社団法人 日本アドバタイザーズ協会 Web広告研究会
同じように悩む担当者同士の情報広場
広告に限らずネットの「現場」がここにある
取材・文:柏木 恵子
写真:渡 徳博
日本アドバタイザーズ協会 Web広告研究会(Web Advertising Bureau)は、1999年4月に社団法人日本広告主協会(現:日本アドバタイザーズ協会)ディジタルメディア委員会内の研究会を母体として発足した(Web広告研究会の基本的な情報はこちらを参照)業界団体で、今や285社の会員社数を誇る大きな組織となっている。業界の枠を超えて、Web広告・マーケティングに取り組むすべてのプレイヤーによる研究活動を行う実践の場として、インターネットの諸問題について「関係者すべてに門戸を開き」「オープンでフェア(公正)なスタンスで検討を行い」「成果を等しく共有する」を理念に活動している。その活動の内容や自社の仕事への役立て方について、Web広告研究会代表幹事である、味の素株式会社の棗田眞次郎氏にお話を伺った。
企業ホームページが登場した当初から
バナー広告の研究を開始
●編集部 最初に、Web広告研究会設立の経緯について教えてください。
●棗田 1996年に、今の日本アドバタイザーズ協会(当時は日本広告主協会)にディジタルメディア委員会が作られ、その中の活動としてバナー広告の効果測定実験を行ったのが、Web広告研究会のルーツです。企業ホームページができ始めたのが、早い企業で95年くらいですから、96年といえばかなり早い時期だったと言えます。その時点から、バナー広告というものははたしてどうなのかという研究を始めていたということです。日本広告主協会というのは広告主だけの団体ですが、その実験を通して、こうした効果実証実験をする際に、広告主企業だけでは何もできないということ、広告主以外の会員を集めた組織でなければならないと感じたことが、Web広告研究会の設立につながりました。
Web広告研究会としての設立は1999年で、設立当初の会員社数は8社でした。現在の会員社数は285社(2007年8月31日現在)ですが、広告主以外の企業の方がずっと多く、インターネットに関わりのあるありとあらゆる業種の方が会員になられており、インターネットに関することなら何でもという組織になっています。そこが、特定業界の団体やその他の広告関連の組織と違うところでしょう。
●編集部 インターネットに関することといっても広いですよね。具体的な活動の内容として、代表的なものを教えてください。
●棗田 Web広告研究会(以下、Web研)のサイトを見ていただくとだいたいわかるのですが、委員会とプロジェクトという形で活動しています(図1)。一番人数が多いのは、ウェブサイトの活用おけるさまざまな要素を取り上げることができる「サイト活用委員会」です。各委員会の傘下に、テーマごとに分かれたワーキンググループ(WG)があり、そのWGごとにテーマを設定して活動します。ただし、たとえば「調査委員会」などは、いくつかあるWGの活動内容が重なり合っているので、委員会全体として活動しているような場合もあります。基本的には、WGリーダーがいてWG単位で活動するのですが、活動成果に関しては、WGや委員会だけの知見ではなく、Web研メンバー全員の知見として、たとえばセミナーを開催してフィードバックしています。
●編集部 会員になれば、今までの活動内容を会員用サイトから見ることができますよね。
●棗田 活動成果を知識として得ることができる場として、会員用サイトからのレポートのダウンロード、月例セミナー、委員会セミナー、春と秋のフォーラムがあります。セミナーはそれぞれテーマがありますから、そのテーマに関心のある人が聞きに来るというものです。私は、基本的にすべてのセミナーに出ていますが、中には今回のテーマは会社の業務上あまり関係ないなというのもあります。それでも、周辺情報として知っておいて損はありません。
それ以外にも、会員相互のコミュニケーションの場として、2か月に1回、月例セミナーの後に懇親会を開いて、そこで新規の会員の紹介や情報交換をしています。他に夏まつりというのがありますが、それはコミュニケーションの場ですね。
●編集部 研究活動以外に、Webプロデューサー育成のプログラムもありますね。
●棗田 会員向けに年に1回、7月に開催しているものですが、人気がありますよ。企業は人事異動があります。だから、たいがいの人は、辞令が出てある日突然ウェブを担当しろと言われます。しかし、ウェブサイトの運営について社内に体系立ったカリキュラムを持っているのは、ほんの一部の企業だけです。そこで、新しくWeb担当者になった方や、しばらく経ったけれどまだよく分からないという人向けに、これだけのことを知っていれば一応ウェブマスターができますという内容を、2日間にまとめてやっています。2日間に濃い内容が詰まっているので、すべて理解するのは大変だと思いますが、こういう要素が必要だということがクリアになるし、それを解決するための手段が掴めるはずです。
今はウェブマスターや企業サイト運営についての本もたくさん刊行されていますし、あるいはネットで検索していろいろな情報を集めることもできますが、何年か前だと誰も教えてくれなかったし、知る手段がありませんでした。だから、自分たちが悩んでいたことはきっと他の人も悩んでいるだろうということで企画したものです。コストもあまりかけずに、ということで、講師も基本的にWeb研メンバーです。メンバーには、セミナーで1時間でも2時間でも話せるような人がたくさんいますから。
●編集部 「Webクリエーション・アウォード Web人発見!」というのもありますね。あれはどのような意図のものですか。
●棗田 Web研の設立メンバーである岩城さん(Web広告研究会顧問)が、研究会活動だけでなくアウォードをやりたいという気持ちを強く持たれていたんです。いろいろな所がアウォードを始めたので、我々はWeb研ならではの特色を出すために、人にスポットを当てることにしました。他のアウォードはサイトや広告、会社など物を対象にしていますが、そうではなくて人を顕彰するということです。過去の受賞者を見ていただくと、mixiとかシックス・アパートとか、今でこそ誰もが知っているけど当時はまだそれほど有名ではなかった企業に携わっていた人 たちを表彰しています。ちなみに、今年のアウォードで大賞を受賞されたのは、モバゲータウンの企画者、株式会社ディー・エヌ・エーの畑村匡章さんでした。
積極的に活動するほど
自分の仕事に役立てることができる
●編集部 会員としてセミナーに参加するだけでなく、WGに入って活動してこそWeb研の良さが分かるという印象があるのですが。
●棗田 月例セミナーを聞きに来るだけという会員企業ももちろんたくさんあって、そちらの方がマジョリティです。活動成果はWeb研の共有財産として会員にはすべてオープンになるので、セミナーに参加するだけでも大きなメリットがあります。しかし、本当に自社の仕事に役立てようと思ったら、WGなどに積極的に参加されるのが良いですね。
WGリーダーとして活動する意欲があれば、自分の課題をWGのテーマにすることもできます。WGは、どこかから与えられたテーマがあってそれをやれというものではなく、メンバーの関心が高いものが取り上げられていくわけです。自分がこういうことで悩んでいるという内容を、メンバーみんなで考えて整理してみようという形で、テーマが決まっていきます。そして、その成果を自社に持ち帰れば、ものすごく有益なデータになるわけですから、積極的にWGに参加していただきたいですね。
WGに参加するもう1つのメリットは、濃密な人的ネットワークを得られるということです。Web研にはネットに関係するさまざまな人がいます。たとえば、ブログのことならこの人に聞けといったような、何かについての先達だったりスペシャリストだったりする人がいますし、企業ですでにいろいろなことを成功させてきたという人もいます。WGで一緒に活動するうちに、そういう人の知恵を気軽に借りることができるような関係になれます。もちろん、WGに入っていなければ教えてもらえないということではありませんが、日頃一緒に活動していれば対応の丁寧さが違うというか、言いたいことを察してもらえるところもあります。
●編集部 棗田さんご自身がWeb研で実際に経験したメリットを紹介してもらえますか。
●棗田 味の素の「マヤヤのお料理ブログ」というのは、日産の「TIIDA BLOG」と並んで企業ブログのハシリと言われているものですが、これが典型的な例でしょうね。2年くらい前の話ですが、当時、企業ホームページの中で何かコミュニティをやりたいが、普通の掲示板はいやだなと思っていました。そんな時、Web研のセミナーで四家さん(四家正紀氏:Web広告研究会 幹事・広報委員長、カレン広報室長)が司会をやっているブログのセミナーを聞きました。そこで、ブログが面白そうだなと四家さんに相談した結果できたのが、マヤヤのお料理ブログです。私が当時まだそれほど一般的になっていなかったブログという先進的な手法に触れることができたのは、Web研のセミナーがきっかけだったわけです。
あるいは、会員社に共有されるレポートとして完成したものだけでなく、それを作るプロセスに参加できたことも、非常に貴重な経験でした。というのは、レポートに載せられない情報もたくさんあるからです。調べたり情報交換したりする中で触れる生の情報がたくさんあって、問題意識や悩んでいる部分はどこの企業もだいたい同じだということを肌で確認できるということがまず大きいですよ。うちの会社がだめなのではなくて、これは業界としての課題なのだと確認できるわけです。それを自社に持ち帰って、これにはどこも悩んでいる、この解決には時間がかかる、あるいはお金をかけなければいけないといったことを言いやすくなります。それは、レポートやセミナーで語られる情報以外の部分に携わったからこそですよね。
また、私が誰かをWeb研に誘うときによく言うのは、人間関係ができると、簡単に情報が集められるということです。たとえば、上司から「よその会社ではホームページの運営はどのような体制なんだ」と言われたりしますよね。よそは何人でやっているんだと聞かれても、そんなデータはどこにもありません。そのような時、Web研のメンバーにメールを出すと、1日で情報が集まります。日頃から研究活動に参加しているおかげでもありますが、何か調べたいなと思ったら、だいたい1日か1日半で終わりますよ。
年会費21万円(1口)で、質の高いセミナーに年12回以上、それも2名までご参加いただけます。これは得られる内容からするとかなり安いです。けれど、それだけではまだもったいない。主体的に参加すればするほど得るものは大きいです。
●編集部 研究成果のような、形として出てこない途中経過にうま味があるのですね。
●棗田 どのような調査でも、外に出すデータ以外に「実は……」という、現場ならではの話があります。公式発表ではこれだけの成果と言っているが、実はこんなに金がかかったとか、これ以外にもこういう効果があったとか。そういう話が聞けるし、それを自分の会社に置き換えた時にどうかということにつなげていける。また、そういうスタンスで話をすると、「そちらの会社でやるならこうした方が良い」といったアドバイスが、実際に経験した担当者から聞けたりします。それは、現場の声ですから、たとえば広告代理店から普通に提案を受けたりするより、はるかに良いですよね。反省もふまえての意見ですから。
Web広告研究会のネットワークに参加すれば
現場でしか語られない生の情報を得られます
ネットユーザーが増えればWeb広告の手法も課題も増える
●編集部 Web研が発足して8年になりますが、これまではインターネットユーザー数やブロードバンドの普及率などが右肩上がりの時期でした。これからはさすがに普及率もあまり伸びないと思うのですが、今後のWeb研の活動はどうなるのでしょうか。
●棗田 企業の利用ということでは、インターネットもまだ飽和には至っていないと思っています。95~96年頃の企業サイトは、紙の会社案内がそのまま載っているだけでばんばんざいという、持つこと自体が目的の時代でした。その後、90年代後半から2000年代の初頭まで、持っているだけではもったいない、「ものを売ったら売れるのではないか」「キャンペーンに使えるのではないか」という時代がありました。そうこうしているうちに、多くの人がウェブは自社メディアだということに気づきはじめました。すると、キャンペーンに使うだけでなく、もっと自社メディアとして自分たちで情報発信するという、本来の企業サイトの目的に目を向けるようになります。
商品情報だけでなく、「私達の会社はこういうことを考えています」とか、「こうやって社会に貢献したい」といった、企業のメッセージを情報発信したいと思うようになってきたのが、2002~2003年頃です。その時に、Web研では「企業広報WG」を立ち上げました。その後、パブリックリレーションズだけでなく、ウェブは企業ブランディングに重要な要素だ、あるいは情報発信のハブになるのかもしれないという思いがあって、一昨年に「企業ブランドWG」を作りました。
このように、まだまだ新たなテーマが出てきます。逆に、「ブロードバンドWG」のように、役目を終えて発展的解消をするWGもあります。Web研の組織は最初からあるものがずっと動いていくわけではなく、世の中の動きがあって、各広告主企業やWeb関係者の関心事や悩みについて、それをフォローするような組織が構成されていくものです。一般のネットユーザーが増えるということはそれだけウェブの影響力が上がっているわけですから、企業側としては手法が増えれば課題も増える。だから、むしろやらなければいけないことは増えているというのが実情です。
●編集部 名称はWeb広告研究会ですが、ウェブでどこまでできるかをどんどんつきつめると、ウェブだけに収まらなくなりますよね。
●棗田 ですから、「クロスメディアWG」があります。ウェブに限定しているわけではなく、ウェブをハブにするということです。実は、ウェブに限定しないだけでなく、広告にも限定していません。名称に広告という言葉が入っているのは、設立の時に日本広告主協会の傘下の組織であったというのが理由かもしれません。
「本当のところはどうなの」を検証できる場としてのWeb研
●編集部 最近の新しい動きとして、具体的な成果を教えてください。
●棗田 今年の2月に「消費者メディア市場規模調査」ということでCGM(Consumer Generated Media)についてのレポートを発表しました。世の中ではCGMが話題になっていますが、本当のところはどうなのかということで、WGを作り調査しました。結果としては、確かに有効ではあるが、何でもかんでも有効というわけではなく、業種や商品によっては有効なのだということがわかりました。
たとえば、家電や車といった、情報を探して調べてカタログ請求してといった手順を踏むような商品購入の際には、クチコミサイト・掲示板をを参照する人が多い。しかし。マス広告や低額の商品、店頭販売の売上比率が高い商品については、こうしたサイトの参考度合いが低くなっているのです。
広告代理店はりっぱな資料を揃えて、すばらしいプレゼンをしていろいろと勧めてくるわけですが、それが自社にとって本当に有益なのか、広告主企業は判断の“ものさし”を持っていません。そのものさしとなるようなものとして、このような調査をやったわけです。我々も、当初はCGMは良いよと言っていたのですが、きちんと調査してみたら、向いている業種と向いていない業種があることや、注意すべき点があることがわかったのです。
これまで広告業界というのは、広告を出す枠があって、それを広告代理店が分配するような仕組みでしたが、ネットにはそもそも枠がありません。代理店としてはいろいろな手法を勧めてくるけれど、広告主側も判断の一助となる、何らかのものさしは欲しいですよね。このような場合に、「本当のところはどうなのだろうか」という視点を持ちながら提案を受けるようにしたいですね。
市場調査はさまざまなものがありますが、調査自体を業務としている会社や販促のために調査する会社などの調査と、Web研の調査は本質的に違います。つまり、Webの担当者が、自分の視点で何かを知りたいと思った時にアクションを起こせる場所なのです。特定の企業ではなく、同じ課題や問題意識を持った企業や業種をまだいだ仲間の中で、これを知っておきたいというところからアクションが始まり、その結果を共有していく。そういう意味では、中であからさまな営業活動やると嫌われます。そこはコミュニティの感覚にかなり近いです。
●編集部 たとえば、最近流行りの検索窓を付けたテレビCMなんかはどうなのでしょうか。
●棗田 そういう疑問を持ったメンバーがいたら、メールを流してみるとすぐにある程度の情報が集まります。しかし、それに対して調査をしたわけではないので、現時点では今の質問に対してWeb研の見解としては答えられません。それに興味を持つ人が多ければ、テーマ設定されてWGができるでしょう。Web研は何でもわかるデータベースかというと、そういうわけではありませんから(笑)。
●編集部 お客さんとして、何か情報があるから見に行く場所ではないということでしょうか。
●棗田 もちろん、最初はお客さんですよね。サイトからの資料ダウンロードや月例セミナーに参加するというところから始めるのがいいでしょう。それ以外に何か知りたいことができたら、WGに参加して自分で会員に質問を流してみると、各企業がどう考えているか情報が集まるので、それを自分たちの会社の判断材料にすればいい。もう少し次元が上がってくると、自分の課題がテーマ設定されてWGになるといった感じです。
●編集部 Web研を利用しつくす3ステップといったところですか。
●棗田 最初の導入として知のデータベースとしての利用法もありますが、本当に自分の仕事に役立てるには研究のフィールドとして利用することが最良の策です。フィールドですから、数やバラエティが多い方が上質なものとなります。これからもたくさんの企業にWeb研に参加していただきたいし、会員企業のみなさんには、積極的に活動に参加していただきたいです。
●編集部 ありがとうございました。
社団法人 日本アドバタイザーズ協会 Web広告研究会
- 所在地 ● 東京都中央区銀座 2-11-8 第22中央ビル6階
- 代表幹事 ● 棗田 眞次郎
- 設立 ● 1999年4月
- URL ● http://www.wab.ne.jp/
- 活動内容 ●
業界の枠を超えて、Web広告・マーケティングに取り組むすべてのプレイヤーによる研究活動を行う実践の場として設立。広告業界のみならず、インターネット上におけるさまざまな課題について、広告主と関連企業・団体が共通の場でさまざまな研究活動を行う。主な活動として、すべての会員が無料で参加できる年2回のフォーラム、月例セミナーの他、各委員会主催のセミナーを開催。会員以外での参加も可能。会員社数は285社(2007年8月31日現在)。
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