
コンテンツは現場にあふれている。会議室で話し合うより職人を呼べ。営業マンと話をさせろ。Web 2.0だ、CGMだ、Ajaxだと騒いでいるのは「インターネット業界」だけ。中小企業の「商売用」ホームページにはそれ以前にもっともっと大切なものがある。企業ホームページの最初の一歩がわからずにボタンを掛け違えているWeb担当者に心得を授ける実践現場主義コラム。
宮脇 睦(有限会社アズモード)
心得其の百参十伍
Web担は独立しろ

7月末に行われたWeb担当者Forumオフ会でのこと。同年配のWeb担当者が毎日の激務を嘆いていましたのでこう励まします。
Web担当者は独立すべきだ
起業を煽るのが本意ではなく、「ネット支店」の責任者として一国一城の主であり、その気になればパソコン1台、いや「ネットカフェ」でも起業できる敷居の低さも魅力だと続けます。オフ会では企業名と肩書き、氏名の並んだリストが渡され、興味のある人を呼び出せる「マッチングサービス」があり、彼は呼び出され話は途中で終わりました。
これは私の持論ですが、Web担当者には「社長感覚」が求められ、「独立」という言葉と重なり、さらにはWeb担当者とは「技術屋」ではないという意味も込めて。本稿はその途切れた話の続き。Tさんに捧げます。
デスマーチな技術屋たち
この夏の雑談のテーマはどこでも「選挙」でした。現在の職業とは無関係に私の友人にはコンピュータ系の技術屋が多く、彼らとも「政治」を肴に酒を酌み交わします。みな同年配のアラフォーなのですが「子ども手当」は知っていても外交防衛政策に関心はなく、政権交代の必要性を語りながら日本新党の顛末はすっかり忘れています。不惑も近づき実感するのが、生活と政治は密接な関係を持っていることです。ところが友人達はあまりに無頓着で、夜も深まると彼ら技術屋のライフスタイルと無縁ではないと知ります。
残業、徹夜、出張。終電に間に合えば帰宅でき、逃せば泊まり込み、下手を打てば徹夜です。制御系のプログラマは納品先への出張は出向レベルの長期間だといい、休日は寝ていることが唯一の幸せだといいます。そこに妻帯者が口を挟みます。
結婚すると家族サービスが待っている
自分の時間は移動中の電車の中だけです。
機械を操る機械のよう
話題を変えようとテレビのバラエティ番組「はねるのトびら」をもちだしました。
平日の夜8時にテレビなど見られない(関東ではフジテレビ系水曜夜8時に放送)
といい、テレビを見る時間がなくなったと自嘲します。朝は定刻に出社し、帰りは終電前です。別の技術屋が口を挟みます。
俺のように暇になり、給料が遅配するよりはマシ
受注量の減少で、定時退社できるようになったものの給料が遅配しているといいます。
開発は納期とトラブルとの戦いです。不況が納期を短くし、反比例して要求を高くしました。開始直後から「遅れているプロジェクト」という理不尽は日常です。プログラムに不具合はつきものと開き直れたのは20世紀のおとぎ話だと酒をあおります。
金を使う時間がない
誰もが知っている有名メーカーのプログラマは遅配とは無縁の高給取りです。クルマはスポーツカー、バイクは大型排気量、どちらも「衝動買い」です。最近はネットブックとスマートフォンにもはまっています。しかし仕事は典型的な「デスマーチ」。IT業界では常態化している「死の行進」の如きハードワークです。納期は目安に過ぎず、スケジュールは朝令暮改です。激務の説明に朝から晩までという表現が相応しくないのは、月曜日から土曜日までという週単位での身体拘束が日常だからです。お金を使うのは飲食ぐらいで、一日三食、一食に1,000円使ったとしても最大で月に9万円「しか」使えません。
衝動買いはその反動です。足繁くディーラーに通う時間などない彼は気に入った刹那、購入申込書に名前を書いたと言います。そして、管理職の仕事も自動添付され、ますます、金を使う時間がなくなったと遠い目をして語ります。
アラフォーの技術者は「政権交代」までは理解できても、細かな政策を精査している時間がないのです。
大人になるために
一般的に年齢を重ねると思考的柔軟性は失われ、未知の情報を遠ざけるようになります。しかし、新しい情報やノウハウでも専門分野なら、経験が理解を助けてくれるので加齢による理解力低下と相殺します。こうした「加齢現象」が技術者をより専門へと向かわせ、世俗から遠くなります。
常態化したデスマーチは、人員配置や料金設定などといった経営判断の誤りというのが外の世界の常識です。ところが技術屋は世俗から遠いためか、気がつけば今の環境を当たり前と受け止めてしまいがちです。別天地を知らずに今日も行進を続けるのです。余談ですが、労働基準監督署が労働者を守ってくれることはまれですが(経験上)、自分の所属する業界以外にアンテナを張っていれば「楽園」と出会うのは難しくありません。
Web担当者は技術屋ではありません。どちらかといえば技術を「どう売るか」と考える仕事です。また技術屋をどう使いこなすかと計る「社長感覚」が求められます。すると「デスマーチ」の先に待つ破綻を回避するための努力も、Web担当者の仕事であると私は考えるのです。
で、Web担当者は
さらにいうと、技術屋とは「専門職」ですが、Web担当者に求められるのは「総合職」です。食品物販なら「農業政策」にも注意を払わなければならず、「高速道路無料化」を掲げる民主党政権(本稿執筆時は選挙戦の最中)になったときの「ETC車載器」の在庫の行方はカー用品店のWeb担当者ならずとも気になるところです。以前、述べたように薬事法の改正に神経を割き、業種によっては木下ベッカムにめちゃモテ委員長、さらにはベイブレードの復活も知っておいて損はありません。総合的な情報アンテナ=ジェネラリストもWeb担当者の欠かせない資質なのです。
この資質が社長業と重なります。一部門、1つの技術に固執することなく総合的な判断を下す「社長感覚」です。つまり社長と同じ思考回路である以上、「独立」は当然の選択肢になるというのがオフ会で途切れた自説の本旨です。
さて友人達はというと……「悲惨な現場話」の自慢が尽きません。プログラマをドロップアウトした私には理解できませんが、悲惨な現場に目が輝くのは技術者の習性なのでしょうか。それに頷きながら心の中でメモしたのは物書きの習性です。
♪今回のポイント
技術者とWeb担当者は違う。
日々の忙しさを理由にしていると浦島太郎になる。
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