はてなが訊く「オウンドメディア成功の法則」

ウェブ電通報・編集長 小川達也氏に訊く 質と量を保ち続けるオウンドメディア運営の秘訣とは?

成功しているオウンドメディアには、どのような秘訣があるのか? 電通のオウンドメディア「ウェブ電通報」編集長の小川達也氏にお話をうかがった。

ブームとしてのオウンドメディアが一段落する中、オウンドメディアを閉鎖するというニュースも目にするようになった。一方、継続運用してブランド価値や売り上げ、ファンづくりに長期的に貢献しているオウンドメディアもある。

成功しているオウンドメディアには、どのような秘訣や成功の法則があるのだろうか?

本連載では、株式会社はてなの磯和太郎氏をインタビュアーに迎え、さまざまな人にオウンドメディアの運営、コンテンツ制作、継続の秘訣について訊いていく。第1回は、「ウェブ電通報」を運営する株式会社電通 小川達也氏にお話をうかがった。◎撮影 永友ヒロミ

ウェブ電通報

2013年10月にオープン。電通社員による研究調査、クリエイティブの考え方、最新テクノロジーの事例などのほか、インタビュー記事や対談、ニュースなど、幅広いコンテンツを公開している。

公開記事数は約7,000本、月間平均100本

磯和: 「ウェブ電通報」の成り立ちや現状について教えてください。

小川: 2013年10月にオープンして7年目に入りました。公開した記事数は約7,000本、平均で月間100本ほど公開している計算になります。

もともと紙媒体の「電通報」を月2回発行していましたが、月に1回発行になり、情報発信のスピード化を目的に「ウェブ電通報」を立ち上げるということになったんです。

株式会社電通 広報局編集企画部 シニア・ディレクター ウェブ電通報編集長 小川達也氏

磯和: 紙媒体は今でも発行しているのですか?

小川: はい。電通グループ社員とクライアント企業に配布しており、合計3万部発行していますが、ほぼ一般の人の目には触れないでしょうね。紙媒体とWeb版では内容が異なり、それぞれ別に運営しています。

磯和: 小川さんは「ウェブ電通報」の立ち上げから関わっているのですか。

小川: はい。立ち上げて4年携わり、一度2年ほど離れて半年ほど前にまた戻ってきました。立ち上げから意識しているのは、社員を表に出すことです。ソーシャルメディアで誰もが発信できるようになったからこそ、より「誰が言っているか」が重視されるようになっています。これからは、会社名よりもバイネームの時代だと考え、個人の価値を上げるためのメディアを目指したのです。

私は広報局にきて10年になりますが、最初は電通社員の本の出版など担当していました。しかし本は在庫を抱えるリスクやタイムリーな発信が難しいなどの課題があるので、Webならその課題を解決できると考えました。

立ち上げ当初は、書籍の執筆者など文章の上手な方中心に執筆してもらいました。記事が増えるに連れて、社内から次は自分を取り上げてほしい、このプロジェクトを紹介したいという声がかかるようになりました。

磯和: 社内から声が上がるのはいいですね。小川さんは提案されたネタの精査などもやられているのですか?

小川: そうですね。私の毎日は、朝の7時から9時までが原稿のチェック、9時半から17時半までは社員からの持ち込みの相談を受けています。企画を持ち込まれて断ることはほとんどなくて、アイデアを聞いて、この切り口で行こう、読者に刺さる方向を探ろうという話をしています。電通は事業の幅が広いので記事の幅も狭めないようにして、相談しやすいセクションであろうとしています。

株式会社はてな サービス・システム開発本部 プロデューサー 磯和太郎氏

外部への発信だけでなく、記事をきっかけに社内のアクションも誘発する

磯和: 「電通報」の運営体制についてもうかがってみたいです。

小川: 携わる電通社員は数名で、彼らは企画やコーディネートを担当しています。編集は外部の編集専門会社に業務委託していて、そこの編集者が3名。約10人程度で運営しています。編集を外注しているのは、社内に編集の職種がなく、外部の知見が必要だからです。反対に社内人材については我々が詳しいですから、相互学習しながらやっています。また、取材や対談記事などは、企画ごとに外部のライターに依頼しています。

磯和: それだけリソースを割けるのはさすがですね。多くのオウンドメディアを運営する企業がリソース不足に悩んでいます。

小川: その悩みはよく聞きますね。ちなみに、「ウェブ電通報」をオウンドメディアと言っていいのかどうかは難しいところです。オリジナルコンテンツがメインですが、ニュースも扱う報道的な側面もあり二面性を持ち合わせているのが特徴です。

磯和: 広告収入やセミナー収入などはなしに、自社で運営しているメディアという点ではオウンドメディアだと思いますが、おっしゃるとおり、今の時代のオウンドメディアの再定義は必要かもしれませんね。日本の場合は限定して狭く捉える傾向があります。先日アメリカのコンテンツマーケティングのイベントに参加したところ、むしろ解釈が拡大しているなと感じました。

小川: 実は商業化も検討したことがありますが、試算上あわないなと思ってやめました。

磯和: そうなんですね。ターゲット読者はどう設定していますか?

小川: 紙媒体の「電通報」が電通の取引先向けで、部数に限りがあるので上層部の方中心になっているのに対し、「ウェブ電通報」は若手をターゲットにしています。アクセス解析を見ても7割が20~30代、残りが40代以上です。属性としては主にクライアント企業、広告業界の関係者、パートナー企業が多いですが、記事の内容によっても変わりますね。もちろん、社員からも見られています。2020年は、ターゲットを年齢問わず「意思決定者」、いわゆるC(Chief)のつく方にしたいと考えてます。またその方々に読後感として満足するものを提供できるよう尽力していきたいです。

磯和: インナーブランディングとしての役割もありますよね。

小川: 電通は部署ごとに仕事をしているので、他の部署の誰が何をやっているのかわかりにくいという課題があります。「ウェブ電通報」で社員を紹介した結果、「あの人と仕事をしたい」「あの人とこの人をつなげたい」といったアクションがあり、具体的なビジネスが実際に発生してグループの連携が強まっています。

これは編集メンバーにも口酸っぱく伝えているのですが、ただ記事を出すのではなく、そこからアクションが生まれること、オウンドメディアにとどまらない活動を加速させることを目指しています。

来年度はPV主義を全廃したい

磯和: 一方で、最近は外部の方を取り上げている記事も増えていますよね。

小川: そうなんです。NewsPicksの佐々木紀彦さん、インフォバーンの小林弘人さんなど、知名度があり、また電通のパートナー企業であるような外部の方を積極的に取り上げています。これは2020年からはさらに注力したいと考えています。なお、これまで運営側の広報局がコンテンツ上に(Web上に)登場することはありませんでしたが、これからはどんどん出ていこうと思っています。事業部と比べてフラットな立場での話ができるからです。

磯和: 当初の目的には社員のブランディングがあったと思いますが、変化した理由は?

小川: バックヤードにいる社員をオープンにすることは有効なのでこれからも続けますが、一方で社員だけでは閉じている印象を与えてしまいます。電通がオープンでフラットでフェアな組織であることを社内、社外にも意識的に伝えていきたいので、普段お仕事をご一緒している外部の方を中心に登場してもらうようになりました。電通は友達・ネットワークが多い集団であることが強みの1つなので、そこも伝えていきたいのです。

磯和: まさに広義のコンテンツマーケティングですね。アメリカのイベントでは、社内と社外をつなげるハブとしての意義がより重要になっていると強調されていましたが、同じですね。ちなみに、KPIとしてはどういった値を追っていますか。

小川: 来年度は引き合いなどの成果をKPIとしていきたいです。PV主義を全廃したいですね。トライアンドエラーで失敗をしてもいいから、アクションにつながるようなコンテンツを推進します。極端な話、PVが少なくてもアクションにつながればいいと考えています。

磯和: そうすると、獲得したリードがKPIになるのですか?

小川: 測りにくいので、そこは要検討ですね。今はコンタクトポイントが少ないので、メルマガ登録、イベント申し込みなど、ユーザーがアクションできる機能を用意して、リードも獲得し、読者とエンゲージメントを深めていきたいです。

つながりから新しい展開を生み出したい

磯和: オウンドメディアのあり方として悩まれたりすることはありますか? また離れていた期間もあったということで、戻ってきて変化はありましたか?

小川: 戻るときに、「ウェブ電通報」が本当に必要なのか、と考えました。自分にとっては子どもと同じ存在ですが、この子はこのままでいいのかと自問自答したのです。そもそも、会社としても電通がいったい何なのか、悩み、考え抜く時期でもありました。

私にとって電通とは、日本を元気にする、明るくする会社です。戦後、テレビやラジオのCMが人を楽しませたり励ましたりすることがありました。最近は、こうすればよくなる、幸せになるという話をする人が少なくなっているので、もっと本質的な話をしたいということがあります。

紙媒体の「電通報」が創刊したのは終戦間もない昭和21年ですが、中立公正な広告業界紙を作ることで、業界全体の地位を上げようとしました。この状況はある意味、広告業界の現状にも近いです。学生の就職先としても人気が下がっていますし、衰退産業として捉えられている一面もあります。電通がかっこよく見えない、テレビCM以外に何をやっているかわからない、という世間からの声が聞かれる中で、「ウェブ電通報」に戻ったのは、つながりから新しい展開を生みたいと思ったからです。

磯和: 「ウェブ電通報」がハブとなって新しいつながりを生むのですね。

電通ならではの動画にチャレンジしたい

小川: ただしコンテンツを読者にどう届けるか、コンテンツデリバリーは課題の1つです。今は一部Facebook広告、検索連動型広告を使っていますが、検索流入がほとんどで、他の施策ができていません。

今後は若い世代に向けた施策も必要です。自分の10代の息子のスマホの使い方を見ていると、テキストをほぼ読まず、スピーディに情報収集をしているので、動画やInstagramなど、新しいコンテンツデリバリー方法を見つけたいです。

さらに言えば、コンテンツの内容によって、これは読み物、動画、ソーシャルメディアと使い分けて、それぞれ適したフォーマットで作成し、それを収容できる場所として「ウェブ電通報」を位置づけたいです。特に5G通信で環境が変わるので、動画は可能性があると思っています。

磯和: なぜ、動画なのでしょうか?

小川: コンテンツはオリジナリティが重要です。社内にはアニメを制作する人、ドラマの監督をする人、脚本を書く人などさまざまな人材がいるので、彼らが短編動画を作れば、独自性のある電通らしい動画ができるでしょう。

磯和: ユーザーが作る動画は、素人っぽさが受けていて、いかにもプロっぽいつくりのコンテンツは受け入れられにくい傾向もあります。

小川: UGC(User Generated Content:ユーザーが作ったコンテンツ)の軽さ、プロの重さ、その中間くらいの動画がないですよね。軽さを広げるようなプロとアマの中間のようなコンテンツを近い将来出したいですね。

オウンドメディアに必要なのは熱量

磯和: 「ウェブ電通報」はブランディング、マーケティングの両方を担っていますよね。

小川: 広報なのでブランディングが中心ですが、マーケティングは常に意識しています。両方とも大事なので2つの中間の事業広報の位置づけですね。

社員は皆、外のクライアントに意識が向いているので、彼らの知見を会社に共有するという目的もあり、総合的に連携していきたいです。とりあえず、やろうよ、と声をかけて走り出す、だめならやめればいいし、うまくいけば続けるという考えです。周りから「攻めすぎ」「そんなにやるなよ」くらい言われたいですね。

磯和: オウンドメディアの運営で、中から広報、ブランディング、マーケティングを見られる小川さんのような人はなかなかいないですよね。

小川: 足りないところは補い合えばいいので、チームビルディング次第ですね。課題はコンテンツデリバリーと言いましたが、社内にInstagramが得意な人がいれば、その人を呼んでアドバイスだけもらって、中で回してもいいですし。ハブ型組織と言っているのですが、ガチッとメンバーが固定しているよりも、柔軟に変わっていくような組織にしていきたいです。

ただ、このメディアを絶対よくしたいという意思がないとだめですね。このネタが面白い、世に届けたいという熱量がないと、うまくいかないでしょう。今後、「ウェブ電通報」をやりたい人を、社内、社外から集めるようなイベントもやりたいですよ。

2020年は「攻めすぎ」と言われるくらい新しい取り組みをしたい

磯和: 小川さんは「ウェブ電通報」について、どのくらい先まで考えていますか。

小川: 2020年くらいまでですね。短期的ですよ。10年先なんてまったく考えていないですし、メディア環境は変わるので、できなくなったら畳んでもいいくらいの気持ちです。それが商業メディアとの違いかもしれません。

磯和: 昨今サステナビリティが重視されているので、意外でした。ハブ型組織では、一般のユーザーを巻き込むことなども含めて考えていますか。

小川: はい、コミュニティを作りたいですね。コミュニティはオウンドメディアの1つの完成形だと思っています。戦後、電通は存在感を出すために、ゴルフ場やパーティーなど「人が集まる場」を作ることに投資しましたが、それを今に置き換えるとコミュニティかもしれません。先人はいろいろ考えているので、それを学んで今なりに解釈して取り入れたいですね。

磯和: オウンドメディアを運営している他の企業の担当者に伝えたいことは?

小川: 周囲から「君は電通好きだよね」「電通愛すごいよね」と言われますが、そのとおりです。また、広報局なので外部の方から非常に厳しいご意見をいただいた経験があるので、「ウェブ電通報」のコンテンツに関して、かみつかれても動じない耐性があります。オウンドメディアの運用には愛情と打たれ強さが必要かもしれません。

磯和: ちなみに、一部の企業では、オウンドメディアで社員を表に出すと引き抜かれるのではという懸念をもつところがあると聞いたことがあります。

小川: 確かに、本を出版した人は転職する人、独立する人が多いですね。でも、それは世の中に価値を出せる人がいるということですから、いいことです。こっちが引き止めるようなことではないですし、外に出た後つながることも多いです。これからは、電通を辞めた人を取り上げようとも考えていて、企画が動いています。

もちろん引き続き社員は取り上げますし、業務で得た知見をフィードバックしてほしいと思っています。「ウェブ電通報」に出る、記事を書くことは社員にとっては自分をアピールする場でもありますし、それを見たライバル社員には「あいつには負けたくない」といい刺激になります。2020年は、日本を元気にしていくビックチャンスの年だと思っています。オウンドメディアを共にやっている仲間としてよりよい読者にとってためになるコンテンツを一緒に届けていきたいですね。

磯和 太郎(いそわ・たろう)

株式会社はてな サービス・システム開発本部 プロデューサー

大学卒業後、SIerやITベンチャー、フリーランスなどでの開発・Webディレクションを経て、2012年インフォバーン入社。ソリューション担当の執行役員などを歴任し企業のオウンドメディア構築やコンテンツマーケティングを推進。

2017年はてな入社後は「はてなブックマーク」「はてなブログ」のプロデューサーを経て、 現在は企業向けオウンドメディアCMS「はてなブログMedia」およびはてなのブロガーリソースなどを活用したコンテンツ制作支援を含むコンテンツマーケティングサービスの開発を統括している。

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