ポイントは絶対儲かる金の卵。囲い込みだけじゃない大人の事情
コンテンツは現場にあふれている。会議室で話し合うより職人を呼べ。営業マンと話をさせろ。Web 2.0だ、CGMだ、Ajaxだと騒いでいるのは「インターネット業界」だけ。中小企業の「商売用」ホームページにはそれ以前にもっともっと大切なものがある。企業ホームページの最初の一歩がわからずにボタンを掛け違えているWeb担当者に心得を授ける実践現場主義コラム。
宮脇 睦(有限会社アズモード)
心得其の弐十八
ポイントと日本型賞与との類似点
今週末には公務員の夏のボーナスも出揃い、ボーナス商戦も佳境へと向かいます。
そのボーナスですが、2か月や3か月分と貰える日本のボーナスは異質で、海外では「成果報酬」以外はあまり多くないといいます。これは日本の賞与水準が高いのではなく「給料の後払い」的な性格だからで、会社員だった頃はその分を毎月上乗せして欲しいと願ったものです。
家電量販店、携帯電話、航空会社のマイレージ、ネット通販でも楽天市場などのショッピングモールに、アマゾンでもポイント制を導入しました。
「ポイント」は日本型賞与と同じく「後払い」で、だからこそのメリットは実に多くあります。今回はこの「ポイント」のあまり語られない本当のメリットについてです。
囲い込みの神髄は習慣化
「ポイント」導入の目的の1つは「囲い込み」です。
家電量販店では、貯めたポイントが同じ店で次の商品を買うときの代金に充てられ、ネットショッピングモールでは貯めているモールが利用されます。そして、ポイントに期限を設けて「早く使え」と急かすことは、消費者に忘れられないために重要です。
今のご時世、ほとんどの商品はどこで買っても値段は同じなのですが、ポイントによって金銭的メリットを与え、期限を設定し定期的に利用させることで消費行動を習慣化させ囲い込みます。
多くの人は「いつもの店」を利用したがるものなのです。
40%OFFと38%+3%のマジック
ポイント制のメリットは囲い込みだけとみるのは浅薄というもの。
10万円の商品を単純に40%値引きするのと、38%値引きに3%ポイントバック。どっちがおトクでしょうか? 後者は単純に「パーセント」を合算すると「41%」となります。
……賢明な読者ならお気づきでしょうが、これは数字のマジックです。単純に40%値引けば60,000円です。一方、3%のポイントは38%の値引きした金額に対してですから、割引後の価格62,000円の3%で1,860円分となり、通算値引きは60,140円です。
- 40%引き:100,000円×0.6=60,000円
- 38%引き:100,000円×0.62=62,000円
値引き割合を「41%」としていると騙したことになりますが、「38%+3%」となっていたらどうでしょう?
単純にしておりますが、ポイントを併用するといろんなことができるという一例です。
お客さんの金で値引きする仕組み
商売の格言を1つ。「出血大サービスで出血する馬鹿は死ぬ(潰れる)」。赤字覚悟の大セールも、「覚悟」はしても赤字にしてはいけません。
その点「ポイント」は、割引をする原資はお客さんの財布から出されているので出血しません。ポイント還元は最初から私たちの財布から徴収している「客の客による客のための値引き」で、お店は損しない仕組みなのです。
6月18日の日経新聞の一面にあった「ポイント発行急拡大」という記事が裏付けてくれます。携帯電話会社や家電量販店を筆頭にポイント市場が急拡大し、その為の「引当金」が4割増えたとあります。
詳しくは税務や会計のプロに譲りますが「引当金」とは、まだ使われていないポイント分のお金を「使われる分」として会計処理するもので「未払い金」という扱いとなります。これは語弊を恐れずに言うと、本来お客様のものであるお金(貯まっているポイント)を「まだ返して(払って)いないお金」ということです。
自分たちの金を返して貰うことが「還元」の正体で、後払いという点で日本型賞与に似ております。
ポイントを儲けにできる会計学
ポイントは貯めても忘れてしまったりして使わない人(ロス=退蔵)がでてきます。このとき「引当金」とされていたものは「益金」となり、ザックリというところの儲けとなります。
儲けた分は税金がかかりますが、引当金はお客さんから預かったお金ですので、元からないものと考えればお客さんから集めたポイントは棚ぼたのような儲けに変身します。
また、1つの考え方として「超儲かった」ときに、ポイント倍付けキャンペーンで引当金を積み上げることだって……これが「脱」か「節」かは専門家に委ねるとして「ポイント大還元」と期末に見かける気がするのは気のせいでしょう。
税金で納めるか、お客さんに還元して余ったら儲けにするか。「脱」にならなければどちらを選ぶかは明らかです。
売価と原価の差益が生み出す金の卵
預かっているお金を返す「ポイント還元」は「売価と原価の差益」に注目すると旨味がもっと見えてきます。
店頭価格(いわゆる売価)10万円で販売されている商品と交換する場合は、引当金からは売価の10万円が充てられます。すると、原価が5万円の商品なら儲けが5万円で、3万円なら7万円の儲けとなるのです。
引当金は現金と同様の扱いですから、あくまで「売価」で処理されるのです。つまり、ポイントは交換されることで売り上げとなり、交換されずに一定期間が過ぎると「益金」となるのです。
預かっているお金を原価ではなく売価で処理できることから、ポイントは確実な利益を生み出す金の卵なのです。
10万円分の満足を与えることができる
お客さんがポイントで購入したのは売価10万円の商品です。原価を把握している客はいませんし、知らせる必要はありません。
ポイントとは客から預かったお金を使って、売価と原価の差を活用して「さらに喜んで貰う技術」です。
言い方を変えれば、一般的に商品価格に含まれている「顧客サービス対策費」をお客さんに見えるようにしたのがポイントということができます。そして確実な利益が見込めるのですから、各社が導入するのは当然です。
ポイント還元は「還元の方法」も大切で、中小企業向けの還元方法があるのですが......これはまた別の機会に。
蛇足ですが楽天市場のポイントは、売り上げの1%を出店者から徴収し、楽天市場の施しのように振る舞われるものですが、元を辿れば消費者のお金です。そして使われなければ徴収した楽天市場の益となる点も「楽天税」などと揶揄される理由かも知れません。
♪今回のポイント
ポイントは売価で返して、還元負担は原価で。
未払い金という大人のルールも活用できる。
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コメント
ポイント=有効期限付きの短期社債(ゼロク...
いまの日本の金利は少ないですが、本来なら預金や貯金には
金利が付きます。ポイントとして自分の金を特定企業に預ける
分は預けの期間に利子が付かず消費者に不利です。短期金利
が上昇すれば、ますます消費者に不利になっていきます。
さらに、社債であれば倒産するリスクを折り込んだリスクプレミ
アムの提供があるのが普通です。日本国債と地方債では、
地方には倒産リスクがあるので金利にオマケがつきます。
社債ではさらに金利の上乗せが無いと、債券市場では相手にさ
れません。誰が好んで金利の上乗せが無い社債に投資するの
でしょうか?
半強制的に、消費者に短期社債を押し込んでいるのが
現在のポイントの真の姿と思います。企業が倒れれば、
労働者の給与債権や融資している金融機関の回収が最優先
されます。ポイントのほんとうの姿が消費者からの預かり金
であれば、真っ先に回収されてしかるべきですが、制度上、
ポイントは消し飛ぶことになるでしょう。
Re: ポイント=有効期限付きの短期社債(ゼロ...
編集部の安田です。
そのとおりなんですよね。本質から言うと、ポイントは無利子で企業に金を貸して、しかも返してもらうにはそこの商品を買わなきゃいけないという仕組みなんですよね。
ですが、消費者の立場で考えると、「囲い込まれる」ということは、「毎回どこで買うか悩まなくてもいい」という意味にもなり、気が楽になる側面もあるんですよね。
金利とかあまり気にしない人にとっては、あえて囲い込まれる楽さもあるのかな、とは思います。