B2Bマーケティングで注目を集めるABM! 自社では何から取り組むべきか?
近年、“企業単位”でデータを集め、分析・活用し、広告やコンテンツを出し分ける「ABM(Account Based Marketing:アカウントベースドマーケティング)」というコンセプトに注目が集まっている。
そこで、企業のデジタルマーケティングを支援しているアンダーワークスの田口裕氏が 「デジタルマーケターズサミット 2022 Winter」に登壇。ABMというコンセプトを軸に、顧客データの活用について解説した。
B2Bの「顧客」とは、個人ではなく法人
顧客とは自社のプロダクトを買ってくれるお客さんのことだが、B2B企業にとって「顧客」とは何を指しているか、じっくり考えたことはあるだろうか。B2Cであれば、顧客は商品やサービスを買ってくれる「その人」だが、B2B商材を購入するのは企業や組織という「法人」だ。つまり「B2Bの顧客とは、窓口担当者ではなく、その先のアカウント(企業組織)そのもの」だと田口氏はいう。
企業という大きな組織はもちろん、本社・本店、支社・支店、部署・部門など、役割や取引の大小に応じた組織も、それぞれアカウントとなる。
窓口となる担当者だけでなく、その先のアカウントを軸に考えた時に、「クライアント企業との関係性」はどうなっているだろうか。「クライアント企業と良い関係性ができている」という場合も、実は関係が構築できているのは、特定の役員やいくつかの部署に限られていて、それ以外にコンタクトする術がないということもあるのではないだろうか。
また近年、企業における購買活動は、どんどん複雑化・長期化する傾向にある。購買意思の決定は、サプライヤー企業がこれまで関係性をもっていた少数のステークホルダーによる直線的なものではなく、多くの匿名のステークホルダーが関わる複雑なものになっている。
さらに、購買を考えている企業は、平均16カ月以上に及ぶ購買活動中のほとんどの期間において、Webでの調査などの「匿名の状態」にある。サプライヤー企業にコンタクトしてくるのは、長い選考プロセスが終わった後ということもある。
B2B商材を販売する企業は、顧客企業の匿名の期間を含めて長期にわたる。複雑な購買活動に対して、さまざまなデジタルチャネルを通じて多面的にアプローチすることが必要になっている(田口氏)
アカウントベースドマーケティング(ABM)とは何か
営業の効率化を図ったスコアベースドマーケティング
デジタルが普及する前のいわゆる伝統的な営業スタイルは、企業がもつアタックリストに営業担当が一斉にアプローチする、「数打ちゃ当たる」方式だった。当然のことながら、非常に効率が悪い。
この非効率という課題に対処したのが、スコアベースドマーケティングだ。有望そうな人を事前にスコアで見極めてからアタックするという考え方だ。2010年代に、これをシステマティックに実現するマーケティングオートメーション(MA)の導入が進み、顧客行動をスコアリングして、スコアが高い人をホットリードと仮定してマーケティングを行うことが定着した。
こうしたスコアベースドマーケティングは、一見、効率が良いようにみえる。しかし、「そこには課題が残っている」と田口氏はいう。メルマガの開封やWebサイトの来訪など、個人の行動に重きを置いてスコアリングするため、企業単位のターゲティングを行うB2B営業においては「企業評価不足」が生まれてしまうのだ。
たとえば、個人としてはスコアが高くても、「所属する企業はターゲットとなる業種や企業規模ではない」「決裁権のある人ではない」といったことがあり、マーケティングの考えるホットリードと営業が欲しいアプローチ先とで齟齬が生じるわけだ。
アカウント(企業)を軸にマーケティングを行うABM
ABMというコンセプトは、2004年にITSMAという米国のコンサルティングファームが提唱したものだが、スコアベースドマーケティングの課題である「企業(アカウント)という視点での評価の欠落」を解決するものとして、近年注目を集めている。
というのも、ABMは、あらゆる顧客ステージ&顧客接点で、アカウント(企業)を軸にマーケティングを行うからだ。「スコアリングもターゲットも接点も、アカウント軸で考える」と田口氏は語る。
スコアベースドマーケティングとの違いをファネルで示すと、以下の図のようになる。
スコアベースドマーケティングでは、自社プロダクトに興味をもってくれそうな人を不特定多数の中から選別していくことから開始する。一方、アカウントベースでは、自社の売上にインパクトを与えるアカウントを絞り込んでから活動がスタートする。まずはターゲットとなる組織を選び、そこから必要な施策を徐々に広げていくので、ファネルの形は真逆になる(田口氏)
ABMは自社に有効か
とはいえ、すべてを解決するたった1つの方法というものは存在しない。ABMも、向いているケースと向いていないケースがはっきり分かれる。田口氏は、ABM施策投資に見合うリターンが得られる商材・サービスとして、以下を挙げた。
- 高付加価値サービスである
- 大口契約している顧客をもつ
- 顧客ごとの要望に応じて提案される
- 都度カスタマイズされる
- 特殊な市場に対して提供される
- 案件単位の売上が大きい
- 顧客との関係性が長期にわたる
つまり、LTV(顧客生涯価値)が高い商材ほど、ABM戦略との親和性が高い。
LTVの最大化が売上に寄与するため、優良なターゲット企業にフォーカスしてマーケティングリソースを投資するABM戦略との親和性が高い。逆に、商材やサービスがこれらの特徴をもっていない、もしくは真逆という場合には、コモディティ化した一般的な商材なので、ABMを採用すると投資に対するリターンが合わない可能性もある(田口氏)
なお、どのようなターゲット層を狙うかによって、ABM施策に対する投資・ROI(Return On Investment:投資収益率)は異なる。ITSMAではABMを以下のようにタイプ分けしているという。
- Programmatic ABM:プロセスやツールで自動化して、1対多数のターゲットにあたっていくABM
- ABM Lite:セグメント別にあたっていく、ライトなABM
- Strategic ABM:個社別の戦略的にあたっていくABM
自社が取り組むべき施策は何か
ABM施策の全体像
ABMは、スコアベースドマーケティングとMAの関係のように、何かのツールを入れると可能になるというわけではない。下の図が、ABM施策の全体像を示すものになるが、「既存の施策と連携する統合アプローチ」だと田口氏は語る。
マーケティングターゲットの具体化、さまざまな企業データの活用、営業との連携、既存のプロセスとの連携、施策の設計、企業別のスコアリング、こういったデータの管理が全部1つになって、ABMの施策になっていく(田口氏)
ABM施策で重要なインテントデータ(行動データ)
ABM施策において重要な企業データは、インテントデータ(行動データ)である。企業単位のWeb行動やツール利用などのデータベースを提供するベンダーも増えているので、「自社で保有している情報に加えて、そのようなサードパーティデータも活用するのがポイント」だという。
ABMのプラットフォーム
ABMのプラットフォームは、特定のツールではなく、さまざまなデジタルプラットフォームを寄せ集めることで可能になる。
広告や分析、CRM(Customer Relationship Management:顧客関係管理)など、いくつかの要素はすでにもっているという企業が多い。日々活用しているツールのアプローチ方法を少し変えるだけで、ABMが可能になる(田口氏)
ABM施策取り組みの要点判断
では、自社ではどこから優先的に取り組めば良いのだろうか? 田口氏は、下の図のようなフレームワークを提示した。横軸は取り組みの進行度合い、縦軸は成熟度度合いをそれぞれ3×3マスで示している。このフレームワークを活用すれば、簡単に自社のレベル感を把握できる。
ABMソリューションの種別
ABMソリューションにも種別があるが、「自社のマーケティング・営業の実情に合わせて活用してほしい。最初から全部揃えるというより、必要なものを必要な時に取り入れるという考え方が良い」と田口氏は語る。主な種別は次のとおり。
- 広告
- 分析
- データベース
- ABMプラットフォーム(オーケストレーション)
まずはターゲットを絞って広告を出し、Webサイトに訪問した企業のIP判別によってどんな企業が来ているかを可視化。さらに企業情報やインテントなどをデータベース化して、最終的にプラットフォームとしてオーケストレーションするという順で進めるといい(田口氏)
本セッションのポイント
最後に田口氏は、セッションのポイントを以下のようにまとめた。
- B2Bの「顧客」は、窓口となる「担当者」ではなく、その先にある「企業組織」をアカウントと捉える
- ABMでは、あらゆる顧客ステージ&顧客接点で、アカウント(企業)を軸にマーケティングを行う
- ABMでは、広告からCRMまで一気通貫してアカウント軸(企業軸)でアプローチする
- ABM戦略との親和性が高い可能性があるのは、LTVが高いビジネスモデルの企業
- ターゲット選定、マーケティングや営業アクションでは、 Web行動を企業単位で把握して施策に活かす
- 自社のマーケティング・営業の目的に合わせて、既存ソリューションとABMソリューションを連携して利用する
ソーシャルもやってます!