インハウスでMAU2倍、オウンドメディア「アキチャン」のakippa運営体制7つの秘訣
オウンドメディアは、自社の製品・サービスを世にアピールするための定番施策として、近年よく知られている。しかし、経営規模の小さな企業などの場合、必ずしもメディア運営に精通した人材がいるとは限らない。インハウスでは、専任担当者もおらず、停滞するPV、記事の効率的な作成などで悩んでいる担当者も多いだろう。
「デジタルマーケターズサミット 2018 in 大阪」では、akippa(あきっぱ)の猪原綾氏をゲストに招き、駐車場やおでかけ情報を紹介するオウンドメディア「アキチャン」が、インハウス体制でMAU2倍を達成するまでの道のりを解説した。聞き手は、Faber Company(ファベルカンパニー)の月岡克博氏だ。
インハウス体制でMAU2倍の道のり
akippaは、単純な駐車場のサイトではなく、「駐車場を事前に予約したい」「空きスペースを手軽に貸したい」というユーザー双方をマッチングさせているのが特徴だ。個人の住宅やアパートに併設する駐車場をはじめ、都心部のビルや施設の駐車場も多く貸し出されているケースが多く、事前に予約できるため、安心して出かけられるメリットがある。掲載駐車場数は全国2万4000カ所以上に達する。2018年11月には、会員数100万人を突破した。
「アキチャン」は、駐車場予約サービス「akippa」と連携するオウンドメディアである。これまでakippaと接点がなかった層へアプローチするのを目的として、アキチャンできっかけを作り、akippaへ誘導するという流れを想定している。
アキチャンは2016年8月に本格運用を開始し、人気イベントスポットへの行き方や、周辺の穴場駐車場情報、おすすめドライブルートなど、これまでに数百件の記事を掲載した。
2017年10月からは猪原氏が編集長を務める体制となり、現在は3名の社内ライターを擁する。ただしライター3名はいずれもアルバイトで、うち2名は在宅勤務。また猪原氏含む4名全員がアキチャン関連以外の業務と兼任している。アキチャンにかける業務割合は、猪原氏が0.8人月、ライター3名合計で1.5人月ほどという。
そうした体制の中、MAU(月間アクティブユーザー数)は2018年8月に60万を達成。猪原氏が参画してからの約1年でMAUが2倍になった計算である。
オウンドメディア運営、7つのポイント
月岡氏によれば、オウンドメディア運営で重要な7つのポイントがアキチャンの実例から浮かび上がってくるという。ひとつずつ具体的に見ていこう。
- 優先順位を決める
- 記事管理シート、入稿シート
- 役割分担
- マニュアル整備
- 検索意図の把握
- タスクの見える化
- 効果測定と共有
ポイント① 優先順位を決める
オウンドメディアの運営にあたっては、その運営目的が重要だ。また施策も多岐にわたってしまうが、目標を決めて施策の優先順位を決めているという。猪原氏の場合は下記の2つを目標として掲げた。
- 新規切り口でMAU増加
- アキチャンからakippa(サービスサイト)への遷移率およびCVR向上
目標がはっきりすると、やるべきことは逆算できる。「新規切り口でMAU増加」を目標にし、それまでの記事とは別の方向性が必要だと考えた。そこで4~5本、新しい切り口の記事をテストで作成して、そのアクセス状況などを踏まえ、記事作成の優先順位を決めた(猪原氏)
もう1つの目標である「CVR向上」については、既存コンテンツの中からセッション数で上位の250記事を調査、分析。このうちサービスサイト遷移率・CVRが低いものを調べ上げ、リンク配置などの改善をテスト的に実施した。その上で、効果の大きい改善施策から実行できるよう優先順位を決定した。
アキチャンの取り組みで非常に良いと思うのが、この「テスト」。企画段階ですごく悩んでしまって、結局記事がアップされるのに時間がかかってしまうということも多い。アップしてみないことには結果も分からないので、とにかくやってみなければ始まらない(月岡氏)
ポイント② 記事管理シート、入稿シート
アキチャンではGoogleスプレッドシートを使い、記事の制作状況を管理している。編集部以外の誰が見ても、記事の作成状況が把握できるようになっており、「誰が」「何を」「いつまでに」提出予定なのか、何本の記事が上がり、どれくらいCVRを改善できたかなどを1枚のシートでチェックできるようになっているという。
オウンドメディアを兼任で担当している場合、ともすれば本業で忙しく、記事作成が遅くなり、本業ではないがゆえに上司などの進捗チェックも甘くなってしまう。これをきちんとやりきるために必要なのが記事管理シートだ。
また、記事をCMSへアップするのも作業上は大きな工数負担になってくる。そこで猪原氏は専用の入稿シートをスプレッドシートで作成した。ライターがこのシートに文章を記載すると、記事用のHTMLが出力される仕組みだ。猪原氏は「単純な関数だけで十分作成できるシート」と説明。それまでに1記事で30分近くかかっていた作業が1分もかからなくなるなど、工数削減に大きな効果があった。
ポイント③ 役割分担
アキチャンはスタッフが4名に限られ、スキルもそれぞれ異なる。Aさんはライティングが得意だがCMS入力などの作業は苦手、Bさんは逆……といった具合だ。
そこで、得意分野ごとに業務内容を分担。猪原氏はコンテンツの企画やテスト、最終チェック作業などに専念し、調査・原稿執筆・CMS入力作業をスタッフごとに分担した。また、駐車場の情報が日々変動するというメディアの性格上、リンク切れの確認にもしっかりと人員を割いている。
役割の分担により、苦手な作業を無理してこなすといった非効率な状況が改善され、結果として作業スピードの向上が図られたという。
また月岡氏はオウンドメディアでの記事掲載数の考え方について「毎月何本作るという考えは基本的にしなくてよい。数を追ってクオリティが落ちるくらいなら本数を抑えて1本1本に力をいれるべき」とアドバイスしている。
ポイント④ マニュアル整備
スタッフのスキルにバラツキがある中で運営を安定させるためには、マニュアル作りが有効だ。アキチャンでは、駐車情報の調査から記事作成、入稿、公開手順などの流れをまとめ、マニュアルとして共有している。
ただし、当初からマニュアルを完璧に仕上げる必要はなく、日々の運営を重ねる中でブラッシュアップさせていけばよい。
例えば、駐車場情報にどのデータを入れ込むか、以前は完全にライターさん任せだった。ある程度統一した方がいいだろうという声がライターさんからでてきて、きちんとルール化することにした(猪原氏)
ポイント⑤ 検索意図の把握
例えば、講演当日の段階で、Google検索で「梅田 駐車場」で検索すると検索結果の1位にアキチャンの記事が、「京セラドーム アクセス」で検索すると2位にアキチャンの記事(1位は京セラドームの公式サイト)が表示される。ユーザーの“検索意図”を意識したコンテンツによってこれを実現しているのだ。
アキチャンでは、Faber Companyが提供しているSEOプラットフォーム「MIERUCA(ミエルカ)」を活用して、検索キーワードからユーザーの“検索意図”を推測し、それに合わせて記事をチューニングしている。
例えば、「京セラドーム 電車」ではなく、なぜ「京セラドーム アクセス」で検索したのか。どんな交通手段があるかわからないから、あるいは迷っているからこそ「アクセス」の語で検索したと考えることができる。
こういった、「見えづらい検索意図」を把握し、スタッフ間で共有すべく、アキチャンではMIERUCAを活用し、検索キーワードごとに「ペルソナシート」を作成している。
例えば、先ほどの「京セラドーム アクセス」で検索してきたユーザーならば、女性・27歳・独身・年収400万円・岡山県在住などとデモグラフィック情報を定め、その検索意図を「アイドルのライブチケットの抽選に当選したが、京セラドームへ行ったことがないため、検索した」と想定する。
このペルソナシートをライターと共有し、マッチした記事を作成するという流れによって、わずか3ヵ月で、アキチャンの記事を「京セラドーム アクセス」の検索結果の上位表示に押し上げた。
ポイント⑥ タスクの見える化
タスクを見える化し、それを分割して回していくことも重要だ。アキチャンでは、作成された記事を、最初に猪原氏がチェックするのではなく、まずはマネージャーにあたる社内ライターが確認・CMS入力作業を行うという作成フローを取っている。
前述の役割分担の話とも通ずるが、こうすることで工数が分散され、記事の最終公開作業を担う猪原氏の工数が減るため、記事公開スピードが向上したという。
ポイント⑦ 効果測定と共有
猪原氏はアキチャンの効果測定のため、週次と月次でレポートを確認している。週1回のペースで確認しているのがSEO関連のレポートだ。MIERUCAを使って、検索ワードごとに順位・ボリュームをチェックする。また、ページごとのサービスサイト遷移率・CVRは月に1回確認している。これらのレポートはライターとも共有し、成果を分かち合うようにしている。
基準値は大雑把に「上がったらOK」としており、例えばサイト遷移率であれば、対先月比150%くらいの結果は出し続けているという。
この他にも、アキチャンは、継続的なコンテンツの分析と改善を重要視し、MIERUCAを活用している。特徴的なのは、「偏差値によるコンテンツ分析機能」だ。
オウンドメディア内の全記事を「集客力」「閲覧力」「誘導力」「成果力」の4つのチカラに大別して分析、偏差値を算出して記事の良し悪しを判定してくれる。「直帰率○○%」といった数字表記だけだと、なかなか改善のアイディアはでてこない。「○○力」が弱い、といったことが分かれば、より直感的に改善施策を立案しやすくなるという。
その他にも、検索順位のモニタリングや、記事タイトルの自動改善提案といったMIERUCAの機能を活用することで、インハウスでリソースがない中でもコンテンツの継続的な分析と改善を可能にしている。
以上が、オウンドメディア運営に役立つ7つのポイントだ。猪原氏は「とにかく、これらのポイントを何か1つでも実践してみてほしい。これに尽きる」と聴講客にアドバイス。悩むだけではなく、行動することの重要性を訴えた。
最後に月岡氏は、MIERUCAのユーザーが1200アカウントを突破したこと、10月には新たに大阪オフィスが設立されたことを報告。有志のコンテンツ勉強会の開催など、関西圏でのサポート活動を今後も積極的に行っていきたいと述べ、講演を締めくくった。
ソーシャルもやってます!