ポストCookieソリューション 本命は「共通ID」か「リアルタイムデータ連携」か?
Google ChromeのサードパーティCookieサポート廃止は、期限の2023年末までと、あと1年半を切りました。Googleの発表からこの1年、サードパーティCookieを代替する技術(ポストCookieソリューション)が複数出てきており、国内外で注目されてきています。
サードパーティCookieが使えなくなることは、特にメディアの収益化という面で大きな影響があります。過去にもiOS14のアップデート(2020年9月)では、ITPがSafariを含むすべてのブラウザに適用されたことでインプレッション単価が下がってしまい、多くのメディアが影響を受けました。
Chromeでも同様の事態が起こるのではないかと、改めて具体的な対応策を検討し始めたメディア運営企業も多いでしょう。
本記事では、ポストCookieソリューションを、ターゲティング精度の高さが売りの「共通IDソリューション」、プライバシー配慮に強い「リアルタイムデータ連携ソリューション」の2つに分けて紹介します。
「共通IDソリューション」はターゲティング精度の高さが特長
サードパーティCookieの廃止により、いちばん影響を受ける広告技術はターゲティングです。「共通IDソリューション」はターゲティングに使えるIDを生成し、それを使ってマーケティングを行うインフラを提供するソリューションです。
有名なところでは、The Trade Deskが開発した「Unified ID 2.0」や、LiveRampの「LiveRamp ID」などの「確定ID」があります。
確定IDとは、ユーザーの同意取得を得たメールアドレスなどを暗号化して生成するIDのことで、精度の高さが特長です。一方で、メールアドレスをユーザーに提供してもらう必要があるため、生成してもらうためのハードルが高いという課題点があります。
「共通IDソリューション」には、「確定ID」とは別に「類推ID」というソリューションもあります。
類推IDとは、サイト上で取得可能なソフトシグナル(IPアドレスやユーザーエージェントなど)を使って、統計的に類似度の非常に高いWeb行動をしている端末にIDを付番するソリューションです。
概念的には「ID」というよりも、限定的な対象に対して「類似拡張」を行うような仕組みです。「ID5」や、インティメート・マージャーの「IM-UID(Intimate Merger Universal Identifier)」というソリューションがあります。
類推IDは、確定IDと比較するとボリュームが確保できる一方で、同一端末を同一IDとして識別する精度が100%にならないという課題もあります。ターゲティングに使えますが、極めて高い精度が求められるような場面では、その点への注意が必要です。
「共通IDソリューション」は、サードパーティCookieの規制を技術面で代替できます。ただ、ID単位でのターゲティングが継続して実現できる点にプライバシー上の懸念があるとして、一部のDSPやアドネットワークは対応しないことを表明しています。
ただ、異なるIDソリューションを統合できるPrebid User ID Moduleを通じて導入のハードルが下がっていることや、CPMが高い広告が入札される点、直近ではGoogleもEncrypted Signals for Publishers(ESP、暗号化されたシグナル)という仕様で、Google Ad Managerを通じて、共通IDを各SSPやBidderに連携できる仕組みをリリースしており、今後は利用可能なメディアが飛躍的に増えていくことが予想されます。
プライバシー配慮に強い「リアルタイムデータ連携ソリューション」
「リアルタイムデータ連携ソリューション」は、数年前まではあまり種類がなかったのですが、この1年で注目される機会が増えているソリューションです。
「リアルタイムデータ連携ソリューション」は、属性単位でDSP/SSPの間のデータの流通を行うことで、「共通IDソリューション」が抱えている「ID単位でのターゲティング」という課題を解決するソリューションです。
リアルタイムデータ連携ソリューションは、ID単位でのフリークエンシーやリーセンシーをコントロールできないという制約があり、広告の効果が低下する懸念はあるものの、ID単位で端末を補足できないので、プライバシーへの配慮のレベルを高めることができるメリットがあります。
有名なところでは、GoogleがPrivacy Sandboxの中で提供を予定している「Topic API」も仕組みとしては同様のソリューションです。
また、「共通IDソリューション」は共通IDで広告に入札する仕組みをDSPに作る必要がありますが、「リアルタイムデータ連携」は、既存のRTB(リアルタイム入札)で利用されているPMP(プライベートマーケットプレイス)の仕組みを流用して広告配信が実現できるという点もメリットで、DSPを利用しているクライアント企業への提案が容易になります。
さらに、特定のIDを保有しておらず、ログインを伴わないメディアにおいても、属性情報さえあればポストCookieのターゲティング広告メニューを作ることができる点も注目されています。2022年2月に、アメリカのIAB Tech Labが「Seller Defined Audiences(SDA)」という名前で同種のサービスを紹介しており、ログインなしメディアにおいて、ファーストパーティデータを使ったマネタイズ方法として注目されつつあります。
さらにこれから1年半に起こる変化の予想について
現時点で、ポストCookieソリューションはかなりラインナップが揃ってきています。国内外を見ていても、サービスがリリースされただけではなく、活用の事例も増えてきています。
もちろん、それぞれのソリューションはそれぞれに課題を抱えています。確定IDはIDのボリューム、類推IDは分析面での利用、共通ID全体としてプライバシーへの配慮、リアルタイムデータ連携であれば広告のパフォーマンスなどです。「このソリューションを1つ導入すれば、ポストCookie対策が完璧にできる」という状態を作れるわけではありません。
そういった背景もあり、グローバルで見ると、複数ソリューションを組み合わせて、プライバシーの配慮とターゲティング効率をコントロールしながら利用するケースが増えてくるのではないかと思います。
以前、「規制だけじゃない! 個人情報保護法改正で広がるデータ活用の可能性」で書いたように、会社として「プライバシーガバナンス」を規定し、生活者との関係の中で広告効果とプライバシーのバランスを意識してマーケティング方法を選択することが主流になりそうです。テクノロジーも、その方向性を受け入れ、支持する準備ができつつあると私は見ています。
ソーシャルもやってます!