PCよりも3倍儲かるケータイサイト。ネットブック祭りに騙されるな
コンテンツは現場にあふれている。会議室で話し合うより職人を呼べ。営業マンと話をさせろ。Web 2.0だ、CGMだ、Ajaxだと騒いでいるのは「インターネット業界」だけ。中小企業の「商売用」ホームページにはそれ以前にもっともっと大切なものがある。企業ホームページの最初の一歩がわからずにボタンを掛け違えているWeb担当者に心得を授ける実践現場主義コラム。
宮脇 睦(有限会社アズモード)
心得其の百参十四
ネットブックは大ブレイクするか
コンピュータ業界と20年接しているとデジャビュやタイムスリップしたかのような錯覚に襲われることがあります。
最新トレンド(笑)の「ネットブック」。必要なソフトやストレージはネット経由で利用するため、パソコン本体のスペックを必要最低限に抑えて低価格にし、コンパクトな作りから「モバイル」に適しているといいます。「モバイル(PC)の時代」とは20年前の東芝ダイナブックが発売されたころにも耳にした懐かしいフレーズで、当時はラップトップと呼ばれたものが、ブック、ノートとパッケージが変えられ、その度にパソコンを持ち運ぶことが時代の最先端だと煽られたものです。また、ムーアの法則からも「最低限のスペック」は常にインフレ気味で、Windows 95ブームの頃からみればネットブックは十分に高機能で、冷静に見ればネットブックやSaaS(クラウド)を売りたい人たちによる我田引水な「祭り」だと気がつきます。
ちなみに「2台目需要」も「DOS/V」の普及期やiMacによく似たソーテックが発売された頃に耳にした懐かしいフレーズです。
3.3倍の費用対効果
第一、モバイルするパソコンはすでに普及しています。携帯電話=ケータイです。iPhoneを持ち出すまでもなく、今のケータイは一昔前のパソコン並の能力を持ち通信機能を標準装備しており、物書きなどの一部の業界を除けば、わざわざ「モバイルパソコン」を用意する必然性は希薄です。もちろん「お好きな人」はネットブックを購入するでしょうが、一般的な需要は見込めないのではないでしょうか。それよりも今、全速力で注目すべきはすでに普及しているこのケータイ=モバイルパソコンです。
昨年11月に「売上の90%がオーバーチュア経由でもアドワーズを利用する理由」で、検索連動型広告(PPC)経由で取引が発生したケースをオーバーチュアとアドワーズで比較すると、前者のオーバーチュアが90%、つまりはヤフーの検索結果に表示された広告からの訪問の方が商売につながると指摘しました。
ケータイがPCを逆転
ところが、驕る平家は……もとい、諸行無常の理はネットでも適用されます。オーバーチュアとアドワーズの単純な比較ではいまだにオーバーチュアに軍配が上がりますが、「PC」と「ケータイ」という切り口でみると地殻変動が起こりつつあります。
広告は「生涯獲得利益」や「波及効果」など様々な検証テーマがあるのですが、一番わかりやすい費用対効果は投じた広告費を成約件数で割った「顧客獲得単価」です。
あるサイトの広告費を検証すると、今年1月~7月のPCのPPC経由の顧客獲得単価は平均2万2,792円です。これがケータイサイトでは6,843円と3.3倍の費用対効果を誇ります。ケータイの広告費はオーバーチュアとアドワーズの合算です。また、月ごとの顧客獲得単価を見ても、ケータイの最安は7月の2,711円、最高だった2月でも1万5,625円で、PCの平均顧客獲得単価より安価で成約しており、費用対効果で見ればケータイの圧勝です。
1月 | 2月 | 3月 | 4月 | 5月 | 6月 | 7月 | |
---|---|---|---|---|---|---|---|
ケータイ | 10,451 | 15,625 | 8,677 | 2,794 | 3,785 | 3,859 | 2,711 |
パソコン | 25,066 | 33,475 | 19,548 | 23,730 | 24,200 | 12,106 | 21,419 |
新たなるフロンティアは地味
以前から単純な費用対効果が高いことはわかっていましたが、昨年まではまったくケータイからの申し込みがない月もあり、多くても月に2件ほどでこれでは「確かな分母」とはなりません。ところが今年の春より成約件数が急増し、4月はPCと同数、5月と7月はPC経由を越えました。PCサイトのおまけではなくケータイは収益チャネルとなったのです。
顧客獲得単価の違いは「広告単価」です。このサイトが入札するキーワードのクリック単価は、PCで190円するところがケータイでは9円で、1クリックに21倍の開きがあります。射撃が下手でも機関銃なら当たり、露出回数の増加は競争を有利にします。PCサイトから検索連動型広告を利用するユーザーは増え、広告費も連れて高騰しましたが、ケータイサイト市場はいまだにライバルの絶対数が少なく、その一方、利用者が増えている美味しい市場なのです。
21世紀の世代間ギャップ
ケータイサイトには、他にも「熱い市場」があります。それはネットブックでもSaaSやiPhoneなどのスマートフォンでもありません。ヒントは中小企業に有利な市場です。現在、クライアントとともに「検証中」にてこれ以上は述べることができないのですが近日ご紹介できればと準備中です。
ケータイサイトはもうビジネスツールの時代です。特にBtoCのビジネスならば通販をしていなくても必須です。ところが中小企業のケータイサイトの活用率はいまひとつで、一般論として論じるなら、ITの知識を持っているWeb担当者がいる企業の方が遅れているようです。
技術は便利をフォローする
ケータイサイトは端末や回線会社で仕様が異なるので(アジャストするのが)難しい
こういう言い訳を耳にします。確かに、すべてのキャリアとすべての端末で最適化しようと思えば相応の知識と技術が要求されます。しかし、そこまでせずに、HTMLで簡単なケータイサイトを用意しておくだけでも十分です。HDMLやXHTMLに神経質になることはありません。多少大きな画像を配置しても適当に小さく表示してくれますし、PCのブラウザで表示されないXMLの構文違いも、ケータイのブラウザなら見逃してくれるので、それなりに表示されます。ブラウザが不細工なコーディングをフォローしてくれるのです。
まずは作り公開する。これはPC版のホームページの黎明期のデジャビュで「公開優先」へと回帰します。また「tableタグ」が使える端末も増えてきたことでデザインをコントロールしやすくなりました。HTMLの原則から外れると除外されたtableの復権、すなわちタイムスリップします。
古代ローマから現代日本まで「歴史」をみるに、文明とはいつも同じ所をぐるぐるとまわっているのかも知れません。そしてそのサイクルは変化の早いネットでは毎年のようにやってきます。だから業界関係者の「おあり」には冷笑を捧げ、先行者利益という旨味にありつけます。
♪今回のポイント
利用者と識者は見ている世界が微妙に違う。
ケータイは今以上に発展するだろうがモバイルPCはといえば……微妙。
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