企業ホームページ運営の心得

ヤフオク経験一度でオーソリティー。素人シェルパが商売用の足を引っ張る

Web 2.0時代のド素人Web担当者におくる 企業ホームページ運営の心得

コンテンツは現場にあふれている。会議室で話し合うより職人を呼べ。営業マンと話をさせろ。Web 2.0だ、CGMだ、Ajaxだと騒いでいるのは「インターネット業界」だけ。中小企業の「商売用」ホームページにはそれ以前にもっともっと大切なものがある。企業ホームページの最初の一歩がわからずにボタンを掛け違えているWeb担当者に心得を授ける実践現場主義コラム。

宮脇 睦(有限会社アズモード)

心得其の四十四

素人シェルパでエベレストに挑むのか?

エベレストに登るのに「シェルパ」は欠かせないといいます。彼らは荷揚げに道案内と登頂を支える裏方のエキスパートだからです。

そんなシェルパが素人だったら話になりません。ところが、商売用ホームページの世界では「素人シェルパ」が登山者を案内することがあります。まるで普通自動車免許でF1レースに挑むようなものです。

素人シェルパとは拙著で「ぷちホームページ屋さん」と紹介していた「少し詳しい素人」や「片手間で関わっている人」のことで、「商売用」に携わるウェブ担当者は注意が必要です。

たった1度の経験でオーソリティー

経営者には勉強好きで努力家が多いものです。

とはいえ二代目経営者は「誰かが教えてくれる」という依頼心が強く、創業社長は自分が正しいと思いこむ傾向があり、どちらも勉強の方向や手段が間違っていることが少なくありません。

とある経営者同士のIT勉強会での風景。

壇上には製造業の社長が。彼は語ります「ヤフオク」の可能性について。使わなくなったモニタを出品したら1,000円になったという経験から始まり、お決まりの「詐欺」もワイドショーで見聞きしたレベルで触れ、「しかし!」と熱く啓蒙します。ヤフオク経験はこの一度といいますが勉強会では「権威」の扱いです。

昨年の話です。素人シェルパがヤフオクへと誘います。

ヤフーはちゃんとチェックしていた

担当者1人で粗利1,400万円を達成したマツブン刺繍。詳しくは第26回コラムを参照。
http://www.matsubun.com/

ぷちホームページ屋さんと呼んだ素人シェルパのエピソードを拙著「楽天市場がなくなる日」から紹介します。

その昔「ヤフーのカテゴリ登録」がビジネスの必勝法として語られ、「Yahoo!ビジネスエクスプレス」の利用を薦めるトレンドがありました。Yahoo!ビジネスエクスプレスは審査料をヤフーに支払い優先的に審査をして貰うサービスです。

マツブン刺繍はビジネスエクスプレスを使い、カテゴリ登録に2回チャレンジしました。落選したものでも別のドメインで申請すれば通るかも知れないとアドバイスしたのが素人シェルパです。

ヤフーは2回目の落選理由を「matsubun.com(初回の申請時のドメイン)」と同じだと告げました。この話を聞き、ちゃんとチェックしていることに感心したものです。失礼ですが。

自分にしか使えない必勝法もある

その後、別ドメインの根拠を尋ねると「うろ覚え」の知識だったそうです。仲間内では自社サイトを運営している「詳しい部類」にはいる人の提案でした。

別の勉強会では「ネット社長」と称される方がオーソリティーとなっていました。自分で作ったサイトから注文が相次いでいると言い、手法をレクチャーします。会員はふむふむと頷き、ネット社長を賞賛します。

ところがこちらの「商売」は手作業のオリジナルグッズ販売で、いわゆる「オンリーワン商品」です。ネット販売でオンリーワンは最強の属性です。

オンリーワンのネット販売には素晴らしい手法でしたが、量販店や通販のできないラーメン屋が活用できるものではありませんでした。

素人のすべてを否定するわけではありませんが、道案内をするには力不足であることが多々あります。

「イイヒト」だけに厄介

人柄が良く人望があり、故に素人シェルパになってしまうという構造的な問題もあります。

最初は何気ない相談や世間話から、「ちょっと話を聞かせてよ」となり、人望を裏付ける面倒見の良さから「知ってる範囲」でアドバイスをします。相談者は優越感と満足からあちらこちらで吹聴します。そして「権威」に祭り上げられます。

ヤフオクも「身内」向けの体験談でしたし、別ドメインは相談されてひねり出したアイデアです。善意なだけに厄介です。

勉強好きな「社長」の学び方の問題点を挙げるなら「先生」の専門科目よりも人間関係を重視するところでしょう。そこにちょっと詳しい人の「善意」が触媒となり「素人シェルパ」を生みだします。また、人間関係に「善意」を振りかけることで内向きのベクトルが生まれ「外部の知恵」から遠のくことは……すべての日本型集団(組織)の課題かも知れません。

悪意がないことで問題を見逃し、ウェブ担当者を苦しめます。

プロとふんぞり返る傲慢

私が執筆で気をつけているのは「普通の言葉」を使うことです。

素人シェルパが増えるのは私たち「業者」の責任もあるからです。解説本やサイトを見ても、昔の電報のようにカタカナを並べて悦に浸っているかのようなものが多く、完全な素人にとっては「専門家」よりも「半可通」の説明の方が耳障りが良いのです。コンバージョンだかコンバトラーVだか知らねーがという素人が相手なら「買ってくれた人」が一番通じるのです。

プロの敷居が高すぎることは危険です。自戒を込めて。

街の寿司屋が減り回転寿司チェーン店が躍進しているのも、バブル期に急に高くなった敷居で客がつまづき、足が遠のいたことが始まりではないでしょうか。昭和の街の寿司屋は「ど根性ガエル」に登場する梅さんのようにフレンドリーだったことを思い出します。

シェルパを選ぶコツ

社内に相談相手のいないウェブ担当者には「シェルパ」がいると心強いでしょう。それは専門業者でもコンサルタントでも良いですし、ブログやメルマガ、書籍でも代用できます。

但し、選ぶ際は相手や執筆者が

「それで飯を食っているか」

を基準にしてください。技能や経験は一律に示すことはできませんが、飯を食べている人は商売での使い方を知っているからです。CGIやスタイルシートに長けていても、それを「換金」する術を知らなければ「商売用」のシェルパとしては危ういものがあります。理想が立派でも報酬を得なければ商売用ではないのです。

シェルパを雇うのはエベレスト制覇の為。商売用ホームページは利益が目的です。合致したシェルパを捜してください。

情報交換だけなら素人シェルパでも十分ですが、中身の精査は必ず行ってください。素人シェルパは「ネット」でも増えていますのでいずれ紹介します。

♪今回のポイント

商売用は兼業で究められるほど甘い時代でもない。

業務用と家庭用の違いは毎秒開きつつある。

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