コンテンツは現場にあふれている。会議室で話し合うより職人を呼べ。営業マンと話をさせろ。Web 2.0だ、CGMだ、Ajaxだと騒いでいるのは「インターネット業界」だけ。中小企業の「商売用」ホームページにはそれ以前にもっともっと大切なものがある。企業ホームページの最初の一歩がわからずにボタンを掛け違えているWeb担当者に心得を授ける実践現場主義コラム。
宮脇 睦(有限会社アズモード)
心得其の弐十七
TVからWebへ誘導できるか?
CMの最期に黒画面に白文字で「www.○○○.com」と映し出された時代を覚えているでしょうか。あわててメモしようとした頃には次のCMになっており「……できっこないじゃん」と呟いたものです。そこから、少しだけ知恵を絞ったのが「○○どっと混む(.com)」でした。アルファベットを日本語にしてみましたという、おじさん達が頷きやすい駄洒落はとても日本的です。
そして1年ちょっと前から「続きはWebで」となり、今は「○○で検索」。アルファベットよりましとはいえ、どちらも相変わらずメモするのは容易ではありませんし、テレビのCMを暗記するほど気合いをいれて見る人がいるのでしょうか。
どうする? 俺。どうする?
「続きはWebで」の成功例として語られるオダギリジョーさん主演の「ライフカード」の「どーする? CM」は、人生の決断の局面で「どうする?」と3枚のカードから「その後」を迫られる物語で、下した決断はネットでしかみられない仕掛けになっています。
ネット広告は「アクセスログ」という形で効果がはっきりと解り、「どーする? CM」はアクセス数を伸ばして、成功だったといわれます。
しかし、テレビは……というよりネット以外の媒体は効果測定が難しく、ネット上でもプロモーションを展開していた同シリーズは、本当にテレビからWebへと流れたかの賛否は分かれます。
パソコンの電源はわざわざ入れるもの?
私の周りで尋ねると大半は「その後」を見たことがありませんでした。興味をもって、もわざわざパソコンの電源を入れてまでは見ないといいます。普通の家庭にとってはパソコンの電源はわざわざ入れるものなのです。
見ていた人はいつもパソコンの電源が入っている人ばかり。我が社の専務もその1人です。ただし、CMのアドレスをメモしたのではなく、偶然映しだされた「バナー広告」をクリックしてでした。
街角雑感としてはテレビからだけの誘導効果は甚だ疑問です。
しかし、他の「続きはWeb」でが猛スピードで忘却の彼方に消し飛ぶ中、「どーする? CM」だけが注目されたのには理由があります。
それは大胆にCMをブリッジとして「だけ」使ったからです。
「資料請求」だけでクリックしてくれたら苦労はしない
音楽で転調する時のつなぎとして使うコードや小節を「ブリッジ」といいます。この「ブリッジ」は、商売用ホームページの課題を指摘する際にしっくりくるので使っているのですが、幅広く応用ができ、コンテンツや顧客動線を考える上でとても大切です。
SEOを施して、オーバーチュアで広告費を払い、アクセス数は増えたのに資料請求が増えない。これは「入り口」が増えたのに、「資料請求」まで誘導する「ブリッジ」がないからです。
街頭で受けとったポケットティッシュに「資料請求」のQRコードがあっただけでアクセスしてくれるとは限りません。街の看板に、資料請求は「○○で検索」と促す矢印をみてググるでしょうか。
トップページに「資料請求」とリンクをおいても、クリックされないのもこれと同じです。目立つ場所におけばクリックしてくれるというのは制作者の甘えです。
インセンティブというブリッジが成功への架け橋
自分に置き換えれば解ります。クリックにより無駄な時間を費やしたくないですし、仮にクリックしたとしても資料請求する際に個人情報を差し出すのには、それ相応のインセンティブ(報酬)がなければ嫌なものです。
また、ネットが日常に溶け込むにつれ、「ネットで今すぐ完結」したいと思うユーザーは、わざわざ資料請求することに抵抗を覚えるようになりました。「企業ならホームページですべて公開しろよ」といった消費者の声もあります。
訪問者はネットで完結したく、Web担当者は「資料請求してほしい」。この「キー(調)」の違いをつなぐためにブリッジを用意してあげるのです。
転調の際にブリッジをいれることで自然に流れるように、ネットで完結したい訪問者の心のキーを資料請求に結び付けるブリッジとして「インセンティブ」を使います。
インセンティブがゴールになったら「どーする?」
ブリッジの方法は1つではありませんが、資料請求には「インセンティブ」が効果的です。
先着○名様の特典や、要点をまとめた小冊子、半額になる割引券など「資料請求」という行動をとった際に訪問者が得られる「報酬=インセンティブ」です。
インセンティブはわかりやすいものを用意してあげてください。指先1つで世界中を駆けめぐることができるネットでは「わかりやすさ」が大切です。わかりやすいインセンティブを示すことで、訪問者はようやくブリッジを渡り始めます。
ライフカードの「どーする? CM」はオダギリジョーさんの「その後の人生(物語)」というインセンティブを与えていました。同種のキャンペーンと一線を画したのは、CM全部が「ブリッジ」となっていたからです。
普通のCMの最期にちらっと「続きはWebで」と映しだすのではなく、15秒・30秒のCMすべてがネットにつなげるブリッジとして作られているのです。ライフカードの商品説明は一切なく、ただひたすらに人生の決断を迫っているのです。「どーする? 俺」と。
「過ぎたるはなお及ばざるがごとし」はすべてに通じます。「どーする? CM」は「その後」というインセンティブでサイトに誘導してくれました。経路はともかくとして。
しかし、物語をすべて見ましたが、ライフカードと契約するインセンティブはわかりません。
また、作品が良くできているせいか、見終わると満足してしまい「×」ボタンでウィンドウを閉じてしまいました。
与えるインセンティブはブリッジとして用意しますが、インセンティブで満足させてしまうと橋を見学しただけで帰ってしまうのでご注意ください。
♪今回のポイント
訪問者は具体的なインセンティブを示さなければ行動しない。
架け橋=ブリッジは掛かっているか。商売用の仕上げのコツ。
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