【レポート】Web担当者Forumミーティング 2022 春

話題の「メタバース」成熟期は2030年!? ビジネス活用事例と最新eコマースに求められる基盤

メタバース(仮想空間)をはじめとするデジタル体験で起きている最新動向と、必要な基盤やツール、組織やプロセス、データ連携についてアドビが解説した。
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メタバースをはじめとする没入型体験は、デジタルインタラクションの新しい潮流として、遊び方やショッピング体験を大きく変えようとしている。

Web担当者Forumミーティング 2022 春」のセッションでは、「こうしたデジタル体験の進化に対し、企業はどのように準備を整え、新しいテクノロジーを成長のドライバーとして活かすことができるか」という観点で、アドビがメタバース(仮想空間)をはじめとするデジタル体験で起きている最新動向を紹介し、必要な基盤やツール、組織やプロセス、データ連携について解説した。

(左)アドビ 阿部 成行 氏(右)同 伊藤 辰憲 氏
(左)アドビ株式会社 デジタルエクスペリエンス事業本部 ビジネスデベロップメントマネージャー 阿部 成行 氏
(右)アドビ株式会社 デジタルエクスペリエンス事業本部 ビジネスデベロップメントマネージャー 伊藤 辰憲 氏

ビジネスの文脈でも重要な存在になったメタバース

さまざまな分野で加速しているデジタルシフト。コロナ禍で行動が制限されたことにより、その傾向がさらに強まっている。デジタルにシフトする顧客の行動に伴って、広告やマーケティングにおける企業の投資にも変化が起きている。

その中で最近、存在感を増しているのがメタバース(仮想空間)だ。ガートナーのレポート*でも、「メタバースは3つの段階を経て進化し、成熟するのは2030年以降。しかし、リーダーは今、ビジネス機会を評価し始める必要がある」と述べている。レポートには、以下のような内容が含まれる。
※出典:Gartner https://gtnr.it/3Mehu7I

  • メタバースは、新興、成長、成熟という3つのフェーズが重なり合いながら進化していく
  • 技術、市場、製品・サービスにおいて、それぞれのフェーズで特徴的な変化が起こる
  • 技術製品のリーダーは、メタバースが完全に成熟する前に行動を起こすべき
  • 戦略的な優位性は、インタラクション機能、コンテンツ、インフラそれぞれの提供機会の評価にかかっている

テキスト→画像→動画、そしてメタバースへ

デジタルがコミュニケーションに本格的に利用され始めてから40年といわれているが、それは企業と顧客とのコミュニケーションをアップデートしてきた歴史でもある。「デバイスやフォーマットが変わるたびに、人がコミュニケーションにかけるコストを下げてきた」と、アドビの阿部氏は語る。

テキストより画像、画像より動画が好まれるのは、単位時間当たりの情報量が桁違いに多いから。そしてテクノロジーの進化によって、このサイクルにメタバースと呼ばれる3D、没入型の体験が加わると考えられている。これからはメタインタラクションと呼ばれる、より情報量の多い、身体的な情報も含めた直接的なコミュニケーションで共感したり、共創によって人々が集ったりするようになってくる(阿部氏)

デジタルテクノロジーの進化は情報量の増加とシンクロしている
デジタルテクノロジーの進化は情報量の増加とシンクロしている

3D表現をビジネスで活用する動きは、メタバースが成熟する2030年を待たずに、さまざまな領域で進んでいる。NIKE(ナイキ)が、メタバース空間で非代替性トークン(NFT)技術を用いたバーチャルスニーカーのビジネスに進出したというニュースを記憶している方もいるだろう。

またアマゾンは、家具や家電製品を3D化し、配置や組み合わせを見ることができる仮想的なショールームを提供している。ARアプリで家具や家電製品の配置イメージを事前に確認し、購入前にレイアウトやサイズ感を検討できることで、売り上げ効果が上がるだけでなく、返品率が下がる効果があるといわれている。

3Dの没入型ショッピング体験を実現したアマゾンの仮想的ショールーム
3Dの没入型ショッピング体験を実現したアマゾンの仮想的ショールーム

また、米国のディスカウントスーパーTarget(ターゲット)では、商品の3D化だけでなく店舗自体のデジタルツイン(完全コピー)を作って、自宅にいながら店舗での購入体験を提供する試みが始まっている。その他、製品開発から製造、販売、カスタマーサービスに至るまで、3D技術の活用による利点があるという。

メタバースと聞くとエンタメ的な世界を描きがちだが、ビジネスのコンテキストとしても重要なテーマとなっている(阿部氏)

ユーザーとつながって優れた体験価値を提供する3D技術

一般的にメタバースの定義は「仮想環境においてユーザーがリアルタイムに共同体験できる次世代インターネット」と定義されるが、特徴として、以下の3点が挙げられる。

  1. リッチなインタラクティブ体験ができる「没入型環境」
  2. 同じ物理的空間にいなくとも他者と「共同体験ができる」
  3. 新たに創出される経済(シェアードエコノミー)

インターネットの歴史は、コンテンツの側面では互換性との戦いだった。黎明期のインターネットでは、各社から提供されるブラウザやOSに互換性がなく、「文字化けする」「違う色で表示される」「レイアウトが崩れる」などの不都合が頻繁に起きていた。

企業がビジネスで利用するにはとても勝手が悪く、どのプラットフォームに投資すればよいのか、見極めが難しい状況だった。アドビは、この課題に対して“クロスプラットフォーム”という価値を提供してきたベンダーでもある。

そして現在、メタバースでも同様の懸念が想定される。メタバースを構成するレイヤーとプレイヤーを概念図にしたのが以下の図で、現在アドビは、さまざまなプレイヤーと連携して、クロスプラットフォームを実現するための標準的なフォーマットの作成などに関わっているという。

メタバースを構成する基盤とプレイヤー
メタバースを構成する基盤とプレイヤー

その成果は、すでにビジネスの世界でも出ている。たとえば、よりビジュアルの情報が求められるeコマースでは、コロナ禍で物理的な商品撮影が行えない状況に対して、「バーチャルフォト」というソリューションを活用し、コストやスピード、効率の面で貢献している(阿部氏)

こうした3D技術を企業のデジタルトランスフォーメーションに活用した事例として、カシオ計算機の「G-SHOCK」の取り組みが紹介された。

カシオ計算機の「G-SHOCK」の取り組み事例
カシオ計算機の「G-SHOCK」の取り組み事例

3D技術をDXに活用したカシオ計算機の事例

G-SHOCKは、ゆるぎないブランド力で40年間続いている製品だが、デジタルが普及して情報があらゆるところにあふれ、顧客の多様化が進んだことにより、「どんなに素晴らしい製品を開発してもなかなかお客様にその魅力が伝わらない、届かない」という状況に陥っていた。これは、製造業をはじめとする多くの企業が抱えている課題でもある。

こうした事業環境の中で、カシオ計算機は「優れた製品提供だけでは事業拡大が難しい時代になったという現状認識の上で、一人ひとりのユーザーと直接つながって、自分たちの手で優れた体験を提供し続ける企業になる」ことを目指したという。実施したのは、お客様が自由に部品を組み合わせて、190万通りの中から製品を購入できる「My G-SHOCK」というサービスだ。

顧客体験から事業をリデザインすることで「My G-SHOCK」が生まれた
顧客体験から事業をリデザインすることで「My G-SHOCK」が生まれた

「My G-SHOCK」には以下のような特徴がある。

  • すべて受注生産で、存在している製品の中から選ぶわけではない
  • ユーザーはデジタル上でパーツを組み合わせ、仮想的なビジュアルでオーダーする
  • 自分で組み合わせるというプロセスが楽しいので、仮に購入に至らなくてもSNSでシェアしたくなる

アドビでは、基となる3D技術の他、各バリューチェーンをつなぐコンテンツとデータプラットフォームを提供している。この事例では、開発部門のCADデータから各パーツの画像をレンダリングし、マーケティングに活用しているが、「将来的に、もしメタバースに向けたサービスを行うとなった場合でも、同じように部門間の連携によって3D表現を活かした展開が可能になる」と、阿部氏は語る。セッションでは他に、コカコーラのラベルに好きな名前を入れる取り組みも紹介された。

メタバース活用に向けたデータとインサイトの考え方

デジタルのコミュニケーションが進化していくことで、顧客接点はますます多様化していく。企業は、顧客が望むすべての接点で、期待以上の体験を提供し、すべての体験は一貫したものでなければならない。その実現には、統合的なデータの活用が欠かせない。

そこで、メタバースの普及が進むうえで、顧客データの管理や分析・活用においてどのような視点が必要かについて、アドビの伊藤氏が説明した。

メタバースにおける顧客理解に必要な情報

前提として、消費者が企業とどう関わるかを決める時代になってきたことが背景にある。つまり、顧客理解に必要な要素は、以下のように推移しているという。

O2O:Web解析やサイト分析
OMO:オムニチャネル分析
OOM:統合的分析と理解

OOMとは、「Offline, Online, and Metaverse」の頭文字だが、メタバース上で顧客を理解する際に必要となるデータは精微なもので、量も膨大なものとなる。そのデータを正しく理解するためには、2つの視点を持つことが必要だ。

  1. 顕在(興味/関心)データ:属性データや行動データ、興味・関心データなどの既に活用しているデータに加えて、「どのようなパーツや色、素材に関心があるのか」のような今まで見えていなかったデータや、印象のよかった接客や購入までの一連の動きのようなデータも、顕在データとして加えることで、より深く理解できる。
  2. 潜在データ:VRヘッドセットなどのデバイスを通じて、表情や目線などの身体データ、ノンバーバル(非言語)コミュニケーションデータなども把握できる。
メタバースで扱われる精微なデータは「顕在(興味/関心)データ」「潜在データ」に分類して捉える
メタバースで扱われる精微なデータは「顕在(興味/関心)データ」「潜在データ」に分類して捉える

当然、個人情報保護の観点はより重要になるが、ルールやガバナンスが強化されて、顧客側でデータ活用を判断できるという、現在の方向性は変わらないのではないか(伊藤氏)

大規模なパーソナライゼーションに不可欠なインサイト獲得のポイント

もう1つのキーワードが、「パーソナライゼーション」だ。これまでもパーソナライゼーションは実施されていたと思うが、それが「Personalization at Scale(大規模なパーソナライゼーション)」に拡張されるという。

これからのパーソナライゼーションは「Personalization at Scale」に拡張される
これからのパーソナライゼーションは「Personalization at Scale」に拡張される

一般的なパーソナライゼーションは、適切なコンテキストの中で適切なお客様に適切な体験やコンテンツを適切なチャネルを通じて提供する、One to Oneのおもてなしのこと。一方で、大規模なパーソナライゼーションとは、すべてのチャネルのすべてのお客様に対して、リアルタイムなパーソナライゼーションを実現できるということ(伊藤氏)

製品やサービス自体の差別化が非常に難しい今、パーソナライズされた体験が重要になっている。これは、メタバース上でも非常に重要な考え方となる。そして、パーソナライゼーションに不可欠なインサイト獲得のポイントは以下の2つだ。

インサイト獲得のポイント①
顧客背景の解像度を上げる(属性データよりインサイトが重要になる)

よく「顧客の解像度を高める」というが、属性データを増やしたところで、効果的なアクションが打てるようになるわけではない。その人が誰であるかを掘り下げるのではなく、背景の解像度を上げて興味やニーズを理解することで、次の具体的なアクションをイメージしやすくなる。

属性ではなく、背景の解像度を上げて興味やニーズを理解することが重要
属性ではなく、背景の解像度を上げて興味やニーズを理解することが重要

インサイト獲得のポイント②
市場・顧客変化に対応できるエコシステム

改正個人情報保護法やCookieのマーケティング施策への対応、データ分析ツールの多様化など、さまざまなルールや顧客、仕組みの変化が激しい。きちんと順応し続けていくためには、拡張性のある柔軟な基盤を設けておくことが大切だ。

変化に順応し続けられる基盤を設けておくべき
変化に順応し続けられる基盤を設けておくべき

旧来のパーソナライゼーションとメタバースを見据えた大規模なパーソナライゼーションの相違点は以下の図のようになる。

メタバースを見据えたパーソナライゼーション
メタバースを見据えたパーソナライゼーション

最後に阿部氏は以下のようにまとめ、セッションを締めくくった。

メタバースは次世代のインターネットであり、企業とお客様との関係を大きく変える可能性を秘めている。メタバースの本格的な普及はまだ少し先だが、3D技術をはじめとした仮想的なワークフローは企業活動のさまざまな領域で効果が実証されている。すぐにでも取りかかってほしい(阿部氏)

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