CX向上と売り上げアップにつながる最新パーソナライズとは? 業界別6社の事例を厳選紹介
「パーソナライズ」は、今やWebマーケティングにおける定番手法だ。オフライン・オンラインに散逸する顧客データを統合し、ECサイトの閲覧履歴や実店舗の購買実績を掛け合わせて分析。個人に対するレコメンドをより高精度化させたり、表示コンテンツを丸々差し替えたりするなど、さまざまなアプローチがある。
では「パーソナライズ」でどこまで成果が出るのか? いちはやく導入した企業はどんな点に苦労したのか? Web担当者の多くが知りたいところだろう。そうした疑問に答えるべく、ブレインパッドの松本氏が「Web担当者Forumミーティング 2022 春」で講演。社としてのべ1,000件以上関わったプロジェクトの中から、業種・目的別に6つの注目事例を紹介した。
大手企業6社のパーソナライズ事例を厳選紹介
ブレインパッドは2004年に設立。以来、一貫してデータ分析サービスを手がけつつ、データ活用を促進するための周辺ソリューションの開発・販売も行っている。自社開発のデータビジネス・プラットフォーム「Rtoaster(アールトースター)」のほか、海外製プロダクトまでを幅広く提供。従前より、本稿の主題である「パーソナライズ」分野にも注力している。
パーソナライズとは、コンテンツやマーケティングメッセージを大量の顧客・見込み客一人ひとりに最適化した上で届ける概念のこと。
テレビCMのパーソナライズは事実上不可能だが、Webなどデジタルの世界では会員情報やCookieに基づいた個人識別が比較的容易で、パーソナライズしやすい。たとえば、ECサイトでの商品閲覧履歴によるオススメ商品表示はパーソナライズの一種だ。
ブレインパッドでは、大手企業を中心にのべ1,000社のデータ活用プロジェクトに携わってきた。今回は、その中から6つの事例を厳選して紹介した。
パーソナライズ事例① さとふる
トップページのバナー出し分けでCVRが2.07倍に
ふるさと納税サイトで知られる「さとふる」は、2016年からブレインパッドと共同で顧客データ分析の高度化に取り組んでいる。当時はまだふるさと納税制度が社会的に浸透しきっている状況ではなく、テレビCMを積極的に出稿することで認知度向上を図っていた。
しかし、サイト訪問者が増えたものの、寄付(一般消費者がさとふるを通じて自治体に寄附した金額)の総額が社内目標になかなか届かない課題があった。
この時点で、テレビCMと連動したバナーをサイト内に掲出するなどの対応はしていましたが、全てのお客様に同じバナー、同じページを掲出している状況でした。これをお客様の状態に合わせてどうパーソナライズするかに、取り組んでいくこととなりました(松本氏)
さとふるでは、ブレインパッド以外のサービスとの比較検討も行った。最終的には、「Rtoaster(アールトースター)」の採用実績の多さ(2016年時点で300社超)、さとふるが重視していたWeb接客ツールとの連携性などを評価し、ブレインパッドに協力を仰いだ格好だという。
まず実施したのが、顧客のステータスに合わせたバナーの差し替えだ。トップページのアクセス解析を行い、初回来訪者か、非会員か、会員でも寄附実績がある/ないで分類して表示内容を変える。
たとえば、初回来訪者にはふるさと納税制度を丁寧に説明して会員登録を促す。非会員には返礼品のランキングを見せるなど、行動推測に基づいた内容をバナーに反映させた。この結果、バナー差し替え開始から約2週間で、トップページのCVRが2.07倍に向上した。
こうした施策を実施するには、まずDMPに顧客データを貯め、その上で分析をかけて有意なセグメント(購買意向の高そうな客層など)を見つけ出す。そして、そのセグメントが反応してくれそうなコンテンツを用意することが非常に重要だと松本氏は指摘する。
ただし、1セグメントに対して5~6個のコンテンツを用意して、そのうちどれがベストかを検証するといった作業は手間がかかる。ブレインパッドの製品である「Rtoaster(アールトースター)」では、これらの検証を自動的に実行できるようにするなど、データ分析の実態に即した機能実装がなされているとアピールした。
このほか、顧客が見ているページがTOPページか、商品詳細ページか、それともショッピングカートページなのかによっても、その心理状態は当然違ってくる。顧客のシチュエーションにあわせて適切なレコメンド・アルゴリズムを選択するのも1つの案だと松本氏は助言する。
パーソナライズ事例② チケットぴあ
複雑だったメール配信対象者抽出の工数が大幅減
チケット発券代行で知られるチケットぴあでは、会員の購買履歴に基づいたおすすめチケット情報をメールで配信していた。だが「音楽」分野1つとっても、ロックからクラシックまでジャンルが細分化されており、さらには開催地の事情も会員によって異なるため、メール配信セグメントの選定が非常に困難だった。
ブレインパッドのサポートによって実現した新体制では、メール配信対象者の抽出作業をSQLなどの専門知識なしで実行できるようになった。つまりは「内製化」で、データ分析の専門家などを介さず現場担当者レベルでメール配信業務が完結するため、工数が大幅に減少。実際のところ、複数の担当者で行っていたメール配信業務が1人で行えるようになったという。
チケットぴあの例では、会員データ、購入履歴、商品マスターにそれぞれ別れていたデータを統合するためにDMS(Data Management System)を構築。さらには独自のレコメンド用ロジックも開発した。最終的に、メールからの購入率が対目標の1.5倍に達するという大きな成果となった。
パーソナライズ事例③ 某化粧品メーカー
LINEやダイレクトメールなどのチャネルを一本化
某化粧品メーカーが展開する化粧品ブランドのマーケティングにあたっては、ブレインパッドの知見が活かされている。
販売側としては、トライアル購入した顧客がリピート購入、そして定期購入へと、購買額が徐々に上がっていくのが理想的だ。そのためには顧客一人ひとりを認識して、その施策の履歴を追う必要がある。しかしチャネルはメール、LINE、紙のダイレクトメール、Web広告などに分散していた。この分断したデータのスムーズな統合という課題をブレインパッドと共同で解決した。
化粧品のマーケティングの場合、購買意欲の高そうなお客様には、紙のダイレクトメールを送って手厚くフォローしたいケースがあります。この化粧品会社様の場合、(複数チャネルの統合に対応した)データベースを用意して、たとえばバナーのどの場所をクリックしたかで「機能に興味があるのか」「価格に興味があるのか」を類推し、ダイレクトメールの印刷パターンもパーソナライズしています(松本氏)
パーソナライズ事例④ 某アパレルメーカー
バラバラだったマーケティングツールを統合して施策数が2倍に
某アパレルメーカーでは、Web接客やレコメンド、LINE配信などの各種ツールを導入していたものの、それらが連携していなかった。ブレインパッドではこれらの統合を実施。各種作業の工数削減に繋がった結果、PDCAをより高速に回せるようになった。週1本の施策を実施できるようになったが、これは従来と比べて2倍のペースだという。
パーソナライズ事例⑤ 某エンタメ・雑貨店
リアル店舗とECをCDPで連携
とあるエンタメ・雑貨店では、ブレインパッドの製品を用いたWebでのレコメンドで成果を上げていた。しかし全社的な販売構成比はリアル店舗のほうが高い。そこで新たにCDPを導入。店舗の客、ECサイトの客を連携して分析することでお互いのノウハウをより活かせるようにした。
パーソナライズ事例⑥ 某オーダースーツ専門店
店頭担当者から直接届いたかのようなメール施策で開封率60%
某オーダースーツ専門店では、立ち上げ当初から店頭販売・EC販売の両面に注力していた。ただし創立まもないブランドのため、ITインフラへいきなり予算をかける訳にはいかず、売上規模の拡大に合わせて拡張させる必要があった。
MAツールの運用も工夫した。あるメール施策では、店頭担当者から直接届いたかのような文面を作ることができたため、メール開封率が60%、来店予約数が3倍を記録したケースもあった。
「パーソナライズ」実践の前に検討すべきポイントとは?
松本氏のもとには最近「データを活用してLTVを上げたい」「システム間のデータがバラバラなので統合したい」「OMOを実現したい」などの相談が多く寄せられている。しかし、その声によく耳を傾けてみると「お客様の課題が“手法”になってしまっている」という。
『CDPを導入したい』『MAをリプレースしたい』という話が出るのは当然ですが、それにプラスして『どんな状態になりたいのか』という視点があったほうがCDPやMAの導入は上手くいきやすい(松本氏)
松本氏は企業の課題をヒアリングする際、まずは「達成したいビジネス成果」から議論をスタートさせる。続いて、その成果を達成するためのKPIの課題はなにか、KPIの課題を生んでいるのはどの業務か、業務課題が発生する要因はなにかを順番に考えていくと、問題の理解がしやすい。
プレインパッドのWebサイトでは、本講演で紹介しきれなかった事例も多数掲載している。自社の業務改善のヒントになるものがきっとあるはずだと松本氏はアピールし、講演を締めくくった。
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