やってみましたペルソナ作り

ペルソナとは――ウェブサイト向けペルソナを理解して、思いこみのユーザー像と決別しよう

ペルソナとは何かを解説するとともに、Web担のサイト向けに実際にペルソナを作った様子をレポートする。

サイトのターゲットを実データから明確化

やってみましたペルソナ作り

これからのサイト作りに必須のペルソナを
Web担で実際に作ってみたレポート

ウェブサイトにおけるユーザー視点の企画やデザインを強化する手法として「ペルソナ」への期待が高まってきている。

ペルソナとは何かを解説するとともに、Web担のサイト向けに実際にペルソナを作った様子をレポートする。

ペルソナとは?

思い込みのユーザー像との決別
「ペルソナ」がユーザー中心のウェブサイトを可能にする

参考:「ペルソナデザイン」それはあなたのサイトを「ユーザー志向」にする最強の味方

ユーザー中心のウェブサイト設計は難しい

日本でも最近では「ユーザー中心設計」や「ユーザーエクスペリエンス(利用者の体験)の向上」という概念が注目されるようになってきている。ウェブサイトの構築やリニューアルの際には、「ユーザーにとって使いやすいサイトを作る」ことに力を注ぐ企業も多く現れてきている。

しかし一方で、Web担当者の目の前には、各関係者から要求される新機能や、製品・サービスのアピールポイントなど、盛り込まなければならない要素が山積みになっているはずだ。そして、関係者がそれぞれに思い描いているバラバラなユーザー像のせいで、適切な判断ができないまま要素が詰め込まれ、結果として効果の出ないウェブサイトになってしまっている、そんなケースが多いのではないだろうか。

そもそも、作り手が自分の視点を「ユーザー中心」に転換することは、簡単なようで難しい。というのも、人間は本来、製品やサービスを設計する際に、自分自身の欲求やニーズにもとづいて考える傾向があるからだ。漠然としたユーザー像しかもっていないメンバーそれぞれが「ユーザーは自分たちと同じように考えて行動するだろう」との憶測で議論し、設計・開発をしても、うまくいく可能性は低い。

あたかも実在しているかのようなユーザー像「ペルソナ」

「ユーザーにとって、その機能は本当に欲しいものなのか、そのコンテンツは使えるものになっているか」、さらには、「それがあることでユーザーがうれしくなる、ワクワクするようなすばらしい体験ができるか」、勝手な憶測や思い込みではなく、ユーザー自身のニーズとして“明確に知る”ことが、「本当に使える」ウェブサイトを作るためには重要である。

そこで、自分にはわからない、ユーザー自身の本当のニーズをとらえるための手立てとして注目を浴びているのが、「ペルソナデザイン」という手法だ。

「ペルソナ」とは、インタビューや観察といったユーザーへの調査結果を分析・統合して、対象となるウェブサイトのユーザーの一連の行動や、その背後にある価値観やメンタルモデルを文章化した、典型的なユーザー像を指す(図1)。

図1 ペルソナの例
図1 ペルソナの例

顔の見えにくい漠然とした「ユーザー」ではなく、あたかも実在する人物のように具体的に記述されているので、ペルソナシートを読めば、その人が何を期待してどのようにウェブサイトを訪れ、どのように見るページを選んでいるかなどを、具体的かつ体系的に深く理解できる。

ユーザーが「できること」だけではなく「したいこと」を見つける

「ユーザーにとって使いやすいサイトを設計したければ、ユーザビリティテストで十分だ」と考える人もいるかもしれない。確かに、ユーザーが「できること」「できないこと」「しやすいこと」「しにくいこと」に関しては、いわゆるユーザビリティの領域でカバーできていた部分だ。しかし、ユーザビリティでは、ユーザーがそれを望んでやっていることかどうか、つまり「したいこと」「したくないこと」あるいは「してほしいこと」「してほしくないこと」を理解することは難しい。

それに対してペルソナは、架空とはいえ、あたかも実在の人物かのような具体的な描写で、ペルソナの行動に影響を与えている、その人なりのゴールや価値観、基本的な性格までもがリアルに把握できることにその価値がある。それは、ペルソナを作成する際に、実際のユーザー1名につき2時間程度をかけてインタビューを行い、その人の行動や達成したいゴールにまつわる“物語”に耳を傾けるという過程を経ているからこそである。

ペルソナは、ユーザーができること・できないことに加えて、したいこと・したくないこと、さらにそのニーズの強さの程度までが把握できることで、単なる対症療法ではない、ウェブサイトの根本的な問題を解決するための施策を導き出すのに効果的な手法だといえる(図2)。

図1 ペルソナの例
図2 ユーザーテストで得られるユーザーが「できること」「できないこと」に加えて、ユーザーが「したいこと」「したくないこと」までを理解できるようにしたのがペルソナ。

ペルソナデザインがもたらす5つの効果

ペルソナデザインを用いることで期待できる効果をまとめると、以下のようになる。

  1. ユーザー像を絞り込める

    万人のニーズを満たそうとすると、選択肢が多く決断しにくくなる。その点、ペルソナは、あらかじめ意味のある属性のみを組み込んで記述されたものなので、「だれのためにウェブサイトを作るのか」を明確に定義できる。

  2. 感情移入しやすい

    ペルソナは物語調で書かれ、具体的な氏名やその人物の写真も準備されている。あたかもその人物が実在の人物であるように感じられることから、箇条書きや数字の分析資料よりも感情移入しやすく、ニーズを感じ取りやすい。

  3. 共有しやすい

    ペルソナは調査から得られた情報を1シートの読みやすい形にまとめているため理解しやすい。そのため、異なる部門のメンバー間でも対象ユーザーに対する共通の理解をもたらし、コラボレーションが容易になる。

  4. 効率的になる

    設計の初期でペルソナを利用すれば、早い段階で、主要なコンテンツやデザインの方向性など、さまざまな決断がサポートされ、時間やコストの無駄が削減できる。

  5. 良い決断を導く

    詳細な調査をもとに作成されたペルソナは、勘や憶測を排除した適切な決断を導く。基本設計の段階でペルソナにもとづいて意思決定を下していけば、ユーザーのニーズを満たす最適なデザインを実現しやすくなる。

ペルソナに期待する役割を明確にする

ペルソナは非常に汎用性の高いツールであり、ここ数年、ペルソナが活用される領域はどんどん広がっている。とはいえ、一体のペルソナを作れば、それですべてのテーマに対応できるわけではない。たとえば同じ「ECサイトを立ち上げる」案件でも、プロジェクトの性格が違えば、ペルソナに求められるポイントも変わってくるのだ。

サイトのブランディングにペルソナを役立てたいのであれば、その企業に抱いているブランドイメージにフォーカスをあてたペルソナが有効だし、eメールマーケティングを検討するなら、マーケティング戦略を受けてマーケティングプログラムにフォーカスをあてたペルソナが有効になる。

どんな方向性でペルソナを作るにせよ重要なのは、ユーザーへの調査を設計する前の段階で、ペルソナに期待する役割を明確にすることだ。

「プロジェクトのどの段階でペルソナを活用するのか?」

「期待する効果は何か?」

「だれが、どのような方法でペルソナを活用するのか?」

ペルソナへの期待をはっきりさせることで、ユーザー調査の目的が明確になり、適切なペルソナ開発につながっていく。

ペルソナデザインで陥りやすい失敗

通常、1人のペルソナを作るには、ターゲットとなるユーザーセグメント(対象となるウェブサイトを使う目的、行動、態度などが類似しているユーザー層の集団)から10名程度を抽出してインタビューを実施し、得られたデータを分析・統合して仕上げていく。

ただ、いつでもこのとおりに進めれば、うまくいくというわけではない。ペルソナ作成のプロセスは注意深く進めていかなかいと、次のような“品質不良”のペルソナを作ってしまうことがある。

  • ピンボケのペルソナ
    不必要な情報はたくさんあるのに、プロジェクトにとって欲しい情報にフォーカスがあたっていない。
  • 疑わしいペルソナ
    データに納得できる根拠や基準がなく、データとして信憑性がない。
  • 都合のいいペルソナ
    ユーザーのとらえ方が従来どおりの企業視点になってしまっている。
  • 月並みなペルソナ
    開発しなくてもわかっていたような情報しかなく、顧客理解の革新につながる新しい発見がない。

せっかく費用と時間を費やしてペルソナを作り上げたとしても、このような不良品ペルソナでは、上司やクライアントはおろか、チームメンバーのだれにも受け入れてもらえないだろう。

では、ペルソナ作成のプロセスでは、どんな点に注意すればいいのだろうか。

ユーザー調査ではこれまでの思い込みを捨てる

先述のとおり、ペルソナを作成するにはインタビュー調査や、ときには観察法といった定性調査が必要になるが、調査に臨むにあたっては、かならず注意すべきことがある。それは、自分がユーザーについてこれまでに知っていることや、感じていることは一旦保留にすることだ(図3)。調査しようとしているウェブサイトのことをよく知っている場合や、思い入れがあるような場合には特に注意が必要である。

訓練されたアプローチ

  • 没頭
  • 先入観なし
  • 暗黙の専門見地なし
  • 結論性なし
  • 不確さ
  • 記録に忠実
  • データに戻る

カジュアルなアプローチ

  • 素早い・表面的
  • 既に決まっている見地
  • 暗黙の専門見地
  • 即判断
  • 見込み・推測
  • 記憶に頼る
  • 直感のみ
図3 インタビューにおけるプロとして訓練された調査員のアプローチとカジュアルなアプローチの違い。

これは、インタビュアーの先入観によって、ユーザーの考えにフィルタをかけたり、答えを誘導したりすることを防ぎ、ユーザーの本当の考えやニーズをとらえるためには非常に重要なポイントである。ただでさえ、ユーザーが本当に望んでいることは、すでにあきらめてしまっていたり、明らかなことすぎて意識にのぼらず、言葉として出てきにくかったりする傾向がある。インタビューの中で、そうした無意識下にある重要な要素が一瞬でも見え隠れしたときに、これまでの思い込みや先入観により、それを見逃すようなことだけは避けるべきだ。

定性調査だけでなく定量調査と組み合わせる

通常、ウェブサイトを構築する際には、対象となるユーザーに関してある程度のセグメントが想定できているだろう。そのセグメントを利用して、インタビューを行いペルソナを開発することになるが、その場合、重要になるのは、いかに適切なユーザーをインタビュー対象者として選定するかということだ。

そのセグメントを代表するようなユーザーかどうか、解決したいテーマとの適合性はどうか、積極的に協力してくれそうかといった、ユーザーを選定するためのスクリーニング(ふるい分け)の項目に関して、事前に組織内でコンセンサスを得ておくことは非常に重要である。この過程をとばしてインタビューを行い、ペルソナを作ったとしても、「そもそも話を聞く相手が間違っているのでは?」と、信憑性に欠けるペルソナだと見なされてしまう。また、場合によっては、もとのセグメント自体の有効性に関しても、定量調査で検証する必要が出てくるだろう。

逆に、新しくセグメントを作る場合には、始めに定量調査を実施して、クラスタ分析でセグメントに分け、そこからペルソナを作る方法もある(図4)。

図4 ペルソナを作成するための定量調査と定性調査によるユーザー調査の標準的な組み合わせ例。
図4 ペルソナを作成するための定量調査と定性調査によるユーザー調査の標準的な組み合わせ例。(図はクリックで拡大)

どちらにしても、ペルソナの信憑性を高めるためには、定性調査に適宜、定量調査を組み合わせることで、セグメントとしての有効性を確保しながら開発していくことがポイントとなる。また、ペルソナを作る前のセグメンテーションやスクリーニングのプロセスが適切であることを組織内において事前にしっかりと理解してもらっておくことも重要だ。

アイデア開発は常に「ペルソナ」中心で

ペルソナができ上がったら、ウェブデザイナ、グラフィックデザイナ、プロジェクトマネージャ、インフォメーションアーキテクト、ウェブプロデューサなど、該当するウェブサイトにかかわるメンバー全員でペルソナシートの内容を共有しよう。それをもとに、ペルソナがウェブサイトを訪れる前から出ていくまでの一連の経験のプロセスに沿って、アイデアセッションを行うことをお勧めする。

そのときに重要なのは、アイデア開発やアイデアへの評価は、すべてペルソナを中心に考えるようにすること。ペルソナがあれば、意思決定が必要な場面で、自分がどうしたいかではなくペルソナならどうしたいかを考えられるようになる。「高野さんだったらそんな情報には興味がない」「高野さんはこっちの機能のほうがうれしい」という言葉が聞こえてくれば、メンバーがペルソナに感情移入し、組織をまたがって共通のユーザー像の認識ができてきている証拠だ。そのときには、今までハードルの高かった「ユーザー中心」でのプロジェクト進行も、おのずと現実のものとなっているだろう。

まずは、ペルソナについて理解できただろうか。後編となる次回の記事では、実際にペルソナを作ってみた様子をレポートする。→「[体験レポート]やってみましたペルソナ作り——これがウェブサイト向けペルソナの作り方だ」を読む

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