【レポート】デジタルマーケターズサミット2024 Winter

人気メディア「LIGブログ」の編集長が語る! 成功と失敗から学ぶオウンドメディア運営術

オウンドメディアで成果を上げ続ける秘訣とはなんなのか? ご長寿メディア「LIGブログ」で編集長を務めるまこりーぬこと齊藤麻子氏が、失敗談を交えつつ赤裸々に語った。

「Web担当者Forum」とほぼ同時期に生まれ、創刊17年を迎えた「LIGブログ」。平日はほぼ毎日更新しているご長寿オウンドメディアだが、安定して運用を続ける秘訣とはなんなのか、気になっている担当者も多いだろう。

デジタルマーケターズサミット 2024 Winter」では、LIGインハウスマーケティング部の齊藤麻子氏が登壇。ブログ運営のノウハウからB2Bのマーケティング戦略まで、失敗談を交えながら赤裸々に語った。

LIG インハウスマーケティング部 マネージャー 齊藤 麻子氏

「LIGブログ」の事例から学ぶ! オウンドメディア運営の秘訣とは?

システム開発・Web制作・マーケティング支援などを幅広く手がけるLIG。2007年の創業当時からオウンドメディアを運用しており、「おもしろブログの会社だ」という印象を抱いている人も多いかもしれないが、現在は開発の仕事をメインとしているという。

2024年1月現在の売上構成比を見てみると、5割以上が開発部門となっており、創業当初から事業内容も大きく変わっています。そうした中で、ブログがどんなふうに変化してきたのか、そしてオウンドメディアの運営の秘訣とはなんなのかをお話できればと思います(齊藤氏)

2007年から平日は、ほぼ毎日更新「LIGブログ」

LIGブログが一躍有名になったのは、2012年の「伝説のWebデザイナー」という記事だ。一風変わったこの企画がSNS上でバズり、多数のお問い合わせを獲得。PV数が成長したことで、2013年には広告掲載のメディア事業もスタートした。

その裏側ではSEO施策も並行して行われており、地道な積み重ねの結果、2016年には月間800万PVという過去最高の数字を記録するまでに至ったという。

【成功】理想的な「お問い合わせ獲得マシン」爆誕

2023年よりLIGブログの編集長を務めている齊藤氏。成功も失敗も数多く経験してきたと語るが、最初に挙げたのは「理想的な『お問い合わせ獲得マシン』爆誕」というエピソードだ。

2018年時点で月間500万PV、お問い合わせも月30件超

齊藤氏が入社した2018年時点で、LIGメディアは月間500万PV、記事広告や記事制作のお問い合わせも月30件以上獲得できていた。営業部隊もマーケティング部隊もない会社に、毎月30件もお問い合わせが来ることが、かつてテレアポ営業を経験した齊藤氏にとっては大きなカルチャーショックだったという。

その要因として、齊藤氏は次のように語る。

まずは前述の通り、おもしろ記事がSNSでたびたびバズり、Web制作やマーケなど特定の領域において認知を獲得できていたことが、お問い合わせに明確につながったと思っています。

また、ブログの運用体制としては、2007年の立ち上げ時から『社員全員で記事を書く』というカルチャーを大切にしてきました。あらゆる職種のメンバーが業務を通して学んだノウハウを執筆することにより、ロングテールキーワードで検索時にヒットする記事が積み重なっていきました。

さらに、ビッグワードを狙ったSEO記事も歴代の編集部が数多く作成しており、メディア基盤がかなり安定していました(齊藤氏)

【失敗】「社員みんなで記事を書くルール」が形骸化

しかし「全てが順風満帆にいくわけではなかった」と齊藤氏は苦笑する。「社員みんなで記事を書く」というカルチャーではあったが、齊藤氏の入社当時にはそのルールが徹底されておらず、形骸化してしまっていたという。

「社員は月に1本記事を書く」はずなのに、提出率は20%弱

「社員は月に1本記事を書く」というルールのはずが、実際に提出している人は20%弱。「今月は業務が忙しくて」と提出しない人が少しずつ増え、いつしか提出しない人が過半数を超えてしまったという。

社員はライティングに特化しているわけでなく、それぞれ個別のクライアントワークを抱えており、手が回らない状態。加えて、記事を書かなくてもお問い合わせの数やPVには影響がなかったため、個々の仕事の方を優先していました。

また、編集長も不在だったため、メンバーに対して記事を書くように指示する人もいませんでした(齊藤氏)

「ルールを破ってもいい空気が蔓延しており、みんなでブログを書けていなかった」と齊藤氏は振り返る。この状況を打開するために行ったのが、次の施策だ。

【成功】記事提出率「100%」へ完全回復

「社員は2か月に1本記事を書く」新しいルールで提出率100%を達成

読者にとって魅力的なコンテンツとはなんなのか。改めて話し合った結果、提出の頻度を下げてでも、クオリティの高いノウハウ記事を出すべきだと方針が固まった。「社員は2か月に1本記事を書く」というルールに変更し、社長から全社へ号令をかけ、人事評価制度にも組み込んだという。

変革のきっかけは、外部コンサルタント(THE MOLTS)を加えたことだった。外部からいい意味でのプレッシャーをかけてもらいながら、新ルールの策定を進めていった。

『とりあえず出す』から『会社のブランディングとなるようなコンテンツを目指す』という方向性に変更し、それを全社で徹底していきました(齊藤氏)

提出された記事については齊藤氏が全てチェックを行い、クオリティを管理。提出状況の一覧シートは、全社員が見られる場所に掲載した。リマインド・アラートもこまめに行い、締切が遅れる人に対しては本人・マネージャー・齊藤氏・取締役を交えた話し合いも行ったという。

その結果、なんと記事提出率は20%→100%へと完全復活した。

愚直な対策ではありましたが、『徹底すればできる』というのがこの体験での学びでした(齊藤氏)

しかし、ちょうどこのタイミングでコーポレートアイデンティティの変更が行われ、会社としても大変革期に入っていく。

ロゴマークやWebサイトの雰囲気、サイトの構造までガラッと変更し、さらには代表取締役も変わりました。『おもしろブログ』のWeb制作・ブログの会社というイメージから、大きな案件でも安心して任せられるシステム開発の会社になっていこうと風向きが変わりました(齊藤氏)

「テクノロジーやデザインの知見がしっかりとある会社だ」ということを伝えていく必要性が高まり、2021年6月には編集体制も変更。それまでは社員が仕事を通じて得たナレッジを記事にしていたが、編集部中心で企画を立てて、外部ライターにも協力を仰ぐ形に変わっていったという。

コーポレートアイデンティティの全面刷新に合わせ、編集体制を大きく変更

体制が大きく変わり、編集部でも混乱が発生しました。これまでは記事コンテンツの企画を立てるという仕事はしていなかったので、業務理解が圧倒的に足りない状態。社内調整にも追われ、忙しい日々を送りました(齊藤氏)

【失敗】編集部で企画した記事が正直、おもしろくない!

そうして企画の主体が編集部となると、今度はありきたりな記事が増えてしまう結果に。具体的には、殿堂入り記事(2週間で5000UUを超えた記事)の数が目に見えて減少したという。

ありきたりな企画が増えてしまい、殿堂入り記事が減少

コンテンツの内容から『何かを伝えたい』という熱量が減ってしまったことに加え、編集部も外部ライターもテクノロジーへの知見が薄かったため、記事の専門性が下がってしまいました(齊藤氏)

結果として、込み入った企画が制作できない・専門性がある編集者や外部ライターの調達や育成ができないという問題が発生した。当然、現場で働いているエンジニアと対等に張れるような知見を持つ編集者・ライターを育てるにも限界がある。

B2Bのビジネスにおいては、やはり専門性のある現場のメンバーが記事を書くことが最強だと身をもって体感しました(齊藤氏)

その対策として、編集部で大きなテーマだけ決めて、後は現場の方に自由に書いてもらうという記事を加えることで、バランスを調整した。その後も殿堂入りできるような記事は、現場で書いてもらった記事の方が圧倒的に多かったという。

【失敗】Web制作のお問い合わせがじわじわと減少

またもう1つの失敗談として、LIGブログをリニューアルしてから3か月ほど経った頃、お問い合わせ件数が下がっていることが判明した。平均して月30件、多いときは月40件あったところから、20件ほどまで減ってしまったという。

Web制作のお問い合わせが月30件→20件までダウン

Google アナリティクス(以下、GA)で流入元を見てみると、トップページからお問い合わせフォームに直接飛んで、お問い合わせを行っているケースがほとんど。「LIG」の指名検索からのお問い合わせが多かった。

しかし、リニューアル後に内部リンクの構造が変わったことで事業ページへの内部リンクが激減し、検索順位が大きくダウン。GA上では重要性が低いと思われていた「Web制作会社」という検索からの流入もお問い合わせに関係していることが判明したのだ。

LIGという指名検索でお問い合わせが来ていたと思っていたのですが、ニーズが顕在化しているクエリ(Web制作会社、システム開発会社、Webデザインスクールなど)が落ちると、お問い合わせも減ることを実感しました(齊藤氏)

齊藤氏はこの失敗を省み、以下の3つの対策を取ったという。

  • お問い合わせ数と相関のある数字を定点観測できる仕組みに変更
  • 記事下の導線を一括変更し内部リンクを復活
  • ニーズ顕在クエリで上位を獲得すべくSEO施策に注力

【成功】「SEOで勝負する」と決めてCV増加

3つ目に挙げられたSEO施策の効果は絶大だった。メール、セミナー、広告など、B2Bのマーケティング戦略は多岐に渡るが、齊藤氏はLIGブログのドメインの強さを活かしたいと考え、「SEOで勝負する」とチームに宣言。専任者を配置し、キーワードを絞り込み、意図的にSEOの戦略を立てて動いた。

SEO経由のお問い合わせ増、事業拡大もあいまって月50件超へ

その結果、同時期の事業拡大もあったが、再び顕在化クエリで上位を獲得できるようになり、お問い合わせ数も増加。月50件のお問い合わせを安定して超える状態へと急成長した。

さらに、お問い合わせが増えたことでLIGブログの重要性が伝わり、システム開発や営業部門の社員も記事制作に協力的になったという。

社員を巻き込むために必要なことはやはり“成果”だと感じました。明確に売上につながらなかったとしても、『お客様がこれだけ喜んでくれた』『SNSでこんな嬉しいコメントがあった』という小さな成果を積み上げていくことが大切だと思います(齊藤氏)

【失敗】指名検索、減少ッ……!!!

その一方で、今まさに齊藤氏が課題に感じているのが、最後のテーマである「指名検索の減少」だ。

指名検索が、階段を一段ずつ降りるように減少

これまでSEOに注力していた反面、「SNSウケする記事をしばらく出せていなかったことが原因だ」と齊藤氏。また以前は「ブログとWeb制作の会社」というイメージだったが、現在は事業が多角化しており、ブランドを作っていく上でどの部分を切り取るかという難しさもある。加えて、システム開発の領域で表に立てるメンバーが不足しており、広報面も課題だという。

ニーズ顕在クエリからのコンバージョンは伸びていますが、頭打ちも見えてきています。積み上げてきたSEOはしっかり守りつつ、今後はシステム開発会社としていかに認知を広げるか、攻めていけるかという点を、コンテンツの力でチャレンジしていきたいです(齊藤氏)

これらの課題についてはまだ着手できていないとのことだが、齊藤氏は編集長ならではの仕事として、「メディアの未来を描くこと」があると話す。今のメディアで満足してしまっては、次なる一手が打てない。

『緊急ではないが重要なこと』に着手する余裕を持つことが大切。次にこういう機会を頂けたときには、こういうふうに指名検索を挽回しました! とお話できるように頑張っていきたいと思います(齊藤氏)

オウンドメディア運営の秘訣は「変わり続ける」こと

オウンドメディア運営の秘訣とは?

さまざまな成功・失敗を繰り返しつつも、長く愛されてきた「LIGブログ」。オウンドメディアは続けることが大事、という共通認識はあるものの、中長期的に成果を出し続けることは容易ではない。

齊藤氏は、オウンドメディア成功の秘訣は「『続ける』ために『変わり続ける』こと」だと語る。

メディアを続けるためには、変わり続けなければならない。コーポレートアイデンティティの変革で、LIGブログは大きく変貌を遂げましたが、変わろうとしなかったら、SEOで成果を出すこともなく、今こうしてお話をさせていただくこともなかった(齊藤氏)

「『今のままでいいのか』という問いを持つことが、オウンドメディアの編集部には求められている」と語り、講演を締めくくった。

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