コンテンツは現場にあふれている。会議室で話し合うより職人を呼べ。営業マンと話をさせろ。Web 2.0だ、CGMだ、Ajaxだと騒いでいるのは「インターネット業界」だけ。中小企業の「商売用」ホームページにはそれ以前にもっともっと大切なものがある。企業ホームページの最初の一歩がわからずにボタンを掛け違えているWeb担当者に心得を授ける実践現場主義コラム。
宮脇 睦(有限会社アズモード)
心得其の弐百四十伍
みなさん、クリスマスイベント取り組んでいますか。まだ間に合う方法については、先日の原稿をご覧ください。ところで暦の関係で小欄は今回が本年最後。そこで2011年のWeb業界の5つの出来事を振り返ります。
1. ネットの力を再確認
ついにきたか
東日本大震災の長い揺れへの率直な感想です。小学生の頃から「東京直下型地震」がかならずやってくると教えられて育った世代にとって、あの大きな揺れはその言葉を思い出すのに十分でした。あわててテレビとラジオをつけると東北の惨状を伝える報道が相次ぎ、「壊滅」と告げるキャスターの言葉に首を振ります。すぐに家族やスタッフの安否確認に動きます。電話はすでに不通。ここで「ネット」が活躍しました。
震災直後でもネット回線が使える地域ではmixiやTwitter、ビデオチャットなどで安否確認ができました。これはネット特有の分散型情報網の強みで、巨大災害時の安否確認手段という、ネットの新たな社会的役割が認知された特筆すべき出来事です。
2. 飲み込んでからも忘れるな
次に触れておきたいのがWeb担当者のBCP。BCPとは「事業継続計画」のことで、企業としては常に考えておかなくてはならない要素ですが、震災によって初めて知ったという方も多いでしょう。
震災後も事業は継続しなければなりません。サーバーが破壊されない限り、Webサイトは笑顔をふりまき、配信予約していたメルマガは悲しみに暮れる遺族に陽気なメールを送ってしまいます。不要なものは停止し、最適なものに差し替え、通販会社なら在庫と配送網の確認など、震災直後にWeb担に求められる仕事も少なくないことを東日本大震災は教えてくれました。
喉元過ぎれば熱さを忘れる。しかし今、この時点で予想されている巨大地震はいくつもあり、次の「いざ」に備えるのは「いま」です。
3. カリスマとの別れ
今年の出来事として外せないのが「スティーブ・ジョブズ氏の死去」です。「ウォークマン」によって街中に音楽を持ち出したのは「ソニー」ですが、「iPhone」によってパソコンとインターネットに移動の自由を与えたのはアップル社というよりジョブズです。「スマホ」の隆盛も「iPhone」抜きには語れません。
スマホで変わる生活
ここで1つ、「今年」というしばり選から漏れた「スマホ」について来年の話を。この年末にスマホ(正しくは携帯端末)やタブレット用のOSである「webOS」がオープンソース化されました。「webOS」とはPDAで名を馳せた米国パーム社が開発したモバイル端末用OSで、iPhoneやiPadの「iOS」を強く意識しており、開発チームが「iPad 2」で同OSを動かしたところ、動作速度が2倍になったと「wired.jp」がこの夏に伝えていました。
「iOS」に近い機能性に「Android」と同じオープンソース。「webOS」は有力なスマホOSになる可能性を秘めています。迎え撃つAndroidはこの1年で2.3から4.0にバージョンを上げてきました。もちろん、マイクロソフトの「Windows Phone」シリーズも指をくわえて見ていることはありません。来年はスマホOSの全面戦争となること必至です。
スマホの普及により「使いにくい」「バッテリーが切れる」「料金が高い」などと「国民消費者センター」に苦情が寄せられています。来年はこうした負の面への注目が一段と高まることでしょう。スマホを操作しながらの歩行が周囲に与える迷惑は、すでに社会問題化しつつあります。人波の流れの中で突然立ち止まり、後を歩いていた人がぶつかり転倒したり、操作に夢中になり駅のホームから落ちたりです。
いわば「マナー」の話ですが、ケータイが普及して以来「マナー」に委ねて解決できたケースはありません。電車内でのケータイ利用のように、なし崩しに追認されるか、自動車(実は自転車も)運転中のケータイ操作の禁止のように、罰則ができるかのどちらかで、身体と周囲に危険が及ぶケースは後者の「罰則」が採用されます。「罰則」が施行される前に、モーションセンサーやジャイロセンサー、それとGPSを組み合わせて、移動中のスマホ操作を制限するメーカー側の自主規制に期待を寄せたいところです。
4. 中小企業の光明となるか
話を戻します。今年の出来事で、1つ明るい出来事を入れておくなら「みんビズ」のサービス開始です。「みんビズ」とは15分でホームページが作れるというグーグルが提供するホスティングサービスで1年間無料。わたしが着目したのは商工会などのリアルに基盤を持つ組織と提携していることです。リアルとの接点により、ホームページの利用を躊躇していた中小企業の「ラストワンマイル」を埋められればWeb業界全体にとって朗報となります。他にも、中小企業向けのクラウドサービスなども登場しています。
ちなみに話題に上りませんがヤフーの「Yahoo! ロコプレイス」や、リクルートの「お店のミカタ」などのように、簡単に無料でホームページを作成できるサービスは幾つもあるので、これらを利用してサテライトサイトを作っておくと良いでしょう。ネットビジネスのゲームのルールは「イスとられゲーム」。1つでも多くのイスを用意するのが勝利の基本です。Facebookページの効能も同様です。
5. 最大の出来事は
ラストを締めくくるのは「計画停電」です。わたしの事務所は東京23区内で停電となった数少ない地域にあり、電気が止まるとネットも止まります。被災地を思えばたいしたことではありませんが、電気とネットが止まれば、我が社は仕事になりません。しみじみと電気のありがたみを感じました。
同時に注目されたのが節電です。多くの企業が、湯水のごとく電気を使用していたことに気づかされたのではないでしょうか。そして、この冬も電力不足が伝えられています。どうか節電を心がけてください。
今年を振り返るとき、どうしても東日本大震災を外すことはできませんでした。不幸にあわれた知人もいれば、いまもまだ原発事故の影響で避難しているクライアントもいて、すっかり日常生活に戻った我々もいます。その我々がやらなければならないことは「忘れないこと」。そして「語り継ぐこと」と考えます。今年最後のツイート、ブログは、少しでも結構ですから震災に触れてください。
ちなみにFacebookをはじめとする「SNS」は今年の5大出来事(ミヤワキ版)に入れていません。日本にはすでにmixiもGREEといった和製SNSもあるからで、輸入品を盲目的に崇め奉るのは趣味じゃありません。「ソーシャルメディア」は「流行語」としてなら首位を争ったのですが。
いささか早くはありますが、よいお年をお迎えください。年末年始も仕事という方も多いでしょうが……。わたしは大晦日まで仕事しています。
今回のポイント
震災が教えてくれたことを忘れてはならない
語り継ぐことも残されたものの責務
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