Web、アプリ、リアルの顧客体験を向上させる手法とは?―― CXは事業収益に直結
生活者の購買スタイルは極めて多様化している。ECかリアル店舗か、ECならスマホとPCどちらを使うのか、そしてスマホにはWebサイトもアプリも用意されている……。状況はいよいよ複雑だ。そんな中で顧客体験、つまりカスタマーエクスペリエンス(CX)の向上を目指すには、顧客の行動を可視化するためのツールが欠かせない。
「Web担当者Forumミーティング 2018 秋」に登壇したプレイドの梅村氏は、CXのあらましと共に、同社のCXプラットフォーム「KARTE(カルテ)」によって実現するマーケティング手法について語った。
デジタルの世界でも「顧客の感情」を理解すべし
プレイドの事業の柱の1つが「KARTE」である。同社が「CXプラットフォーム」と銘打つとおり、CXに関する分析・改善などの機能を包括的に提供している。 導入企業はEC事業者から人材、不動産、金融、メーカーなど幅広い。
言うまでもなく、CXはWebでビジネスを行う企業にとって極めて重要な要素だ。単に商品・サービスを提供するだけでなく、購入前の比較検討、製品そのものの使い勝手、あるいは事後のサポートなど、企業と顧客の接点すべてをオンライン・オフライン問わず視野に入れ、不断の改善を続ける。こうして顧客の満足度を高めることが、ひいては企業の経営の安定にも繋がっていく。
そしてCXは、そのときどきの顧客の感情・思考など、情緒的な部分に左右される。ユーザーの属性情報や購買履歴などのデータを膨大に保有していても、それだけですべての物事が解決する訳ではない。
今日この講演会場には200~300人がおいでだが、ここまで足を運んだ経緯は1人1人違うはず。デジタルの世界では(顧客の行動を)ひとくくりにしがちだが、これからの時代はそれではダメ。1人1人に注目して、それぞれの体験向上に取り組んでいかなければならない(梅村氏)
相手の表情や声のトーンに合わせて応対を変えるリアル店舗での接客が、デジタルの世界でも欠かせなくなってくると梅村氏は指摘する。
実際、CXの中核をなす5要素は、そのほぼすべてが人間の心理に関する部分だ。
- SENSE:感覚的な経験価値
- FEEL:情緒的な経験価値
- THINK:創造的・認知的な経験価値
- ACT:肉体的な経験価値とライフスタイルに関わる価値
- RELATE:集団や組織への帰属意識に関連して生み出される価値
たとえば「SENSE」は、人間の五感に訴える部分であり、見た目、音、香りなどによって、顧客はなんらかの体験価値を感じる。また、店員のちょっとした気配りなどに喜びを感じるのは「FEEL」、ユーザーの知的好奇心や探求心を刺激するのが「THINK」、人間の体に関する経験に訴え、生活やライフスタイルに変化を起こすのが「ACT」、集団や文化の中での交流や帰属意識に関する価値が「RELATE」となる。
CX向上活動は、業績向上に繋がる
「CXは売上額や企業の成長性にも影響を与える」との結果が調査によって明らかになっている。米国の調査会社であるForrester Research社は2016年、産業別のCX取り組み状況についてのレポートを発表した。これによれば、CX向上で先進的な実績を上げる企業は、そうでない企業と比較して成長率が高かった。小売分野であれば、CXで先進的な企業は2010年~2015年の5年間で28%成長していたのに対し、それ以外の企業はわずか2%であった。
CXが大事なことは、Web担当者であれば誰でも感覚的にわかっている。しかし、企業の中で実際に体現していこうにも、事業収益に直結していないものは取り組みづらい実情がある。一方で、CXへの投資が積極的な企業は着実に成長しているのもまた事実だ(梅村氏)
企業内には、CX向上を阻むハードルは多い。顧客の体験を販売・広報・サポートなど一連の流れで考えるのがCXの本質だが、一方でそれを担う部署は縦割りで分断しているため、社内で“横串”を通すための努力が欠かせない。また、データがあるといっても、ある特定部署間だけでの共有にとどまっていたり、いち個人が占有しているケースすらあり得る。
そうした組織に必要なのは下記のような取り組みだ。
- 分断された組織に横串を通す
- データ統合し顧客接点を最適化する
- 異質なスキルセットを結合する
顧客の行動をリアルタイムで可視化する「KARTE」
KARTEはこういった諸問題を解決し、CX向上を業績へと直結させるべく開発されたツールだ。2015年3月のローンチ当初は「Web接客ツール」との打ち出しを強くしていたが、「Web接客 = Webにポップアップを出すだけ」との認識が世に広まっている現状を危惧し、機能改修を経て今春には「CXプラットフォーム」へとリブランディングした。
KARTEは「サイト訪問者をリアルタイムに可視化し、適切な提案が可能になるサービス」である。リファラをはじめとしたサイト訪問者情報、そして自社が保有している顧客データ――たとえば、ECサイトにおける購買履歴情報、さらにはMAなどのマーケティングツールデータを結びつけ、顧客単位でリアルタイムに把握することができる。
当然ながら、可視化した後の機能も充実している。下記のようなアウトプットを駆使して、顧客1人1人の嗜好に合わせ、最適なメッセージを届けることが可能だ。
- バナー
- クーポン配布
- プッシュ通知
- チャット
- メール
- レコメンド
- SMS
- LINE
幅広い業種で利用されるKARTE
KARTEは特定業種を対象としたサービスではなく、ECサイトを筆頭に、メディア/ポータルサイト、人材業者まで幅広く利用されている。
たとえばマネックス証券では、初期顧客の分析にKARTEを活用。口座開設後初めてログインした客には入金方法を説明し、初入金を終えたばかりの客には手軽な商品を薦めるなどの施策を行ったところ、初回取引率が21.9%増加した。
また、キリンでは、「一番搾り」のブランドサイトを訪れた客へのアンケートにKARTEを用いた。ユーザーの興味や趣向を取得し、コンテンツの改善やサイト編集に活用しているという。
もっと単純に、サイトの使い勝手を向上させるための機能も多い。下記のような機能もいずれもKARTEの領分だ。
- 動的コンテンツのポップアップ配信
- 人気商品のレコメンド機能
- ページ閲覧中の人数のリアルタイム表示
- お気に入り機能
- 閲覧履歴機能
- ページのスクロール率に応じてポップアップを出す
- アンケートの回答に合わせて最適なプランを訴求
- チャットBOTによる時間外対応
アプリ利用状況も可視化できる「KARTE for App」
KARTEには今春のアップデートで新たに「KARTE for App」機能が追加された。これまではWebサイトにとどまっていた可視化機能をアプリへと拡充したものだ。
Webとアプリでもユーザー情報は分断されていた。お客様によっては、朝は通勤電車の中でスマホアプリを使い、昼休みには仕事場のPCでアクセスしてくれることもあり得る。従来は分断していた情報がKARTE for Appなら横断的に分析できる(梅村氏)
多くの企業はアプリの新規公開にあたってキャンペーンを実施する。しかし、アプリをインストールして数度使ってはみたものの、そのまま利用を止めるケースは少なくない。
これを回避するため、KARTE for Appでは「ステッププッシュ」機能を用意した。
- たとえば、アプリインストール翌日、まだ初期登録が終了していないユーザーだけを抽出し、登録を促すプッシュ通知を出す。
- 2日目、アプリの利用度が低いユーザーにだけ、機能解説のプッシュ通知を出す。
- インストールから3日後にはクーポンを訴求する。
こうした施策で、アプリ利用率に決定的な影響を与える「インストール後1週間」のCXを向上させることができる。
このほか、スマホ向けWebサイトの利用率が高いユーザーにアプリを薦める「アプリインストール訴求」や、プッシュ通知をオフにしているユーザーへ設定変更を促す「パーミッション許可促進」、ウェブでカート落ちしたユーザーへのプッシュ通知といった運用もサポートしている。
さらには、KARTEの活用のために、他社の接客シナリオや成功事例を確認できる企業横断のナレッジデータベースも用意されている。
計測されたユーザーデータをDMP、MA、オーディエンスデータなどと連携することも可能だ。また、媒体社「All About」と連携することで、ユーザーごとの興味関心を把握し、最適な接客を行うことが可能になっている。
KARTEの解説を終え、梅村氏はCXの重要性を改めて強調。「CXは事業収益に直結するということを、少しでも感じてほしい」と訴え、講演を締めくくった。
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