インタビュー

「価値を理解できなければ、ヒトは動かない」他部署とギスギスしない B2Bマーケティングの進め方

B2Bマーケティングの組織作りについてアドビの祖谷氏に話を聞いた。

これまで案件獲得は営業の仕事と割り切っていたB2B企業でも、新規獲得などに苦戦して、マーケティングを強化する動きが増えている。今回は、自身も新しいB2Bマーケティング組織を作り上げ、成果を出しつつある、アドビ株式会社DXマーケティング&セールスデベロップメント本部 執行役員 本部長 祖谷考克氏に、B2Bマーケティングの組織づくりについて、Web担当者Forum編集長の四谷が詳しく聞いた。

価値を理解できなければ、ヒトは動かない

――B2Bマーケティング組織の作り方をテーマにお話をうかがいますが、そもそもB2Bのビジネスはどういうものだととらえていますか? また、祖谷さんとB2Bの関わりについても教えてください。

祖谷: 定義としては、B2Bは企業間取引のビジネスで、B2Cとの違いは購入決定までに携わるプレイヤーが多いことです。私はB2Bマーケティング一筋というわけではなく、新卒で博報堂に入社し、15年間の在籍中13年間ある自動車メーカーの担当をしていました。B2B2Cの業界で、どうしたらクライアントのビジネスをよくするかを考えていました。

アドビにはコンサルタントとして入社し、2017年にデジタルストラテジーグループを立ち上げました。その後、「自社のDX事業のマーケティングのモダナイズをしてほしい」という経営層からの期待もあり、現在のポジションに就きました。

それまでのDX事業のマーケティングを一言で表すと、イベントやホワイトペーパーダウンロードで集めた名刺情報をテレマーケティングに渡すこと。経営陣には集めた名刺と一致する企業の案件すべてを積み上げて売上貢献を報告していました。私は当時、ポストセールスにいましたが、実際の売上の成果とマーケティングの報告数値に乖離があるように感じていました。

アドビ株式会社DXマーケティング&セールスデベロップメント本部 執行役員 本部長 祖谷考克氏

――無理に売上に紐付けたようなKPIでは、他の部署からは本当の意味で感謝もされなければ、評価もされないですよね。

祖谷: 私自身、国内のB2Bマーケティングの遅れについて危機感を発信している先輩たちの話を聞いて影響を受けており、このままでは海外と戦えないし、成長がないと思っていたので、まずは組織として一枚岩になる必要性を感じていました。そのためには、マーケティングは「象牙の塔」になってはいけないと思います。というのも、マーケティング用語で、セールスなど他の部門を説得しようとしても伝わらないからです。

前職の広告代理店時代に、価値を理解してもらわなければ、ヒトは動かないということを痛感していました。B2Bマーケティングでも、マーケティング部門で価値があると思うことをやっても、セールス、経営に価値を理解されなければ評価されません。

B2Bマーケティングは神経であり血液である

――国内のB2Bマーケティングが遅れていると感じる理由はどこにあるのでしょう。またマーケティングの重要性が認識されるとしたら、どういうきっかけが必要でしょうか。

祖谷: そもそも、営業が案件を作るからマーケティングは不要という企業もあります。アドビのコンサルタント時代、「MAツールを導入したくても、引き合いだけで数字がとれるので、セールス部門が協力してくれない」という相談を受けることもありました。

しかし海外の企業は当たり前のようにABM(Account Based Marketing、企業単位にアプローチすること)をやっていますし、国内でもスタートアップなど新しい世代の企業は、B2Bマーケティング思考で取り組んでいます。他の企業がやっているという外的要因によってマーケティングの重要性に気付かされている部分があると思います。

――「事業部が強い、製品も強い、マーケティングの必要がない」という考えの企業において、B2Bマーケティング組織の必要性を伝えなければいけないと思いますが、どう伝えればよいのでしょうか。

祖谷: B2Bマーケティングは、経営そのもの、人間の体にたとえるなら、体中に張り巡らせられる神経であり、体内を巡る血液だと思っています。強い事業部というのは、右手が強いというようなものです。いくら強くても神経も血液も拒んでいては、やがて動かなくなりますし、腐ってしまいます。

私の理想はマーケティングの組織が全社に散らばっていることです。宣伝広告、製品開発、サプライチェーンなど、すべての部門でお客様とどうコミュニケーションするかという神経でつながって、お客様やマーケットの情報が血液として流れることで組織という体が有機的に動きます。

企業は顧客発想といいますが、その発言が企業視点であるともいえます。企業からみて「お客様はこうだよね」と決めつけるのではなく、お客様の中にも決裁権者もいれば、購買部、ユーザー、IT部門など複数の利害関係者がいて、それぞれの立場でものごとをみているので、本当に理解するためには、顧客側に飛び込んでいかないといけません。

それをマーケティング、セールスでそれぞれ勝手にやっていてはうまくいかないので、同じ情報を血液として循環させなければいけないですし、神経回路は同じ指令系統で動かさないといけません。

――経営者も全身に血液がまわることを考えて組織を考えることになりますね。

祖谷: そうですね、経営者に求められる役割も変わってきています。昔は、会社で成果を出している人が社長になるようなランクアップの到達点として社長がありました。そのやり方がうまくいかなくなると、外部からプロフェッショナルの経営者を呼んでくるケースが増えました。それも難しくなって、今はステークホルダー主義というのでしょうか、財務諸表を良くするだけでなく、製品、サービス、ビジョンを信じ、愛していて、サービスを世の中にどう伝えていくのか、熱量を持っている人でないと、この先は難しいように思います。

経営を動かすためには、まずはインパクトの大きいところから成果を示す

――B2Bマーケティングの組織を作るとき、経営層の理解がありトップダウンで始める場合はよいですが、ボトムアップで始める場合、何から始めればいいのでしょうか。

祖谷: マーケティング部門だけではワークしないので、いかに味方をつくるかです。味方にするのは、経営層が一番ですが、発言力のある組織でもいいでしょう。そして、彼らにとってメリットのある領域で、インパクトを与える施策にフォーカスするのが第一歩です。

社長肝いりで組織づくりがされる場合は、マーケティングに求められていることは何か、という基本から始めればよいですが、そうでない場合はまずは相手の立場に立って、何をしたらこの人はマーケティング組織の価値を認めてくれるのか、社内マーケティングが必要です。

先程、会社が一枚岩になっている必要性があると話しましたが、液状化している土地に建物は建たないので、まずはしっかり整備してから組織を作って欲しいです。

――たしかに「下地つくり」は大事ですね。社内マーケティングとは具体的にどんなことをすればいいのでしょうか。

祖谷: ある著名なマーケターの方が、新しい会社に着任された時に最初にやったことは、社内のいろいろな人達と直接話して、自分のアイデアを仮説として伝えたこと。相手から反応を得て、自分のアイデアが二人のアイデアに、二人のアイデアが組織のアイデアになり、推進していけたそうです。私の経験からもうまく話を進めるには、セミナー形式で一度に大勢に話すよりも、パーソナルな場所で個別に話したほうが、よく聞いてもらえます。

もう一つ、最初のアクションに対するリターンとして、経営層やセールスに100点を約束するのではなくて60点を示すことです。40点では、投資は得られませんが、60点なら大きく得もしていないけど損はしていない、ということで検討してもらえます。そして60点なら現実的に達成可能なプランを実行することができます。ただし、次は61点、62点と少しずつでも成果を改善しないといけません。インパクトのある部分で、最初は大きな成果がなくても、成長していることを示せれば、投資を継続してもいいのではないかと思ってもらえます。

同時に、長期的なプランも示すことです。60点の成果だけでは「そんなものか」と思われるので、現状は60点だけど、今後これとこれをやれば、業績への影響はこれくらいになると、ここは夢を語ってもいいと思います。

――まずは及第点(60点)を目指す。ビジネスマンの処世術みたいで良いですね。

祖谷: 私がDX事業の統括になって、最初にやったことは、日本のマーケティング予算の成果を可視化することでした。着任当初、本社から「(前年度の)日本のマーケティングの投資に対するリターンのロジックがわからない」と言われて、予算を半減された状態でした。そこで最初の1年は、何をやっているのか、想定値、実績値を可視化し、そのギャップがなぜ生まれたのか、それを踏まえて今後のアクションプランを伝え続けました。

着任時にマーケティングROIを10倍にする、というような約束はしておらず、まずは投資に対するリターン、その背景、次の計画を示すという基本をおさえて、次の1年を見てもらうことになりました。

当初は、マーケティングからリードをインサイドセールスに渡して案件化したものは目標金額の50%未満でしたが、初年度末には100%近い達成率となり、その翌年度は大きく目標を上回る成果を毎期計上できるようになり、日本への再投資の判断を引き出すことに成功しました。

マーケティング部門がないのが理想の形

――祖谷さんが考えるマーケティング組織の理想的な形とはどんなものでしょうか。

祖谷: 究極を言えば、マーケティングの機能を集約したマーケティング部門がないことです。体に例えると、右手がマーケティングではだめで、全身にマーケティングが行き渡っていることが理想です。もちそん、一足飛びにそこには行かないので絵空事に思うかもしれませんが、B2Bマーケティングを極めた組織はそうなるのではないかと思います。

――リード獲得、リードナーチャリング、インサイドセールスなど業務としてはあっても、組織として独立していないという状態ですか。

祖谷: もっとも会社の規模で違うと思います。ただ、少なくともアドビのDX事業部においてはそれが理想かなと思います。サービスが多ければ、マーケティングを横串でするのか、サービスごとにするのか変わると思いますし、大企業になるほど全社でマーケティングを実現するといっても、社員全員がマーケティング思考をもって動くというのはかなり難しいと思います。

――社員全員がマーケティング思考で、会話が成り立つ状態は確かに理想的ですよね。マーケティングの組織づくりで、これはやめたほうがよいということはありますか。

祖谷: 過剰にやりすぎることですね。CRMやSFAを導入するときにやりがちなのが、将来的にこの情報も使う、あの情報も使う、と最初からたくさんの項目の入力を営業にお願いすることですが、これでは絶対うまくいきません。

最初は、企業名、担当者名と連絡先、受注の想定タイミングくらいがあれば良いと思います。数十年前の自前で構築するようなシステムでは、最初の要件定義で入力項目を決めておかないと後から追加するのが難しかったかもしれませんが、今の時代であれば後から入力項目の追加はいくらでもできます。大切なのは、スモールスタートで始めること、そしてスモールエンドで終わらせないことです。スモールスタートでうまくいったら、スケールアップして情報を増やしていけばいいのです。

――データを増やしていくには、ほか部署、特に営業部門との調整が必要ですが、入力をしてくれないので、マーケティングからのリードがその後どうなったのか、パイプラインを追跡できないという課題も聞きます。一枚岩になるにはどうしたらよいでしょうか?

祖谷: 海外の人と働くときに、日本語で伝えないのと同じように、営業の人と話すときには営業の言葉で話すのが最低限のスタートです。

「MAでMQLを増やしてSQLになったら渡します」と言っても伝わらないのです。向こうの関心は受注件数、金額なので、相手の興味のある視点、言葉で話す必要があります。営業は、MAのプロセスを知らなくても、「マーケティングから来る案件は成約率が高いね」と思ってもらえれば、入力もやってくれるようになります。使うためのコストが低いほどいいので、最初は少ない項目を入力してもらって、案件を増やしていく、そうすれば入力項目が増えても対応してもらえるので、うまくタイミングを設計する必要があります。

日本的なアプローチで経営層を巻き込むことも重要

――経営層に興味を持ってもらって、振り向いてもらえるコツはありますか。

祖谷: 3つありますね。一つは、経営層が気にしていることは売上、業績なので、経営に対する長期的なインパクトを数値で描いて示すことです。業績に伸び悩んでいるのであれば、こうすれば数字が伸びるというロジックが必要です。

2つ目は、絵空事と言われても、成功できると感じさせるストーリーをポジティブに伝えつつ、甘みを引き立てるために塩になるようなホラーストーリーを少し加えることです。競合がこういうことを始めていて、市場がこれだけ奪われる、その時の売上のインパクトはこれくらい、というような話です。

3つ目が、手柄を渡すことです。経営者が株主に業績を発表する時に、新しい取り組みをしたと言えるようにする、事業部なら経営から成長してすごいね、と言われた時に「デジタルを使ってやりました」と自分たちの判断として取り入れたと言わせることです。昔ながらなやり方ではありますが、結果的にそれが一番全体がうまく回るコツになることが多いのではないでしょうか。

――祖谷さんがマーケティング組織づくりで苦労したこと、丁寧にやったことはありますか。

祖谷: 1年かけて可視化、2年かけてそれがラッキーパンチではないことを証明しました。3年目で予算が追加され、人員を増やしてもらいました。ですから3年目はより積極的な展開をする正念場になります。

自分だけがこうやりたいと思ってもうまいくいかないので、チームで動くことです。私は前職がコミュニケーションの会社で相手にどう伝えるかによって、伝わり方が変わることを実感しているので、プレゼン資料の作り方などにもこだわりました。

最初は睡眠時間を削って、資料作りもしていましたが、それでは立ち行かなくなるので、1年かけてチームの状態を肌で理解できるようになり、2年目からは出来るだけチームメンバーに任せるようにしました。

やってはいけないことは、全部任せておきながら、できたものに違うということです。反対にこうしてほしいと細かく言い過ぎると、マイクロマネジメントになって、時間がかかってしまいますし、メンバーが育ちません。リーダーの役割は大きな方向性をしっかり伝えて、任せることです。それでずれたら、なんでずれたのかを聞けばいいのです。

――最後にメッセージを。

祖谷: マーケティングは、唯一無二の正解もないし、ゴールもありませんし、正攻法もありません。施策を判断するのはお客様ですし、年々期待値が上がっていくので、達成感を抱きにくいかもしれません。しかし、昨日できていなかったことが明日できていれば、それだけで勝利です。大きな夢にたどり着かないからつらいではなく、一つ一つ積み重ねるのが大事で、それを続けていると気づいたときに高いところまできているというようなものだと思います。昨日から今日の第一歩を大事にしてください。

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