わたしがdisる理由。Android苦戦の裏を過去のパターンから知る
コンテンツは現場にあふれている。会議室で話し合うより職人を呼べ。営業マンと話をさせろ。Web 2.0だ、CGMだ、Ajaxだと騒いでいるのは「インターネット業界」だけ。中小企業の「商売用」ホームページにはそれ以前にもっともっと大切なものがある。企業ホームページの最初の一歩がわからずにボタンを掛け違えているWeb担当者に心得を授ける実践現場主義コラム。
宮脇 睦(有限会社アズモード)
心得其の弐百弐十壱
disる理由
@miyawakiatsushi 先生にdisられるくらいにならないと
あるネットサービスについて、テクニカルライターの上田修子さんがツイッターでつぶやいているのを見かけました。「disる」とは「disrespect(ディスリスペクト・無礼)」を語源とし、「否定する、批判する」というニュアンスで使われており、わたし(@miyawakiatsushi)が批判するぐらいメジャーになってほしいということなのでしょう。
たしかに、話題として取り上げる以上、読者が知っているという前提があり、ある程度メジャーになったものを扱っています。しかし、それはdisる絶対条件ではありません。私が「disる」のは「煽り」に対してです。
過大評価、過剰な期待、希望的観測によって煽られた先に待つのは失望。そして何より、煽りの背景に「ユーザー不在」があるからです。
珍しく日経新聞が報じたAndroidの苦戦
たとえば昨年の今ごろ、PCの需要は減少し、すべてはタブレット端末に置き換わっていくと煽りまくられていました。iPadが切り開いた地平をAndroid OS搭載のタブレット端末が席巻するというものです。日本のiPad発売から1年が過ぎ、日経新聞がAndroidの苦戦を報じたのは2011年6月9日の「商品面」です。
商品面とは原油、金属、水産、畜産、農産物などの需給で価格が上下する「商品相場」に関する情報が掲載されているページで、PC用のDRAM(メモリ)も需給に連動し、東日本大震災の直後には供給力の低下の懸念から価格が上昇したとあります。また、PC需要の世界的な伸び悩みは市場そのものがiPadに代表される多機能情報端末に喰われていることが要因だといいます。
タブレット端末やスマートフォン用の製品の採算性が高いことも要因です。DRAMメーカーがモバイル端末向けの生産を優先するためにPC用の供給が減少し、結果的にDRAM価格が上昇すると見られていたのです。
横綱と平幕の一番
ところがPC用のDRAM価格は下落し、その理由をこう分析します。
iPadを除くタブレット(端末)の需要は市場の期待ほど伸びていないもよう
BlackBerryやWindows、webOSなどタブレット端末用のOSは多数ありますが、現時点でiPad(iOS)の対抗馬となり得ているのはAndroid端末だというのは衆目一致するところ。つまり、Androidの苦戦を報じたのです。
これをもって
Androidをdisる
ことはしません。私が「disる」のは「期待ほど」というところです。
iPadの優位性は「iPod」からの積み重ねがあり、ユーザーインターフェイス(Web風にいうならユーザビリティ)においては米アップル社が「Mac OS以前」から追求してきた歴史が裏打ちするもので、一方のグーグル製のAnroid OSの完成度については当初から指摘されており、横綱に新入幕したばかりの十両が挑んだとみれば「善戦」という評価が妥当でしょう。それを「iPad風の端末ならなんでも売れるんじゃね?」と売る側(メーカー)の期待を、ユーザーを除いたすべての関係者が煽ったことをdisります。
淑女のタブレット活用
タブレット端末そのものには期待を寄せています。
4年前に母が脳梗塞で入院したとき、病室で1人に1台用意されたテレビ兼PCは、タッチパネルで操作するものでした。Windows XPをベースとするその操作性は誉められたものではありませんでしたが、たどたどしい指先で日々、操作を覚えていく母の姿に、高齢化社会におけるタブレット端末の可能性を感じたからです。身体の自由がきかないなか、欲する情報を自分の力で入手できるツールはインターネットにおいて他にありません。
タブレット端末は高齢化社会で活躍するでしょう。先日、地下鉄に乗るとiPadを操るご婦人がいました。妙齢と表現しておきましょう。何駅かすぎると、婦人の右隣の席が空いたので腰掛けると、画面が目の端に飛び込んできました。それは「ソリティア」。なるほど「大画面」のソリテリアは本物のトランプのようですが、わざわざiPadでやるほどのものかと首をひねります。
もはや子供のおもちゃとして
1週間後、散歩がてらに近所のマクドナルドで「朝マック」を楽しんでいると、隣の席に座る団塊世代の男性がタブレット端末を操作し、文字を拡大しながらネットニュースを読んでいました。電車でソリテリアを楽しむご婦人と重なり合点がいきました。加齢からの老眼は避けがたく、そのとき文字や画面を拡大できるタブレット端末が優しくサポートしてくれるのです。
ただし、メーカーや関係者が「期待する(煽る)」ほど急激な変化が訪れることはありません。iPadを購入し新聞を読むと豪語していた友人のiPadは、お子さんのおもちゃに払い下げられました。もともと新聞を読む習慣のなかった彼にとって、紙からタブレットになっても新聞は必要のないものでした。仕事でも使う予定でしたが、ショートカットを多用する根っからの「マカー(マックユーザー)」である友人は不便を感じ、タブレット端末の代わりに「MacBook Air」を購入しました。
煽りとは販売促進
煽りが生まれる理由を端的に述べれば「ユーザー不在」です。新製品を買わせることができれば儲かります。だから煽ります。新世代、次世代、これからの主流……。私が知る限り、PC-6001が世に出た30年まえから変わらない風景で、もしかすると繰り返されるワンパターンをdisっているのかもしれません。
ユーザー不在はハードに限ったことではありません。1年前にツイッターを礼賛した人が、Facebookの解説本をだすのも同根。ついでにスマートフォンもdisりましょう。年内にも携帯電話の出荷数のうち、スマートフォンが占める割合が半数を越えるのではないかと噂されていますが、あくまで「出荷数」です。そこにユーザーの声はありません。Web担当者ならば、ユーザーがスマートフォンでサイトを利用しているのかを見るべきです。もし、スマートフォンの利用者がPCやケータイを逆転してきているのならば、対応を検討すべきでしょう。
スマートフォンを煽るのは、「データ通信」がキャリアにとって最後のフロンティアだからと裏を読みます。これについては先週公開のマイコミジャーナルの原稿をご覧いただければ幸いです。
最後に余談となりますが、本稿を執筆するにあたり「disる」の語源を確認してみると「Disable」の略ではないと知りました。冷静に考えればエミネムが「Disable」するでは意味通じませんね。
今回のポイント
「disる」のはその背景
「煽り」にユーザーは見えない
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コメント
子ども専用iPad
iPadですが、多分子どもに払い下げられたのではなく、子どもに取られたのではないかと
絵本と、中毒性の高いあやしアプリ専用機・・メーカー予想外?なユーザー層ですがw