コンテンツは現場にあふれている。会議室で話し合うより職人を呼べ。営業マンと話をさせろ。Web 2.0だ、CGMだ、Ajaxだと騒いでいるのは「インターネット業界」だけ。中小企業の「商売用」ホームページにはそれ以前にもっともっと大切なものがある。企業ホームページの最初の一歩がわからずにボタンを掛け違えているWeb担当者に心得を授ける実践現場主義コラム。
宮脇 睦(有限会社アズモード)
心得其の弐十六
ヤフーオークションの終焉。イーベイの撤退
今週末の6月16日の土曜日、ヤフーオークションがそのサービスを終了し閉鎖します。
と、これは本家アメリカ(北米)の話。
国内のオークションといえば「ヤフオク」が圧倒的な存在ですが、生誕地である北米のシェアは米粒のように小さく、どんな調査結果でも1%を超えることがありません。最強はeBay(イーベイ)で95%以上のシェアを誇っています。
ところが「北米最強」は日本では振るわず、1999年10月に設立されたイーベイジャパンは、僅か2年5か月後の2002年3月には日本市場から撤退していきました。
コンサルタントやジャーナリストに耳を貸すな
コンサルタントやジャーナリストは敗戦理由を「先にサービスインしたイーベイがデファクトスタンダードとなったため」とします。先行者利益が勝敗を分けたというものです。
ネットスケープとインターネットエクスプローラー、ヤフーとグーグル。後発はいつも遠慮なく勢力図を塗り替えてきました。「楽天市場」が産声を上げた1997年には、すでに三井物産が「キュリオシティ(生1995~没2005)」というショッピングモールを運営していましたし、名だたる大企業も参戦し「世界が市場」と喧伝していました。結果は「国内の中小企業」を市場に選んだ楽天市場の圧勝でした。
歴史は先行者が常に勝つわけではなく、勝った人間が先行者のように振る舞うのです。
コンサルタントやジャーナリストは後付の理屈がお好きですが、北米ヤフオクは昨年にイーベイと戦略提携をしており、シェアはずっと低いままでしたから、戦略的撤退という既定路線だったかも知れないのです。もちろん「後付」ですが。
過程も楽しむか、結果を求めるかの違い
北米の雄イーベイは日本から早々と撤退しました(今はなきイーベイジャパン)。小売り世界最大手ウォルマートも日本では苦戦しています。しかし、彼らは北米を制覇しています。イーベイの簡便なシステムはアメリカ人の心を捉え、ウォルマートのエブリデーロープライスに公平感を覚えるのでしょう。一方、日本では給料日前後の「25日攻防」のような価格の上げ下げという「演出」も楽しみたい消費者が多く、毎日安いだけでは楽しくありません。
日本人は「過程」も楽しみ、手に入れてからの「結果」に重きを置くアメリカ人の国民性は、それぞれの市場に表れ勝敗に影響します。
そして「市場の選択」は商売の成否に直結します。
短所と長所は裏表。自分探しで見つかる勝ちやすい市場
北米と日本ほどではないにしても、楽天市場と携帯利用者の多いビッダーズでは市場が異なります。また、モール出店には利点もありますが、同業他社がひしめく厳しい市場でもあります。
刺繍業界は斜陽産業と見られていました。当時、ネットで活躍していたのは小規模小ロッドか、中国に工場をもつ「大量生産、低価格」の刺繍業者です。
担当者1人で粗利1,400万円をたたき出した「マツブン刺繍」は「勝ちやすい市場」を探して成功しました。
中規模のマツブン刺繍が同業者と同じ土俵に上がっては勝ち目がありませんでした。しかし、彼らの長所はひっくり返せば短所となり、短所も「市場」を変えると「長所」に生まれ変わります。守秘義務に触れますのですべては紹介できませんが、「みんながやっている」という発想からは勝ちやすい市場は見つからないというのがヒントです。
勝ちやすい市場を探すには自分探しも必要です。同業者という敵を知り、自分探しで己を知る。そして競合の長所を短所に、自社の短所を長所にと置き換えたときに勝ちやすい市場が浮かんでくるのです。
自分の探しの旅で探す自分とは「リアルSEO(Web担心得其の九)」で触れたUSP(Unique Selling Proposition)です。
楽天市場ではなくマーケットプレイスで生まれるUSP
自分が見つかれば、次は勝ちやすい市場を探します。
古書店はアマゾンのマーケットプレイスで「1円」というUSPを手にしました。
1500円以上送料無料のアマゾンですが、マーケットプレイスの購入者は340円の配送料を負担します。1円なら341円です(マーケットプレイスの配送料と配送条件)。
アマゾンが手数料分80円を徴収(本の場合)し、差額の261円が出品者に支払われます。書籍の大きさにもよりますが「メール便」などで80円で発送できるので181円が粗利となります。
※1:アマゾンでプロマーチャント登録(大口出品者)をしている場合の一例。アマゾンでは、月額4,900円のプロマーチャントに登録することで、成約ごとに必要となる成約料100円が免除されるほか、出品数が無制限になるなどの恩恵が受けられる。
古書店の店先には100円、50円とエブリデーロープライスでセールされている本があり、これをマーケットプレイスで「1円で売る」と181円の売り上げとなります。50円で売っている本なら、2.6倍以上の売り上げ増加です。出品も梱包・発送も空き時間を活用し、すでにもっている商品を出品するので在庫リスクもありません。
ただし「1円」がUSPとなるのはマーケットプレイスだけです。楽天市場では無理です※1。
お似合いの市場を探す努力を
ガシャポンの中身を選別して海外向けのオークションサイトで転売しているおもちゃ屋さんがありました。「インターネットは世界」というのは商売用においては幻想に近いものがありますが、「語学堪能」というUSPがあれば海外は立派なマーケットです。このおもちゃ屋の2代目は留学経験がありペラペラでした。
古書店はマーケットプレイスでUSPを得ました。おもちゃ屋も海外に競争相手がおらず楽勝。マツブン刺繍は逆転の発想で一番得意な顧客のいる市場で戦っています。
市場を選ぶと世界が変わります。北米ヤフーは不得手な市場から撤退し、自分たちの勝ちやすい市場での勝負に力を注ごうとしています。ビジネスは最期に立っていたものが勝ちで、オークションが北米ヤフーのすべてではありません。
商売用ホームページが上手くいかない理由として「市場の選択」が間違っていることがあります。モール出店か独自サイトか、個人向けかビジネス向けか。自分探しをし「市場」も探してみるのも一手です。
♪今回のポイント
敵を知り己を知れば百戦危うからずはネットでも必勝法。
自分たちのUSPで一番有利に戦える市場を探す。
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