは経験が裏打ちします。
ネットショップを始めるなら、まず楽天とヤフーに出店しないと
モール出店にはメリットもあります。ただし、それは道具を使いこなせるかどうかにかかっています。今回お届けするのは、片手間でモール出店したときの経験談です。
いらないオプションサービス
あるとき、とある店舗オーナーから余剰在庫の処分を相談され、Yahoo!ショッピングに出品しました。ネットリテラシーという言葉も虚しいほどのクライアントで、売れればラッキーという程度の持ち込みです。加えて業界の慣習的に、その店の名前では出品できないブランド商材ということもあり、弊社が「代理店」として片手間に出品します。予想通り売れはしません。
売れないことは想定内ながら、出店から3日とたたず、モールで公開している事務所の電話が鳴り響きます。
よりよいサイト作りの提案をいたします
売り込みの電話です。1回、2回ではありません。翌日には「売れるためのアドバイスをする」との電話が入り、しばらくすると、店舗の連絡先として公開したアドレス宛てに、さまざまなネットショップツールの売り込みや、別のショッピングモールから出店のお誘いがくる始末。
特に電話での勧誘は、そのつど仕事の手を強制的に止められてしまい一種の業務妨害。お客からの問い合わせの可能性があるため無視するわけにもいかず、締め切り間際の原稿を抱えているときには、怒りを覚えるほどです。
SEO詐欺もアリアリ
削除すればいいだけの電子メールは、まだマシとはいえ、開封させるために取引先を装う件名も多く、選別に一苦労するのは「迷惑メール」と同じです。詐欺的なメールも多数届きます。集客セミナーの案内に加えて「仕入れ」の売り込みも多く、ならば両者が手を組み「直販」をすればいいのにと首をかしげてしまいます。
モール出店に抑制的であるのは、本稿が一貫して対象とする「ド素人Web担」の場合、こうした売り込みにひっかかってしまうことがあるからです。いまだに詐欺的業者が消えないのは、ひっかかってしまう人がいるから。無駄金を支払うだけではなく、以前に紹介したSEO詐欺のような事例もあります。その「さわり(要旨)」を紹介しておきます。
某モールに出店すると「SEOの順位を上げる」と電話が入り、よくわからないまま月額固定契約に申し込みました。実際の作業はほとんど行われず、またその作業も意味のないものでしたが、取り交わした契約は契約。裁判を経ても途中解約は認められず、業者へ3年分の支払い命令が確定しています。
なぜ、モールなのか
ショップ出店者との契約は、ビジネスにおける取引と同じで、無知は理由にならず、不平等な内容でも消費者保護法の外となります。そして、確信犯で詐欺的取引を持ちかけるプロにとって、素人を黙らせることは、赤子の手をひねるより簡単なことです。
こうした売り込みは「自社サイト」にもやってきますが、モール出店後は、さらに継続的に魔の手が迫ります。これは「営業」の本質から説明できます。
自社サイトの存在理由は、ブランディングや告知、採用などさまざまですが、モール出店の場合、「通販」という「ビジネス用途」が明らかです。ネット通販業者を相手にしたビジネスにとって、ショッピングモールとは「カモ」が雁首並べている場所とは言い過ぎでしょうが、事実です。
もちろん、世の中には優秀なコンサルタントがいるのも事実ですが、そうした人たちは既存のクライアントやクチコミの仕事で引く手あまた、手当たり次第に営業をかけるほどの余裕はありません。ネット通販に不慣れなまま、すでにモールに出店してしまっているのなら、モール内の担当者や、モールが主催する講習会を利用すべきでしょう。
モールというラットレース
モールの構造的欠陥……限界についても指摘しておきます。一言で言えばこうです。
市場参加者が増えれば競争は激化し、競争に勝てない企業は埋没する
つまり、リアルでも自社サイトでも同じであるように、モールに出店したら売れるということはありません。
さらに成功者は模倣されるものとはいえ、モールという限定空間では模倣されたときのダメージは大きく、ラットレースのように周回を永遠に回り続けるかのごとく、競争を勝ち抜き続けなければ埋没します。
地方自慢の海産物など、史上競争力の高い商品でもなければ、リアルの商売と同じ苦戦が待っているだけだということです。これは、原作を担当した「Web担当者 三ノ宮純二」でも触れています。
いまなら何がいいか
ネットで商取引をすることには賛成です。ただ、モールはド素人や片手間での参加には不向きだということです。
かつては、ネットショップ出店の練習舞台として「ヤフオク」を勧めていました。客が食い付くキャッチコピーを考え、反応する価格設定や、飢餓感を煽る仕掛け、写真撮影などで付加価値をつける技術や方法論は、そのままネット通販に通じるからです。やり方次第では「定価以上」で売ることも可能で、私はコンビニ定価500円のチョコレートを送料別の740円で売ったことがあります。
いまなら「メルカリ」などのフリマアプリがいいでしょう。事実上、プロの出品は常態化していますが、法人利用を制限しているサービスもあるため、あくまで個人として趣味の利用範囲にとどめましょう。個人間の売買経験を活かして、商売を発展させた事例は山ほどあります。
ファッションや小物、ペットのアクセサリーなど「ビジュアル」が重視なら、今はInstagramが熱い市場です。直販はできませんが、そこから自社サイトや店舗に誘導する取り組みが展開されており、通販業者向けの広告メニューも展開されています。
今回のポイント
片手間モール出店にはデメリットがある
フリマやインスタも視野に
- 電子書籍『マンガでわかる! 「Web担当者」の基本 Web担当者・三ノ宮純二』
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