[マーケターコラム] Half Empty? Half Full?

マーケターの理想はH型人材? 基本情報技術者資格取得のすすめ

マーケターによるリレーコラム、今回は花王の辻本光貴氏。マーケティングにおける今後のキーパーソン「H型人材」について。
花王株式会社 メディア企画部デジタルメディア室 辻本光貴

花王株式会社の辻本です。

皆さんはマーケターとして、どのようなキャリアプランを考えていますか。

私は「H型人材」を目指して、さまざまなプロフェッショナルと関わり合いながら、仕事に打ち込んでいます。

今回は、私が考える「これからのマーケターに必要なスキル」についてお話しします。

H型人材はマーケティングのキーパーソンになる

「顧客理解なくして、テクノロジー活用なし。テクノロジー理解なくして、マーケティング立案なし」

これから20年、30年とマーケターとして戦いたい私は、上記を念頭に仕事をしています。

顧客理解のないテクノロジー活用は、誰にも使われないアプリや、嫌になるくらい表示されるリターゲティング広告などが生まれる原因になります。

一方、テクノロジー理解のないマーケティング立案は、過不足のあるITサービスや、活用されないデータベースなどが生まれる原因です。

マーケティングにおける今後のキーパーソンは、ITとマーケティングをつなぐ人材、つまりIT技術を熟知して社内リソースを活用し、マーケティングに活かす「H型人材」ではないかと、私は考えています。

H型人材を目指したきっかけ

H型人材とは、人材開発の分野で語られる人材タイプのひとつです。自分の専門分野を持ち、関係する他の専門分野の人材を連携して活用できる人材のことです。「H」の縦棒は、「自分」と「別の専門分野を持つ人」を表し、横棒が「両者の連携」を表しています。

私がH型人材を目指した背景には、これまで所属した組織での経験があります。以前所属していた旧デジタルマーケティング部では、組織内部署同士の定期的な情報交換によって、システム開発やデータ分析の具体的な業務を知る機会がありました。私はこの機会を通じて、

  • デジタル上で仕組みを作り、データを集めてコミュニケーションに活かす戦略・戦術を考えられる人間が今後求められる
  • ITのことは他の人に任せるよ、でマーケターは良いのだろうか。他人の土俵でも幕内力士になれるくらい、力を持っていないとダメなのでは?(マーケティングを人任せにしないエンジニアやデータサイエンティストに太刀打ちできない)
  • マーケターはこれから、エンジニアやデータサイエンティストと当たり前に意見交換できるようになるべきではないか

と思い至りました。そして、デジタル広告を極めるだけではなく、システム開発やデータ分析にも明るいH型人材になるべきと考え、基本情報技術者試験を受験することにしました。

基本情報技術者試験とは

基本情報技術者試験は、経済産業省が認定する国家試験「情報処理技術者試験」のひとつです。

特定の製品やソフトウェアに関する試験ではなく、情報技術の背景として知るべき原理や、基礎となる知識・技能について幅広く総合的に評価するもので、ITエンジニアとしてキャリアをスタートする際、持っておくと良い資格です。

この試験に合格すると、高度IT人材になるために必要な基本的な知識や技能をもった、実践的な活用能力を身につけた者として認定されます。出題分野は以下のとおりです。

  • 情報セキュリティ(暗号化・認証・情報セキュリティ対策・脅威と攻撃手法など)
  • ソフトウェア(OSの構成と機能・記憶管理など)
  • ハードウェア(論理回路・メモリアーキテクチャ等)
  • データベース(関係データベース・SQL・データベース管理システムなど)
  • ネットワーク(通信プロトコルの標準化・伝送技術・交換方式など)
  • プロジェクトマネジメント
  • サービスマネジメント
  • 経営戦略
  • 企業と法務
  • システム戦略
  • データ構造およびアルゴリズム
  • ソフトウェア設計・開発

試験は午前と午後に分かれており、どちらも選択式の問題が出題されます。それぞれ正答率60%以上をとることで合格です。興味のある方は公式サイトで詳細をご覧ください。

上記の試験項目を見ると「理系じゃないと難しそう」と思われがちですが、文系学部出身の私でも独学で合格できました。出題されるすべてが未知の事柄ではないからです。

文系出身デジタルマーケターにおすすめの勉強法

試験項目には、プロジェクトマネジメント、経営戦略、企業と法務のように、文系出身のデジタルマーケターにもなじみの深い項目があります。これらは普段の業務にも関わるため、とっつきやすいです。まずはここから勉強を始めて、自信をつけると良いかもしれません。

また、午後問題のソフトウェア開発分野では、C言語、COBOL、Java、アセンブラ、表計算の5つからどれか1つを選択しますが、文系の人は表計算がお勧めです。表計算ソフトで関数を使いこなせ、マクロの組み方がわかっていれば、きちんと問題を解くことができます。

このように考えると、試験に出る30%くらいは通常業務でなじみのある内容です。つまり、残りの70%で半分正解すれば試験に合格します(もちろん、試験に受かることが目的ではなく、ITの理解が目的ですが)。

私が苦労したのはアルゴリズムです。周りに聞ける人がいない状況でしたが、YouTubeを検索すると、多くの“先生”がいました。過去問を解いてまったくわからなかった部分は、動画を見て勉強することで、自分の不明点をなくしていきました。この勉強法でアルゴリズムは本番でバッチリ解けました。

資格を取得したことでどういう効果があったか

私の場合、LINEアカウントの社内外データベース連携検討で、ブランド担当と社外開発担当者の間に立って話をするときに、資格で得た知識が役に立ちました。たとえば、ブランド担当が実現したい内容に合わせて、必要なシステム構成を検討し、社外開発担当者と意見交換ができました。

それだけではありません。私が所属する部署ではSNSアカウントの管理台帳をまとめています。その管理台帳を、データ抽出の改善を求めて刷新することになりました。そのための要件定義書や管理方針を作るにあたり、基本情報技術者試験で得た知見が役に立ちました。

ご紹介した内容は、仕事としてはどちらも小さな話かもしれません。しかし、要件定義からシステム設計までがしっかり理解できるようになると、社内でDXを推進する際に動きやすいはずです。

今は、DXは会社単位、部門単位の大きな話と捉えられていますが、20年、30年経った時、もはや通常業務かもしれません(これまた極端ですが)。

まとめ

専門性の垣根は、将来ますます低くなると思います。なぜなら、いまの世の中、複数の専門領域を組み合わせて新しいものを生み出し、それに伴って、個人ベースで新しいスキルの獲得が繰り返されているからです。

だからこそH型人材を今から目指すべきではないか。中でも、マーケティングとITの両方を極めた人間は強いのではないか、と私は考えています。少しでも基本情報技術者試験にご興味をもった方は、ぜひ受験を検討してみてください。

誰もが気兼ねなく、同じテーブルで一緒にお酒を交わし、どんな人材が将来重宝されるか、それに向けて、何にチャレンジをしているか。特に20代若手社員の方とは、このテーマについて意見交換できると嬉しいです。将来の夢や希望を語り合える日ができるだけ早く来ることを願いながら、今回の話を締めさせていただきます。

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