企業ホームページ運営の心得

一回の打ち合わせで信頼関係を築くWeb担のためのノート術

ビジネスの現場で使える実践型のミヤワキ流ノート術を紹介
Web 2.0時代のド素人Web担当者におくる 企業ホームページ運営の心得

コンテンツは現場にあふれている。会議室で話し合うより職人を呼べ。営業マンと話をさせろ。Web 2.0だ、CGMだ、Ajaxだと騒いでいるのは「インターネット業界」だけ。中小企業の「商売用」ホームページにはそれ以前にもっともっと大切なものがある。企業ホームページの最初の一歩がわからずにボタンを掛け違えているWeb担当者に心得を授ける実践現場主義コラム。

宮脇 睦(有限会社アズモード)

心得其の260

思いつきの描く線

数年前にいろいろな「ノート術」が流行りました。ブームのきっかけは『東大合格生のノートはかならず美しい』でしょうか。見事に情報整理されたノートになるほどと唸ったのは、受験生の取り組む問題にはかならず答えが用意されており、また情報を体系立てて整理するのが「学問」であり、美しいまでに整理されたノートとは、まさしく「ゲームのルール」を表していたからです。

一方、ビジネスには答えがありません。社長の思いつきが、必ずしも美しい樹形図となることはなく、必然的にビジネス系の「ノート術」は、メモや予定管理に傾斜し、「自己啓発」で味付けをします。しかし、ミヤワキ流ノート術は自己啓発で彩る必要のない超実践型。私が打ち合わせの席でノートパソコンをひろげない理由でもあります。

今回はWeb担当者のためのノート術。東大には入れませんが、信頼関係はつくれます。

防衛術としてのノート

学生時代はまったくノートを取りませんでした。板書はもちろん「ここ大事なところ」という教師のサジェスチョンすら聞き流します。手前味噌ですが、当時は記憶力が良く、大づかみで状況を掴むことに長けていたので、試験直前の休み時間に単語を詰め込むだけで及第点が取れたのです。

しかし、社会に出ると期末試験はなく、毎日がテストです。大づかみでは、指の間から砂がこぼれ落ちていくことを知ります。それでも20代前半は、記憶力を頼りにノートを取らず……いや、ノートを取る行為を「敗北」とまで頑なに拒否していました。

宗旨替えしたのはフリーターから、広告代理店の営業マンに社会復帰したときのことです。それまで通り、記憶を頼りに手配した広告の実施日が間違っていたとクレームが入ったのです。結論は先方の勘違いだったのですが、このとき何も記録を残しておらず、仮にクライアントが「言った」と強弁するタイプだったなら、始末書どころか減給ものの騒動となっていたことでしょう。私のノート術は給料を減らされないための防衛術として生まれたものです。

記録する3つの基本

ミヤワキ流ノート術の基本は「日付」と「数字」と「単語」の3つです。「日付」は実施日や納期、次回の打ち合わせなどです。取材の場合は、事件の起こった日時や季節を記します。前者はビジネスを円滑に進めるための必須項目で先の失敗から学び、後者は「裏とり」をするために欠かせません。裏返せば、ノートに「日付」が1つもない打ち合わせは何も決まっていない証拠で、取材なら「雑談」に終わったということです。

次に「数字」です。たとえば「サイト構築に1000万円」を出発点として提案していた案件の、予算が100万円となれば中身は変わるものです。このとき「1000万円」とメモしていれば、「話の流れ」を後から追うことができます。「単語」も同じです。これを書きとめることは「備忘録」であると同時に「話の流れ」を追いやすくする、いわば「パンくず」です。

オープンマインド

記述は「羅列」です。私は横書きのノートを使っているので、左から右へと羅列していき、1ページの半分ぐらいで下段へ折り返します。右半分を残す理由は、打ち合わせや取材のフリートークは話の流れが「前後」することが多く、前段にかかる話題にいつでも戻れるようにするためです。

相手が強調した単語や数字、日付は「大きな文字」で記します。文字の大小、筆圧の調整により、コメントを立体的にできるのが手書きのノートの利点です。そしてここからが「超実践型」と誇るミヤワキ流ノート術の真骨頂。

相手が見えるようにノートを記す

これが信頼へとつながります。

ノートを擬人化する

取材対象者、打ち合わせ相手に見えるようにノートを取ります。文字の醜さは大人として恥ずかしく、ワープロ打ちが日常のWeb担当者なら漢字が「書けない」ことも増えていることでしょう。私はその2つのスペックをフル装備していますが、堂々と相手に見えるように汚い文字でノートを取り、日本人の誇りを胸に、平仮名やカタカナを多用します。ここからは人間心理の領域です。

目の届く場所で、ペンを走らせていると、相手はかならずノートに目を落とします。そこに意図しない記述を見つければ、否定するために詳しい解説を試みてくれます。さらに先ほどの日付や数字も、相手がかってに確認してくれます。また強く主張したい文字を太く記し、おまけに丸囲みしたことを見つけると、伝わったことに安堵し、話の興がのるものです。つまり、ノートがもう1人の「インタビュアー」になるのです。

ときおり、カタカナで書いた単語の漢字を教えてくれる人もいます。人にものを教える優越感は、親近感へと転嫁しやすく、意図的にカタカナを使うことで心の距離を縮めるという技もあります。そしてなにより「隠さない」という態度が「信頼感」を生み出します。

タブレットの進化形

さらに語ってほしい疑問点などを事前にノートに記しておいて、相手に「チラ見」させ話題を誘導することもできますし、否定するだろう提案をわざわざして、目論見通りに否定したなら、それを目立つように書き込んだ上で「二重線で消す」ことで、

あなたの気持ちを理解しています

とメッセージを伝えるといったテクニックもあります。こうしたテクニックはノートパソコンやタブレットPCでの再現は困難です。特にノートパソコンはその形状から、相手との「壁」をつくってしまい信頼関係の構築に時間がかかる傾向があります。形状が人の心理に与える影響は大きいのです。反対に仲良くする必要のない、説教や説得の際はこの「壁」が役立つこともあります。

記録デバイスとしてみれば「ノート」か「ノートパソコン」かの議論は「使い勝手」に集約され優劣をつけるものではありません。しかし、ミヤワキ流ノート術を使えば、ノートは「コミュニケーションツール」へとバージョンアップします。

今回のポイント

取材ノートで「合意」を形成する

「ノートを見られて恥ずかしい」という心の克服が最大の壁

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