Googleは絶対に教えてくれない 「SEO業者選びの落とし穴」と「インハウスSEOの勘所」
ECなどWebサイトを中心に事業展開する企業にとって、「SEO(検索エンジン最適化)」は重要な施策の1つである。SEO施策の推進にあたって、数あるSEO業者をどのように選べばよいのか。また、インハウス(社内・組織内)でSEOを推進するにはどのように進めればよいのか。20年以上のSEOキャリアがあるDMM.comの渡辺氏が「Web担当者Forum ミーティング 2024 秋 」に登壇し、SEO業者の見極め方と、インハウスSEOの進め方について解説した。
内製する? 外注する? インハウスSEO体制の3つの選択肢
渡辺氏は1997年からSEOの仕事をしている。2021年まではSEOコンサルタントとして、国内外のさまざまな企業のSEO推進を支援してきた。2022年からはDMM.comにて、自社のSEO施策を推進している。DMM.comは副業が可能なので、現在も知人やスタートアップ企業のSEO支援にも携わっている。通算すると、SEOの業務キャリアは24年7月で28年目になる。インハウスの担当者でもあり、コンサルとして企業の支援を行う両方の観点から話をしていく。
渡辺氏は本日伝えたいこととして、以下を示し、講演を進めていった。
- SEO業者の選び方
「SEOの戦略や施策を、ユーザー分析の観点から語ることができる会社」を見極めること
- インハウスSEOの組織づくり
大半の人にとって「SEOはよくわからない面倒なものである」という認識を持って業務に取り組むこと
はじめのテーマは「SEO業者の選び方」だ。渡辺氏はインハウスのSEO体制の3つの選択肢として、以下の表を示した。すべてを内製・外注するのも、外注と内製を組み合わせるのも、どれも難易度が高いという。
私がDMM.comに入社した直後は、最終的に全てを内製にするつもりでいましたが、入社3日目のお昼ぐらいに諦めました(笑)。これは無理だと、直続の上司に相談して外注の予算をもらいました(渡辺氏)
その理由は「DMMは多岐にわたる事業を展開していることに加えて大規模なサイトも多い。こうした事情を踏まえたうえですべて内製化するための経営資源(ヒト・モノ・カネ・ノウハウ)を確保するのは非現実的と判断した」からだ。ただ、5年単位で考えるのであれば、「外注と内製の組み合わせ」、10年単位であれば「内製化する」方向で考えたいと渡辺氏。
インハウスSEOの課題は「人材」。採用も育成も難しい
SEOに関するテクニカルなスキルをもった人材は、なかなかいないという。DMM.comでも人材募集をしているが、応募がなく、応募があっても「コンテンツを作っていました」というケースが大多数だという。採用して育成する選択肢もあるが、社内育成も難しい。SEOを教えられる人材がそもそもいないからだ。教えられる人がいたとしても、育成には時間がかかる。渡辺氏の感覚では、一人前にSEO業務ができるようになるには、3年では終わらないという。
コンテンツを制作するという観点でも、人材問題は立ち塞がる。コンテンツの企画・編集力を備え、さらにネット事情に明るい人材となると、数は限られる。また、「日本語として成立した文章を書ける人」と「読ませる・楽しませる・人に影響を与えるコンテンツを作ることができる人」との間には、越えられない壁が存在すると渡辺氏は強調する。
コンテンツは文章に限らず、届けたい相手・文脈・情報によって、YouTube、4コマ漫画、あるいはインタビュー形式など多様な形式があり、文章に限りませんよね。そうなると、単純に文章が書けますという人だと、ちょっと物足りないと感じませんか? となると、採用が難しいんです(渡辺氏)
この基準で20点以下のダメな業者は外せる。SEO業者の見極め方【チェックリスト】
人材採用、育成が難しいとなると、外部のSEO業者に任せようとなるが、これも一筋縄ではいかない。
まず、渡辺氏は「良いSEO業者」の定義を、100点満点で評価したとき、50~60点以上の業者とした。60点とは、非常に素晴らしいわけではないが深刻な欠点もなく、最低限必要な支援を滞りなく提供できるレベルだ。
日本国内でSEOサービスを提供する企業のうち、60点を満たす可能性のある企業は、両手で数えられる程度しかない。80点以上の非常に良い企業は数社しかないでしょう(渡辺氏)
一方で、SEO業者は乱立しており、どうやって良いSEO業者をどう選ぶべきか。チェックリスト初級編・中級編を提示し、SEO業者の見極め方をそれぞれ説明していった。
わかりやすい地雷編
具体的には以下のような項目が当てはまる業者だ。こうした業者は確実に選択肢から外すべきとした。
- 会社概要ページが独創的である
- 「うちはホワイトハットです」とPRしている
- 専門的でユニークなSEOサービスを提供している
- 営業電話や会社への飛び込み営業で積極的にSEOを売り込んでいる
- YMYL領域のような専門性が求められる領域で「うちは月間500記事制作できます」など常識的に考えて怪しさ100%の売り込みをしている
印象で騙されないでください編
- アウトプットがめちゃくちゃきれい
- 過去に検索企業に所属した実績・肩書を過剰にアピールして営業している(肩書き以外に能力を判断できる情報が乏しい場合)
- 会社概要のコンサルタント紹介で有名企業所属経験のあるメンバーをずらりと並べて豪華メンバーが対応することを示唆している
- 事業会社の本業の過剰リソースで副業的にSEOサービスを提供しているケース
- SEO業務年数の長さをアピール
ツールが充実してきたことでアウトプット(実績レポートなど)はきれいに作れるようになった。だが、アウトプットのきれいさはスキルと能力とは関係ないので気をつけよう。経営陣の過去の経歴も、SEOの質とは関係ない。
なお「事業会社の本業の過剰リソースで……」は、発注側と同業界であったり、関連性の高いビジネスを展開していたりする企業であれば、そのビジネス特有のノウハウがあるので発注してもよいかもしれない。ただ、渡辺氏の経験では外部販売を専業とする代理店ではないので、資料のまとめ方などに難があるケースが多いという。
リサーチして判断してほしい編
- サイト開発・制作会社にSEOもお願いするケース
- SEO関連ツールを導入するケース
- SEO会社のケイパビリティ(強味)はどこにあるか
サイト開発・制作会社がSEOを請け負うといっても、タイトルやディスクリプション、h1の提案程度に留まるケースがある。それは確かにSEOの範疇の業務かもしれないが、発注者が期待していたSEOではないだろう。発注前に、その業者が提供するSEOサービスはどのようなものなのか、その業者の強みとするSEOはどこにあるのか、必ず確認しよう。
ここまで紹介した基準を適用すれば、20点レベルのSEO事業者は候補から外せる。だが、20~40点の事業者までは外しきれず、良い業者も選べない。では、発注側はどうすべきか。
発注者側の注意点
渡辺氏は、発注者側の注意点を指摘する。
市場と事業を理解するのは、発注者側の仕事です。それを丸投げするケースが結構ある。これは発注者側の悪いところだと思います(渡辺氏)
英語圏にてSEOの質問をしたときに “It depends” とユーモアを交えて回答しているやり取りを見たことがないだろうか。SEOは向き合うサイトやユーザー、検索語句やビジネスモデルによって施策が変わるから単純に回答できないという意味だ。つまり、発注者自身が事業や市場を理解していなければ、SEO業者から提案される施策の是非も判断できない。そうなれば、適切な実装も難しい。だから市場と事業の理解は事業オーナーである発注者側の仕事であり責任である。
また、市場と事業の理解を進めるなかで、本当に自然検索による流入を増やす必要があるか、考えてほしいという。なぜなら、検索という行為は、ニーズが顕在化していて、その検索行動が発生した時に意味を成すからだ。顧客が能動的に探索しない商材や、検索以外のチャネルが有用である商材はSEOが適さない可能性がある。
たとえば、今までなかったコンセプトの事業やサービスだとニーズが顕在化していないので、検索されないし、SEO施策を行う効果も薄い。SEOは目的ではなく、事業を推進・成長させるための手段であることを忘れないようにしよう。
SEO業者は契約後3カ月で見極めできる。ポイントは適切な施策案の提案があるか
続いては、SEO業者の見極めタイミングについてだ。SEO業者は、契約後3カ月間で見極めができるという。一般的に、契約最初の1~2カ月は課題の洗い出しと分類、施策案を出すフェーズだ。そこで重要なのは、SEO業者が課題を解決するための適切な施策案を提案できているかだ。どの会社・業界でも通用する、一般的なSEO施策の提案では意味がない。だが、渡辺氏の実感によると、「みなさんの企業の課題を解決する施策を出せていない業者が圧倒的に多い」という。
よって、発注側のリスク管理として、最初の契約期間は短くするのが良いという。「市場調査・課題抽出・施策提示」フェーズと、「施策推進・実行」フェーズで契約を分け、初期契約の場合は、前者のみで契約することをお勧めする。あるいは、サービス品質次第で契約を終了できる条項を盛り込むなどの方法を取ると良いだろう。社内で判断できないようであれば、セカンドオピニオンを外部に求めるのも良いだろう。
業者のSEOスペシャリストがユーザー観点で説明ができるかで見極める
提案時には、SEO業者の営業担当だけでなく、実務担当者(SEOスペシャリスト)の能力を見極めるために、同席するよう依頼するのが良いという。
課題や方針施策について、“検索利用者”の観点から説明ができるかどうかを確認してください。ここで判断できると思います。優秀なSEOスペシャリストであれば、ユーザーの観点で説明できます。ユーザー観点での説明ができないのに優秀という方は、滅多にいません(渡辺氏)
渡辺氏はSEOの人材育成をする際、最初に「検索エンジン」「サイト運営者」「検索利用者」の三者の利益の関係を説明するという。SEOは、この三者の利益を考えて施策を推進するのが原理原則だ。ダメなSEO事業者は、検索エンジンしか見ておらず、ユーザーの話ができないという。
「検索1位のページには●●の情報が10個掲載されているから、リライトして11個書きましょう」「Yahoo!知恵袋にこんな質問があったので、こういうコンテンツを書きましょう」といった提案は、渡辺氏によれば全く意味がない。ユーザーを見ていない、一般論に過ぎないからだ。求めるべきは、「うちのサイトに必要なアイデアをくれよ」である。ユーザー観点を、SEOを交えて語れる人は少ないので、ユーザー観点で合理的な説明ができるかが見極めポイントだ。
インハウス、外注に関係なく、SEOをやるなら社内で持つべきものとは?
後半は、「インハウスSEO」の体制作りに話題を移した。まず、SEOを外注するかインハウスとするかに関係なく、社内で持っておくべきデータ、準備しておくべき体制がある。それを示したのが以下の2枚のスライドだ。
まず、SEOに関連する検索順位や検索語句に関するデータだ。一般的にはSEO業者に依頼すれば必要なデータを取得してレポーティングしてくれるが、渡辺氏の経験上、社内で持っていた方がよいという。具体的にはオンライン検索市場の検索語句リストや、自然検索順位などだ。SEOに取り組むなら、データは取っておくとどこかで役に立つだろう。この他、検索行動を把握するためのツールであるDS.INSIGHTも、渡辺氏はよく使っているという。
社内体制面では、WebサイトのHTMLコーディング業務は社内で行うべきとした。渡辺氏の会社ではガイドラインを作成し、使い方をレクチャーして対応しているという。ガイドラインは業務内容に合わせ、エンジニア・デザイナー別に作成している。加えて、渡辺氏はSEOに関する勉強会を社内で定期的に開催している。
ちょっとSEOに配慮してもらうと、みんながやっている業務はもっと良くなるんだよとアピールして、少しでもSEOに興味をもってもらえるように勉強会をやっています(渡辺氏)
会社の予算都合や人員リソースなどの制約により上記のタスク着手が難しい場合は、自社の自然検索順位を月1回だけでも把握できることを目指すとよい。順位状況がわからないことには自分たちが何をどう進めるべきか決められないからだ。同様に、ページ制作を外注せざるを得ない場合は、SEOで守ってほしい最低限のルールをA4 1枚程度でいいのでまとめておき、発注時にそれを参照してもらうようにする。SEOと完全に相反する納品物が提出されることを防止できる。
外部パートナーに協力を仰ぐことを検討してよいことは?
続いて、渡辺氏は外部パートナーに協力を仰ぐことを検討しても良いことのリストを示した。
SEO業者は多くの企業と取引しているため、施策のアイデアが豊富なケースが多い。対して、社内の人間は事業には詳しいが、施策のアイデアはなかなか出てこない。SEO業者から、施策の情報共有を受けるのは有益だ。情報設計、URLやファセットナビゲーションの設計は社内で行うには難易度が高いので、信頼できる業者に発注するのが良いという。
もっともこうした取り組み方は、ある程度SEOが推進できている企業の場合であり、社内リソース不足を理由で発注する場合であれば、単純にその不足分を補ってもらうための各種依頼をして一緒にSEOを推進してもらえばよい。
インハウスSEOを進めるなら、まず社内の多くの人にとって「SEOは面倒くさいもの」と認識しよう
渡辺氏がDMM.comに入社して約3年が経った。企業のSEOを支援する立場から、自社でSEOを推進する立場に変わり、意識してきたことがあるという。「『SEOは面倒くさいもの』という認識を持って業務を組み立てる」ことだ。
DMM.comには社員が約2,500人います 。多くの方は、検索やSEOに興味はないんです。みなさんの会社もそうでしょう? でも、SEO施策を進めるには、他の部門の人たちと協力しないと進められません。なので、スタート地点でSEOは面倒くさいものであると認識し、その中でSEO文化をどのように作っていくかを考えるのが大事だと思います(渡辺氏)
SlackでSEO相談窓口を設置し、即返信を意識。相手に合わせて伝え方を工夫
渡辺氏は自身の取り組みとして、SEO関連の相談を受け付ける質問・窓口のSlackを開設したことを紹介した。社内の誰でも質問でき、社内では3~5営業日で回答すると告知している。だが、実際には0分即答、遅くとも2時間以内に対応しているという。
なぜ即時対応をしているかというと、「数分で返事がもらえるなら、とりあえず相談しようと思ってもらえるから」だ。初歩的な質問にもしっかり答える。そうすれば、結果的にSEOの失敗を防ぐことができる。また、相手に合わせて、説明の方法、情報粒度を変えているという。
SEOに詳しい方ほど、アルゴリズムの正確な説明をしたがります。でも、相手がそれを求めているとは限りません。(わかりやすさのため)場合によっては、嘘ではないが本当のことは言わないこともあります。なぜなら、相手の業務でSEOの条件を満たすために、必ずしもアルゴリズムの正確な情報が必要ではないからです。目的を満たせればよいので、伝え方はかなり工夫しています(渡辺氏)
SEOスペシャリストは、ベストな施策を追求しがちだ。インハウスでSEOを進めるには、さまざまなステークホルダーがいるので、100点を目指すのは無理が生じる。そのため、100点は目指さず、60点の状態を維持できるよう、ルールやガイドラインを作っているという。
SEO施策を進める際、定量的な根拠の使いどころは選ぼう
講演最後のアドバイスとして挙げられたのが、「定量的な根拠の使いどころを選ぶ」ことだ。施策を行う際、上司や経営陣に予算や施策推進の承認を得る場合、定量情報が求められることはよくあるだろう。施策を実施するといくら業績が向上するか、といった情報だ。定量的なエビデンスに基づいた説明は、決裁者からの理解が得られ、承認されやすい。
だが、あらゆる場面でそうすると、「数値で示されないものは一切承認しない社内文化」ができあがってしまう。「試しにやってみよう」「数値で説明するのは難しいが状況を考えればチャレンジすべき」といった取り組みが承認されなくなっていくという。
「数字の説明は説得力があるが、SEOでその文化を作ると進まなくなる」と渡辺氏は指摘する。では、渡辺氏はどうしているのか。本当に必要な場面でだけ数字を用いて、そうでなければできる限り数字を使わないようにしているという。競合他社との比較など、現状分析には数値を使うが、SEO施策によって流入や売上がどれだけ増えるかは一切説明しない。
1年でこのくらい検索流入が増えるというのは、Googleのアルゴリズムに左右されるのでコミットできないですよね。SEOの組織づくりにおいては、数字で管理するのは望ましくないと思っています。
また、結局のところ、数字が求められるのは「わからないから数字で説明してくれ」という話なんです。信頼関係が構築できれば、「やってみようか」となる。信頼関係を構築し、数字の説明をしなくていい環境を作るかがカギかなと思います(渡辺氏)
「自信を持って選べないなら、発注しない方がいい」──それくらいSEO業者の選び方は難しい
SEOは「サイトの開発・管理・運営」につきる。インハウスのSEOは社内のいろんな人の協力があって進むもの。社内のみんなに「面倒くさいSEO」をやってもらうための組織・文化・体制を整えることからはじめよう。
SEO業者の選定においては「ユーザー分析の観点から説明ができるか」で会社を見極めよう。渡辺氏は改めて、こうアドバイスする。
SEOをアルゴリズムのハックとみなしている業者だと、ユーザー観点で施策が説明できません。見極める質問は単純です。施策のアイデアが出てきたら、「SEOの観点で説明していただきましたが、ユーザーの観点でどういったメリットがありますか」と聞いてください。SEOに詳しくない発注者でも、SEO業者の良し悪しが判断できるはすです(渡辺氏)
ただ、28年のキャリアを誇る渡辺氏であっても、SEO業者の選定には慎重な姿勢をみせた。最後に「自信を持って業者を選べないのであれば、発注しない方がいい」と渡辺氏。
自信を持って意思決定ができないなら、詳しい人に頼む。詳しい人もいないなら、無責任な意思決定はすべきではない。そうであれば、社内でどうやっていくかを考えるのがいいと思います(渡辺氏)
投資が失敗に終わるリスクがある以上、発注せず、社内でやれることをやる。そんな判断も時には必要だろう。SEO業者選びの難しさを感じる講演となった。
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