そもそも、ファンクラブって?
まずは、代表的なファンクラブのサービス内容をまとめました。
まず、大きく分類し、A. 年会費型と B. 月額型の2タイプに分類されます。年会費型は、プレデジタル時代の紙の「会報」をベースにしたものが多く、対して月額型は、デジタルコンテンツを中心としたサービスが提供されています。アーティストによっては、AB共に展開しているだけでなく、数種類の月額型サービスを提供している場合もあります。
月額型のデジタルコンテンツでは、限定ブログや限定動画、オリジナルSNSなど、ファンクラブに加入することでしか見られない「限定コンテンツ」がサービスの肝となっています。
実際に音楽アーティストやスポーツチームのファンクラブに入っている社員にアンケートを取ってみた結果をみていきましょう。(n=33)
ファンクラブにみんな満足してる?
費用に対して、会員特典に満足していますか?
会員特典について満足しているか調査したところ、「かなり満足している、まぁまぁ満足している」合わせて、約70%が「満足している」と回答し、総合的な満足度は高い結果となりました。
次はデジタルコンテンツの充実度について聞いてみました。
デジタル施策、デジタルコンテンツについて、充実していると感じますか?
総合的な満足度は高かったものの、デジタル施策・コンテンツの充実度に関しては「かなり充実していると思う」、「まぁまぁ充実していると思う」と回答した人は、39.4%、「あまり充実していない」、「まったく充実していない」と回答した人は、42.5%という結果となりました。
このように、デジタルコンテンツの充実度に関しては、必ずしも高くない実態が浮かび上がってきました。そこで、さらにインサイトを探るべく、数人にインタビューを行いました。
「限定コンテンツ」は充実しているけれど……。
ファンクラブでは、多数の限定コンテンツが用意されているにも関わらず、充実度についてはそれほど高くないと感じている理由は何なのでしょう?
インサイトを探るうちに、不満の原因は必ずしも「限定コンテンツの充実度」ではない実態が見えてきました。むしろ、「あまりコンテンツは見ていない」「SNSもあるし、全部情報を追いきれない」という声も聞こえてきました。
例えば、ファンクラブではないですが、俳優の佐藤健さんは、LINE公式アカウントで彼氏感のあるコミュニケーションを展開。さらに最近では、SUGARというアプリと連携させると、佐藤健さんからまるで生電話がかかってくるような体験ができ、さらに佐藤さんに指名されれば、その場で本人と話せてしまうというドキドキの体験が無料でできてしまいます。
このように、課金コンテンツでなくても、ここまでSNSでやってしまう時代。佐藤健さんの事例は特に先進的ですが、SNSを駆使して、質の高いコミュニケーションを展開しているアーティストが増えている現在、以前よりも限定コンテンツへの期待度が上がっているケースも考えられます。
さらにインサイトを探っていくと、共通するキーワードが浮かんできました。
- 「ファンクラブに入る一番の理由は、ライブのチケットの確保。これが大前提。」
- 「デジタルチケットは便利だけど、手元になにも残らないから寂しい。」
- 「ファンクラブの会報がデジタルになって、見なくなって退会した。」
これらの声から見えてくるのは、ファンにとって「ライブ」が最重要項目であり、「ライブへの参加欲求」が大きなウェイトを占めるということです。そして、チケットや会報のデジタル化は、「利便性」は上がっているものの、その一方で、「ライブの思い出やコンテンツを手元に残したい」という「体験価値」が下がっているケースがあるという現実です。
ファンクラブに限らず、サービスのデジタル化は、その「利便性」に注目が集まりがちですが、利便性だけではなく「情緒的な体験」を提供してこそ、受け取り手にとって本当に価値のあるサービスになるのではないでしょうか。それでは、ここからは、そんな「情緒的な体験」のヒントとなる、先進事例について紹介します。
KAT-TUN:写真付きデジタルチケット画像
まず、1つ目の事例は、KAT-TUNの「写真付きデジタルチケット画像」です。チケットレスでライブを楽しめるデジタルチケットは便利ではあるものの、手元に残せない、残せてもレシートのような簡易チケットでガッカリというケースが多いのが現状です。
そんな中で、KAT-TUNはファンクラブメンバー向けに、ダウンロードできる「写真付きデジタルチケット画像」を用意しました。画像には、ライブの開催日時、席次、名前が入っており、ライブ独自のスタンプが押されています。「思い出を形として残したい」願望を満たし、ファンクラブ限定で享受できる「優越感」を満たせるうれしい取り組みです。
嵐:部活認定証
この事例はファンクラブ限定ではなく、一般の方も参加できるイベントですが、メンバーが5つの「部活」をプレゼンする「部活」をテーマにした嵐のイベントでは、後日、特設サイトから、希望の部活を選んで「入部届」を提出すると、「部員証」が発行され、ダウンロードできるというもの。
イベントの余韻が残る中、フィジカルな体験・思い出がデジタル化され、さらにそれを手元に残せる、フィジカルとデジタルの連動で楽しさが増幅する取り組みと言えるでしょう。
欅坂46:ライブ会場にチェックインでスタンプ付与
さらに、ライブ会場の思い出を蓄積して可視化できるサービスを展開しているのが、欅坂46の「ファンクラブ会員限定チェックイン」。
ライブ会場に掲示されたQRコードでチェックインすると、会場ごとに地名の入ったアイコンをファンクラブサイトのマイページに登録することができ、自分がどのライブに参加したかを可視化することができます。自分が参加したライブ履歴を一覧化できる公式サービスは意外と少なく、「思い出に浸りたい」「自分とアーティストの歴史を感じたい」ニーズに応えた先進的な事例と言えるでしょう。
ここまでは、フィジカルな体験がデジタル化され、思い出が可視化されることで「情緒的な体験価値」が上がる取り組みを紹介しました。続いて、デジタルな体験がフィジカル化されるEXILEの事例をご紹介します。
EXILE:アバターのリアルグッズ化
複数のファンクラブを展開し、メンバーも積極的にSNSで発信しているEXILE TRIBE。デジタルコンテンツはSNS化されていて、マイページでは、推しメンバーを自分の「アバター」として設定し、着せ替えを楽しむことができます。
着せ替えのアイテムは、課金もしくは継続特典としてもらえるコインを使用して回せるガチャでゲット。コインは、他のファンクラブ会員からそのアバターに「いいね!」ならぬ「ヤバイね!」をもらうことで獲得することもできます。
さらに、ライブ会場では、その自分オリジナルのアバターデザインの限定グッズをゲットできるという取り組みを行っています。デジタルでの活動が、フィジカル化して「情緒的体験」を生み出す好事例と言えるでしょう。
これらの事例の他にも、新しいファンクラブの形や、ファンクラブならではの体験を提供している事例があります。GLAYはこれまでに発売した楽曲や映像作品が月額制ストリーミングサービスで聴き放題・見放題となる「GLAY公式アプリ」をスタート。その一方で、既存のデジタルファンクラブである「GLAY MOBILE」では、ライブ後すぐにレポートを公開するなど、アーティストがファンを楽しませる場所としてデジタルを活用しているとTAKUROさんはインタビューで語っています。
また、台風で中止になったライブを無観客で実施し生放送したX Japanの無観客ライブも、緊急時にデジタルでファンに対してスペシャルな体験を提供した事例と言えます。
さらには、ファンクラブの派生的な取り組みとして「クラウドファンディング」も、「アーティストを応援したい、取り組みに参加したい」というファンの「参加欲求」を満たす1つのコンテンツとして、満足度が高い体験になり得ます。事例としては、打首獄門同好会がライブのDVD化を呼びかけ、目標をはるかに上回る4000万円の調達に成功した例や、ぼくのりりっくのぼうよみが自分のメディアの立ち上げで700万円の調達に成功した例があり、いずれの場合も、アーティストを応援するリターンとして特別な体験やコンテンツが提供されています。
まとめ
アーティストにとって、熱量の高いファンとコミュニケーションする場であるファンクラブ。限定コンテンツももちろんうれしいですが、ファンにとっては何よりも「ライブ」が重要であり、その「体験を残したい」というニーズがあるということが明らかになりました。先進的な事例はいずれも、そのニーズを満たすヒントを与えてくれます。
最後に、フィジカルな事例ですが、ROCK IN JAPAN FESTIVAL 2018では、チケットが封筒でなく、素敵なBOXで届く「チケットBOX」が今年初めて配布されました。
この取り組みは「利便性」の向上にはつながりませんが、ライブ前の高揚感を高め、さらにライブ後にもそのボックスを見てライブを思い出したり、さらには、ボックスの中にチケットやラバーバンドなどを入れて楽しむこともできます。この「チケットBOX」のように、ライブ体験をさらにスペシャルなものにする取り組みがデジタルでも増えれば、さらにファンの満足度が高まるのではないでしょうか。
また、2018年10月に始まった「LINEチケット」では、今後LINE公式アカウントとの連携や来場者セグメントによるメッセージ配信を予定しており、チケットの購入から、ライブ前、ライブ後のコミュニケーションまで、デジタルで新しい体験がもたらされる可能性があり、今後もファンクラブの新しい取り組みが出てくるのではないかと予想されます。ファンの満足度を満たすデジタルエクスペリエンスが登場するか、今後も動向に注目です。
※ファンとアーティストの関係についてはREINVENTしがいがありそうなので、引き続きニンゲンラボのほうで研究を続ける予定です。お楽しみに。
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