BtoBサイト特有の“長くて多様なユーザー行動”を把握してPDCAにつなげる/ルネサス エレクトロニクスのアクセス解析事例
BtoBサイトにおけるユーザー行動には、コンバージョンまでの期間が長く、個人ではなく組織単位で行動を把握する必要があります。
この要求を満たせるかどうかが、アクセス解析ツール選びの条件です。
- 対象サイト:
ルネサス エレクトロニクス(企業サイト) - 月間PV: 数百万
- 月間UU: 数十万
- コンバージョン:
製品サンプルの請求や購入 - 導入ツール: SiteCatalyst(アドビ システムズ 株式会社)
こう語るのは、世界的な半導体メーカーであるルネサス エレクトロニクス株式会社 営業マーケティング部でWebを担当する関口昭如氏だ。
同社の半導体製品は、PC業界、ゲーム業界、自動車業界、工業ロボットなど、実にさまざまな分野のメーカーで採用されている。コンシューマ向けの製品やサービスは直接提供していないので、典型的なBtoB企業だ。
Webサイトも同様で、メーカー向けに製品資料や各種ツール、購買窓口、サポート機能を提供している。企業サイトとして広報発表やIR情報の発信も行いるが、主要事業に関するページへのアクセスは、ほとんどはメーカー企業からのものだという。
BtoBサイトにおけるユーザーのアクセスには、一般的なECサイトと比べてどのような違いがあるのか。アクセス解析から見えてくる特徴や運営のポイントを関口氏に聞いた。
BtoBサイトの特徴はコンバージョンに至る期間の長さと多様さ
半導体という製品の性質上、同社のWebサイトにアクセスするユーザーは、システムボード設計者やソフトウェアエンジニア、購買担当が圧倒的に多いという。
製品の購入やサンプル注文が最終的なコンバージョンだといえるが、そこに至る過程は一般的なECサイトのそれと大きく異なると関口氏は説明する。
「アクセス解析の観点から見ると、弊社サイトのユーザーには大きく2つの特徴があります。
1つ目は、コンバージョンまでの期間が非常に長いこと。一般的なECサイトとは違い、1回のセッションで購入まで至ることはめったにありません。検討期間が数か月になることは当たり前で、場合によっては数年かけるケースもあります。
これは、製品の調査から評価、購入までを1人のユーザーが行うのではなく、ボードの設計者、ソフトウェアエンジニア、購買担当など、企業内のさまざまな役割の人間が組織として利用し、最終的な購入に至るからです。したがって、アクセス解析では非常に長いセッションでユーザーの行動を把握する必要があります。
2つ目は、コンバージョンが多岐に渡ること。これは1つ目の特徴とも関係しますが、製品企画の段階で何となく眺めているユーザーと、買うと決めているユーザーとでは、設定すべきコンバージョンが異なります。
たとえばボード設計者にとってのゴールは、製品の購入ではなく目的の機能を備えた製品を探すことです。どの状態にあるユーザーなのかを見極めないと、その後の施策もまったく見当違いものになってしまうわけです。
社内では、このようなユーザーの状態を「Find(検索)」「Try(評価)」「Buy(購入)」と3つの段階で捉えています。それぞれ「目的の製品を探す段階」「製品を絞り込んで検証やシミュレーションをしている段階」「購入すると決めた段階」にあるユーザーが、目的の情報に最短コースでたどり着けているか。アクセス解析ではそこに注目しています
」(関口氏)
Find (検索) | 製品名までは特定できておらず、パラメトリック検索を使って仕様や機能から調べるユーザー |
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Try (評価) | 製品をある程度絞り込めており、その製品がどのような動作をするのか評価検証するユーザー |
Buy (購入) | 目的の製品が明確で、いきなり製品名で検索するユーザー |
多様で複雑なユーザー行動を把握するためにセグメント機能を活用
サーバーログ型の解析ツールを使っていたが、負荷分散のためにWebサーバーを増やしたところ動線把握が難しくなった
パケット取得型のツールを使っていたが、アカマイなどのCDNやキャッシュサーバーを導入すると使い難くなった
コンバージョンまでの期間が長いユーザー行動を把握したい
多様な条件でユーザーを切り分けてそれぞれの行動を把握したい
多様で複雑なユーザーの状態を把握するために、同社ではアクセス解析ツールとして「SiteCatalyst」を導入している。また、長期間のユーザー行動やより細かいセグメント分けのために「Discover」(現在はAdobe Analyticsのad hoc analysisとして提供)も組み合わせて活用しているという。
「SiteCatalystで重宝しているのはセグメント機能です。たとえば『検索エンジンから3か月前に訪問したユーザー』『1か月以内に会員になったユーザー』などの条件で絞り込むと、先述した3つのどの状態にあるユーザーかある程度判断できます。
さらに、サイト内での行動からも把握できます。パラメトリック検索で仕様や機能から探しているユーザーは、製品名が特定できていない初期の検討段階だと推測できます
」(関口氏)
ルネサス エレクトロニクスのSiteCatalyst使用歴はかなり長く、導入時期は2005年ごろまでさかのぼる。日本では最初期に使い始めた企業の1つであり、SiteCatalystのベテランユーザーだといってもよい。
SiteCatalystの導入に至った経緯を、関口氏は次のように説明する。
「SiteCatalyst以前は、サーバーログ型のツールを使っていました。しかし、負荷分散のためにサーバーを増やしたため、動線の把握が難しくなりました。そこで、代わりに導入したのがパケットキャプチャ型のツールです。ところが、今度は「Akamai」などのキャッシュサーバーを利用するようになり、再び正確な解析が難しくなりました。
そこで検討したのがWebビーコン型のツールですが、当時は選択肢が限られており、グローバルで利用することを考慮してSiteCatalystを選びました。今では選択肢が増えて同等の機能を持つツールは他にもありますが、使い勝手や周辺ツールも含めた機能を考えると乗り換える必要性は感じていません
」(関口氏)
ユーザビリティの改善とマーケティングへの貢献にアクセス解析を活用
BtoB特有のユーザー行動を示す同社サイトだが、企業としてどのように位置づけているのか。また、経営や事業への貢献という視点から、アクセス解析の役割や重視している指標は何だろうか。
「もともとWebサイトは、製品データシートのライブラリという位置づけでした。半導体の資料は膨大なもの多く、数千ページのドキュメントはざらです。それを提供することが最初の目的でした。しかし、技術が進歩して提供できるものの幅が広がり、さらにユーザー環境が変化して使われ方やニーズも変わってきました。
営業は毎日お客様に会えるわけではありませんし、お客様も自分で情報を探すようになるなど、Webサイトに対する期待が社内外から高まってきました。そこで、マーケティングやセールス、サポートといった機能も強化することになりました。
アクセス解析の目的は、訪れたユーザーに最短で最適な情報を入手してもらうためにユーザビリティを改善すること。さらに、得られたインサイトをマーケティングに応用することです。
たとえば、製品検索で結果が0件だったものは、ニーズがあるにもかかわらず提供できていない情報です。製品仕様を細かく指定できるパラメトリック検索のクエリーからも、どのような製品が求められているかがわかります。頻繁に検索される製品は、最初かから見えやすい位置に表示したり、該当製品がない場合は代替製品を表示したりするなど、細かい改善を重ねています。
数字としてはページビューではなくユニークユーザー数を重視しており、先ほどのFind、Try、Buyのユーザーごとに目標値を設定しています。メディアサイトではありませんので、ページを多く見てもらうことより、ユーザーにとっていかに機能的であるかが重要だと考えています
」(関口氏)
担当者だけでなく社内全体でWebサイトの課題をリアルタイムに把握
社内では、関口氏を含む担当チームが日常的にアクセス解析を行っている。社内向けや経営層向けにはレポートで報告しているが、近年は他の部署でもアクセス解析ツールの利用が広がりつつあるという。
Web担当者だけでなく、製品マーケティングやセールスといった部署も使うことで、社員の多くがリアルタイムでWebサイトの状況を把握しようという動きだ。
「われわれ担当者以外も把握することで、いち早く課題に気づいたり、問題指摘や改善提案につなげられたりします。つまり、製品にかかわる全員でPDCAに取り組もうというわけです。
社内のSiteCatalystユーザーレベルとしては3段階あります。最初が、イントラで共有されていて誰でも見られるダッシュボードでPVやUUなど全体を把握するレベル。次が、SiteCatalystのレポートビルダー機能を使ってExcelと連携して、最新データを自分でグラフ化できるレベルで、この層が社内で増えつつあります。最後が、十分なトレーニングを受けていて、自由に使いこなしている専任担当レベルです
」(関口氏)
アクセス解析によって課題を発見して改善につなげた例として、関口氏は2つのエピソードを紹介した。
「弊社のWebサイトはグローバル対応するため、言語や地域別に11サイトあります。インフラ面や基本となるサイト構造は共通ですが、トップページは国ごとに最適化しています。
以前、インドからのアクセスが多かったのですが、インド向けサイトは用意しておらず、シンガポール向けのサイトでカバーしていました。しかし、詳しく見ると米国や日本にもアクセスしており、そのようなインドのユーザーにとっては使いづらい状況であることがわかりました。そこで、インドからのアクセスに対しては個別にバナーやリンクを出して、専用の問い合わせページに誘導しました。すると2~3か月後には、営業への問い合わせが約60%も伸びました。
もう1つ、問い合わせなどのユーザー登録フォームでは、どの項目で引っかかり易いか把握できます。多くのユーザーがエラーになったり挫折したりしている項目を特定して入力方法を工夫することで、申し込み数が増えたこともあります。
次の取り組みはパーソナライズとサービスの高度化
アクセス解析によって得られたインサイトをマーケティングに活用し、Webサイトの事業貢献を高めつつあるルネサス エレクトロニクス。関口氏は、今後の目標としてパーソナライズとサービスの高度化を挙げる。
「今後取り組もうと考えているのは、パーソナライズとサービスの高度化です。
現在でも、会員登録したユーザーには、マイページという簡単な個人ページを用意していますが、それをさらに拡張していきたいです。BtoBサイトは組織単位で利用されると説明しましたが、設計者であれば自分がチェックした資料やシミュレーション、関連製品で人気の高いものといった情報が蓄積されていると便利なはずです。これは、ユーザビリティの向上にもなります。
また、半導体や基盤システムという製品の性質上、ユーザーがWeb上で開発やシミュレーションを試せる機能が求められてくるのではないかと考えています。現在提供している製品資料などは、人間が見るためのものです。もちろんこれも大事ですが、APIなどを経由してシステム開発に利用できるような、ツールとしての機能提供やサービスの高度化が次の目標です。
もちろん、これらを実現してユーザーにとって使い勝手のよいものにするためには、アクセス解析が重要になります
」(関口氏)
- 本社所在地 ● 〒100-0004 東京都千代田区大手町2-6-2(日本ビル)
- 事業内容 ● 各種半導体に関する研究、開発、設計、製造、販売、サービスなど。
- URL ● http://japan.renesas.com/
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