できるWeb担当者になるための必須のスキル/書評『Web担当者を育てるコミュニケーション力』
BOOK REVIEW ウェブ担当者なら読んでおきたいこの1冊
『Web担当者を育てるコミュニケーション力』
評者:森野 真理(ライター)
「顧客のため」という目的を見失うな
3つの力を高めて上質なウェブサイト開設を目指せ
コミュニケーション力といえば、最近の注目の対人スキル。斎藤孝氏のそのものずばりの新書『コミュニケーション力』によると、「クリエイティブな議論を成立させるために欠かせない能力」であり、企業から特に若年層に対して最も求められる能力(経済産業省「社会人基礎力に関する研究会」より)なのだという。Web担当者といえどもこの風潮からは逃れられない。いやむしろ、積極的にコミュニケーションスキルを高めていくことが、昨今のインターネットの荒波を乗り越え、企業活動に資するウェブサイトの運営には必要なのだ。
ウェブコンサルタントとして300社以上のWeb担当者と仕事をした本書の筆者によると、究極のウェブサイト担当者は、自らが抱える悩みの答えを自らの中から(自力で)見つけ出す力を持つという。本書ではウェブサイト担当者に求められる能力を「クライアント力」と名づけ、ウェブサイト運営にまつわる意思統一をはかる社内コミュニケーション能力、制作サイドへの発注能力、さらに消費者とのコミュニケーション能力の3つをどう養成するのかを細かく示し、具体的なヒントと成功事例が満載されている。
Web担当者は「何をどうしたらよいのかわからない」「技術がないからわからない」「どういう効果があるのかわからない」と、さまざまな袋小路に迷い込みやすい。しかし、筆者によるとこれらはすべて、小手先の技術や顧客対応、アクセス数などに振り回される結果生じるもので、「サイトの開設・運営は、顧客とのコミュニケーションの接点のひとつ」という目的さえ見失わなければ、技術の知識の多寡や経験の長さに左右されない、ニーズにかなった成果=理想のウェブサイトを得ることができるのだという。重要なのは、「ウェブサイトをリアルな仕事に置き換える」ことだ。トップページのデザインは顧客向け店舗の店頭の雰囲気、FAQはカスタマーセンターに寄せられる生の声の蓄積、商品解説は店頭ポップで求められる情報に置き換えてみれば、おのずと方向性が示される。具体的なイメージを持つことが、制作発注の大前提というわけだ。
「専門的な用語に惑わされるな」という助言も、不慣れなWeb担当者には心強い。「ビジネスの中でウェブサイトはどこに位置付けられているのか」が明示されていれば、やりたい技術ではなく、顧客に対して示したい情報やサービスが決まってくる。それをどう見せるのかは、制作サイドの腕のみせどころ。オリエンシートの作り方や、社内のワークフローの確立、運営についてのモチベーション維持の秘訣から書類コピーのタイミングまで、その具体性は明日からでもすぐに役立つこと請け合いだ。間にはさまる制作サイドの愚痴や発注企業への辛口コメントもスピード感のある章立てに流されてあまり気にならない。
ウェブサイトの発注が成功し、運営を始めた後も、どのようにマーケティングに活用するのか、消費者とのコミュニケーションの深め方や、賢くなったユーザーとの間でどのようなやりとりを重ねれば信頼を得ることができるのか、自らの経験も織り込みながら第4章で詳細にアドバイスしてくれる。最後の章はコミュニケーションスキルの高さで成功している企業の実例も示されており、至れり尽くせり、という言葉が頭をよぎる。
本書は薄めの書籍なので2時間もあれば読了できる。そのうえ、目次の前に「本書の構成について」というイラスト入り見開きページが設けられており、章立ての目的と簡単な内容が記されている。続けて詳しい目次が5ページ続き、本文中にはキーワードを強調するためにプレゼンでよく使われるようなパワーポイント風のイラストも豊富。参考書や参考サイト、用語解説も充実しており、さらに裏表紙にも(タイトルにひかれて立ち読みする読者がきっと抱いているであろう)課題への回答を示唆するサマリーと章構成が示されている。最近「Web担当者」に指名されたばかりであれこれ不安な人にはお助けの一冊になりそうだ。
ただ欲を言えば、微に入り細をうがったアドバイスにあふれる章と、具体性に乏しい章の落差が大きい。特に事例集で頻発する「良質のコミュニケーション」「非常に良い距離感」「サービスを生み出すコツは独自性」などの決め台詞は、その良質、距離感、独自性の内容こそ知りたいと思っている担当者が多いはず。意地悪な見方をすれば、Web担当者はまずこの本を買って勉強し、そこから先の疑問はコンサルで、とも読める。ベテランの読者層にはやや不満が残りそうな読後感は惜しかった。
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