[マーケターコラム] Half Empty? Half Full?

U-NEXTのマーケティング戦略にハマって実感した 顧客の最適なモーメントを捉えることの大切さ

マーケターコラム、今回はヘイ株式会社の加藤千穂さん。マーケティングにおけるモーメントの大切さに気づいたきっかけとは?
ヘイ株式会社 PX部門広報本部 加藤千穂氏

こんにちは、ヘイ株式会社の"えんじぇる"こと、加藤です。

みなさん、映画はお好きですか? 私は好きです。が、子どもがまだ小さいこともあり、映画館に行く時間がなかなかとれないので、動画配信サービス(VOD)を活用しています。

これまでは、Amazonプライム・ビデオとNetflixで楽しんでいましたが(「スターウォーズ」シリーズにハマったときはDisney+も)、最近、NetflixからU-NEXTに乗り換えました(U-NEXT限定配信の『SEX AND THE CITY』の新章『AND JUST LIKE THAT...』おもしろいですね!)。

U-NEXTに加入したのはなんとなくではなく、何が何でも『AND JUST LIKE THAT...』が見たかったからでもなく、U-NEXTのマーケティング戦略に私がハマったから。これは後から気づいたことですが、U-NEXTは、最適なモーメント(商品やサービスへのニーズが高まる瞬間)を捉えながら、ジリジリと私をコンバージョンに導いていったのでした。

今回は、私がU-NEXTの戦略にまんまと捉えられたその過程を振り返りながら、モーメントをつかむことの大切さを、つかまれた側の視点からお話ししたいと思います。今回も「n=1」な話が起点ではありますが、みなさんの参考になれば幸いです。

何度となくあった「U-NEXTならあるのに」モーメント

いざ映画を観ようかとなったときに、何を観るかいつも悩んでしまいます。TVやTwitterで話題になるのは最新作が多く、まとまった時間がとれない身ではすぐに観られないので、いつもは自分が興味のあることをもとに観たい映画を見つけています。

私の観たい映画の探し方は、いわゆる「芋づる式」です。たとえば最近では、Podcastで配信されている歴史を面白く学べる「コテンラジオ」を聴いて、ヘレン・ケラーを題材にした『奇跡の人』という映画を観ました。また、映画を観て気になった監督や役者がいると、その人の作品をさかのぼって観ています。

こうしたネタをストックしておく場として活用しているのが、映画情報・レビューサービスの「Filmarks(フィルマークス)」。気になる映画をクリップしたり、観た映画の感想を書いたりして、次観る映画の参考にしています。

Filmarksは、映画のタイトルごとに、どのVODで配信されているのかがわかります。観たい映画をクリップしていると、高確率で遭遇するのがU-NEXTでした。「あぁー、この映画、U-NEXTだったら観られるのかぁ」という状況に何度も遭遇していたのですが、「いや、U-NEXTは高いからなぁ」という理由で乗り換えずに、ただ、悔しがるだけでした。

ちなみに、U-NEXTは月額1,639円/2,189円、Amazonプライム・ビデオは月額500円/年間4,900円、Netflixは月額990円/1,490円/1,980円です(2022年2月時点。いずれも税込)。

インターネット回線を切り替えた後というモーメント

料金がネックで加入をためらっていた私の背中を押したもの。それは1本の営業電話でした。

自宅のインターネット回線をNURO光に切り替えて数カ月後、「2カ月間、無料でU-NEXTを試してみませんか?」という営業電話を受けました。このタイミングがドンピシャ。これまで何度も「U-NEXTなら観られるのに……」という残念な気持ちを繰り返していた中でのピンポイントのお誘いだけに、「2カ月無料」の特典もグサッと刺さります。結局、お試し期間を経て、NetflixからU-NEXTに乗り換えたのでした。

U-NEXTのモーメントを捉える作戦にまんまとハマる

正直に言って、これまで電話営業というものにあまりいいイメージを持っていませんでした。仕事中に電話がかかってきたり、興味のない商材のことを話されたりという経験があったからです。しかし、今回の件で、そのイメージが一面的だったことに気づきました。

電話というのは、営業する側が相手の都合を無視して売りたいモノを売る手段だと思っていたのですが、適切に使えば生活者のモーメントにピンポイントに突き刺さるアプローチが可能なツールなのですね。U-NEXTはその特性を非常に効果的に活用しているのだなと思いました。

今回の場合で言うと、NURO光に切り替えたタイミングでの電話だったことが、大きなポイントです。おそらく、高速インターネット回線を契約する世帯は、高確率で動画やゲームなどオンラインのエンタメに興味があるというデータがあって、そうした世帯にピンポイントに電話営業をかけているのではないでしょうか。わが家がNURO光に契約したのは、夫婦ともに在宅勤務の割合が大きくなったことがおもな理由なのですが、それと同時に私は映画が好きで、夫はオンラインゲームが好きでもあります。

また、AV Watchの記事ですが、U-NEXT代表取締役社長の堤天心氏へのインタビュー「【西田宗千佳のRandomTracking】日本勢でトップ、U-NEXT『200万加入の先』にある戦略。堤社長インタビュー」を読むと、私が以前にたびたび遭遇していた、「あぁー、この映画、U-NEXTだったら観られるのかぁ」というモーメントも、U-NEXT側が狙って作り出していた状況だったことがわかります。

この記事によると、U-NEXTはデジタルマーケティングに特に力を入れており、「二番手戦略」「品揃え重視戦略」を掲げて、社内のデータベースを整備してきたそうです。たとえば、Googleで映画のタイトルを検索すると、ナレッジパネルに視聴可能な動画配信サービスが表示されますが、そこにきちんと表示させることで品揃えの豊富さをアピールする「テールマーケティング戦略」です。私がFilmarksでたびたび「U-NEXTなら観られるのか」と思ったのも、この地道なデータベース整備のおかげなのでしょう。

「U-NEXTなら観られるのに」&「タイミングよくかかってきた営業電話」、どちらも最適なモーメントを捉えていると思いませんか?

引っ越しの後片付けというモーメントを捉えた「サマリーポケット」

改めて日常を振り返ってみると、最適なモーメントを捉えるマーケティングは、じつはいろいろなところにあると気づきます。

以前、引っ越しの当日に引っ越し業者から渡された書類の中に、宅配収納サービス「サマリーポケット」のチラシが入っていました。サマリーポケットとは、箱に詰めて荷物を送るだけで中身をリスト化してくれて、ネットで簡単に荷物が管理できる宅配収納サービスです。

チラシには、「引っ越しの段ボールを開封せずにクローゼットに押し込むだけなら、サマリーポケットに預けると便利だよ」と書いてありました。本来は、専用ボックスを取り寄せて荷物を預ける必要があるのですが、サマリーポケットは引っ越し業者数社と提携していて、段ボールのまま預けられるサービスも展開していたのです。

引っ越し直後は、少しでも早く新居で快適に過ごしたいのですが、疲れていてなかなか片付けが進みません。そんなときに、箱に詰まったままの荷物をそのまま預けていいという提案は、最適なモーメントを捉えていると思いませんか?

転職・副業意欲というモーメントを捉えたYOUTRUST

日本のキャリアSNS「YOUTRUST」も、副業や転職意欲というモーメントを捉えているところが特徴であり、それこそが支持されている理由ではないかと思います。

YOUTRUSTは、名前のとおり”信頼”をキーにしたキャリアSNSです。つながりのある友だち、または友だちの友だちまでしかオファーを送ることができません。さらに、ユーザーは転職意欲および副業意欲を「まったく考えていない」「良い案件があれば」「検討している」「積極的に探している」の4段階で設定できます。この意欲を「まったく考えていない」から他のステータスに変更すると、つながりのある人に通知が行く仕組みになっています。これによって、企業側は最適なモーメントでオファーすることができるわけです。

ちなみに、弊社ヘイのCTO藤村大介もYOUTRUSTをきっかけにヘイに入社したようです。

好機逸すべからず! 最適なタイミングでアプローチをする大切さ

施策を検討するときは施策内容に目が向きがちです。しかし、どれだけいい施策でも、それが顧客にとって最適なタイミングでアプローチされなければ、顧客の目にとまりません。

自戒を込めてなのですが、施策を実行している立場になると、施策を完遂することに必死になってしまい、カスタマーエクスペリエンスを二の次にしてしまっていることもあると思います。たとえばSNSの投稿は、顧客にとっての最適なタイミングで打つからこそ意味があります。でも、日々の業務の中では、目の前に追われすぎていて、ただこなしてしまっていることもあります。

マーケティングの「基本のキ」ではありますが、顧客視点を持って、施策の検討段階から最適なタイミングで届けるところまでを見据えた計画を立てること、カスタマーエクスペリエンスの向上を考えることがいかに大切なことか、今回のU-NEXTの件を振り返って、改めて実感したのでした。

ご感想、ご意見があればぜひ、お気軽に私のTwitterアカウント(@sweet_chiho)へリプライをいただければ幸いです。

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