インサイトを捉えた「コミュニケーション」で「ブランディング」を成功に導くための9冊!
業界のエキスパートにオススメの書籍を教えてもらう本連載。今回のテーマは、「マーケティングコミュニケーション」と「ブランディング」だ。長くマーケティング業界で活躍し、成果をあげているダイキン工業の片山 義丈さんに、オススメ本を紹介してもらった。マーケターや広報・PR担当初心者にぜひ読んでほしい書籍ばかりだ。
「マーケティングコミュニケーション」に関するオススメ本
そのマーケティングコミュニケーション施策、間違っていませんか?
片山さんは、「マーケティングコミュニケーションとは、企業が商品やサービスという手段を使って消費者に価値を提案し、消費者がそれを価値として感じて初めて成立する」という。しかし実際には、企業側が一方的に発信しただけで、マーケティングコミュニケーション施策を実施したと思っているマーケターが多いようだ。せっかく発信しても、消費者に無視されては意味がない。
企業が「●●が価値だ」と勝手に判断したことを一方的に発信しても、コミュニケーションは成り立ちません。「コミュニケーション」の語源は「コミュニス(共有する)」です。お互いに価値を共有してはじめてコミュニケーションといえます。なのに、どうして一方的な発信で終わるようなことが起きるのか? その根本理由は、企業が表面的な消費者の声を聞いて、反応をみて、わかったつもりになってしまっているからだ、と私は考えます。
だから勝手に判断している価値が、実際は人にとって価値ではなかったり、クリックさえすればコミュニケーションが成立していると思ってしまうのです。まずは、「マーケティング」を理解する、そして「人間の心」を理解する、そこから初めてマーケティングコミュニケーションができるようになります(片山さん)
マーケティングの基本を理解するための4冊
また、「そもそもマーケティングの定義とは何か?」と片山さんは問う。マーケティングにはさまざまな定義がある。“マーケティング=商売”という定義も真実だが、その意味するところの表層だけでわかったつもりになると、マーケティングとは何かを正しく捉えることができない。
そこでまず、マーケティングは何かという基本をしっかり押さえるための、初心者向けの教科書となる本を4冊、紹介してくれた。この4冊を読めばマーケティングの基礎・土台を理解できるという。
- 1冊目:『マーケティング〔新訂〕(放送大学教材)』(井上 淳子、石田 大典:著 放送大学教育振興会:刊)
- 2冊目:『マーケティングの扉 経験を知識に変える一問一答』(音部 大輔:著 日経BP:刊)
- 3冊目:『マーケティングを学んだけれど、どう使えばいいかわからない人へ』(西口 一希:著 日本実業出版社:刊)
- 4冊目:『マーケティングプロフェッショナルの視点 明日から仕事がうまくいく24のヒント』(音部 大輔:著 日経BP:刊)
1冊目は教科書、2冊目は一問一答で初心者の悩みに答えています。3冊目は本で学んだことを実務に結びつけるにはどうしたらいいのか、ということについて書かれています。4冊目は、基礎から中級までのレベルが高い本です。事例を交え、マーケティングを解説していて、私も手元に置いて読み返している書籍です(片山さん)
人の心を理解するための2冊
上記4冊でマーケティングの基礎を理解できたら、次は、コミュニケーションのために、「人間への理解を深める」本を読んでほしい。目先の成果にとらわれず、インサイトにまで目を向ける必要があるからだ。
デジタルマーケティング施策の評価で多い間違いが、クリック数やクリック率などKPIだけで評価してしまうことです。消費者は、ついうっかり広告をクリックしてしまい、「うざい」と思っているかもしれません。その場合は売上にもつながらないでしょう。
人間がどういう状態で情報を受け取っているのか、クリックがコミュニケーションにつながっているのかを考える必要があります(片山さん)
本当のマーケティングコミュニケーション施策は、人の心、顧客の心を理解していなければ行えない。
消費者に購入した理由を聞けば、なんらかの理由を答えてくれますが、「本当の理由」は消費者本人も気づいていない場合がほとんどです。人間の心は複雑です。マーケティングコミュニケーションをする上では、人間とはどういうものなのか、インサイトをしっかり捉えた人間理解が必要です(片山さん)
人間を理解するために読みたい本が次の2冊だ。5冊目は事例が多いのでわかりやすく、6冊目は行動経済学の観点から人の心理を読み解いていく内容だ。
- 5冊目:『「心」が分かるとモノが売れる』(鹿毛 康司:著 日経BP:刊)
- 6冊目:『人は悪魔に熱狂する 悪と欲望の行動経済学』(松本 健太郎:著 毎日新聞出版:刊)
「ブランディング」に関するオススメ本
マーケティングの基本、人の心が理解できたところで、次のステップとして「ブランディング」に関する本を読んでほしい。マーケティングとブランディングは重なる部分が多く、マーケティングを学ぶことでブランドの基礎も身につくという。
片山さんは、ブランドを理解するために、ブランドの関連書籍を100冊以上読んだとのこと。書籍を通してさまざまな捉え方、視点でブランドを理解されたが、有名な書籍のなかには言葉が難しいもの、翻訳がわかりにくいものもあったそうだ。そこで、ご自身で書かれたのが7冊目に紹介する本だ。
- 7冊目:『実務家ブランド論』(片山義丈:著 宣伝会議:刊)
実務家として押さえておきたいブランドの考え方をまとめました。この本を読んだあとに、ブランドの専門書を読めば、教科書に対する参考書のような位置づけで役立つと思います(片山さん)
8冊目は、イオン、マツキヨの事例のほか、小さな会社にも適用できる考え方が紹介されている書籍になる。
- 8冊目:『ブランディングが9割』(乙幡 満男:著 青春出版社:刊)
私の本と合わせて読んでほしい事例がたくさん掲載されています(片山さん)
ただし、初心者向けの本は、わかりやすいように意訳している部分がある。そこで、本当の意味でのブランドを理解するために、初心者本の次には専門書にあたってほしいという。そのブランドの専門書が次の一冊だ。
- 9冊目:『ブランド戦略論』(田中 洋:著 有斐閣:刊)
ブランドのすべてが書かれている書籍です。初心者向けの本からいきなりこの本を読むと、いきなり高いところにジャンプすることになりますが、難しくてもぜひ挑戦してみてください(片山さん)
片山さんも、ブランドに関係することで迷った時には、迷わず本書を手にとるという。
ブランディング広告というと、かっこいい、美しいビジュアルを思い浮かべるかもしれませんが、ブランドを作るために本当に必要なことは、相手を理解して発信するコミュニケーションです。
初心者向けの本だけでは誤解されてしまうこともあると思うので、田中先生の『ブランド戦略論』も読んで、表面的ではなく、正しく理解してもらいたいですね(片山さん)
書籍以外の情報収集方法
書籍以外で、片山さんが参考にしている主なメディアを教えてもらった。最初に取り上げてくれたのは、新聞だ。
会社で複数の紙の新聞を購読しているので、読んでいます。新聞の良いところは、自分の業界とは異なる業界の情報も目に入ることです。
複数紙の紙面構成を比較したり、新聞のレイアウトを見たりして、なぜこの記事が一番目につきやすいところに配置されているのかを考えながら読むようにしています(片山さん)
ほかにも、Twitterやスマートニュースなど、複数のニュースサイトを見ているとのこと。
媒体によってトップの記事が違うので、世の中の動きや流れを複数の視点から見ることができます。自分が普段触れない情報にあえて触れるようにして、自分の業界や職種での常識にとらわれないようにしています(片山さん)
そして、新しく知ったこと、興味をもったことがあれば、まずはやってみることだと片山さんは呼びかける。
セミナーを受講して「参考になった」とは言うものの、「自社とは環境が違う」「自社は顧客が特殊」と、取り組めない理由をあげる方がいます。自社とは異なるところではなく、同じところを探してみて、できることからやってみると得られるものがありますよ(片山さん)
マーケティングの基本から、人の心理を理解するための書籍、そしてブランディングまでステップアップしながら学べる書籍を紹介してもらった。どの書籍も比較的新しい本で、環境の変化に合わせてアップデートした内容を学べるラインナップだ。最後に片山さんが話されていたように、まずは本を読んでみて、そして本を読んで学んだことを実際にやってみてほしい。
片山 義丈
(Katayama Yoshitake)
ダイキン工業株式会社 総務部 広告宣伝グループ長
1988年ダイキン工業入社。総務部宣伝課、広報部広報担当、広報部広告宣伝・WEB担当課長を経て2007年より現職。
業界5位のダイキンのルームエアコンを一躍トップに押し上げた新ブランド「うるるとさらら」の導入、ゆるキャラ「ぴちょんくん」ブームに携わる。
統合型マーケティングコミュニケーションによる企業ブランドと商品ブランド構築、広告メディア購入、グローバルグループWEBサイト統括を担当。
日本広告学会員。
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