企業ホームページ運営の心得

ネットスーパーが生み出す過疎。不動産業界Web担当者必読号

ネットスーパーが近い将来、生活インフラに欠かせなくなると物件価格の構成要素で重要になるかもしれません
Web 2.0時代のド素人Web担当者におくる 企業ホームページ運営の心得

コンテンツは現場にあふれている。会議室で話し合うより職人を呼べ。営業マンと話をさせろ。Web 2.0だ、CGMだ、Ajaxだと騒いでいるのは「インターネット業界」だけ。中小企業の「商売用」ホームページにはそれ以前にもっともっと大切なものがある。企業ホームページの最初の一歩がわからずにボタンを掛け違えているWeb担当者に心得を授ける実践現場主義コラム。

宮脇 睦(有限会社アズモード)

心得其の百参十参

ネットの更なる恩恵を夢想する

「トランザクションコストがゼロに近づくことがネットの本質」

とは、楽天市場の三木谷さんと元総務大臣の竹中さんが昔、雑誌の対談で語っていたことで、簡単にいえば流通コストや中間マージンがゼロに近づくという主張です。ネット通販黎明期の「福井のサバ寿司」や「産直蟹」といった地方企業の成功は、生産者と消費者、地方と都市との直接取引によるメリットが大きく、一般論としての正しさを証明しています。

これがダイエー創業者、中内功さんの「流通革命」を凌駕し、スーパーマーケットを流通の玉座から引きずり下ろす「パラダイムシフト」につながると囁かれました。地方と都市に商売のハンデがなくなれば、土地や人件費の安い地方の時代が来るとまで持ち上げられたのです。余談ですが俗に「楽天税」と呼ばれるトランザクションコストが発生するネット市場を私は知っています。

生鮮食品通販

不況下でもネット通販は堅調に伸びていると報じられています。外出より自宅で余暇を楽しむ「巣ごもり消費」が増え、女性の社会進出により消費(買い物)に投じる時間が減少したことなどが理由として挙げられます。

我が身を振り返っても、数年前はアマゾンで書籍を買うぐらいだったのですが、今ではパソコン、ガーデニンググッズ、衣類、保険、ビールも通販です。またピザや食事のデリバリーもネット経由で注文し、リアルでの買い物は生鮮食品ぐらいといっても過言ではありません。そして生鮮食品にも通販の波がやってきました。いわゆる「ネットスーパー」です。

最短2時間でお届け

サミットストアでは最短2時間、イオンは同じく3時間で注文した商品が自宅に届きます。「買い物カゴ(カートにいれる)」方式で商品を選び、決済はクレジットカード。おおよその配達時間を指定できるサービスが多く、一定金額以上の購入で配送料が無料になるところもあります。会社から「ネットで注文」し、自宅に戻り当日受けとることも可能ですし「重いもの」を持たなくていいのは魅力です。2リットルの水は約2キロ、6本入りケースなら12キロあり、持ち運ぶとなると重労働ですが、ネットスーパーなら業者が玄関まで届けてくれます。

この「重さ」も通販市場の追い風となっております。体力に自信がある成人男子でも「運んでもらえる便利さ」を一度体験すると病みつきになるからです。

老後の買い物はネットスーパーで

ガーデニング用にと、ブロック20個、ラティス10枚を自分で運んでも値引きはしてくれませんが、通販の場合、一定金額以上の買い物で「送料無料」となるサービスが多く、これを利用すればタダで届けてくれます。また「成人男性」もやがて老人になり、「重さ」を遠ざけるようになります。友人の電気設備会社の社長が3階建ての住宅を買いました。最上階からの見晴らしも良くお気に入りです。しかし、彼は言います。「老後を考えると不安」。風呂とリビングは2階にあり、最低でも1日に1回以上は階段昇降が義務づけられます。また外出の直前に3階に忘れ物をすると2フロアを駆け上がり、駆け下り、息が切れます。ここから老後はマンションに住み替えるのもありだと加えます。

体力は有限です。「重さ」がネットスーパーの存在感をグッと増します。高齢化と需要が比例します。そして地方と都市の「格差」が広がります。

生活に便利な街

都県境に住んでいることから埼玉県にあるスーパーマーケットのチラシも新聞に折り込まれます。ネットスーパーの記述を発見し、チェックすると「配達対象外」であることがわかりました。生活圏内であっても行政区域でサービスが区切られることはよくあることです。そのまま「配達対象エリア」のネットスーパーをネットで検索してみるとイトーヨーカドーと西友が利用できることがわかりました。つまり、サミットストアやジャスコ(イオン)の商品が欲しければ「リアルスーパー」に足を運ばなければならないということで、足立区のハズレに住む不便に憤ります。

しかし、すぐにそれが「贅沢」であることを知ります。ネットスーパーの「配達エリア」は都市部、または店舗周辺の限定されたエリアです。2店も利用できるだけで贅沢なのです。重い荷物を運ばなくていい快適な「老後生活」には「ネットスーパー利用可」という条件も不可欠となり、便利な都市部への人口集中がより加速する可能性があるということです。

「宅配ピザが届く地域」というのが、1つのステータスだという地方出身者の話を思い出します。

それは溶け込んだ理由でもある

20XX年の不動産広告のライフインフォメーション。

  • 最寄り駅:見沼代親水公園駅より徒歩8分
  • 小学校:区立古千谷小学校徒歩6分
  • 公園:都立舎人公園徒歩12分
  • 利用可能ネットスーパー:4店(アリオ西新井店、西友 竹の塚店、××スーパー、●●マーケット)

近未来では育児、労働、ここに高齢化した親の介護が加わり、働き盛り世代の時間は今以上になくなっていくことでしょう。その時、ネットスーパーは買い物と運搬を代行してくれる「生活インフラ」となっているかもしれません。するとネットスーパーを利用できない地域は「不便」とされ、過疎を加速させるのでは? という思考実験です。

トーマス・フリードマンはネットの発達により「フラット化する世界」を予言しました。ネットは瞬時に足立区とリオデジャネイロをつなげてくれます。しかし、日常生活レベルにまで溶け込んだネットが「配達エリア」というリアルの陰影を濃くし、新たな地域格差の種になるかもしれないというのは皮肉な話です。

そして最後に「現場のノウハウ」を。

「ネットがリアルに溶け込んだ。ということはネットスーパーも生活インフラとして物件価格の構成要素となる」

不動産屋さんのWeb担当者は今すぐホームページや「マイソク(チラシ)」にネットスーパー情報を掲載してください。他者を出し抜く営業マンは半歩先の情報を提供するものです。

♪今回のポイント

ネットスーパーが生む新たな地域格差。

リアルに溶け込んだ時、今ある格差をより強調する。

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