【レポート】Web担当者Forumミーティング 2021 秋

「数字」と「データ」の違いは? 「数字から仮説を導く」という迷信から抜け出す思考法

「数字から仮説を見つけることは迷信だ」というJX通信社の松本氏が、ビッグデータ時代における仮説の思考法について解説する。

データを用いたマーケティングの重要性が叫ばれる一方、「データ疲れ」「分析疲れ」を起こしている現場のマーケターもいるのではないだろうか。「数字信仰」から脱却し、「顧客の声」などの定性的なデータを用いて意思決定を下すアップデートが必要だと指摘するのが、JX通信社の松本健太郎氏だ。

Web担当者Forumミーティング 2021 秋」では、「数字から仮説を見つけることは迷信だ」とする松本氏が、ビッグデータ時代における仮説の思考法について話した。

株式会社JX通信社 マーケティングセールス局 マーケティングマネージャー
松本 健太郎 氏

「数字」と「データ」の違いとは?「意味」を持たなければ、数字はデータとは言えない

デジタル化が進み、マーケティングとデータは密接となり、切り離せなくなっている。マーケティングにおけるデータ活用の重要性が認識され、数字なくして意思決定は下せなくなった。一方で、「数字だけ」で改善を行う難易度は格段に上がったのではと松本氏は言う。なぜなら、数字はWHAT(何)はわかっても、WHY(なぜ)はわからないからだ。

まず松本氏は、そもそも「数字」とは何か、「データ」とは何が違うのかを問うた。「数字」と「データ」の違いを理解するための例として、松本氏は次のスライドを示し、「いちごは何個あるか?」と問いかけた。

いちごは何個ある?

「3個と答える人もいれば4個と答える人、2個という人もいる。問題を出された人が誰であれ、人数が10人であれ100人であれ、全員が一致した答えになることはない」と松本氏。「個数」を聞いているだけなのに、なぜ人によって回答が異なるのだろうか。

松本氏は、「データ」には数学だけでなく国語の要素が含まれているからだという。「情報を表現したもの」が「データ」だ。データとは伝達、解釈または処理に適するよう形式化され、再度、情報として解釈できるものである。

情報、つまり「事実、事象、過程、着想などの対象物に関して知り得たこと」を表現する形式がデータだということだ。私たちは「データ」=「数字」と捉えがちだが、そうではないと松本氏。万国共通で、誰もが認識齟齬のない表現として最適なものの1つが「数字」にすぎないだけなのだ。

前出の「いちごの個数問題」は、引っかけ問題であり、個数を問う数学問題に見えて、実際には「個数の意味」を定義する国語問題になっていた。「個数」とは何かを聞かなければ、答えることができない問題だったのだ。

1つのいちごを1個と数えるのか、半分のいちごは0.5個とカウントするのか、1個としてカウントするのか、この定義が決まらなければ数を数えようがありません。データとは、数字を数えるものだと多くの人が思われていますが、『数字を数える』とは、どのようにして数えるのか、という定義をしない限り、永久に解決することがない問題に突入することになります(松本氏)

何らかの「意味」を持たなければ、そもそも数字はデータとは言えない。データは「意味」を理解する必要があり、意味を理解せずにただ数字だけを追いかけていると、「分析疲れ」を引き起こすと松本氏は指摘する。

「数字」を追っているだけになっていないだろうか

ここで、松本氏は「みなさんは『数字』を追っているか、それとも『データ』を追っているか」を問うた。たとえば、「先週比で資料請求CVRが0.6%上がった」「商談化率が10%しかないのはおかしい」といった話は、データを評価しているようで、数字を評価しているに過ぎないという。

「データ」と「数字」は同義ではない。ここで議論すべきは、まず「資料請求CVR」の「意味」は何かということである。同様に、資料請求とホワイトペーパーのCVRの違い、あるいは、CVしなかった「理由」は何かということである。これらが言語化できてはじめて、意味の解釈ができるのではないかと松本氏は述べる。数字そのものには意味がなく、数字と「意味」が内包されたものが「データ」だからだ。

そもそも「数字」とは何か? データと何が違うのか?

データ項目の意味や違いを定義、言語化できること、意味のある数字をつくることがマーケターに求められる能力だと松本氏はいう。資料請求のCVRの数字を見ただけでは、CVしなかった人の気持ちは知りようがない。管理シートを埋める数字遊びはやめるであり、なぜその行動を取ったのか、取らなかったのかを知ることにもっと時間を割くべきだと、松本氏は述べた。

データ分析に必要な「仮説」の作り方。「帰納法」と「演繹法」

続いて、松本氏は、データ分析には仮説が必要だと話した。仮説とは「正しさは証明できない仮の答え」のことだ。なぜ仮説が必要かと言うと、「可能性を絞り込むため」だという。手元にある情報が少なかったとしても「こうではないか」という結論を持っておくことは大事だ。

では、仮説はどのようにして作ればよいのだろうか。仮説は発想やセンス、思いつきではなく、作り方には法則があり、型(推論)を知れば、作りやすくなるという。

松本氏はまず2つの推論の型を紹介した。

推論の型その① 帰納法

1つ目の推論は「帰納法」だ。これは、具体例から抽象度を上げていく考え方で、たとえば、「ニンジンには栄養がある、ジャガイモにも栄養がある。ならば野菜には栄養がある」というように「事実」の事象から共通点を発見し、結論を導いていく。

帰納法の考え方

ニンジンとジャガイモに共通するのは「栄養がある」ことであり、より抽象度を上げた「野菜」にも当てはまるはずだと考えていくのだ。

推論の型その② 演繹法

2つ目の推論は「演繹法」だ。抽象から具体に移る考え方で、たとえば、「野菜には栄養がある」「ニンジンは野菜である」という2つの前提から「ニンジンには栄養がある」という結論を導いていく三段論法である。

三段論法は演繹法の代表例だ

帰納法は新しい観念や発想を生み出さない

松本氏は、帰納法と演繹法の関係を、「帰納法から仮説が構築され、それが演繹法で検証される」と説明した。だが、この2つの推論も万能ではない。帰納法は新しい観念や発想を生み出さないデメリットがあるからだ。

ニュートンは、リンゴが木から落ちる瞬間を見て「リンゴが地球に引っ張られた」という万有引力の法則をひらめいたといわれる。しかし、「リンゴが落ちる」「牛乳がこぼれる」「雨が降る」という事象を見ること(帰納法で推論すること)からは、観察不可能な「引力」は発想できないのだ。

松本氏は、仮説には「現在の延⻑」と「0からのひらめき」の2種類があると述べる。私たちマーケターが現場で必要とする仮説は、どちらかと言えば「0からのひらめき」ではないだろうか。「CVRを爆上げするようなアイデア」は、現在の延長線上にある「改善」ではなく、非連続な成長である「イノベーション」である。こうした仮説を作る法則はあるのだろうか。

3つ目の仮説の作り方、アブダクション。その本質は「観察」と「因果関係」

そこで松本氏が紹介するのが、3つ目の仮説の作り方である「アブダクション」だ。これは「驚くべき事実Bが観察される。しかし、もしAが真であれば、Bは当然の事柄だろう。よってAが真であると考えるべき理由がある」という発想だ。事実から始まり、事例から結論に至るものだ。松本氏は図を示し、詳しく説明をした。

アブダクションは『結果の観察』から入ります。結果をもたらした因果関係をひらすら考えるわけです。すなわち、結果がAなのであれば、AだったらBというのを引き起こすのではないかと考えます。アブダクションは因果関係の追求、帰納法は事実の集約だと言えます(松本氏)

アブダクションによる仮説の作り方

アブダクションの本質は「観察」と「因果関係」にあるが、松本氏は、イノベーティブな仮説を導く上で、「常識」が障害になることがあると指摘した。常識は「ブラックスワン」(予期せぬ出来事)に弱い。因果関係を考えれば当然なのに、頭のよい人ほど帰納法的に導かれた「黒い白鳥など存在するはずがない」という「経験」や「常識」が邪魔をするというのだ。私たちは、見ているようで見ていない、見ているようで決めつけていることがあると松本氏は指摘する。

こうだろうという前提のもと、事実を見ずに、バイアスがかかっていたり、ショートカットをしたりして、全体を見ているようで見切れていないパターンが多いと思います。たとえば、顧客を理解しようとなったとき、どこまで事実ベースで顧客をみれていますか? それは事実でしょうか? あるいは、ショートカットしたみなさんの単なる主観でしょうか(松本氏)

数字が答えを教えてくれることはない。すべての答えは現場、顧客にある

松本氏は、改めて「『0からのひらめき』といえる仮説は観察から生まれる」と述べた。観察の結果、得られた定量的、定性的な情報から因果関係を突き止める。その仮説からマーケティングはスタートする。筋の良い仮説とは、アブダクションの観点で「因果関係があり」かつ「説得力がある」仮説だ。

イノベーティブな仮説を導くことは「決して特殊能力ではない」と松本氏は話す。「0からのひらめき」といえる仮説は観察から生まれるが、「数字」そのものを見るだけでは因果関係に気づくことはできない。ダッシュボードや計数管理表に縛られることなく、「現場に赴き、顧客に会いにいこう」と松本氏は提唱する。数字そのものが答えを教えてくれることはない。すべての答えは現場、顧客にある。

「『なぜ買わない人がいるのか?』といった『WHY』を因果関係で説明するための材料を集める、これが分析のスタートラインです。そのことから、数字から仮説を作ることは迷信といえます」と語り、松本氏はセッションを締めくくった。

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