Web担当者も思い切ってビジネスゴールにコミットすれば、キャリアパスが見えてくる――元花王の本間充さんに聞いた(後編)
これからWeb担当者に求められる考え方は、どんなものだろうか?
Web担当者がビジネスキャリアを積み重ねるには、どうしたらいいだろう?
1995年というインターネットの黎明期から、花王でWeb担当者、デジタルマーケティングを担当し、現在はアビームコンサルティングのコンサルタントである本間充さんに、Web担当者Forum新編集長の四谷志穂が話を伺った。
前編を読む
Web担当者のキャリアパスはどうなる?
四谷: 前編では、「これからのWeb担当者はもっと、ビジネス的な思考、言語を理解しなければいけない」というお話がありました。
本間: はい。
四谷: デジタル系人材のキャリアパスが明確になると、よりWeb担当者の仕事の幅が広がって、面白くなっていくと思うのですが、いまだにある程度大きな企業において、デジタル畑から会社の経営層にまで上った人って、ほとんどいない印象があります。
本間: 確かにそうですね。そのキャリアパスを作るためにも、これからのWeb担当者は、どんな案件でも、ビジネスのゴール設計はしなくてはいけません。
四谷: それは上司から与えられるものじゃなくて、自分で設計しなくちゃいけないということですか?
本間: そうです。今までのWeb担当者は、WebサイトのPV数、アクセス数、ユーザビリティがKPIかつKGIになっていたと思うんですね。でも、これからはもう1歩先の視野が必要。PVを伸ばすことで、売上はどの程度伸びるのかという話まで向き合わなきゃいけない。すなわち、トラディショナルマーケターが持っている目標数値の一部を肩代わりするくらいの気持ちで、取り組まないといけないと思う。
ビジネスゴールに積極的にコミットする
四谷: それは、積極的にコミットしていかなきゃいけない?
本間: コミットしていかないと、会社の中でのキャリアパスが開けないと思います。あと、社内でWebに関して意見を求められたときに、もし、それはWebでは達成や実現が難しいと感じた場合は、恐れずに「Webではできない」と言うべきです。
四谷: できないことを、できると言ってはいけない。
本間: そう。当然、Webにも限界はある。そこは真摯に認めたうえで、旧来のメディアやマーケティングができなさそうなこと、やり残している領域で、新たな価値を作り上げ、それをもってビジネスコミットメントをするべきだと思います。
四谷: 有言実行ということですね。
本間: 売上に直結する事例じゃなくてもいいんですよ。たとえばお客様サポートサービスはWebで肩代わりしますという提案でもいいし、ロイヤルユーザー獲得のためのポイントサービスみたいなものをWebで担います、なんてのもいい。こうやって、ビジネスに対する貢献の仕方をちゃんと設計しないといけない時期になっていると思う。
四谷: しかし、そこまで提案するのは一介のWeb担当者には少し荷が重い印象もあります。
本間: もちろん、全体設計は、マーケティングの本流の人たちとか、事業責任者の人たちを交えて議論するべきだと思うんだよね。事業責任者の人も、Webに予算を割いている以上、Webの効果をきちんと理解したいはずで、価値があると判断すれば、もっと積極的に予算を組んでくれます。そこを真摯に議論しない限り、Web担当者の次のステージへのドアは開かない。
四谷: これからのWeb担当者は、そこまで意識して、仕事に取り組むべきなんですね。
アイディアを交換し、妄想を形にする
本間: そういえば、最近、ロボット掃除機のルンバを購入したんです。
四谷: わぁ、買ってみてどうですか?
本間: ビックリしました。今のルンバって、スマホから制御できるんですよね。スマホからルンバに指令できるし、ルンバが「今日掃除した場所」をレポートしてくれたりする。
四谷: ちょっと楽しいですね。
本間: 楽しいです。僕はルンバのスマホアプリで、ルンバとコミュニケーションをしているという喜びを得ています。その一方で、ルンバの会社は、ユーザーから許可を得て、ユーザーの住宅事情、掃除をするタイミング、掃除にかける時間、バッテリーの持ち時間、エラーが起きやすい場所などを、データとして収集して、別の事業のために活用している。これって新しいエコシステムじゃないですか。
四谷: すごいですね。
本間: でも、この土台にあるのはWebの技術ですよね。これからは、こういったしくみや事業をWeb担当者が会社の中で考えられるかが、企業の1つの成長ポイントだと思うんです。インターネットに繋がって感じる良さと、そのことによってWebからアシストできる企業の価値と、かつ、お客様から許しを得て、いただけるデータを使ったときに、さらなるビジネスを生めるという自分たちなりの事業計画。そういう話を作り続けることが、これから先のデジタルマーケティングでは、すごく重要だと思います。
四谷: そこまで関わっていかないといけないんですね。
本間: こういう製品を作り出すために何より大事なのが、Web担当者がさまざまな部署の人と、膝を突き合わせて話すこと。社内を「混ぜる」ことが必要なんです。
四谷: 用事があるときだけ話すのではなく、妄想とも思えるアイディアを交換し合うような、一見無駄に見えるような時間も必要だということですね。
本間: そうです。
思考のメタ化「振り返る」ことを習慣に
四谷: Web担当者の方からはよく、「現在抱えている仕事で手が一杯で、とてもじゃないけど新しいことを考えられる時間なんてない」という声を聞きます。
本間: 現状はそうでしょうね。
四谷: デジタルのおかげで、さまざまな作業が効率化されているのに、自分の可処分時間が増えたと思えない。むしろ減っている気がするんですよね。
本間: それを解決するには、「思考のメタ化」が必要です。つまり「時間に追われている自分」を1歩引いたところから俯瞰して眺めてみて、時間の使い方を考えてみることですね。行動したら振り返って反省する。情報をインプットしたら、自分の中で折りたたんで、取捨選択して、情報を整頓する。そうした時間を定期的に取らないと、時間や情報に追われているような気持ちを誘発するんですよね。
四谷: なるほど。
本間: 前の会社の社長からは、よく登山の話をされました。まずはとにかく登れ。だけど、登頂したら、もう1回登頂までのルートを再考しなさいと言われました。今のデジタルマーケターやWeb担当者の仕事のしかたを登山にたとえれば、1つの山に登り終わったら、何も考えずにすぐに次の山に登ってしまっているような感じです。でも、山頂から他の道がなかったかなと見て、「なんだこういう登り方もあったのか」と理解したら、山の登り方の新たなヒントも得られるかもしれません。実行と反省の繰り返しが、「考える」という行為を鍛えるのです。
Web担当者はゲームチェンジャーになれる
四谷: いろいろとお話を伺ってきましたが、これからのWeb担当者にとって一番大事なことは何でしょうか?
本間: 今、Web担当者に求められているのは、ぶっちゃけて言うと、Webの技術で今の既存事業を「ガラガラポン」できないの? ということ。つまりゲームチェンジャーとしての役割です。トラディショナルマーケターは、旧来通りのマーケティングの延長線上には正解がなさそうなことをなんとなく理解し始めています。Web担当者の方から、「僕たちなりにこういうアイディアがあるけどどうですか?」と声をかけてほしがっている。
四谷: そういう人たちに対して、Web担としてはどういうバックアップができるでしょうか。考えちゃうな……。
本間: 以前にWeb担で、衣袋宏美さんがアクセス解析の連載をやっていましたよね。アクセス解析をすればお客様の動きがわかります。「お客様の多くは、こういうキーワードで検索してきて、このページを見て、コンバージョンせずに離脱した」という事実がわかる。それをメタ化すると、「そもそもお客様が求めていたものは何だろうか?」という疑問が出てくる。この答えがすなわち、ビジネスのヒントになるのです。大事なのはWebの技術や知識ではなく、わかった事実をメタ化して「なぜ?」を重ねていく考え方なんです。これからのWeb担には、それを促すような提案が必要なんじゃないでしょうか。
四谷: 確かに、それは大事な役割ですね。
改めて、Web担の読者とは誰なのか?
本間: 今回のテーマでもある、「Web担の読者って誰?」を改めて考えると、まずは、狭義のWeb担当者が対象であるのは間違いない。それに加えて、情報発信系のサービスに携わっている人は、Webに触れなきゃいけないから、やっぱり読者のはず。でも、それだけじゃない。
四谷: そこからさらに広がっている、と。
本間: そう。ただ、あれもこれもと可能性のある職種を追加して広げるのではなく、「Web担当者2.0」的な新しい定義を、四谷さんが作ってもいいんじゃないの、と思うんだよね。今までのように、「Web制作者寄りの担当者」だけじゃなくて、「Webを使ったビジネスパーソンのためのサイト」と言い切るのもありだと思う。旧来のWeb担当者を包含する集合だから、なんら矛盾するわけではないし、今までWebサイトを作る側だった人たちも、ぜひビジネスの方にも目を向けてくださいというメッセージにもなるはずです。
四谷: そうですね。
本間: 「あなたたち、Web担当者は、実は会社にとってとても重要な存在なんです」というメッセージにもなると思うんですよね。
四谷: すごく重要なヒントをいただきました。ありがとうございます。
本間: そのしおらしい態度、珍しいですね(笑)
四谷: いつもより、猫多めにかぶってます(笑)
(終わり)
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