コンテンツは現場にあふれている。会議室で話し合うより職人を呼べ。営業マンと話をさせろ。Web 2.0だ、CGMだ、Ajaxだと騒いでいるのは「インターネット業界」だけ。中小企業の「商売用」ホームページにはそれ以前にもっともっと大切なものがある。企業ホームページの最初の一歩がわからずにボタンを掛け違えているWeb担当者に心得を授ける実践現場主義コラム。
宮脇 睦(有限会社アズモード)
心得其の弐百四十六
2012年を占う
今年結論がでるとみているのが日本国内での「Facebook」への評価です。Web業界の利用度と、街角での温度差は激しく、一般利用度は「流行」や「定着」と呼べるレベルではない、というのが私の見解。かつてのグーグルを思い出します。
2001年にグーグル日本法人が開設された頃、すでにWeb業界ではデファクトスタンダードと呼んでも過言ではありませんでしたが、一般社会でグーグルの知名度が上昇したのは2004年のIPO(株式公開)以後で、「ググる」が新語・流行語大賞にノミネートされたのは2006年です。つまり、春頃と噂されているFacebookのIPO以降、いずれかの結論がでるという見立てです。
そもそも、次に流行るネットサービスを当て続けることなどできません。「当たり、はずれ」はあって当然です。しかし、結果を求められる社内で「はずれ」がWeb担当者の致命傷となることもあります。そのとき「はずれ」を武器として再利用する方法を知っていれば、最悪の事態を回避できます。新年第一号は、「Facebookがこけた時」のサバイバル術を紹介します。
mixiの凋落?
本題に入る前に「Facebookはすでにmixiミクシィを抜いている」という声に答えておきます。昨年11月にネットレイティングス社が発表した「最新SNS利用動向レポート」で、PCのアクセスでは2011年6月にFacebookがmixiを上回っていると発表されました。
しかし、同レポートでは「mixiが利用の濃さ(サイトに対するロイヤリティ)において圧倒的に他のSNSを凌駕している」とも指摘しています。つまりFacebookへの訪問者は増えているが、利用者の依存度においてはmixiの圧勝。SNSの性質上、ちらっと覗くだけの数と、積極的に利用するユーザーの数のどちらが重要かはいわずもがなです。ネットレイティングスの調査はPCに限定したものですが、mixiのアクティブユーザーの割合はPCよりもガラケー/スマートフォンのほうが高いということも忘れてはいけません。
さらにマスコミを通じて盛んに繰り返された「就活にFacebook」というプロパガンダと、例年なら就活開始にあたる「10月」の調査という季節要因もあったのではないでしょうか。そもそも「ネット調査」に積極的に協力するという人には、少なからず一定のバイアスがかかっており、私の得意とする中小企業の現場感覚とは違う結果になりがちです。
これからのマーケティング
Facebookがグーグルのように広く一般に浸透すれば、それに越したことありません。本稿の主題は、
これからはFacebookです!
と会議で大風呂敷を広げておきながら、Facebookが尻つぼみになり途方にくれるWeb担を助けるためのサバイバル術。Facebookだけではありません。「グルーポン」を筆頭とする「フラッシュマーケティング」は、各社苦戦が報じられておりますし、Twitterバブル期に「これからのマーケティングは」と煽られた「ツイ割り」も今は昔です。2012年のキーワードはソーシャルマーケティングと呼ばれたものの「淘汰(とうた)」かもしれません。
Web業界の煽りにうっかり乗ってしまった時の言い訳……リカバリーの方法によっては、逆に社内での自分の存在感を高めることができます。
負け犬レポートを提出
その方法とは「中間報告書」です。書式は自由ですが「実施目的」「実施方法」「実施結果」「今後の課題(反省)」の4項目にわけて、A4の用紙1~2枚にまとめます。パワポをつかって大がかりなレポートにするのは厳禁です。報告書を読まされる側の上司の負担と、
こんなものを作る暇があるなら
と、お小言の材料を上司に与えないためです。企画書や提案書があれば、目的と方法はコピペでOK。そして結果は事実を率直に記載し、「今後の課題」として反省の弁を添えて述べます。いわば「負け犬レポート」です。ちなみに「反省」とせず「課題」とするのは「ブラック・テキスト芸」の「換言」による印象操作です。
凝った内容にする必要はありません。もっとも肝心なことは誰かに指摘される前に提出することです。だれもが隠したがる傷口と正面から向き合うという姿勢から「人間力」を示すのが狙いです。
すべらない話
反対にだれかに指摘されてから作成しては、優れた情報分析であっても「言い訳」という非難から逃れるのは困難です。いわば失敗時の先制攻撃が「負け犬レポート」で、表題に「中間報告書」と「中間」を入れる理由は、続行か中止の決定を上司に丸投げするためです。報告書を上げることで、上長を当事者の1人として巻き込むのです。「口頭」だけではあいまいで、責任追及の段になると逃げる上司は結構多いものです。わざわざ書面に残すのは社内遊泳術の基本です。
また、失敗例をまとめておくことが、その後の人生を豊かにしてくれます。それは失敗例が「すべらない話」だからです。人の不幸は蜜の味とは本当で、営業マンの多くは「必殺の失敗話」をもっています。実務の面でも、成功や失敗例を書面で成果をまとめておくことで、次の企画を立てる際の判断材料にすることができます。
伝統芸として
最後に「反省の弁」で使えるWeb業界に伝統的に伝わる便利なキーワードを紹介します。
時代が早かった
企画は悪くなかったが、時代が先取りしすぎたという、裏返せばセンス自慢。普及しなかったネットサービスを語る際に多用されます。次は、
日本では
海外では流行っていたという証拠も添えると、失敗の理由を民族性に押しつけることができます。日本人は自虐的な思考回路をもつ人が多く、かなりの効果が期待できます。そして最後は、
レイヤーの違いが
レイヤーとは客層、階層など、日本語訳ではさまざまな意味にとれる便利な言葉で、手法や手段は正しかったが、客が悪かったと責任転嫁するときに使います。それらを踏まえての「マーケティング」や「予想」なのだという正論は飲み込んでください。
失敗のダメージを最小限に抑え、自分を売り込むチャンスにするサバイバル術「負け犬レポート」。しかし、その最大の効果は「失敗」と正対することです。失敗は恥ずべきことではありません。もっとも不幸なことは失敗を認めず、撤退もせず、かといって研究もせず、反省もしないことです。すると同じく反省しない人たちの次の「煽り」に騙されます。
今回のポイント
仕事上の傷口を明らかにする
失敗を認めることで次の成功確率が高まる
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