Web広告研究会セミナーレポート

プラス、再春館製薬所、ハウス食品のデジタル改革 ―― デジタルネイティブ時代の組織づくり

デジタルマーケティングの実践、変革に取り組む3社が語る
Web広告研究会セミナーレポート

この記事は、公益社団法人 日本アドバタイザーズ協会 Web広告研究会が開催およびレポートしたセミナー記事を、クリエイティブ・コモンズライセンスのもと一部編集して転載したものです。オリジナルの記事はWeb広告研究会のサイトでご覧ください。

デジタルが生活の一部となった今、企業が取るべきコミュニケーション施策にも変化が求められている。6月月例セミナー第二部は、「これからのデジタルマーケティングを推進していく組織体制づくり」をテーマに、オフィス空間・家具・文具のプラス、化粧品の再春館製薬所、食品事業のハウス食品グループ本社が登壇し、各社の取り組みを語った。

デジタルネイティブ時代に求められる変化とは

モデレーター
合同会社フォース 代表
増井 達巳 氏

Web広告研究会は、2017年度の活動指針となるWAB宣言として「企業デジタルネイティブ時代」を掲げている。

このWAB宣言には、デジタルが生活の一部になった現代、「生活者だけでなく、企業としてもデジタルを特別視することなく、当たり前のこととしてコミュニケーション施策を考えていくべきだ」という意図が込められている。

こうしたWAB宣言を背景に、モデレーター増井氏は、社内の変化や顧客の様子から、どのようにデジタルを意識しているのか、パネリストに問いかけた。

プラス株式会社
ファニチャーカンパニー
マーケティング統括部 担当部長
五十嵐 香織 氏
株式会社再春館製薬所
ドモホルンリンクル事業部
WEB統括マネジャー
中島 公平氏
ハウス食品グループ本社株式会社
広告統括部
デジタルコミュニケーション課長
魚野 結 氏

五十嵐氏:オフィス家具をネット販売するオフィスコムというグループ会社がある。ネットで家具が売れることで社内の理解が深まり、今年からWebファーストで新しいことをやろうという追い風が吹いてきている。

中島氏:ここ3年で大きく変わった。ドモホルンリンクル(化粧品)の最初の接点である無料お試しセットのWebの新規申し込みは、3年前は4割程度だった。現在はWebの申し込みが急増し、7割以上がWebからとなっている。既存のお客様も、半分以上がスマートフォンやWebが接点となっている。お客様の中心は30~40代だが、80代のお客様でもスマートフォンを使っている。

魚野氏:ハウス食品の主要なお客様は20~40代の女性だが、普通にスマートフォンを使って情報を収集している。テレビCMなども出しているが、それだけでは届かないこともあり、デジタルネイティブな時代になったことを感じている。

増井氏:世代を超えてデジタルが浸透しており、年配の方もデジタルを使っている。デジタルネイティブの議論は世代をセグメント化すると捉えられがちだ。しかし、そうではないことがみなさんの話からわかった。生活者は、いつでもどこでも、オンラインとオフラインの境界を意識せずに行き来している。

では、デジタルネイティブ時代、企業にはどのような変化が求められているのだろうか。

中島氏:弊社は、テレビCMを打ってフリーダイヤルに電話してもらうモデルが成功していた時代があり、その成功体験から脱却しきれていない部分がある。新たなデジタルのプロモーションについては手探り状態のため、試行錯誤しながらやっていくしかないと考えている。

五十嵐氏:B2Bのお客様には、決裁する人と情報収集している人の2通りがいる。情報収集者が集めた資料や情報を決裁者が見て問い合わせするなど、B2Bならではの行動があるため、それに合った施策を包括的にやっていく必要がある。

魚野氏:少し前に広報と広告の違いを議論していたのと同じように、テレビCMやWeb広告など、手段の話をしても仕方がない。お客様に何を伝えるのか、お客様がどのような情報を求めているかなどをよく見れば、どのメディアを使うのか、どのようなコミュニケーション手段を取るのかが見えてくる。このように考え方を変えていかなければ、お客様とコミュニケーションが取れないと考えている。

増井氏:企業側は、オンライン・オフラインのすべての企業活動で垣根なく顧客とつながっている状態を作らなければならない。顧客接点やコミュニケーション施策でデジタルを意識するのではなく、自然にデジタルを取り込んでいく必要がある。統合マーケティング部(第一部 三井住友カードの講演)などの横串で統合的に施策を行う組織が必要となってきている。

各社のデジタルマーケティングの課題

増井氏:デジタルマーケティングで成果を上げていくうえで感じている課題について話してほしい。

魚野氏:これまで、弊社は多くのテレビCMを投入することで売り上げを上げてきた。経営層やマーケティング部門は、CMによる成功体験を持っているので考え方をなかなか変えられないのが課題。デジタルを使うことでどのようなKGIやKPIになり得るのか、丁寧に説明するようにしている。

中島氏:我々は社内でデジタルがわかる人間が1人もいない状態から始めているため、デジタル業務を担える人を呼ぶことから始めている。最初は5人くらいだったデジタル業務の人材を各部署に所属させ、周囲の人材を育ててデジタル業務を担える人を増やしていった。

現在は、現場企画の50人中30人くらいがデジタル業務を担えるようになり、経営にも声が届くようになっていると思う。また、中途採用による強化も大きな軸となる。今は、40歳前後でデジタルに20年間くらい関わっている人材は、柔軟性を持ちつつ、勘と経験と度胸で物事を進められ、経営にもダイレクトに意見できるようになっている。

増井氏:変化が進まない理由や課題が組織体制にあるということは、私がまだキヤノンにいたときに参加した「ブランドサミット2013」のラウンドテーブルでも多く挙げられていた。デジタルを推進する組織が強くなっていくためには、人的なリソースが非常に重要で、社内や上司の理解や協力も必要となる。

デジタルマーケティングで成果を上げていく上で感じる課題
アドビ、宣伝会議調査「マーケティング活動に関するアンケート」

五十嵐氏:社内デジタル分野の知識とスキルについては、まだまだ十分ではないが、他部門への説明、理解してもらうための活動などが必要だと感じている。自社の強みを含め、あらゆる部署の人からヒアリングを行い、お客様視点でWebコンテンツマーケができないか探っている。

増井氏:デジタルの側がデジタルのことを話そうとすると、非デジタルの側にデジタルを意識させてしまうのかもしれない。中島さんのようにデジタルの人材を各部署に配置したり、五十嵐さんのように各部署から話を聞いたりするように、デジタルの側が従来のメディアやマーケティング手法に関心を持ち、溶け込むように意識を変えていく必要がある。

目指すべき組織とはどのようなものか

増井氏:日経BPコンサルティングが2017年3月に行った「デジタル・アナログ領域のマーケティング施策実態調査(第3回)」では、デジタルとアナログを組み合わせた施策の実施が増え、その効果が上がっている。一方で、予算はデジタルよりもアナログのほうが増えている。予算の面での苦労はあるのか。

中島氏:テレビCMの効果が以前ほどはなくなっていることは明確。その分の予算がデジタルに回ってくれればいいが、そうはなっていない。

増井氏:これからのデジタルマーケティングを推進していく組織体制はどうあるべきだと考えているのか。実際、どのようなことに取り組んでいるのか。

五十嵐氏:マーケティング活動を横串にして、さまざまな組織から情報を吸い上げられるような体制にしなければならないと感じている。

特に営業とは頻繁にコミュニケーションを取る必要があると考えており、各営業マンのさまざまなスキルをナレッジとして取り入れ、コンテンツマーケティングで確度の高いお客様を獲得できるよう、営業と連携できる組織が必要ではないかと思う。

魚野氏:我々の組織は、広告だけでなく、各事業会社のデジタルコミュニケーション全般の統括や管理、教育も行っており、インフラの整備や運用も行っている。そのうえで、通常のデジタルコミュニケーションの企画・制作、運用も行っているため、人数がどんどん増えてきている。

社内でしっかりと人材を育てる必要はあるが、将来に向けて組織の機能を増やすのではなく、与件を整理しながら、社内と社外を組み合わせて柔軟にデジタルマーケティングを推進していく組織にしていきたいと考えている。

中島氏:まだ勢力を拡大していく途中なので具体的な組織のイメージはまだないが、初期に着手したこととして、社内にアナリストを置いたことは非常に大きかった。まだ、デジタルの人材が少なかった頃は、PDCAのDしかできていなかった。

施策の効果検証をすることから始めるために、アナリストの育成から着手した。そのために担当者を1人決めて、東京からデータサイエンティストを招いて集中的に勉強させた。1年後には、分析チームのリーダーとしてエンジニアや代理店の分析チームを率いて、スピーディにPDCAを回せるようになっている。この成功事例を広げていきたい。

増井氏:第一部でも話されていたが、マーケティング・ツールなどの基盤とデザインの距離をなるべく縮めて、その輪が重なるような体制が望ましい。

五十嵐さんの言うように社内の啓蒙も行わなければならない。そのときは、相手がわからないデジタルの言葉で発信するのではなく、相手の立場を考えてヒアリングに行って、わかりやすい言葉に翻訳してあげるなど、デジタルの側から溶け込んでいくような活動が必要となる。

中島さんの話は、社内アナリストがいることで的確な成果判断ができるようになり、それによって高速にPDCAを回して、その実績をもとに社内啓蒙ができるような体制が作られつつあるということ。

魚野さんの話は、生活者のデジタルの利用頻度が上がるなかで、デジタル施策をボーダレスにマーケティングに溶け込ませるためには、キャンペーンのような集中型ではなく、継続的に施策を行う必要があるということ。柔軟性、発展性、継続性のある組織体制を作るためには、オーケストレーションを活用することが有効だと思う。

それぞれに組織の規模やチャネルの違いがあり、大きなヒントを得られたと思う。最終的に推奨する体制の答えは出ないが、興味深い話を聞けたパネルディスカッションになったと思う。

Web広告研究会サイト掲載のオリジナル版はこちら:「プラス、再春館製薬所、ハウス食品のデジタル改革 ―― デジタルネイティブ時代の組織づくり」2017年6月23日開催 月例セミナーレポート 第2部

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