マーケティングデータ統合とCDP導入の課題とは?
マーケティング領域のコンサルティング会社であるアンダーワークスでは、データ統合、データマネジメント、データ可視化(顧客の見える化)といったプロジェクトが急激に増えているという。そこで2020年12月、国内の上場企業約3,800社のマーケティング担当者を対象に「マーケティングにおけるデータ活用に関する調査」を実施した。
「デジタルマーケターズサミット 2021 Winter」に登壇した同社の田島学氏は、その調査結果をもとに、「マーケティング成果向上にはデータ活用が重要」と認識しながらも、データマネジメントに多くの課題を抱える国内企業の取り組み状況について語った。
特定チャネル/テクノロジーの顧客データではなく
多様な/すべてのマーケティングデータの活用が重要
企業と顧客の接点は、「多様化」しつつも「デジタルが主軸」になっている。そしてその裏側では、多くのマーケティングツール/テクノロジーが利用されている。マーケティングデータは、それぞれのツールの中に蓄積されていくが、個別のデータだけでなく、企業内に溜まるあらゆるマーケティングデータを活用しようという取り組みがトレンドとなっている。これを、マーケティングデータマネジメントと呼ぶ。
このマーケティングデータマネジメントによって統合・連携したデータを活用することで、企業は以下のようなことの実現を期待していると、田島氏は言う。
- 接点をまたいだ顧客の見える化
- レコメンド等の精度を高める全てのデータ活用
- 将来的にAI(人工知能)活用する時に決め手となる自社データの量と質
今回のアンケート調査の起点となったのは、企業にはいったい何種類のマーケティングデータがあるのだろうか? ということだった。
同社は毎年、国内で利用可能なマーケティングテクノロジーをカテゴリごとに分類した「マーケティングテクノロジーカオスマップ」を編集し公表しているが、2020年版にはなんと1,234個ものマーケティングツールが掲載されている。
企業のマーケティング担当者はこの中から、自社の戦略に基づき、最適なマーケティングテクノロジーを選び、組み合わせを模索している。しかしテクノロジーごとに異なるデータが集まり、散在している状況だ。
アンケート調査では、約300社の上場企業から回答を得られたという。以下の図は、リストのうち、自社が所有しているマーケティングデータにチェックを入れるという方法で聞いた結果だ。最も多くの企業が保有していると答えたのは「Webサイトからの問い合わせデータ」で、続いて、CRMや名刺データが多い。
名刺データは、BtoB企業であれば、ほとんどの企業が保有している(田島氏)
そして、1社が保有しているデータの種類の平均値は6.4。つまり、6~7種類のデータを何らかの形で統合しなければ、全データが統合できたとはいえない状況ということだ。簡単にはいかない数だとイメージできる。
また、年商5,000億円以上の企業にしぼって集計したのが右下の小さいグラフである。10以上のデータを持っているという企業が半数以上となり、事業規模が大きいほど保有するマーケティングデータの種類が多いようだ。
さらに、「これらのデータを連携するデータマネジメントが重要と考えているか?」という質問には、87%が「非常に重要」または「重要」と答え、圧倒的多数の企業が重視していることがわかった。これは、業種によって違いがあり、コンピュータ製造業では非常に重要と答えた企業が100%、通信業では80%を超える。一方で、不動産業や建設業では20~30%台にとどまる。
多くの企業が「データマネジメントは重要」だと答えている。実際に着手している企業はどれくらいかというと、既に取り組んでいる企業が45%、1年以内に取り組む予定が25%だった。これも業種や企業規模で違いがあり、BtoC企業は53%、大手企業は62%で取り組みを始めている。
データマネジメントに期待することと
その取り組みの壁となっている課題
次に示すのは、「マーケティングデータマネジメントで期待したい成果」について、該当する項目にチェックしてもらった結果だ。
最も多いのは「顧客接点の把握、BIでの見える化、ニーズ分析・把握」で64%、「施策の効果測定なども含めた、PDCAサイクル実現」も50%の企業が期待していると答えている。
接点がどんどん増えていく中でも顧客が何を考えているのか、どんな接点を経て顧客になっていくのか、そういったことを把握したいという企業のニーズが見えてきた(田島氏)
では、データマネジメントに対する取り組みは、どこまで進んでいるのだろうか。アンダーワークスでは、自社の取り組みがどの程度進んでいるかの目安になるよう、以下のような7段階の成熟度モデルを示した。
そして自社がステージ0から6までのどの位置にあるかを聞いた結果が、以下の図だ。
このグラフを見ると、どうやらステージ2(部分連携)から3(総合連携)へ移行する間に、大きな壁があるように見える。そこで、何が課題になっているのかを聞いた結果が以下の図だ。
大きな課題となっているのは、以下の3つである。
- 組織間の連携や部門間調整
- テクノロジーに対する専門知識や人材
- 戦略立案やロードマップ策定
① 組織間の連携や部門間調整
この課題の原因として考えられるのは、さまざまなツールが社内に存在し、それぞれを異なる部署が使っているということだ。
たとえば、CRMはIT部門が、Googleアナリティクスは広報部門が、マーケティングオートメーションはeメール担当が、レコメンドはWeb担当がというように、扱っているチームが違うため、それらのデータをどこにどう統合するかという調整は難しくなる。プロジェクトを立ち上げる際には、「さまざまな部門の人をプロジェクトに入れる」必要がありそうだ。
② テクノロジーに対する専門知識や人材
さまざまなツールが使われていて、多くの接点があり、それぞれに専門的な知識が必要という状態で、データを1カ所に集めるのは大変だ。そんなリソースはないというのが課題になっていると想像できる。
右下の小さいグラフは大手企業にしぼった集計結果だが、組織が大きいほど①の部門間調整が難しいのかと思いきや、実はテクノロジーの専門知識や人材を挙げた企業の方が多い。さらに、予算確保はさほど問題となっていないようだ。「予算はつくものの、人材不足や調整が大変、というのがデータマネジメントに対する大きな課題になっているのではないか」と田島氏は語る。
③ 戦略立案やロードマップ策定
これは、データマネジメントに限らずさまざまな場面で課題として挙げられる問題だが、これもやはり課題となっているようだ。
テクノロジー面の課題を解決するキーワードは
顧客データを集約するデータ基盤「CDP」
データマネジメントを進めるためには、さまざまなツールやテクノロジーに散在している顧客データを、どこか1カ所に集約する必要がある。そのための基盤として注目されているのが、CDP(カスタマー・データ・プラットフォーム)である。
CDPはここ数年で注目され始めたキーワードだが、以下のような特長を備えている。
- さまざまなツールのデータを、顧客を軸に統合できる基盤
- 分析や施策のセグメンテーションが自由にできる
- 各ツールと連携して、セグメントに対してさまざまなアクションを取れる
一般的なデータベースにはないのが3つ目の機能で、CDPとして既にいくつかのツールが市場に出てきている。ただし、マーケティングデータの基盤としてどのようなものを利用しているかを聞いた結果では、パブリッククラウドやスクラッチ開発のデータベースを使っている企業が多く、CDPを使っている企業はほとんどなかった。
それでは、そもそもCDPというもの自体がどの程度認知され、理解されているのだろうか。それを調べたのが以下の図だ。詳しく、あるいはある程度理解しているという人はまだ少ないが、名前は知っているという人を含めれば6割以上になる。認知としてはかなり広がっているようだ。
一方、成熟度がステージ3以上の企業だけを集計したのが図の右側のグラフで、理解していると答える企業が倍近くに増える。つまり、「ステージ2から3へ至る壁のうち、テクノロジーの専門知識については、CDPについてよく知ることが解決策になる」(田島氏)といえそうだ。
最後に田島氏は、今回のアンケート調査のサマリーを以下のように紹介し、セッションのまとめとした。
- 顧客接点の増加とデジタル化が、顧客データの散在を生んでいる。
※顧客データの統合管理→データマネジメントが必要 - マーケティング成果の向上にデータマネジメントを重要視する企業が9割。着手済み企業は45%。
- 「顧客の見える化」を主目的に取り組んでいる企業が多い。
- 8割以上の企業が、「データの部分連携」から先に進めていない。課題は「組織間連携」と「テクノロジーの専門知識」。
- CDPを利用している企業はほとんどない。成熟企業ほどCDPへの理解度が高い。
※調査の全容は、アンダーワークス Webサイトにも掲載しています。
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