うまくいかないオウンドメディアにはワケがある。多くの企業が陥りがちな5つの罠を回避するには?
うまくスタートできない、うまく回せないオウンドメディアには理由があります。
多くの大規模メディアコンサルや大手企業のオウンドメディア設計にかかわり、そして「BITA デジマラボ」を立ち上げた経験から、そこには共通の「罠」がいくつかあると感じています。
ここでは、多くの企業が陥りがちな「罠を回避する」という観点で、オウンドメディアをロケットスタートさせて、その後も勢いよく回していくための方法を解説します。罠には、次のようなものがあります。
- オウンドメディアをスタートするときの罠
- 運営体制を設計するときの罠
- 誰にどうやって届ける? コンテンツ発信時の罠
- 記事をシェア・拡散するときの罠
- オウンドメディアの成果を評価するときの罠
オウンドメディアをスタートするときの罠
デザインやロゴは変わって当たり前。とにかくリリースした方がいい!
いいオウンドメディアを作って、ユーザーとの高いエンゲージメントを得よう! ファンになってもらおう!
こう考えてオウンドメディア計画がスタートすると、経験豊富な大手企業であっても非常に陥りやすい罠があります。
思い返してみてください。次のような議論に心当たりはありませんか?
- 「ウチらしい」デザインをどう決めよう?
- メディアのコンセプトはどう決めよう?
- サイト名やロゴはどうしよう?
「自社のブランドを発信するにはどうあるべきか」論が発生してしまい、ああじゃないこうじゃないと話しているうちにクチャクチャになってしまう……という「あるある」なパターンです。
もちろん、これらの議論自体は大事なもので、不要というわけではありません。ただ、「考えすぎてスタートが遅くなる」くらいなら「考えるのをやめてユーザーの反応を見る」方が早い、それがオウンドメディアです。事前にいくら考えても100%の正解はありません。ユーザーとのつながりの中で試行錯誤して一緒に組み上げていけることが、オウンドメディアという媒体の価値だといえます。
ロゴやデザインは、「とりあえず悪くないテーマを買って、月間UUが1万人を超えてユーザーに認知されてから作り直す」くらいの気持ちで構いません。
あなた自身も、昨日読んだ面白かった記事の「タイトルと内容」は思い出せても、そのサイトの「デザインやロゴマーク」は覚えていないのではないでしょうか?
もちろん業種・業態によりますが、リリース段階では「悪くなければ問題ない」と割り切ってしまいましょう。
スタート時は細部にこだわりすぎず、まずは始めよう
運営体制を設計するときの罠
「誰が」「いつ」「何をやるか」が意外と決められていない
メディアコンサルタントとして多くの企業を見ていると、「どんなネタを選ぶか」ばかりを考え、「誰に対して何をコンテンツとして、それをどういう仕組みで作っていくのか」に時間をかけていないケースによく遭遇します。
筆者が実際にコンサルタントとして入ったメディアでは、制作の仕組みの設計と運用資料の作成に1か月程度の時間をかけ、逆にデザインなど見た目の設計には数日程度しかかけずにスタートさせるというケースが多くあります。
よく見かけるパターンではないでしょうか。こうしたケースも、残念ながらオウンドメディアをロケットスタートさせることはできません。「読者に届ける価値は何なのか」と「その価値をどういう仕組みで作るのか」があいまいだからです。
オウンドメディアのコンテンツを制作するにあたり、次のことを明確に決めておきましょう。
- 誰の、どんな瞬間の時間に
- 何のネタを、どんな切り口で
- どういう仕組みで継続的に作り続けるか
言葉にするとシンプルですが、これを一定の水準で継続することは簡単ではありません。オウンドメディアを使って継続的にユーザーに対し価値を提供するのであれば、「価値を提供し続ける体制を、いかにして作るか」の設計にこそ時間を使うくらいの気持ちの方がスピーディーに成長させることができます。
オウンドメディアの体制作りについては、別の記事「一人で苦しまず長続きする、オウンドメディアの運営体制6つの心得」も参考にしてください。
誰が、いつ、何をして価値を提供するのかの設計を忘れずに
誰にどうやって届ける? コンテンツ発信時の罠
「なんとなく」では何も起こらない。アクションリストを作成すべし
ネタと切り口(メディアの初期コンセプト)が固まったら、次は「どう届けるか?」を設計します。実は多くのオウンドメディアにおいて、ここが十分に設計されていないケースが非常に多く見られます。
- ターゲットに記事が届いているのかわからない
- 人気になるコンテンツはあるが、そのはっきりした理由はわからない
コンテンツを公開したはいいものの、それが誰にどう読まれているのかわからず、仮に人気になるコンテンツがあっても「何でだろう?」という状態になってしまっているケースです。心当たりはありませんか?
これを解決するためには、記事の狙いを明確にしたうえで、「作成したコンテンツをターゲットにどう届けるか」をある程度定型化して、公開後の拡散アクションリストとしてマニュアル化していく必要があります。ここでは、筆者が実際に利用している観点を一部示しましょう。
- 記事を公開した時間
- 流入経路別アクセス数
- 総ユニークユーザー数
- 各SNSでの公開後48時間でのシェア数
- 記事を公開してからの時間×流入経路別アクセス数
これとは別に、各記事に「ターゲットのシチュエーション」「接触する瞬間の気分」「記事の大きな切り口」を明記しておきます。
これらをスプレッドシートなどにリスト化し、各種情報を記入します。「どんな切り口の記事が、どのルートでどのくらい届いているか?」を観測しつつ、改善を繰り返していくイメージで運用します。
大小さまざまなSNSや提携先メディアへのコンテンツ提供、広告出稿やFBグループ、各種コミュニティへのシェアなど、とれる方法にはさまざまなものがあります。これらをやるべきこととしてリスト化しておくことで「うっかり忘れ」を防止でき、あとから検討できる数値が蓄積されていきます。
もちろん、アクションリストは一度作って終わりではなく、順次更新していく必要があります。「自分たちのメディア・コンテンツにとって最も効率的な公開後の拡散作業」を探し続ける体制を作ることが重要です。
ここをしっかり体制化しておくと、ある程度運用フローの属人化を軽減できるので、チーム育成のためにも、その後のメディアの成長のためにもなります。
記事公開後にやることのアクションリストを作ろう
記事をシェア・拡散するときの罠
「社員全員でシェアしよう!」からは何も生まれない
うちは社員数も多いし、関係者でシェアすればいいんじゃない?
これは規模の大きな企業でも陥りがちな罠です。「自分たちで作って、自分たちのSNSアカウントで頑張って良いコンテンツを拡散する」というのは確かに理想的なのですが、大半はうまくいきません。主に、次のような原因が挙げられます。
- よほどの有名人でもない限り、個人のアカウントからリーチできる範囲は狭い
- 毎回シェアするのが義務化すると嫌になってしまう
- シェアしてもフォロワーが本来のターゲットではない
よく見られるのが「自社の社員全員にシェアするよう号令を出せばいいのではないか」という、設計とも呼べない設計をしているケースです。これはまさに前述の悪いパターンに陥りやすく、運営を続けても学びがありません。その結果、メディア自体がダメになっていく原因とすらなり得ます。
ここで検討したいのは、広告の出稿です。「広告出稿は考えていなかった」という人も多いのではないでしょうか? 「オウンドメディアだから広告費はかけない」という思い込みを取り除くと、いろいろとやりやすくなります。
たとえば、公式アカウントのツイートやFacebookポストを個別に広告出稿すれば、「ターゲットにしたい人の狙った時間」にリーチすることができます。広告にかける費用は1つのポストにつき数百円~数千円程度の極少額でも構いません。
そうして得られたリーチインプレッションからのクリック率やシェア率、エンゲージメントなどを見ることで、「ターゲットに対して○○なネタはこのタイミングだと難しいのか」といった学びを蓄積して改善していけます。このサイクルが作れない限り、全社員でシェアを繰り返してもなかなか成果を上げるオウンドメディアにはなりません。
逆にいえば、ここさえしっかりしていれば成長するオウンドメディアのロケットスタートにつながります。いくら社内といっても、その作業は無料ではありません。人件費という最も単価の高いものを使うより、少額でも広告に資金を投下し、そこからの学びをもってオウンドメディアを改善していく方がずっと安いということを、運営者は理解しておく必要があります。
関係者のシェア頼りはNG。広告でターゲットにリーチしよう
オウンドメディアの成果を評価するときの罠
聞こえが良い言葉には注意。数えられなければ意味がない
最後は、オウンドメディアの成果を測る際に陥りがちな罠です。時間のかけかたを誤らずに、オウンドメディアをスタートすることに成功したとしましょう。ではその先、何をメディアの成果としますか? これがあいまいな状態だと、これまでのあらゆる努力が無駄になってしまいます。
以下は、オウンドメディアの目標として設定されていがちな悪い例です。
- ユーザーとのエンゲージメントの向上
- ファンユーザーの創生
オウンドメディアの目標を、こうした聞こえの良い言葉にしていませんか? こうした定量評価不可能な指標ではなく、明確に数えられる数値目標を立てることは非常に重要です。
ここで注意してほしいのは、数値といっても「全体PV」や「総合セッション/UU」などのように、「誰」が見えないアンノウン行動の塊としてとらえる見方はしないでください。目標の数値は、「○○な人の△△な時間の□□という行動の回数」といった、「誰」が含まれた形で設定します。ユーザーとシチュエーションをセットでとらえることがポイントです。
たとえば、SNSのシェア数を見るときも単に「シェア数がいくつ」ではなく、次のように考えてみてください。
このくらいの粒度まで設定すれば、「想定ユーザーに、コンテンツを見た瞬間に何を感じてもらい、どう行動してほしいのか?」という視点でうまくいっているのか、いないのかを検証できます。
もちろん計測不可能な部分もあるかもしれませんが、そもそもの目標を各記事に設定していなければ、振り返ることも改善することもできません。
上記の目標の設定は、「最も理想的なユーザーとのエンゲージメントの形」と言い換えることができます。
それは「新規の顧客化」、あるいは「新たなユーザーの獲得」「直接的な申し込み数」につながることかもしれません。これらを明確にしないまま運用を続けると、オウンドメディアに広告や人件費などの資本を投下できなくなってしまいます。
必ず測定できる数値を目標に設定しよう
無駄なオウンドメディアはランディングページに劣る
思いきって言いますが、無駄をそのままにしているオウンドメディアは、費用対効果でランディングページに劣ります。
オウンドメディアが成果を生まず、その成果を測ることもできないとします。それでも、記事の作成には人間の手間とコストがかかります。これを良しとしてしまうと、あらゆる事業者にとってオウンドメディア運営は「無駄なコスト」以外の何物でもなくなってしまいます。
そうなると、短期で作成可能かつ比較的廉価なランディングページ1枚に費用対効果で勝てません。オウンドメディアは社員の暇つぶしブログではありません。オウンドメディアは「目的をもった継続的な施策であり、投資対象」として位置づけなければなりません。
- 目指すべき明確な成果を設定する
- そのために必要なユーザーの行動と心理を設定する
- ターゲットの反応を見るために広告出稿も利用する
ここまでしてこそ、そして、それを任せられるだけの権限をオウンドメディアのチームに与えられてこそ、オウンドメディアを運営する価値があります。ここまでやらないと、オウンドメディアのPDCAを回すことも、回すだけの労力と予算を今後かけることも難しいでしょう。
「情報を出したところに情報が集まる」という側面は確かにあります。しかし、だからといって事業のプラスになる価値を得られなければ、そこに手間と工数をかけ続けることに、意味はありません。
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