ネット時代に成功する会社とは? 担当者がするべきことは?
ダイレクトマーケティングは、マーケティングの手段の1つであって、特別なことではありません。企業と利用者は、メディアを介して直接関係性を持ち、速いスピードでのコミュニケーションが可能です。インターネットの登場により、ダイレクトマーケティングはメインストリームになっています。
このコーナーでは、日々進化するダイレクトマーケティングを、身近なトピックを題材に、「所長K」と「スタッフS」の掛け合い形式でわかりやすく紹介します。
スタッフS
都内一人暮らし、アラサー世代。ダイレクトマーケティングの知識はないが、ネット通販はかなり活用している。素人ならではの新鮮な発想と鋭いツッコミがウリ。
所長K
DM学会の本部理事を務めるかたわら、セミナー講師、執筆も行う業界プチ有名人。豊富な知識、巧みな話術、懐の深さで、通販その他企業からの人望も厚い。
ネットで変わる消費者とマーケティング
ネットでは、企業は「まな板の鯉」状態になるのもポイントだね。横串で検索されるので、価格、送料無料など、条件がさらけ出されて、簡単に比較されてしまう。消費者も、ネット通販のときだけではなく、店舗で買い物をするときもネットで情報検索してから選ぶようになってきた。
確かに、「これは店舗で買うのがベスト」「これはネットで買うのがベスト」という使い分けをしている人が周りにも増えていますね。そういった意味では、広告も以前ほどは信じなくなってきている気がします。
そう。一方的なテレビCMや新聞広告だけで何かを買う時代ではなくなっているね。マス広告の位置づけが変わってきていて、テレビCMや新聞広告は、あくまでもレースに立候補するような役割。新商品発売の広告で興味をもったら、それですぐ買うんじゃなくて、まず情報を検索して、それからやっと購入だね。さらにその後レビューを書くという消費行動に変わってきている。
マスメディアは、出稿すると多くの人が見てくれて影響力があったので、企業にとって都合が良かったんだ。でも、ネットのユーザーレビューは、企業がコントロールできない点でまったく違う。マス広告はお金の力でなんとでもなるので、資本力のある企業によっては使いやすく勝ちやすい場だったんだ。でも今は、小さな会社にもネットで成功するチャンスがあるので、小さな会社にとっては良い時代かもしれない。広告や情報力という視点では、フラットになった。
ネット時代に成功する会社とは?
うーん。お客にとって良いことは、企業にとってはマイナスになることが多いんですよね。うまいぐあいに両者ともハッピーにならないんでしょうか?
そのバランスが取れる企業が勝つってことだね。お客さんに選ばれる、オンリーワンを持っているところが強いが、それを持つのはなかなか難しいね。
カタログや店舗だけだった時代は棲み分けができていたが、全国区で検索でき情報を比較される今は、辛い面もあるが、逆に言えばチャンスでもある。
何か1つ強みがある会社が生き残るということですが、どういう切り口がありますか? たとえば商品力があるとか、顧客とコミュニケーションを重視している会社、などがあると思いますが……。
「利用者は、どんなことを重視してネット通販サイトを選んでいるか聞いたところ(図表)、「以前利用したことがある/なじみのサイト」が1位になった。ネットの登場で、より簡単に顧客と継続的にコミュニケーションが取れるようになったこともあり、確かにコミュニケーションは重要性が高い。この会社を信用できる、この会社と付き合っていることが人に言える、誇らしい、という点にポイントを置いて店を選ぶ利用者が増えていると感じる。ヨーロッパの高級ブランドではなく、あまり知名度はないけど実はすごく良い会社だ、企業姿勢が良い、そういうところに価値を見出す。それはネット時代の特徴だと思う。
そうなると、逆にお客さんが広報してくれる会社ということですね。
クチコミ時代はそういうことが大事だね。単なる商品の評価だけではなく、企業姿勢やコミュニケーションの仕方、メルマガの送り方。単純に頻度多く出せばいいというわけではない。書き方やタイミング、さまざまなことを含めてコミュニケーション能力が優れている企業、接客術に長けていることが1つの成長ポイントだと思う。これまでは、マス広告で一気に集客するという形だったが、ネットの特徴の1つは接客的マーケティングだと思う。集客ではなくそれを維持するための接客術。それも強みの1つだね。
アマゾンはコミュニケーションをまったく排除していますよね。
商品力・利便性で勝つ会社もある。アマゾンはオンリーワンの存在。圧倒的な商品力・利便性がある。アマゾンのライバルは今のところいないだろう。昔は地域などで分散していたが、ネットは全国区で商売ができてしまうので、1つだけが勝っていってあとはいらないという形が起こってしまう。
では、ネット通販企業が生き残るために必要なのは、商品力・コミュニケーション能力・利便性、の3つになりますか?
よく言われる、「4P」というマーケティングの4つの定義(プロダクト、プレイス、プライス、プロモーション)があるが、これは過去の話で、今のネット時代は「4C」だと言われる。4Cとは、
- 顧客価値(Customer Value)
- 顧客コスト(Customer Cost)
- コミュニケーション(Communication)
- 利便性(Convenience)
だね。コストというのは、検索によって簡単に価格比較されてしまうことにも関わってくる。昔のコスト感覚は「その店舗の中で安いかどうか」だったのが、今は横串にされてしまうからね。
アマゾンは、2000年に日本に進出してわずか8年でナンバーワンになった。アスクル、アマゾン、楽天、成功している会社はみんな新しいビジネスモデルや付加価値を作っている。それは全部4Cにあてはまる。
ネット以前は、カタログ通販も自宅にいながらショッピングができるということで、店舗に比べて便利だなんて言っていた。確かに、山間部や不便なところに住んでいる人も都会の商品が買えるという利便性があったが、ネットはそのビジネスモデルを越えてしまったんだ。「ネット通販は利用しているが、他の通販は利用しない」というお客さんが出てきている。
ネットの限界、リアルの限界
4Cを実現するために、企業側は何をすればいいんでしょうか。
ネットは鮮度が大事なので、毎日のように更新が必要だし、お客さんからの問い合わせメールにも対応しなければならない。そのためには、組織体制から変えなければならない。ただ、小さな会社が問題意識を持って人を変えようとするのはとても難しいことなんだ。
対面だと、お客さんに気持ちを伝えやすいですが、ネットではなかなか難しいですよね。
ネットはスイッチが早いのもそれが一因だろう。コミュニケーションで一番大切なのは、人対人で会っていること。それをどこまで通販でカバーできるか、各通販会社も努力しているが、リアルなコミュニケーションにはかなわない。お茶を売るにしても、通販では湯気が出ているお茶の写真とコピーで訴えるしかない。実際にお店で一杯のお茶を試飲するほうが強いに決まっている。ただ、リアル店舗にも限られた地域の人しか顧客にできないという限界がある。
これは通販全体に言えることだが、リアルのコミュニケーションが100%としたら、それにどれだけ近づけるかが企業の競争力になってくる。さっき言ったように、「この人と付き合っていきたい」と思うのと同じように「この会社と付き合っていきたい」と思わせなければならない。
ネット通販の今後
ただ、これからネット通販がずっと右肩上がりかといえば、そうでもないだろう。米国の状況を見ても、カタログにはカタログの良さがあり、コミュニケーションという視点からいっても、店舗にはかなうわけがない。店が中心であることには間違いないし、それはずっと変わらない。ネット通販が小売市場の半分までいくかというと、そうではないだろう。楽天の三木谷さんも、小売全体の10%取ればいいと言っているし、そんなもんだと思う。と言っても、まだ2倍~3倍のマーケットはあると思う。
ネット通販の伸びは、あとどのくらい続きますか?
5~10年は当然続くと思う。日本はこれからますます高齢化社会になっていくので、ネットスーパーが盛んになっていくと思う。核家族が増えて、独居老人が増えているので、いま、出前や御用聞きが一番望まれている。それをサポートできるのは、配送サービス、通販だ。しかし実は通販ではなく、お店がやっている付帯サービスなんだ。
パソコンを始めるシニアの人達が増えているのは、パソコンが好きなわけではなくて、アマゾンを初めとするネット通販を使いたいから。本好きなシニアの人は多い。アマゾンなら、近所の小さな本屋には配本されないようなあらゆる本が買える。地方の人からすると、夢のような話だ。これから、60歳~70歳の人がネットにたくさんやってくる。
重要なことは、ネット通販にしろ、従来の通販にしろ、店舗にしろ、購入方法が目的ではないこと。いかに、顧客が4Cを感じることができるかどうかがポイントだと思う。ネット通販が当たり前になって、いろいろなチャネルを組み合わせて、新たな仕組みが出てくるんじゃないかなあ。まだまだネット通販は黎明期なんだ。
次回は、ネット時代の新たな動きについて話そう。
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