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リターゲティングに頼らない広告戦略 ―― Google広告/Yahoo!広告の攻略ポイント【電通デジタルコラム】

リターゲティングに頼った戦略から脱却する、これからの打ち手と広告運用ノウハウについて解説。

3rdパーティCookie規制や個人情報保護法の施行に伴い、リターゲティングによるディスプレイ広告からの見込みユーザー獲得やコンバージョン獲得が厳しくなってきています。本記事では、リターゲティングに頼った戦略から脱却する、これからの打ち手と広告運用ノウハウについて、電通デジタル 吉良達彦、櫻井康人が解説します。

リターゲティングの限界

電通デジタル 吉良達彦(以下、吉良) : インターネット広告には、おもに「ディスプレイ広告」「検索広告」「ビデオ(動画)広告」「成果報酬型広告」の4つの種類があります。ディスプレイ広告は、2021年には前年から大きく拡大しており、ネット広告費全体の約3割を占めています。

しかし、ディスプレイ広告の内訳を見ると、リターゲティングのボリュームには頭打ち感が見られます。

その一番の原因はCookie規制です。リターゲティングは、閲覧記録を含むCookieを使い広告を配信します。改正個人情報保護法の施行(2022年4月)、適切にCookieの使用許諾をとらない事業者への規制強化のほか、ユーザーの不快感、不信感などにより、年々Cookie規制は強化されています。

技術面でもリターゲティングは難しくなっています。Appleが2017年、Safariに実装したトラッキング防止機能ITP(Apple Intelligent Tracking Prevention)は、年を追うごとにCookieの利用制限が強まっています。

SafariだけでなくGoogle Chromeも、2023年の後半までに3rdパーティCookieを廃止するとしています。モバイルにおいて合計93.94%(2022年5月時点)[1]を占めるこの2大ブラウザが同じ方向を向いていることから、リターゲティングは今後、さらに運用しづらくなるでしょう。リターゲティングを脱却したアプローチを検討することは急務です。


脱リターゲティング依存の手法とは?

リターゲティング依存から脱却し、非リターゲティングに移行するために、電通デジタルが推奨する導入フローを紹介します。

Google 広告では、まず手動ターゲティングでコンバージョン(以下、CV)獲得実績を蓄積します。続いて自動ターゲティングを活用して、非リターゲティングのCVを拡大する流れです。

Yahoo!広告では、リターゲティングでCVを蓄積し、その後、手動ターゲティングで非リターゲティングのCVを拡大していきます。

では、各媒体での攻略方法に入っていきましょう。


Google 広告の非リターゲティング攻略方針

Google 広告では、ここ数年間で非リターゲティングメニューに大きな変化がありました。1つ目はオーディエンス拡張[2]、2つ目は、入札・ターゲティング・広告作成を自動で行うスマート ディスプレイ キャンペーン(SDC)[3]の登場です。

そしてこの2つを包括する形でOptimized Targeting(最適化されたターゲティング)[4]というメニューが登場しました。これは、オーディエンス拡張機能の進化版というイメージで捉えて問題ありません。

オーディエンス拡張とOptimized Targetingの大きな違いは、オーディエンス拡張が登録したターゲティングリストをもとにリーチを広げるのに対し、Optimized Targetingは登録したターゲティングリストを「シグナルとして学習させる」ことです。

そのためOptimized Targetingは、登録した当初はターゲティングリストとそれに近いユーザーに配信しますが、CVが伸びてくると、CVユーザーをもとにリーチを拡張しはじめます。つまり、拡張元がターゲティングユーザーか、CVユーザーかという違いが出てきます。

Google広告で非リターゲティング拡張するには、手動で行うか、Optimized Targetingを使って自動化するかの二択になります。

手動ターゲティングは、ターゲットを精査することで見込みのCVR(コンバージョン率)は高くなりますが、リーチボリュームが小さくなるのがデメリットです。

一方、Optimized Targetingの場合は、効率よく獲得ができている既存のターゲティングをもとに、それをシグナルとして進化させる流れを作ることがポイントです。そこで電通デジタルでは、「Optimized Targeting(自動ターゲティング)+シグナル」(上図の中央)の利用を推奨しています。

実装時は、リターゲティングのオーディエンスをメインに、CV類似や購買意向など、KPIに見合ったターゲットをシグナルとしてOptimized Targetingに入れることで、フルファネルにリーチしながら効率のよい配信ができます。


Google 広告の非リターゲティング化の事例

では、Optimized Targetingの4つの事例を比較しながら、活用ポイントを解説します。以下のA〜D案件の結果[5]を示す積み上げ棒グラフを見てください。

各案件とも、左棒グラフが「IMP(インプレッション)」、右棒グラフが「CV」。オレンジ色が「Optimized Targetingによる獲得」、グレーが「手動ターゲティングによる獲得」です。

案件によって大きな違いが出ています。案件Aは、インプレッション、CVともに8割以上が新しいリーチから獲得でき、非常によい拡張ができています。一方、D案件ですが、新しいリーチからは、インプレッションが5%、CVは10%ほどしか獲得できませんでした。

なぜこのような差が生まれたのか。Optimized Targetingが効いていない理由は、運用ではなく、機械学習に必要なCV数がもともと少なかったのが問題ではないかと推測します。

A~C案件はCV数が月間70~300件だったのに対し、D案件のCV数は月間30件ほどでした。Optimized TargetingではCVを学習しますので、学習するデータ数が少ないとこのような結果も起こりうるでしょう。

事例を分析したところ、Optimized Targetingを利用する場合CV数は、月間50〜70件以上が好ましいと考えられます。CV数がこれより少ないなら、マイクロCVの導入や他のシグナルを追加するといった方法で、学習の指向性を広げることは可能です。


Yahoo!広告の非リターゲティング攻略方針

電通デジタル 櫻井康人(以下、櫻井) : Yahoo!ディスプレイ広告(YDA)には、自動化機能はありません。そこで、リターゲティングだけに頼った戦略から脱却するには、手動で配信をコントロールする以下のようなターゲティングメニューを利用します。

リーチ拡大のために実行すべきターゲティングは、「リターゲティング」「サーチターゲティング(指名キーワード)」「サーチターゲティング(一般キーワード)」「CV類似(1-3)」の4種です。

導入する際には、CVの量を重視(CV獲得の最大化を重視する)か、CVの質も重視(誰からのCV獲得かも重視する)かに分かれます。

電通デジタルでは、単純にCV数を積み増していく「量を重視」より、「質も重視」を推奨します。「誰に対して広告を表示しているか」「誰からCVを獲得しているか」を分析することで、クリエイティブや訴求商材の見直しにもつなげられるためです。

「量を重視」「質も重視」どちらの方法で導入しても、「リターゲティング」「ADクリッカー」(広告をクリックしたユーザーに配信するメニュー)までは同様です。その後、誰からのCV獲得なのかを探るために「サーチターゲティング(指名キーワード)」「サーチターゲティング(一般キーワード)」へ拡大した後に、「CV類似」へ拡大していきます。

サーチターゲティング
サーチターゲティングは、特定の語句を検索したユーザーに対して広告配信するメニューです。たとえば「○○自動車保険」と検索したユーザーだけをターゲットにして広告を配信することができます。

しかし、「○○自動車保険」を指名検索するユーザーも、その前には「自動車事故が起きたら」「自動車保険 おすすめ」といった一般キーワードで検索しているはずです。ですから、最初は指名キーワードでサーチターゲティングを始め、続いて指名キーワードの1段階前の検索で使われる一般キーワードを追加していくような手順を検討、実施します。

CV類似
次に、CV類似です。CV類似は、CVしたユーザーに近しい特徴を持つユーザーへ配信するターゲティングです。

たとえばCVユーザーの属性が「年齢20代男性」「サイト閲覧では比較サイトを閲覧」「オーディエンスカテゴリはクルマで」「眼鏡をかけている」としましょう。ここを拡張元とした場合、配信対象は、同じ属性を持っているユーザー(オレンジ色)というイメージです。

CV類似には類似度という概念があり、「1-3」「4-6」「7-10」の3区分を電通デジタルにおいてはしています。数字が大きくなるほど類似性が落ちるため、まず類似度「1-3」で、CVユーザーに近しいであろうターゲットに配信します。


Yahoo!広告の非リターゲティング化の事例

ここで2つの事例をご紹介します。事例1は、リターゲティングに加え、一般キーワードをサーチターゲティングに追加した事例です。

一般キーワードを追加した3〜4週後にはCV数(棒グラフ)が1.11倍に増加、CPA(折れ線グラフ)もほぼ同水準で推移しました。

事例2は、リターゲティング、サーチターゲティング、CV類似を使った事例です。

この案件では当初の1~4週目に、リターゲティングとサーチターゲティングを使っていました。5週目にCV類似(類似度1-3)を追加したところ、14週目にはCV数(棒グラフ)を約1.88倍まで増やすことができましたが、CPA(折れ線グラフ)がやや高水準で推移してしまいました。

検討期間が長いタイプの商材であることを考慮し、15週目からはYahoo!検索広告のCVデータも加えて新たなCV類似に切り替えました。そこから経過観察し、自動入札の見直しや広告精査を行ったところ、CV数は第1週の2.48倍まで伸び、CPAも元の水準まで下げることに成功しました。


非リターゲティング施策への移行はなるべく早く

リターゲティングだけに頼っていると、ユーザー獲得やCV獲得はどんどん減少していきます。非リターゲティングを拡大するには、Google 広告とYahoo!広告、どちらの場合も、顕在層のCVデータをできるだけ多く蓄積したうえで、なるべく早く移行を進めることが重要です。

移行を成功させるカギは、媒体ごとに適した導入フローをとり、最適化の判断を働かせることです。個別のキャンペーン単位でリターゲティング成果と獲得CV数を比較するのではなく、媒体学習やリーチ拡張を含めて、キャンペーン全体でCPAを上昇させずにCVが増加しているかを総合的に評価していく、これが重要です。

「リターゲティング依存を脱却したい」「非リターゲティングを拡大したい」とお考えの広告ご担当者の方は、お気軽にご相談ください。


●脚注

1. ^ Mobile Browser Market Share Japan . StatCounter. 2022年5月(2022年6月24日閲覧)。

2. ^ オーディエンス拡張について. Google 広告 ヘルプ. 2022年6月24日閲覧。

3. ^ スマート ディスプレイ キャンペーン . Google 広告 ヘルプ. 2022年6月24日閲覧。

4. ^ 最適化されたターゲティングについて. Google 広告 ヘルプ. 2022年6月24日閲覧。

5. ^ 電通デジタルによる調査。調査期間は、A案件:2022年3月7日~4月3日、B案件:2021年11月1日~30日、C案件:2021年11月1日~30日、D案件:2022年4月14日~30日。

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CPA / CVR / Google広告 / KPI / インプレッション / キャンペーン / クリエイティブ / コンバージョン / コンバージョン率 / ソーシャルメディア / リターゲティング
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