「マーケティングリサーチ」における「実践的な分析力」を培う6冊!
第一線で活躍する人たちから、オススメの書籍を教えてもらう本連載。今回は、「マーケティングリサーチにおける分析力」に焦点をあてた。そこで、データサイエンティストとしてデータ分析に取り組む田中 悠祐さんに、分析実務に対応するためのオススメ本を紹介してもらった。
データ分析に向き合う姿勢を知るための1冊
田中さんの仕事は、クライアントのマーケティング課題の解決のため、データを使った定量的な分析を通して、仮説を立て、施策の着眼点を見つけていくことだ。そうした実務を行う中で、データ分析に向き合う上での姿勢として、参考になるのが次の書籍だという。
1冊目
『解像度を上げる――曖昧な思考を明晰にする「深さ・広さ・構造・時間」の4視点と行動法』(馬田 隆明:著 英治出版:刊)
著者の馬田さんは、何人もの起業家と会う中で優れた起業家の思考と行動には、深さ・広さ・構造・時間の4つの視点があることに気づいた。本書では、その4つの視点から物事の解像度を上げていく思考方法が紹介されている。
解像度を上げるために、データ分析の場合はまずは深く掘り下げて分析していきます。データは数値でしかないので、浅い集計だと物事の表層しかわかりません。そこからさらに、二重、三重のクロス集計をする、別の分析手法を試す、セグメンテーションを変えるなどして、深掘りをしていきます。
さらに広げて分析するときには、これは広さなのか、構造なのか、時間なのかを意識することが重要です。なお、構造とはデータの構造を指しています。たとえば客単価のデータ構造を紐解いていくと、全体のターゲットに対しての認知度、男女比率、年代、興味・関心などによって、つながりが変わってきます(田中さん)
企画や打ち合わせなどの場面でも「解像度が低い」「解像度を上げていこう」という言葉が使われるのを聞いたことがある人も多いと思う。田中さんは、その際には、深さ・広さ・構造・時間のいずれの解像度を上げるべきなのか、どういう手法で上げていくかを明確にするようにしているという。
データ分析をマーケティングに活かす基本知識・手法を知るための2冊
続いては、シリーズ書籍から2冊。『マーケティング・サイエンス入門 -- 市場対応の科学的マネジメント 新版』と『マーケティング・エンジニアリング入門』だ。
2冊目
『マーケティング・サイエンス入門 -- 市場対応の科学的マネジメント 新版』(古川 一郎、守口 剛、阿部 誠:著 有斐閣:刊)
マーケティングやデータサイエンスを体系的に学びたいなら、本書がオススメだ。セグメンテーション、ターゲティング、ポジショニング、4Pなど、マーケティングでの主要な項目を体系的に整理した上で、どう計測して活用するのかが理論的に解説されているからだ。
3冊目
『マーケティング・エンジニアリング入門』(上田 雅夫、生田 目崇:著 有斐閣:刊)
データ分析を施策に落とし込む手段を学びたいなら、こちら。データサイエンティストには、特に読んでほしい。
僕はマーケティングの業務全般に関わる機会はほとんどなく、特にプロモーションに特化しています。広告の効果検証、ターゲティング、プロモーションのプランニングなどが主な業務です。
その課題、業務がマーケティング全体を見たときに、どこに位置しているのかというのを理解する上で、本書はかなり有用だと思います。さまざまなマーケティング施策や分析をするにあたり、「どういう手法があるのか」「どういうことを検証すればよいのか」がコンパクトにまとまっているので、助かります。
たとえば、セグメンテーションにも複数の手法がありますが、本書を読むと、データ構造に合わせてどの手法が最適なのかをみつけることができるんです(田中さん)
田中さんは、辞書的に手元に置いておくことで、実際に直面した課題に対してどんな手法があるのかを確認している。また、クライアントに分析内容について説明する前に、おさらいとして該当箇所を読んでおくこともあるという。
さらに一歩進んだ分析をできるようになるための3冊
課題に応じた分析手法を理解したら、次は実際に手を動かして実践してほしいと田中さん。そのときに役立つ書籍として紹介されたのが次の1冊。R(アール)は田中さんが好きなプログラミング言語だ。
4冊目
『Rによる実践的マーケティングリサーチと分析(原著第2版)』(クリス チャップマン、エレア・マクドネル フェイト:著 鳥居 弘志:訳 共立出版:刊)
本書では、手法に対し、Rを使ってどうプログラミングするかについて、網羅的に解説されている。
たとえば、Webの行動ログの分析として、行動シークエンス分析に対するアプローチが書いてあるところなどは、他に類書がないと思います。通読するというよりも、本書で辞書的に調べて、その手法を試してみて向き不向きを検証する、そんなふうに活用しています(田中さん)
5冊目
『時系列分析と状態空間モデルの基礎: RとStanで学ぶ理論と実装』(馬場真哉:著 プレアデス出版:刊)
マーケティングのデータは、時系列を意識する必要がある。たとえば、広告を投下して売上がどれくらい上がったかを分析する場合には、そのタイミングだけでなく、過去の累積した広告についても考慮しないと正しく効果を検証できない。そのため、時間軸での分析が必要になるのだ。この時系列の分析で参考になるのが本書になる。
数式も多く出てくるので数学の基礎知識は必要だが、数式を完全に理解するというよりも実際にプログラムを書いてどんな結果が出るのかを「自分で確かめながら検証すること」が重要だと田中さんは強調する。
6冊目
『マーケティングの統計モデル(統計解析スタンダード)』(佐藤 忠彦:著 朝倉書店:刊)
さらに高度な統計分析について学びたい人向けなのがこの本だ。
筑波大学の佐藤先生が書かれている研究者寄りの本で、特に、セグメンテーション分析について高度なことを理解したいときはこの本がオススメです。データを集団で捉えることから発展して、個人個人の消費者の異質性を理解することなどが説明されています。
分析手法について深掘って書いてあるので、僕はクライアントに説明する前に本書を読んで要点をおさえ、その上で伝えるようにしています(田中さん)
なお、データ分析が研究と実務で違うのは、実務の場合はスケジュールのスパンが短いということだ。たとえば実務では、「2週間先に報告」「1か月先に報告」のように、期間としては短期間で報告を求められることが多い。施策を実施する日程が決まっていたら、その時点までに分析できたことを踏まえて施策を実施して、効果を検証する。
実務では、データ分析ですべてを解明するというよりも、ある程度わかったら試してみることに価値があります。分析結果とは異なる結果が出たときに学ぶことがあれば、それによって統計モデルのチューニングをし、精度を上げていくことが重要です。「絶対に確からしい」と分析をし続けるよりも、ある程度の仮説をもってPDCAを進めた方が、ビジネスをスケールさせられます。環境も変わっていくので、1つのことに対して精緻な結果をだすということにこだわりすぎずに(時としてこだわった方がいいこともありますが)、実際に試してみて進めるということも意識していく必要もあると思います(田中さん)
最新情報はインターネットで収集
最後に、情報をアップデートしていくための情報収集方法についても聞いてみた。
データサイエンティストのブログはもちろん、国内、海外のデータサイエンティストや統計の研究所のTwitterをフォローして読んでいます。そして、データサイエンティストの人が書籍をオススメしていたら、購入しています。
他にも、GitHub(ギットハブ)、Qiita(キータ)、Zenn(ゼン)などの開発者コミュニティで、コメントが上がっている情報もチェックしています。オンラインで取得できる情報量が多いので、最近は取得した情報をどう処理するか、整理するかが課題です(田中さん)
田中さんが読んでいる主なブログ
- 渋谷駅前で働くデータサイエンティストのブログ
データサイエンティストの間では有名なブログで、「六本木で働くデータサイエンティストのブログ」が事務所移転により「渋谷駅前で働くデータサイエンティストのブログ」に。田中さんは特に書籍の紹介を参考にしているそう。 - Logics of Blue
5冊目として紹介した『時系列分析と状態空間モデルの基礎』の著者である馬場 真哉さんのブログ。 - 読書日記
小野 滋さんのブログで、論文のレビューが多く掲載されている。田中さんは、英語の論文を読み込む時間がないときに、概要を把握するために参考にしているという。 - R-bloggers
Rに関するブログを集めたサイト。
今回は、マーケティングリサーチにおけるデータ分析実務で使える書籍を、データサイエンティストの田中さんに聞いた。印象に残ったのは、実践力を身に付けるにはプログラミングしてみることが重要だということ。ぜひ、今回紹介した本を読みながら、手を動かしてみてほしい。
田中 悠祐(たなか ゆうすけ)
株式会社電通
第2統合ソリューション局 データ・サイエンティスト
電通に入社後はダイレクトマーケティングの局に配属され、オフライン広告のPDCA業務、デジタル広告の運用業務を担当。現在は、クライアント課題にカスタマイズしたデータコンサルティング提案を行い、デジタル媒体評価における数理的アトリビューションモデルや状態空間モデルを用いたMMM提案等など、KGIグロースのためのデータ活用した意思決定の支援サポートに従事。第1~4統合ソリューション全体横断での、マーケティング戦略をサポート。
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