ペルソナシート39名分とペルソナQ&Aを一挙公開! キャンセル待ち続出の「ペルソナ作り体験ワークショップ」レポート

WAIS JAPAN2008

【セミナーレポート】
キャンセル待ち続出!
ペルソナ作り体験ワークショップ

2008年10月17日、東京のベルサール神田で「本当のユーザー視点の獲得とWeb マーケティング&ブランディング」をテーマとして開催されたWeb マーケティングイベント「Web PDCAカンファレンスWeb 担当者Forumミーティング WAIS JAPAN 2008」。
第3回となる今回は約600人が来場。盛況のうちに幕を閉じたイベント当日の模様をレポートする。

ペルソナワークショップの様子

今回のWeb担当者Forum ミーティングでは、主題にもある、ユーザー視点の実践に強力なデザインツール「ペルソナ」に関した体験ワークショップも開催された。ペルソナの重要性がこれだけ叫ばれる中にあって、実際のペルソナの作り方は意外と知られていないというのが現状ではないだろうか。ペルソナデザインに取り組むペルソナデザインコンソーシアムの協力により開催された、ペルソナ作成の重要ポイントを詰め込んだワークショップの模様をお届けする。

ホテルのWeb担当者になりきり
専用キットでペルソナ作成を体験

図1 ペルソナキットメインターゲットに関するあらゆる要素の中から数枚をピックアップしていく。
図1 ペルソナキットメインターゲットに関するあらゆる要素の中から数枚をピックアップしていく。

今回は、ワークショップ用にペルソナ作成のための専用ツールである、ペルソナキットとペルソナシートが用意された(図1)。

本来ならば、各社の製品やサービスの利用者複数名に対してインタビューを行い、利用者の行動や経験、ニーズに基づく要素を書き出していく作業から始めるのだが、参加者には、あるビジネスホテルのWeb担当者という条件で体験してもらった。

そのビジネスホテルは、現在女性客の取り込みを計画中で、サイトのリニューアルを検討している。また、ペルソナのもとになるターゲットユーザーは30代女性のセールスエンジニアで、事前のインタビューで得られた、「いつも仕事中に会社で予約する」「世代の近い女性のクチコミは必ず読む」といった、彼女に関する具体的な要素も準備されていた。それらの要素は、ホテル選定のポイント、サイトへの要望といった特定の場面ごとにカテゴリ化され、色分けした状態になっている。

数ある要素の中から、時系列に並べた場面ごとに1~3枚の要素をピックアップし、徐々にペルソナを形作っていくというのがワークショップの内容だ。

こうしてピックアップされたカードを読み返すことで、そのユーザーが過去どのようなホテルを経験してきて、ビジネスホテルというものをどう感じているのか、ホテルを選ぶときには何を注意しているのかなど、その人物のホテル選びのシナリオができあがる。これがペルソナの骨格となる部分だ。

ペルソナが目標とする
ゴール=サイト成功への近道

図2 完成したペルソナシート。できあがったペルソナはボードに貼り出され意見交換が行われた。
図2 完成したペルソナシート。できあがったペルソナはボードに貼り出され意見交換が行われた。

最後に、参加者各自が、カードの中から最もペルソナを象徴するような1枚を選び、ペルソナの言葉として記述する。「ペルソナの言葉」というところがポイントである。ここで注意することは、あくまでも事実に基づく記述を行うことで、自身の思い込みやこうあってほしいという願望を排除する点である。また、ペルソナには目標を設定させることも重要である。そのペルソナが考える、ゴールを具現化することで、実際のサイト制作や改善の際には、そのペルソナの目標を達成させることがサイト成功の近道になるからだ。こうして、ペルソナシート上に1人のペルソナを完成させていくのである(図2)。

体験を生かし自社でも活用したい
参加者全員分のペルソナが完成

参加者の方に感想をうかがったところ、「ペルソナという言葉自体は知っていましたが、その重要性を現場の営業マンに理解してもらうのがなかなか困難でした。今回のセミナーの経験を生かして、担当者を納得させることができればいいと思います。近々、Webサイトのリニューアルを検討しているのですが、そちらにも活かしたいと考えています」(人材系コンサルティングサービスのWeb担当者女性)といった意見が寄せられた。

[コラム] by ペルソナデザインコンソーシアム

ペルソナ体験ワークショップ誕生の背景

当初、イベント企画時に安田編集長から「1時間程度でペルソナが体験できるもの」を考えてほしいというお題をいただいたとき、ワークショップは難しいだろうという意見がコンソーシアムメンバーの間では大勢を占めました。通常のワークショップは、概ね2日~3日のものが多く、ペルソナの醍醐味である、ファクトイド(要素)の分類を体験してもらうだけでも、少なくとも半日以上は必要だからです。

しかしながら、講演だけで説明するのでは、「体験」できるという企画の意図に合いませんし、どうしようかと論議をしていたときに出てきたのが、「ペルソナゲーム」(ゲームソフトではありません)という考え方です。ファクトイドをゲームのピースのように扱い、「各自でできるゲーム=パズル」のような形にすることです。こうすることで、通常のグループワークでファクトイドを壁に貼って分析する時間を削減し、今回のイベントのように、それぞれ面識のない方々が集まっても問題なく進行できるということで、今回はゲーム的なものにまとめることに致しました。

コンテンツは、コンソーシアムメンバーで京都の同志社大学に集まって1日がかりで作りあげました。それを、コンソーシアム参加企業の理事以外の方にご協力いただいてリハーサルを行い、参加ユーザーの立場でいろいろとご意見をいただいてさらに改訂しながら最終形を作り上げました。

時間の制限があるため、ある程度ステップごとにヒントを設けてスピーディーに進められるようにし、ペルソナシートを作り上げるところまで体験してもらえるようにするというのが難しいポイントでした。

体験ワークショップを終えて、やはり少し時間が足りない部分もありましたが、概ね参加して下さった皆さんが楽しんで下さり、満足して下さったので、大変嬉しく思っています。「セミナーでは『ペルソナ』という言葉をよく耳にしますが、実際の体験をできるのは、とても貴重です。良い経験となりました」という感想をいただき、参加者の方々同士が、他の方の作ったペルソナを見ることで、また新たな発見をしていただけたようなので良かったと思います。

出来上がったペルソナを見渡して

今回は、概ね決まったファクトイドの中から、目的(今回は、ビジネスホテルのWebサイトを女性向けにリニューアルするという)に対して重要なものを選び、ストーリー化していただきました。それほど出来上がりに大きな差はなかったのですが、皆さん、ペルソナのセリフの部分などに工夫をしていただき、いきいきとしたペルソナができたと思います。

ただ、どのペルソナが正解であるというのはないのですが、ペルソナを作るうえで、やってはいけないことがいくつかありますので、その部分だけ説明させていただきます。

ペルソナ作りでしてはいけないこと
  1. ストーリーのアレンジはあくまでも、実際の情報の範囲で

    今回のペルソナ吉岡美紀さん(女性・33歳)は、「月に1・2度東京に出張する」という設定ですが、それが、イコール「旅行好き」ということにはならず、「リラックスしたい」ということが、イコール「音楽の流れる部屋」とも限りません。ペルソナのストーリーを作るときには、あくまでも調査から得た情報をもとに創造することが大切です。

  2. ペルソナを作る目的を忘れない

    ワークショップの中でもご説明させていただきましたが、何のためにペルソナを作るのかという“目的”の部分をストーリーからもらしてはいけません。つまり、今回のように、Webサイトのリニューアルのためにペルソナを作る場合であれば、ペルソナの記述の中に必ず、ユーザーとWebサイトとの関係、使い方、好みなどが入っていることが必要です。ホテルでの過ごし方に関するニーズももちろん必要ですが、今回の場合であれば、Webに関する記述が抜けてしまっては意味がありません。

ワークショップ参加者からの質問一覧

ここで、ワークショップに参加された方から寄せられた、ペルソナに関する質問と、その答を紹介しよう。

回答者:ペルソナデザインコンソーシアム

ワークショップについて

  • Q1. 3つのゴールがペルソナのコメントにあまり反映されていないが、設定に影響しないのか?

    A. 今回は時間の限られたワークショップ形式で、ペルソナの本文の文字数を制限したこともあり、3つのゴールを本文の中に入れない設定にしていました。実際にはゴールに焦点を当てた内容になります。

  • Q2. ペルソナ骨格の形成で、タイトルの順番をどのように並べれば良いか?

    A. 今回はワークショップの便宜上、あらかじめ順番をこちらで設定させていただきました。実際には、こうでなければならないというルールはなく、そのペルソナのストーリーとして自然につながるように構成します。一般的には、過去から現在、未来の話へ(時系列)、プロフィールなどの前提となる話から、製品やサービスを使っている具体的なシーンへ(抽象から具体へ)というように展開していくのが読みやすいでしょう。

  • Q3. 写真選びやファクトイドの整理、重要ポイント抽出など、 どのように客観性・論理性を持たせるのでしょうか?作業者によってばらつきもある気がしますが。

    A. ペルソナの作成はフィールドワークの分析なので、作業者の感性や創造性が求められる作業です。いわゆる定量的な客観性や論理性はありません。定性的な正当性を確保するためには、10サンプルを確保するといいでしょう。実際は共同作業で行うので、ばらつきは減ります。部門を横断したり、外部メンバーを入れ、多様な視点を取り込むのが望ましいでしょう。フォレスター社のチェックリストを使ってチェックすれば、有効性をチェックすることが可能です。

  • Q4. 同じ材料でも、作る人によっていろいろなペルソナができると思いますが、最終的な採用はどのように決定しているのでしょうか?

    A. Q3の回答を参照下さい。

  • Q5. 重要な要素を選ぶというところが、どういう基準で選べばいいのか、少し迷ってしまいました。「サービスを作る上で参考になる要素」という理解であっていますか?

    A. もう少し広く「なんとなく気になる要素」というレベルであげていくといいでしょう。経験を重ねると違和感がなくなってきます。KJ法のプロセスと同じなので「発想法」や「続発想法」などの書籍を参考にするとよいでしょう。

  • Q6. カテゴリを代表する言葉を、自分でまとめて作ってはいけないのでしょうか?象徴する言葉を選ぶときもサービス視点か、長期的なゴールか迷いました。

    A. 各グループを代表するタイトルは、今回はワークショップのためあらかじめ設定していたものを使っていただきましたが、本来はファクトイドの整理後、自分達でタイトルをつけていきます。象徴する言葉を選ぶ際は、このペルソナを利用する人たちに、そのペルソナの人となりや雰囲気を端的に伝えられるかどうかが大切です。それができれば、どこから言葉を選んできても構いません。

ペルソナ全般について

  • Q7. なるべく大多数の意見を取り上げていった方が平均的なペルソナになりそうだが、平均化されると、特徴のない人物になるだろうか?特徴の選択のしかたで、まったく違うユーザーが出来上がったら、それはペルソナになるのだろうか?

    A. ペルソナはユーザー調査から得られた要素を単純に平均化して薄めたものではなく、ペルソナを作る目的にあわせてセグメントした、ある特徴やニーズが類似している複数のユーザーから重要な共通要素を抽出し、統合して作るモデル像です。ファクトイドを統合する際に、ユーザーのゴールや特徴が明らかに違うユーザーが複数含まれている場合は、別のペルソナになります。

  • Q8. ペルソナは1人が理想なのでしょうか? たとえば10人など。社内では、1人に絞ることで、ターゲット幅が狭くなる声が大きいです。

    A. アラン・クーパーは1つの製品につき1人の主役ペルソナに絞り込むことを主張しています。ただし、患者用と医師用など、2つのインターフェイスを持つWebサイトの場合は別々につくってもよいでしょう。ペルソナは販売上のターゲットを決めるツールではなく、よいデザインをつくるためのツールです。いろんなユーザーを満足させようとして、機能や選択肢を増やすと、すべてのユーザーに認知的負荷がかかってしまい、結果として使えない、使いにくいものになってしまいます。

  • Q9. SNSでの利用などの実例やベストプラクティスがあれば知りたい。

    A. NECモバイリングさんが、「Colorful*CAFECLIP」のコンテンツ強化にペルソナを利用された事例があります。

  • Q10. 1サイトに複数の異なるペルソナを設定することはできるでしょうか?

    A. 主役ペルソナを補完するペルソナとして脇役ペルソナをつくることがあります。主役ペルソナの機嫌を損ねない範囲で脇役ペルソナのニーズを反映させます。前述のように、患者用と医師用など、2つのインターフェイスを持つWebサイトをつくる場合などは別々につくってもよいでしょう。

  • Q11. インタビューは、最低何人分あれば情報の信憑性があるのでしょうか?

    A. 1セグメントにつき7~10名をおすすめしています。経験としては8名を超えるあたりから新しい発見の数も著しく減ってきて「もうこれ以上何も発見できそうにないな」という感覚になってきます。

    エキスパートの見解としては、豊富なデザインリサーチの実績を持つエルゴノミデザインは経験則から8名を基本にしています。

  • Q12. デプスインタビューなしでペルソナを作りたいのですけど、可能でしょうか?

    A. ペルソナはユーザーの無意識下のニーズまでを掘り下げて発掘し、これまで気づかなかったユーザーについての新しい捉え方や可能性がそこに盛り込まれていることに価値があります。

    そのためには、デプスインタビューや観察法、コンテクスチャルインクワイアリーといった定性調査を行うことが必要です。

  • Q13. 実際にはどのくらいの期間をかけて、1つのストーリーを作るものなのでしょうか?

    A. プロジェクトによりますが、これまでの経験では、ユーザーをセグメントするところから始めて、1体のペルソナを作成するには大体3か月程度の期間がかかることが多いです。

  • Q14. サイト向けではなく、実際の販売店などでのペルソナ作りの例などもありますか?

    A. フォレスターリサーチ社によると、米国では「BESTBUY」や「FEDEXKINKOS」などで店舗開発にペルソナを開発したそうです。国内でも、商業施設やショールーム、オフィス、展示会などで事例があります。

  • Q15. デプスインタビューの際のトレーニング方法はありますか?

    A. トレーニング方法としてはさまざまなやり方があり書ききれませんが、デプスインタビューの一番のポイントは、ユーザー自身も意識していないようなニーズをどのようにして引き出すかです。

    そのため、インタビュアーは自らの思い込みや先入観を捨てて、終始オープンな姿勢でインタビューに取り組むことが必要になります。具体的にはオープンエンドクエスチョンの練習をしておくとよいでしょう。

  • Q16. 体系的に学習できる情報リソースがあれば知りたいです。

    A. 下記情報を参考にしていただければと思います。

ワークショップで作成されたペルソナを一挙公開

計3回の体験ワークショップから生まれた39名のペルソナを大公開します。今回は時間が限られていたため、すべての参加者に同じ設定で作業を進めてもらいました。ペルソナ作りの参考になれば幸いです。

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