コンテンツは現場にあふれている。会議室で話し合うより職人を呼べ。営業マンと話をさせろ。Web 2.0だ、CGMだ、Ajaxだと騒いでいるのは「インターネット業界」だけ。中小企業の「商売用」ホームページにはそれ以前にもっともっと大切なものがある。企業ホームページの最初の一歩がわからずにボタンを掛け違えているWeb担当者に心得を授ける実践現場主義コラム。
宮脇 睦(有限会社アズモード)
心得其の354
有料ってなに?
SEOって有料じゃないですか
ある日の打ち合わせで、若者的同意話法で賛意を求められました。商談には慣れているつもりですが、いまでも意外な質問をぶつけられると、軽くパニックになることがあります。そんなときは、すかさず、
有料とは?
と、“質問返し”で時間を稼ぎます。冷静さを取り戻すための「間」であり、相手の答えを期待しているものではありません。これは営業マンの基本技、昔取った杵柄です。
先週から引き続き、リニューアル費用に250万円をかけようとしていた企業との打ち合わせのワンシーンです。契約を取り逃がすほど、説教をかました理由はこの質問にもあります。
今回は予告通り、ホームページ屋(Web制作会社)と上手につき合う方法について。
素人の反論という無謀
Web担当者の話によれば、ホームページ制作会社から提示されたリニューアル費用250万円に「SEO」は含まれていないといいます。すでに冷静さを取り戻しているので、なるほどと大袈裟に頷いてみせ、「制作会社によって方針は異なる」と前置きしながら、有料リンクや低品質のコンテンツを量産するSEOは、原則論としてスパム扱いされるリスクがあり、有料ならより有罪の可能性が高まると告げます。
そもそも、グーグルはアップデートするたびにコンテンツの中身をより重視するようになっています。ならば基本的なSEOは制作費用に含まれなければならないと、私の考えを伝えます。
相手は釈然とせず反論を試みます。「SEO=有料」という固定観念に縛られているようです。ホームページ屋と上手につき合う方法の1つは、
相手の話に耳をかたむける
ことです。相手はまがりなりにも専門家です。これはWeb業界に限った話ではなく、新しいノウハウや情報を仕入れるチャンスに、素人の知識の範囲内で反論を試みるのは上策ではありません。ちなみに反論を理由に、お客相手に「説教」したわけではありません。「損をしているなあ」と心の中でつぶやきましたが。
いいなり対策の小道具
業者の言いなりになれということではありません。客から搾取することしか考えていない業者や、時代遅れの方法論を振りかざし、オカルト的なアプローチを説明する者もいます。いまだにスパム紛いの売り込みが消えないのは、業者の言いなりに受けてしまう客がいるからです。
このとき、あなたを守る「防具」となるのが「紙とペン」です。業者の説明には必ずメモを取るのも、上手につき合う方法の1つです。これにより業者の嘘を排除し、誇大表現を抑えることができます。うっかり大風呂敷を広げて、それをメモされれば「言質」となり、自らの首を絞めることにもなりかねないからです。もちろん、これは対面での話。
さらに、ときおりメモからキーワードをピックアップし、再び説明を求めます。身についている方法論や技術なら、すらすらと再現できますが、暗記してきた営業トークなら、説明順序の変更にしどろもどろとなります。担当者の技量や見識を量るテクニックです。
クライアントの怠慢とは
前回、「高い見積もりに飛びつくのは客の怠慢」と指摘しました。これは「高い金額をとるのだから、ちゃんとしている会社だろう」という思考停止だからです。高額な料金を請求する高級レストランが、安価な食材をつかっていたと世間を騒がせたのは昨年の話です。一方、庶民的な価格で提供するために、朝も昼もなく丁寧に仕込みをしている定食屋もあります。金額と品質はかならずしも一致しないのは、ホームページ制作に限った話ではありません。
レストランにおいては舌や鼻、見た目から判断できる予備知識をもっていなければ、食材偽装に気がつかないように、ホームページについても一定の知識を準備しておかなければ、「ぼったくり」にあうということです。
説教したのはこのくだり。賢い消費者にならなければ、質の悪い商品を掴まされることもあると……これで契約が流れたのかもしれません。
ぼったくりから身を守る方法
さらに踏み込み、「余談ながら」と断ったうえで、取引とは関係のない質問をぶつけてみます。いまなら、
- ビットコイン
- リベンジポルノ
- KS(既読スルー※スルーはthroughですが)
などなど。「ホームページ」とは直接関係のないネタを振ってみます。回答がそのまま、制作業者の実力にリンクはしませんが、情報感度、すなわち「好奇心」を量ることができます。ドッグイヤーどころかマウスイヤーと呼ばれるほど、変化の早いWeb業界で、好奇心の欠如は、継続取引における不安要因です。最新情報に心を砕く業者の方が、自社の利益を実現する確率が高まるのは言うまでもありません。
繰り返しになりますが、こうした「質問」をするための「勉強」もまた、上手にホームページ屋とつき合う方法です。
雑談力を問う
さらに、こうした質問は業者の「性格」をチェックするリトマス試験紙でもあります。業者が質問に回答できなかったとします。次の打ち合わせで、これについて調べてくる人と、質問をなかったこととしてスルーする業者のどちらが頼りになるでしょうか。また、ビットコインについて質問した次の機会に、
Kraken(クラケン)が日本に上陸しますね
と、サンフランシスコを拠点とする、ビットコインの取引所の最新情報について教えてくれたとしたら、見積価格以上のメリットをもたらしてくれる可能性がある業者とみてよいでしょう。たかが雑談を気に掛け、情報収集に心を砕いてくれているのですから。
制作業者と上手につき合うには、見積もり書に記されたゼロの並び、作業項目の数を数えているだけではダメということです。特に「取引と関係のない質問」、すなわち「雑談」が支払う代金以上の、メリットを与えてくれることは少なくありません。ちなみに、今年に入ってから、私が一番お客さんに喜ばれた「雑談」はこちら。
税率変更による電卓の買い換え
「税込/税抜」キーのある電卓は税率変更できるようになっているので買い換える必要はないと(みやわきぶろぐ)。おっと読者のみなさんには遅すぎましたか。
今回のポイント
プロの話に耳をかたむける
活用するには相応の努力も必要
- 電子書籍『マンガでわかる! 「Web担当者」の基本 Web担当者・三ノ宮純二』
- 企業ホームページ運営の心得の電子書籍
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