ペルソナで実践!ユーザー中心サイト/書評『Webサイト設計のためのペルソナ手法の教科書』
BOOK REVIEW ウェブ担当者なら読んでおきたいこの1冊
『Webサイト設計のためのペルソナ手法の教科書』
評者:斉藤 彰男 (編集者、システム・エンジニア)
ペルソナを活用してウェブサイトを構築する手順とは?
随所に事例を織り込みながらわかりやすく解説
ペルソナとは元来、古典劇において着用した「仮面」のことであるが、マーケティングの分野では仮想の「顧客像」意味する言葉として用いられ、ペルソナデザインは企業が提供する製品やサービスの開発手法として、最近、急速に関心が高まりつつある。
本書は、このペルソナ手法をWebサイト構築に活用するための解説書であり、その手順を詳細に解説した“ガイドブック”あるいは“ユーザーズマニュアル”的な色彩の濃い書籍である。
構成は、PartⅠ「ペルソナ手法の紹介」、PartⅡ「ペルソナの制作」、PartⅢ「ペルソナの活用」の3部からなっている。
最初のPartⅠでは、なぜユーザーを中心に据えたサイト設計が大事なのか、ペルソナとは何か、ペルソナを作ることによって何が得られるのか、ペルソナ手法の導入事例などが解説されていて、いわばイントロダクションにあたる部分だ。
次のPartⅡは、本書の核となる部分で、実際にペルソナを作る方法が順を追って紹介されている。
本書では、“定性的なペルソナ”“定性的なペルソナと定量的な検証”“定量的なペルソナ”の3つのアプローチが紹介されている。1つ目の“定性的なペルソナ”とは、ユーザーインタビューなどの調査結果を分析してユーザーのセグメンテーションを行い、それを元に作成するペルソナ。比較的簡単に作成でき、コストを抑えることができるのが特徴だ。2つ目の“定性的なペルソナと定量的な検証”とは、もう少し時間とコストをかけられる場合に、導出したセグメントを簡単なサーベイやトラフィック分析などの定量調査を通じて検証し、その後ペルソナを作成するアプローチ。特別なデータ分析スキルを必要とせず、ある程度の客観性が得られるのが特徴だ。3つ目の“定量的なペルソナ”とは、統計分析のテクノロジーを駆使して作成する客観性の高いペルソナだ。はじめに定性調査を実施するのは他の2つ方法と同様だが、この段階ではセグメンテーションを行わず仮説を立てることに留めておく。その後、コストと時間を十分にかけて定量調査を実施し、クラスター分析によってセグメントを作成。この結果からペルソナを作成する。
定量調査に関する解説は統計学のバックグラウンドがないと難解かと思われるので、初心者はChapter 3「ペルソナ作成へのアプローチ」の後は、Chapter 4「定性的なユーザー調査」、Chapter 6「セグメンテーションの作成」の前半、そして核心のChapter 7「ペルソナに息を吹き込む」へと読み進んでいくといいだろう。
最後のPartⅢでは、作成したペルソナを、どのように利用するかが解説されている。前半では企業内でペルソナを披露して全社的なコンセンサスを獲得し、総合的な企業戦略へと発展させる方法が紹介されているが、ウェブサイト構築に関しては、その後のChapter 10「機能や実用性をどこまで拡充するか……」、Chapter 11「構造、コンテンツ、デザインを方向づける」、Chapter 12「成果を測る」に解説されているので、ここを熟読しよう。
ペルソナデザインについては、企業戦略と密接に関係していることから、その具体的な作成方法については、これまで語られることが少なかった。本書はその手順を詳細に解説しているという点で、とくにWeb担当者やマーケティングに携わる人は要注目だ。ただ一点、残念なのは説明の図版で翻訳されていないものがあること。もし本書の“読者ペルソナ”を作成すれば、きっと英語の実力が想像できると思うのだが……。
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