Web広告研究会セミナーレポート

広告出稿量は売上に本当に影響しているのか? シャンプー&ペットボトル茶のデータ分析実践例

サードパーティデータなどを用いて広告効果の分析を実践
Web広告研究会セミナーレポート

この記事は、公益社団法人 日本アドバタイザーズ協会 Web広告研究会が開催およびレポートしたセミナー記事を、クリエイティブ・コモンズライセンスのもと一部編集して転載したものです。オリジナルの記事はWeb広告研究会のサイトでご覧ください。

ビッグデータが注目される一方で、マーケティングにおけるデータ活用は遅れており、勘や経験に頼った施策が行われている。こうした課題を解決するため、Web広告研究会の2014年2月度月例セミナーでは、BigData研究委員会が実施した、外部データや分析手法を用いたデータドリブン・マーケティングの実践例が示された。

勘、経験、度胸に頼らずデータドリブンなマーケティングを

日本ヒューレット・パッカード株式会社
菅原 裕氏

第一部の最初に登壇した日本ヒューレット・パッカードの菅原裕氏は、BigData研究委員会がWeb広告研究会の2012年のWAB宣言「Cooking Big Data ~マーケティングの新しい時代へ」に呼応して誕生したことを明かす。

しかし、2012年当初、日本アドバタイザーズ協会の参加企業にヒアリングしても、マーケティングや宣伝部門でデータを活用している企業は少なかった。そのため、ビッグデータ活用の議論をする前に、データドリブン・マーケティングの重要性を啓蒙する必要があると考え、活動を行ってきたという。

データドリブン・マーケティングとは、「データを取得し」「分析し」「実行すること」を示すが、菅原氏がヒアリングしたように、企業の現場ではKKD(勘、経験、度胸)による根拠のないマーケティングが行われているケースが少なくなかった。

一方で、スポーツの世界ではデータ活用が進んでいる。しかし、スポーツは常に同じルールで戦っており、自チームや相手チームのメンバーも把握できるが、「ビジネスはルールも相手も中身も違うところが難しい」と菅原氏は説明する。

企業経営におけるデータ活用の歴史を振り返ると、経営に統計学が取り入れられたのは20世紀初頭のこと。ガウス統計学やフィリップス統計学といった、いわゆる伝統的統計学からベイズ統計学などが取り入れられてきているが、伝統的統計学はスモールデータを前提としてサンプルを取り、標準的な正しい姿、全体像を記述しようというものだ。

一方、ビッグデータはすべてのデータを扱い、未来の予測までを行う。たとえば、グーグルがすべての検索クエリからインフルエンザの流行予測を行った「Googleインフルトレンド」などが挙げられ、その手法は「Google インフル トレンドの仕組み」でも解説されている。

仮説を検証して導き出す伝統的統計学に対して、ビッグデータは仮説を持たない」と話す菅原氏は、仮説なしにすべてのデータを対象とし、膨大な計算式に当てはめて検証するビッグデータの分析を手作業で行うことは不可能で、コンピュータの力が必要であると説明する。

伝統的統計学を用いてマーケティングモデルを明らかに

ビッグデータは、仮説を持たずにすべてのデータを対象としていくものだが、企業のデータ活用が進まないなか、すべてのデータを検証するのは難しい。そこで、BigData研究委員会では、データドリブン・マーケティングを実践するため、まず伝統的統計学を用いて外部データを客観的に分析することを行ったという。

統計学では、仮説をもとに計算式に当てはめていくため、「仮説(モデリング)」が非常に重要になる。BigData研究委員会が実践した手法も仮説に当てはめていくというもので、「ペットボトル茶」と「シャンプー」2つの商品カテゴリに対して、ブランド各社が保有するデータではなく、調査会社などの第三者が提供するデータを使用した。データのほとんどは一般に入手可能なものであり、分析結果が以下の仮説に合うかどうかを検証している。

仮説(モデリング)
  1. 広告の出稿量はインターネット上の検索数、発言数(CGM、SNS、口コミサイトへの書き込み)に影響する。
  2. インターネット上の検索数、発言数は売上に影響する。
  3. 1と2の影響度は、商品群やブランドによって異なる。

マスメディア上で広告出稿やPR対策を行っていない場合はインターネット上の書き込みは少なく、売上も少ない。

つまり、テレビ・雑誌・インターネットなどの広告費は売上に影響を与えるだけでなく、インターネット上の検索数や発言数にも影響を与え、検索数と発言数も双方に影響を与え合うのではないか、という考えだ。これは、各メディアへの広告出稿量、SNSの投稿数、商品名での検索数、売上POSなどのデータを時系列に並べてグラフにすることで考えられた。

仮説のイメージ

仮説のもとになった外部データとして、今回の実験では次のデータが活用されている。

  • テレビ世帯視聴率(関東、関西、名古屋)
  • テレビ露出情報
  • 新聞/雑誌広告
  • Web広告
  • 2ch/ブログ/Twitterトレンド
  • インターネット検索数(Yahoo! JAPAN)
  • POSデータ

調査期間は2012年12月から2013年5月までの半年間で、シャンプーとペットボトル茶のなかから、期間中の売上上位20製品を対象とした。各データを指数化して時系列に並べ、本セミナーでは特徴的な3つのブランド、シャンプーの「パンテーン」「ツバキ」「レヴール」、ペットボトル茶の「おーい!お茶」「爽健美茶」「ヘルシア」を対象とした分析結果をブレインパッドの藤木康久氏が発表した。

広告出稿量はインターネットの発言や検索に影響するのか

株式会社ブレインパッド
藤木 康久氏

企業のデータ活用を支援するブレインパッドの藤木氏は、さまざまな分析アプローチのなかから、今回は「共分散構造分析」という手法を用いたことを明かす。共分散構造分析は、1対多の階層構造の仮説検証を可能にする方法だ。今回の仮説は、広告費がインターネットの行動に影響を与え、インターネットの行動が売上に影響を与えるという階層構造であるため、最も適した分析アプローチだという。

複数の分析アプローチのなかから、共分散構造分析を用いた

共分散構造分析の結果を見ると、図の左側が広告費、中央がネット行動(上が発言量、下が検索量)、右側が売上となり、売上の上が当週、下が翌週となっている。売上を当週と翌週に分けたのは、広告出稿してすぐに効果がある場合と、残存効果として翌週に効果が出る場合が考えられるからだ。

各項目を結ぶ矢印は影響の有無を表すもので、矢印があれば影響を与えていることになり、なければ影響がないことになる。矢印の横の数値は影響の度合いを示し、プラスの影響を示す1から、マイナスの影響を示す-1までの範囲を取る。

売上の上下などに付けられている「E」は、今回の分析データには含まれない外部要因を示し、たとえば店頭キャンペーンなどの影響を示す。広告費の左に示される「相関係数」は、各メディアの相関関係の強弱を示すもので、連動する場合は数値が高くなる。

売上の右に赤の吹き出しで示した「決定係数」は、広告費やネット行動が与えた影響をどれだけの割合で説明できるかというものだ。図の場合は、当週の売上にテレビ広告費とインターネット発言量が27%ほどの影響を与えているが、残りの73%は店頭キャンペーンや日常的に購入しているなど、他の要因の影響となる。

「適合度指標」のGFIとRMSEAは、このモデルがどれだけ適合しているかを示すもので、一般的にはGFIが0.90以上、RMSEAが0.1未満であることが望ましいとされている。

今回紹介する分析では適合度指標をクリアしていないモデルがあるが、階層構造の可視化を主目的に置いたため、GFI、RMSEAが望ましい値に達していない場合でも、近しい場合は許容した。適合度指標は注意してみてほしい(藤木氏)

シャンプー・ペットボトル、6ブランドの分析を実践

前述の仮説に対して、藤木氏は今回の分析で以下のような検証が行えたと、まず分析サマリを解説した。

  1. 広告の出稿量はインターネット上の検索数、発言数(CGM、SNS、口コミサイトへの書き込み)に影響する
    結論:広告出稿によってネット行動を促進する効果は存在すると考えられる
  2. インターネット上の検索数、発言数は売上に影響する
    結論:ネット行動は購買促進効果を与える場合と、逆に購買意欲を抑制する場合が考えられる
  3. 1と2の影響度は、商品群やブランドによって異なる
    結論:商品によって広告効果の波及の仕方には違いがあると想定される

続いて、シャンプーとペットボトル茶の分析サマリを、藤木氏は以下のようにまとめる。

シャンプーの分析サマリ
ペットボトル茶の分析サマリ

モデル図の1~6番、どれか1つでもパスにプラスの要素があれば「+」とし、逆に抑制する効果が見られた場合は「-」とした。一部例外はあるものの、総じて広告費が売上やインターネット発言数・検索数を促進する結果となり、間接効果がどの商品にもあることがわかった。

また、各商品の分析は次のように行われている。

パンテーン
特長:最も売上が高い製品

  • テレビ広告費とテレビ露出時間が売上に影響を与えている。
  • インターネット発言量が売上に対してマイナスの影響を与えている。
  • テレビとWebの広告費がインターネット行動に影響を与えている。
  • インターネット検索量は売上に影響を与えていない。

ツバキ
特長:女優を多数起用しテレビCMに最も力を入れている製品

  • テレビとWebの広告費が当週の売上に影響を与えている。
  • インターネット検索量が翌週の売上に影響を与えている。
  • テレビ広告がインターネット発言量に、Web広告がインターネット検索に影響を与えている。
  • インターネット発言量は売上に直接影響を与えていない。
  • インターネット発言量がインターネット検索量に大きな影響を与えている。

ツバキの分析図から、テレビ広告がインターネット発言につながり、発言を見て検索した人が購入するといった間接効果があると考えられる。

レヴール
特長:ノンシリコンシャンプーで他の2製品とは特性が異なる製品

  • 紙面広告費が売上に影響を与えている。
  • インターネット発言量が売上に影響を与えている。
  • テレビ広告費がインターネット発言量とインターネット検索量に影響を与えている。

おーい!お茶
特長:緑茶飲料で最もシェアが高い製品

  • インターネット検索量が売上に最も大きく影響を与えている。
  • テレビ広告費やテレビ露出時間がインターネット行動に影響を与えている。
  • インターネット発言量がインターネット検索量に影響を与えている。

爽健美茶
特長:ブレンド茶で最もシェアが高い製品

  • テレビ広告費、Web広告費、インターネット検索量が売上に影響を与えている。
  • インターネット発言量が売上にマイナスの影響を与えている。
    他の製品よりマイナスの影響が大きく、発言内容を調査すると、他とは性質の違う発言があった。調査時期に、ボタンを押すと自動でツイートされるTwitterキャンペーンが行われていた影響が考えられる。
  • テレビとWebの広告費がインターネット検索量に影響を与えている。

ヘルシア
特長:特保飲料で他の2製品とは特性が違う製品

  • テレビ露出時間、Web広告費、インターネット検索量が売上に影響を与えている。
  • テレビ露出時間よりもインターネット検索量のほうが売上に与える影響が大きい。
  • テレビ広告費はインターネット検索量に影響を与えている。

ただし、決定係数が6%しかないので影響は小さく、「ダイエットしたい」などの他の検索する理由が大きく、それが売上につながっていることが考えられる。

データから自社の勝ちパターンを見つける

今回の調査は、協力各社からデータを提供してもらい分析を実施した。つまり寄せ集めのデータで分析を行ったことになる。その寄せ集めのデータを使った分析結果から、今回の3つの仮説は、ほぼ予想通りだった。

一方で、ネット行動が逆に購買意欲を抑制することも示唆された。このように寄せ集めのデータからでも分析が可能であることから、ぜひ、自社でもデータ分析をマーケティング活動に活かしてほしいとセミナーでは語られた。

報告を終え、菅原氏は、今回の調査は第三者のデータを活用しており、ブランド各社の社内のデータを使っていないことを強調する。つまり、自社製品の分析だけでなく、競合製品のデータ分析を行って比較することも可能なのだ。

モノが売れるまでには、宣伝だけでなく営業の力もあるが、今回はなるべく広告だけの効果が見えるように工夫した。同様の分析は難しいかもしれないが、サードパーティデータを用いて、そこからデータドリブン・マーケティングの入口に入っていくことはできる。

過去を分析し、現在どうなっているかを知ることで、自社の勝ちパターンと負けパターンを見つければ、将来打つべき手が見えてくるはず。勘と経験と度胸に頼ったマーケティングから、データドリブンにシフトして行ってほしい。また、特に広告主の各社のみなさんは、BigData研究委員会にぜひ参加していただいて、一緒に活動してほしい(菅原氏)

この記事は、2014年2月21日に開催されたWeb広告研究会月例セミナーのレポート第一部です。→第二部を読む

オリジナル記事はこちら:「広告出稿量は売上に本当に影響しているのか? シャンプー&ペットボトル茶のデータ分析実践例」2014年2月21日開催月例セミナーレポート(1)

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