見るゾウ! 知るゾウ! ユーザー像!

サイト訪問者って、「行動しない」「過去の経験で判断」「興味のないことはスルー」なのよね(第9回)

サイトを見て操作してもらうのを、横でただ観察するだけでも、気づきは出てくる

今回のポイントだゾウ

  • ユーザーは冒険しようとはしない
  • ユーザーには過去の経験や知識があり、それがベース
  • ユーザーは興味のあることには反応する
  • でも、興味のないことには見向きもしない
  • かんたんなユーザーテストをするだけで、大きな気づきが!

皆さん、こんにちは! 象好きのかたわら都内でパソコン教室を運営したり、ユーザーのお困りごとを企業様にお伝えしたり、最近では大人向けの数学教室をやったりしていますが、象さんが好きなモリマミコです。

象さんの話をすると「どの種類の象さんが好きなの?」と、よく聞かれます(聞かれたいオーラを出しています)。象さんには、「アフリカゾウ」「アジアゾウ」、そして最近新種認定された「マルミミゾウ」の3種がいます。アフリカゾウは耳が大きく、マルミミゾウはアフリカゾウにそっくり、アジアゾウは耳が小さく、まるっこい体なのが特徴です。

そして、私が好きなのは断然、アジアゾウ。ちなみにインドゾウは、“インド生まれのアジアゾウさん”を指しています。

ところで、インドを漢字にすると印度。最近は、「印鑑」という文字を見ただけで象さんに会いたくなる私です。今回はそんな「印鑑」にまつわるユーザー体験のお話です。

「かんたん!おしゃべりユーザーテスト」始まるよ~

というわけで、米内さん(仮名、66歳、女性)が教室にお越しになり、開口一番ご報告。

娘が結婚するのよ~♪

そりゃめでたいゾウ! 私の頭のなかで象さんがファンファーレを鳴らしている。とにかく、米内さんはとても喜んでいる。よかったよかった。

ところで、なにかおもしろい贈り物ないかしら?

なぜだかわからないが、私は受講生に「おもしろいもの」を聞かれる。皆さんのなかでは、私の恋い焦がれるゾウ話も「おもしろい」に括られているのだろうか……問い正したい気もしながら「おもしろいモノとはなにか」について考えてみた。だが、「おもしろい結婚祝い」を(それも、母が娘に贈るものとして)、すぐに思いつくことは正直難しい。

しかし、目の前にはわくわくして答えを待つ米内さん。期待されているのは大喜利か。しかし、そこでふと思い出した。「そういえば、ユーザーテストの候補サイトで、印鑑屋さんが手を挙げてくださってたな……よし、ここは、印鑑をプッシュ!」という下心大部分で、「姓が変わるから、実印をプレゼントするのはどうですか?」と提案してみた。

へえ、おもしろいわね~

と、米内さんもご機嫌な顔をしつつ、私の隣の席についたので、私はページを案内した(with下心)。かくして、「かんたん!おしゃべりユーザーテスト」が始まった。印鑑屋さんのサイトをテストしつつ、米内さんのプレゼントも決められるという一石二鳥!だ。

おしゃべりしながら、ユーザーの行動をチェックしよう!

「かんたん!おしゃべりユーザーテスト」は、文字どおり、おしゃべりしながら、ユーザーの行動をチェックするもの。今回実際に操作を行ったのはこちらのサイト。お世話になりました。

シニア層の行動例1
ファーストビューから動かない

サイトにアクセスし、トップページのファーストビューが表示されると、米内さんの手が止まった。

大多数のシニアはファーストビューで「目的のコト」を解決しようとする

一方、小林大伸堂のトップページのファーストビューは、「あなたのための印」という大きなコピーが最初に目に入り、目的ありきではなく、メッセージ性を押し出したデザインになっている。つまり、ファーストビューを見ただけでは、どこで何ができるか理解できる構造にはなっていない、とも言える。

シニア層の行動例2
見えるところで解決する

米内さんは、ファーストビューをじっと見てから、

うーん、九星気学がおもしろそうね

と、上部メニューにあった[九星気学から選ぶ]をクリックした。

そういうの、お好きなんですか?

うーん、興味はあるわね。

とのことで、特別に強い理由があったわけではなさそうだ。一般的なユーザーは、ファーストビューのなかから、“どんなページが現れるかわかりそうなところ”を選ぶものだ。

ちなみに[九星気学から選ぶ]の隣には[姓名判断・画数]があった。

姓名判断とかは?

あ、印鑑はね、名前の端っこが全部縁に付いたほうが運がいいらしいから、姓名判断は、印鑑には必要ないわ

そうなの!?

シニア層の行動例3
過去の経験や知識で情報の要・不要を判断する

とはいえほかに中身がイメージできるリンクがなかったからか、米内さんは[姓名判断・画数]のページに進んだ。

そこには「開運のために、文字の画数・印鑑の外枠との接点を調整できます」といったことが書かれている。しかし、以前誰かから「全部端っこくっつけ論」を聞いていた米内さんは、「姓名判断・画数」という言葉だけを見て「それは知ってるから、見る必要がない」と判断したようで、さらなるリンクはクリックせずスルーしていく。

つまり、自分の知っている内容と、提示されている内容が違う可能性があっても、「知っている」と思ったことは見ないということだ。

結局、米内さんは、九星気学のページで、お嬢さんの年齢にあった星を選択。星別の性格解説を熟読し、「当たってる気がする。これ、うちの子の性格そのもの。ふふふ」とご満悦だ。

シニア層の行動例4
クリックは挑戦、挑戦には勇気が必要

「で、コレっていくらなの?」と米内さんが聞いた。用途だけで値段が載っていないため、クリックするのに非常に悩んでいるようだ。

お祝いは現金でもあげるから、モノには予算があるのよね

いくらくらいですか?

はっきりとは決まっていないの

はっきりと予算は決まっていないが、なんとなく頭のなかにあり、それぞれの値段によって、単品にするか、セットにするか選ぼうと思っているようである。どうにも、もくもく雲をつかむような会話だ。

各解説の下には、用途別(実印、銀行印など)のメニューから、「単品」「セット」と商品を選べるようになっている。そして、クリックすればリンク先で商品の値段が確認できる

しかし、米内さんはクリックしようとしない。

私は「とりあえずクリックすればいいのになあ」と心のなかで思っている。「クリックして目的や予算に合わなかったら、戻ればいいだけ」なのだ。

だが、それは慣れている人の考えで、米内さんのようなシニアにとって、クリックすることは「挑戦」であり、勇気が必要なのだ。

間違った扉を開けてしまうかもしれない。欲しい情報に出会えないかもしれない。となると、扉を開けるのに躊躇する。間違いが怖い原因は、「正解ではない」というだけではなく、「時間の無駄」にもつながることだ。なるべく間違えたくない人にとって、挑戦というのは難しいことだ。だから、躊躇する。

こっちをクリックすれば正解かな~、こっちをクリックすればいいのかな~なのだ。洋服を選ぶのと似ている。悩める乙女現象とでも言おうか。

シニア層の行動例5
読みたいことをまず読む。そこで興味がなければもう見向きもしない

いろいろ悩んだ米内さんだが、結局、「実印・銀行印の2本セット」を選択した。そして、「値段はいくら?」と、クリック後に表示された文章を全部読み飛ばし、価格表を探し始めた。

ものすごい速さのスクロール。今までの、悩める乙女はどこに行ったのだろう? バーゲン会場の開場シーンと同じくらいの勢いと速さだった(それもまた、乙女)。

ファーストビューでは、「正解の扉」の場所に悩んでいたが、今回は、正解があると予想しているため、その答えに行きつくまで、他の情報には目もくれない。価格表が見つかると、手を止めて

なるほど-。このくらいの値段なのねえ

と安心している様子。そして複数の価格を指して一言。

で、これってどう違うの? どう選べばいいの? 値段?

と聞いてくる。価格の違いは材質とサイズなのだが、それは、先ほど米内さんが飛ばしたところに書いてあったのだ。

サイトコンテンツを提供している人は、「商品詳細」はもちろん、「コンセプト」「熱い想い」などなど伝えたいことがたくさんある。しかし、米内さんが知りたいのは、まず価格だった。

価格が自分のイメージする予算の範囲内であれば、その商品の詳細に興味を持つ。しかし、自分の予算イメージと大きく外れていれば、詳細を見る時間も無駄になる。特に、商品やブランドについて詳しくない場合には、そうだ。

だから、米内さんは、ページを上から読まずに、とにかく知りたいこと(価格)を先に知ろうとした。そして、次に知りたい情報(商品詳細)の意識がいくのだが、その情報はすでにスクロールして通り過ぎている。目もくれずに飛ばした情報のことなんて思い出せるはずもないので、またもや固まってしまった。

電車のホームに降り立ち、目的の駅に行くのに、右の電車と左の電車どちらに乗ればいいのかわからずに悩んでいるのと感じである(方向音痴の人にしか分からない感覚)。

そして米内さんは言う。

で、商品の情報は、どこにあるの?

シニア層の行動例6
文字を読むのは疲れる

「ちょっと探してみましょうか」と行動を促す私。「開運に良い字体とは」のページをクリックする米内さん。コンテンツを一読し、他のページをクリックする。

なるほどねー。でも、文字が多すぎて疲れちゃう。今度じっくり読むわ

このホームページのアドレス、メールで送っておいてもらえる?プレゼント候補にするわ

制作者側の熱い想いと相反して、商品への興味、コンテンツの読みやすさなどのバランスで読者の“読む”気力は大きく変わる。文字を読むのは、思った以上に疲れる行為なのだ。

今日の気づき

こうして、おしゃべりユーザーテストは終わった。ものの5分くらいだが、気づきは多い。今回の米内さんの行動から気づいたことを、ざっくりメモしてみた。

年を取るとメモリが小さくなる

シニアは、今知りたいことをすぐ探さないと、知りたいことすら忘れてしまう。だから、知りたいことを猛烈に探すモードになる。すると、それ以外のものはすべて「背景」となってしまう。

シニアは、年を取るとメモリが小さくなる。余裕をもって情報を提示するように心掛けよう。

確かに、私も市原ぞうの国に行くと、真っ先にぞうさんの前に行く。それまでの間、他の動物さんは背景になっている。「ああ、いる」くらいの感じなのだ。象分補給をして初めて、アルパカに挨拶する余裕ができるのだ。

クリックしたくなる言葉を選ぼう

リンクされているタイトルや単語、文章にも工夫が必要だ。ただのページのつながりではなく、「そこをクリックすると、どのような内容が表示されるか」ということを、簡単に想像できるようにし、クリックしてもらうようにしよう。

説明が多めなページは、読ませる工夫が必要

経験豊かなシニアは、心のどこかで「読まなくてもこの内容は知っている」と思い、文字を読むことに価値を感じなくなる。

読むべき内容は、

  • 文字の量を抑える
  • 漢字比率を抑える
  • マンガにする

などして、手軽さ・読みやすさを工夫する必要がある。

ユーザー行動まとめだゾウ

サイトを見て操作してもらうのを、横でただ観察するだけでも、気づきは出てくる。今回、小林大伸堂さんに協力いただいたが、弊社のサイトについても改善点がモリモリ上がってきた(モリだけに)。

Web担当者さんは「サイトのことを一番知っているのは、自分たち」と思ってしまうものだが、本当に知るべきはユーザーのことだ。そして、それを把握するのに「おしゃべりユーザーテスト」はオススメなのだ。

ユーザーテストでは、目的の設定、参加者の選定などをしっかりする必要がある。一方で、想定と違うユーザーが存在することも実感できる。おしゃべりをしながらユーザーを観察するだけでも、自分と違う視点で、改善項目にものすごく気づくことができる。

もちろん操作中に「うぉぉ、そこクリックしない!」とか「そこにあります!」とか「象の写真!!」とか、ついつい言いたくなるが、ユーザーテストではぐっと我慢する。誘導しないことが必要だ。やっているうちにユーザーが自分と違うということ、同僚や友達とも違うということを少しずつ体感できるだろう。

なお、ユーザーテストについて学びたい人には、この本をお勧めする。

ということで、今回はサイトをよく読まないさんから「よ(ま)ないさん」→「米内さん」でした! ではまた! パオーン!

【このコーナーに協力いただける、ECサイトさん・企業ホームページさんを大募集!】
~あなたのサイトを無料で「かんたん!おしゃべりユーザーテスト」してみませんか?~

「見るゾウ! 知るゾウ! ユーザー像!」を、いつもお読みいただきありがとうございます。本連載では、「ぜひ、うちのサイトも分析してほしい!」というサイトオーナー様を募集しています。

基本的に、物販などを行っている「ECサイト」または「企業のサイト」が対象です。

  • 自社サイトが、ユーザーからどのように見られているのか知りたい。
  • いまひとつ、自社サイトの構成に自信が持てず、シックリきていない。
  • シルバー層をターゲットに含めたいので、一度チェックしてみたい。

応募いただいたサイトでユーザーテストを行い、記事として公開させていただきます。ぜひご応募ください。

【応募方法】

次の情報を、「editor-tomioka@impressrd.jp」(担当編集:冨岡)までメールください。内容を吟味し、折り返しご連絡させていただきます。

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