第9回 「SEOで売り上げアップ」の誤解
――そもそもSEOを実施する目的とは?
佐藤 健史(株式会社セプテーニ)
今回のテーマは、「SEOとは?」の基本。「SEOを実施すれば売り上げが上がる」「SEOは検索エンジンで上位表示させるための施策」という考えは本当に正しいのだろうか? いま一度考えてみてほしい。そもそもSEOとは何なのか、何のためにSEOを実施するのだろうか。あなたのサイトは何のために存在するのだろうか。
SEOを実施すれば売り上げが上がる?
SEOを実施すれば売り上げが上がる
このようなSEOに対する意気込みは間違いではないが、違和感を覚えるのは筆者だけだろうか。
「とりあえずSEOをやってみよう」「競合他社もSEOを始めたようだし、我が社も」、そんな考えでSEOを始めた方、始めようと思っている方も多いのではないだろうか? メディアで取り上げられる機会も増えて注目度の高まっているSEOだが、そもそもSEOとは何なのか、何のためにSEOを実施するのだろうか。これを見失うと、手間とお金だけが浪費されるだけで時間が過ぎてしまうことになりかねない。
今回は、よくある事例を交えつつ、今一度立ち止まってSEOの足元を確かめたい。
SEOに“絶対”はない
まず明確な目的の見定めを
まず念頭に置いておきたいのは、サイト内であろうがサイト外であろうが、SEOの施策を通して得られるメリットは1つに集約される点だ。つまり、「検索結果画面における特定のキーワードでの上位表示」というメリットだ。
このメリットを踏まえたうえで、各サイトでSEOを実施する最終的な目的・目標が立つことになる。
また、「SEOに“絶対”はない」、ということも常に頭の片隅に置いておく必要がある。検索エンジンにおける順位を決定しているアルゴリズム(ルール)は非公開であり、そのアルゴリズムが不定期で更新されている。通常の広告ならば出稿すれば必ず決まった場所に掲載されるが、SEOはそれとは異なるアプローチであることを心しておくべきだ。
一言にSEOを実行する目的といっても、次のようなさまざまなものがある。
- 売り上げを上げる
- 特定ページへのアクセス数の増加
- サイト全体のアクセス数の増加
- 成果(コンバージョン)数の増加
- ブランディング
ただし、SEOだけでこれらの目的が達成されるケースは少ない。サイト自体を運用している目的と重なり合い、それを果たすための手段のうちの1つとしてSEOを利用するのが普通だろう。
また、SEOは長期的な運用が必要な性質を持っている。そのため、長期的に考えても実現すべき目的のために利用されなければ意味がない。また、SEOを始めるにあたってその特徴と定めた目的を、社内あるいは外部業者とともに、しっかり共有することがとても大切だ(図1)。
SEOを実施するにあたっては、「SEOさえ実施すれば売り上げが上がる」ではなく、「売り上げを上げるために手段の1つとしてSEOを取り入れる」というほうが本来の姿だろう。SEOができること、そしてSEOが担う役割と果たすべき目的を明確にし、対策することで、SEOをうまく取り入れるようにしよう。
上位表示されてもアクセス数が伸びない
SEOでも大切な「キーワード選び」と「タイトル・説明文」
十分にSEOの特性を理解し、いざ対策を実施したところで、満足な結果が得られない場合もあるだろう。「上位表示は実現したが、思うように対策ページへのアクセス数が伸びない」といった事例は意外と多い。
だからといって、「アクセス数が稼げなかったので、SEOは失敗であった」と結論づけてしまうのは早合点である。というのも、上位表示が実現した時点で「特定のキーワードで上位表示される」というSEOの基本的な役割は果たしているからだ。この場合の問題点と解決策として「キーワード選定」「検索結果画面で表示されるタイトル・説明文の調整」の2点が考えられる。
キーワード選定
本連載の第2回「第2回 SEOのキーワードはどうやって選ぶ?」で解説しているので詳しい説明は割愛させていただくが、「そのキーワードはコンテンツと合致しているか」「そのキーワードは十分に検索されているか(検索ボリュームが十分にあるか)」を改めて検証する必要がある。
検索結果画面で表示されるタイトル・説明文
クリック率を左右するポイントであり、リスティング広告では日常的に検証が行われているが、SEOにおいてはまだまだ考慮されていないケースが多い。検索結果画面の競合他社を比較し、対策を取ることで改善されるケースもおおいにあり得る(図2)。
「上位表示が実現しているにもかかわらず、PV数が伸び悩んでいる」あるいは「成果数が伸びない」場合、これらの理由に加えて、サイト内のユーザビリティをチェックしたり、経路解析をしたりする必要が出てくる。成果点が資料請求や購入の場合は、フォームの見直しを行ってみるのもいいだろう。
このように最終的な目的は達成されていないが、SEOそのものは成功している場合には、すぐにSEOを否定する前に、「SEOを活用して、最終的な目的を達成するには、どうすればよいか」をもう一度考えてみてほしい。
サイト内のSEOの対策度合いを調べるため、まずは「ディッパー」のような無料SEO診断ツールを活用してみるのもいいだろう(図3)。ディッパーは、セプテーニが無償で提供中のSEO診断ツール。対象キーワードの自然検索での順位や、対象キーワードの検索結果数などを簡単に調べることができる。
デザイン重視? SEO重視?
まず考えるべきは“ユーザーのこと”
「SEOはやりたいし上位表示もされたいが、サイトの修正は難しい」といった声も聞く。SEOの必要性は感じているものの、今一歩踏み出せない状況というわけだ。予算やシステムの都合というのも理由の1つだろうが、ここでは主にサイトポリシーやデザイン重視のサイトについて取り上げたい。
SEOと見た目(デザイン)のバランスについては以前からよく議論があがるポイントだ。SEOの内部対策とデザイン性はしばしば対極にあるように語られるが、決して対極にあるものではないと筆者は考えている。検索エンジンは、検索しているユーザーに対して、適切な検索結果を返すことを目的に作られている。特定のキーワードについて、関連性が高く、そのキーワードを検索するユーザーの多くに必要とされているであろうサイトから、順番にリスト化して提供しているのだ。ねらっているキーワードをページ内の文章などで使うことの重要性はよく語られるが、ユーザーに好まれ、必要とされるサイトを目指すという観点から見ると、デザイン的な要素も欠かせない。
だからといって、全面Flashで構築した場合のように、テキストの極端に少ないサイトが良いわけではない。ここで少し意識してほしいのは、「アクセシビリティ」の考えである。アクセシビリティとは、主に高齢者や障害者を含めたすべての人にとってどのくらい使いやすいのか、を意味するものとして使われる。代表的な事例は、画像に設定する「alt属性」である。最近では減ってきたが、まだまだalt属性をほとんど設定していないサイトを見かける。alt属性は、画像を表示しないユーザーのための代替テキストを設定するもので、本来その画像が何を意味するものなのかを記述する。alt属性は、SEOの中でもよく言及されるポイントであるが、本来の使い方を考えても、設定しないという選択肢はありえないのだ。
デザイン重視・SEO重視など、偏った考えではなく、「どうしたらより多くのユーザーに必要とされ、使いやすいサイトになるのか」を軸に、サイトの目的を明確にし、それを実現すべくしっかりとしたコンテンツを構築していくことが大切だ。当たり前で手間がかかるが、このことが、検索エンジンで確実に上位表示されるため第一歩なのである。
繰り返すが、サイト自体の目的があってこそのSEOであり、サイトの目的がないままに「検索エンジンで上位表示」だけを追求するのはナンセンスである。そして、SEOは、サイトの目的を果たすための手段の1つに過ぎない。
極端な例を挙げると、ECサイトにおいて、検索結果の順位が低くとも、十分な売り上げが得られていればSEOは不要または優先順位の低い施策となる。
検索エンジンの検索結果から訪れるユーザーの数が極めて多いサイトの場合、SEOは必須となるだろう。このようなときには、SEOに“絶対”はないということを思い出してほしい。日々、表示される順位にばかり気を取られて一喜一憂するよりも、順位が多少上下してもビクともしない、目的を達成できるサイトにしていくにはどうしたらよいか、SEO以外の手段を検討してみるのも、有意義ではないだろうか。
- 「検索結果画面において特定のキーワードで上位表示されること」は、SEOを通して得られるメリットであり目的ではない。
- 各サイトの最終的な目的・目標があって、それを達成する手段の1つとしてSEOをとらえるべし。
- アクセス数が伸びないときは「キーワード選定」「タイトル・説明文」の見直しを。
- SEOはあくまで“手段”。表示される順位に気を取られず、目的を達成できるサイト構築をSEO以外でも考えよう。
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