震災時でも休むことなく情報発信を続けられた、スキルを問わずだれでも使えるCMS/法政大学+Web Meister
担当者のスキルによって更新頻度に差がでていた
必要なのは先進的な機能ではなくだれでも利用できるということ
東京六大学の法政大学では、情報システム刷新に合わせてウェブサイトのリニューアルを実施し、従来の運営体制で抱えていた上記のような課題を解決するため、「更新頻度の向上」を目的にCMSとして「Web Meister(ウェブマイスター)」を導入した。
多様な利用者がターゲットの大学ウェブサイト
法政大学では、これまでもウェブサイトを通じて大学の情報を発信してきたが、一般的に大学のような教育機関のウェブサイトには、企業サイトや商用サイトとは異なる運営の難しさがある。まず、会員獲得数といったコンバージョン目標のように、商用サイトでは当然の評価指標を設けにくい。多くの受験生を集めることは重要だが、ECサイトの会員集めとはわけが違う。また、サイトの利用者が、受験生、在校生、卒業生、保護者、教職員、地域住民、社会一般と実に多様で、それぞれのユーザーが必要とする情報を適切に伝えなければならない点も、大学サイトの特徴だと言えるだろう。
広報としてサイト運営に携わる法政大学総長室 広報・広聴課の加藤久美子氏は、今回のリニューアルのポイントを次のように説明する。
「法政大学は、15学部に加えて、大学院、付属校、研究機関など多くの組織を擁しており、情報の送り手もさまざまです。ウェブサイトでの情報公開は、それぞれの組織が各自で行うことになっていますが、コンテンツ制作のスキルには差があります。したがって、ウェブのシステムには、『利用者に合わせて必要とされている情報をわかり易く提示できること』と『だれでも簡単に情報を公開できること』という条件が求められます
」(加藤氏)
情報を整理し、頻繁に更新されるサイトを目指してリニューアル
法政大学では、数年おきに情報システムを刷新しており、ウェブサイトもそのタイミングで見直される。前回のリニューアルは2006年に行われたが、当時のスタンダードに沿って構築されていたため、5年が経過して現在のトレンドにそぐわなくなってしまった部分も少なくなかったという。
「この数年間で利用者の環境も変化しました。デザイン的には想定するPCの画面サイズなどもその1つですが、なにより利用者側の求める情報が増えたことが大きいです。ネットに慣れ親しんだ学生が増えていますから、『どうしてあの情報は載っていないのか』と要望をもらうこともあります。
- サイト全体の更新頻度を上げる
- 担当者のスキルを問わない情報発信システム
- デザインの柔軟性と使い勝手を両立
- アクセシビリティを担保
また、2011年度から文部科学省が大学情報の公開を義務づけるなど、これまで以上の情報公開が求められていますが、一方で送り手がそれに追い付けない課題がありました。以前のシステムでも、ニュースの掲載には独自のCMSを使っていましたが、それ以外のページは静的なHTMLで更新していました。そのため、担当者のスキルの差によって、頻繁に更新されるものとされないものがあるという状態でした。今回のリニューアルは、こうした状況を改善してサイト全体の更新頻度を上げることが目的でした
」(加藤氏)
2010年度のリニューアルで対象となったのは、hosei.ac.jpドメイン以下にあるサイトのうち、トップページを含むコンテンツ(広報・広聴課が担当)と受験生向けサイトの2つ。現在は統合されているが、受験生向けには必要とされる情報(受験や入学のための情報)が他とは大きく異なるため、内部的には別の組織が担当している。この2つ以外に、各学部、大学図書館、キャリアセンターなどのサイトがある。
複数の提案から総合評価のバランスを重視して選定
ウェブサイトのリニューアルプロジェクトは、2010年5月から開始された。法政大学では、まずWebコンサルティングを依頼して現状分析を行い、新システムの要件定義を行った。運営課題を解決するためにCMSが検討されることになり、それに基づいて複数のベンダーに提案を依頼し、9月に選考が行われ、10月から具体的な移行作業が始まった。
- 2010年5月 既存サイトのコンサルティング
- 2010年8月 ベンダーへ向けた説明
- 2010年9月 コンペ形式で提案内容を評価選定
- 2010年10月 プロジェクト開始
- 2011年2月 リニューアル完了。公開
「発注の際には複数のベンダーから選択するという形をとっています。リニューアルの提案は、オリジナルのシステムを構築するものや、既存のCMSを利用するものなどさまざまでした。そのなかで機能とコストパフォーマンスのバランスが良かったものが、サイズ社からの提案でした。以前のシステムはオリジナルで構築してもらったものですが、デザインや最初の機能は要望通りになったものの、新たな機能追加や変更で手間がかかったり不可能だったりといった短所がありました。既存のCMSなら、用意されているプラグインやテンプレートなどで簡単にできますが、逆にカスタマイズ性が低くなります。サイズから提案されたWeb Meisterは、『ここまでできるのか』と驚いたほどで、必要十分な機能がそろっていました
」(加藤氏)
提案内容の評価は、担当者だけでなく、一部他部署のスタッフも参加して行われた。トップダウンで導入を決めるのではなく、実際に現場で使う立場からの意見も参考にするためだ。デザインや使い勝手などの項目ごとに検討し、技術面も加味したうえで総合評価の高かったWeb Meisterに決まったという。
「Web Meisterが、すべての項目で一番だったというわけではありませんが、総合では抜きん出ていました。情報の受け手も送り手も多様なサイトですが、使い勝手とデザインの柔軟性を重要視しました。また、単にCMSを提供してもらうだけでなく、新しいサイトのデザインまで含めた提案依頼をしていたのですが、情報設計や移行作業についての提案内容も評価が高かったです
」(加藤氏)
単なる移行だけでなくよりわかり易いデザインと情報設計を工夫
2010年10月からCMSの移行作業に着手し、リニューアルは2011年2月末に完了した。既存コンテンツは2000ページほどあり、そのすべてを移行したが大きなトラブルはなかったという。
「5か月間という期間で実施したことに対して驚かれますが、最初のデザインが確定したあとはスムーズでした。その後の情報設計などは予定どおり進み、コンテンツまで含めて移行した2つのサイト以外も、ヘッダーとフッターのデザインを統一したのですが、そこでCSSの競合が若干あったくらいです
」(加藤氏)
新デザインで工夫したのは「わかり易さ」。以前のサイトにあったインデックスページは、文字通りリンク先のタイトル一覧でしかなく内容が把握しづらかった。そこで、各ページの内容を1つずつ確認して、タイトル以外にもリード文や画像をリンク先の情報として加えた。これにより、デザインを統一しながら使い勝手を大きく向上できたという。
また、教育機関という立場から、アクセシビリティも考慮して設計されている。音声ブラウザの読み上げも考慮されており、たとえば、ページ情報を入力する際に、CMSの管理画面でaltテキストの入力を必須にすることで、音声ブラウザ対応に必要な項目が揃うようになっている。また、色調に関しても、法政大学のスクールカラーであるオレンジと紺は変えられないが、配色やフォントのガイドラインを設けており、視認性を確保できるように調整を行っているという。
リニューアル完了後は、CMSの使い方についてトレーニングを実施し、簡単な操作ガイドを用意した。更新するだけなら、数ページ読めばできるようになるという。また、制作ガイドラインを設定したことで、各自で作成してもデザイン的な統一感が保たれるようになった。ニュースなどの最新情報は自動的にアーカイブされるようになったため、過去の情報まで含め、整理した形での情報提供が可能になった。トップページのFlash部分のコンテンツもCMSから変更できるため、いちいちデザイナーにFlashの修正を依頼しなくても作成することが可能だ。
大震災時の対応でリニューアルの成果を発揮
リニューアル後の効果が気になるところだが、実は大学サイトではこの点の評価が難しい。商用サイトのようにPVを集めることが目的ではなく、むしろカスタマーサポートに近い。したがって、PVの大小で各コンテンツの良し悪しを評価することもできない。
「企業と大きく異なるのは、数値で評価するようなことがない点ですね。アクセス解析などはしていますが、各組織の担当サイトごとにPVを出してランク付けるようなことはしません。閲覧者の多い少ないに関わらず、必要とされる情報を出すことが目的ですから、PVだけを指標にしてもあまり意味がありません。例外はイベント告知などで、これは開催後のフィードバックなども含めて見ています。ただ、リニューアル後にとても見やすくなったというコメントを卒業生の方からいくつかいただきました
」
- サイト全体のデザインを統一
- 情報が整理されたことで使い勝手が向上
- 情報発信のスピードが向上
- HTMLの知識がない担当者でも容易に更新
- アクセシビリティを確保したサイトを構築
大学サイトの基本的な役割は、自治体や政府のように、出すべき情報を出すことであるため、数字で評価することは難しい。しかし、2011年2月末というタイミングでのリニューアルは、結果として大きな成果をもたらした。3月11日に起こった東日本大震災である。地震当時、東京では交通機関が止まって帰宅困難者が多数発生した。法政大学では避難場所として大学キャンパスを解放し、学内の状況や連絡事項をウェブサイトに逐一アップした。
「3月は春休みで、震災当日は学生が少なかったものの、受験生や被災者への奨学金の情報や、学内で実施予定だったイベントの情報など、必要とされる情報を更新し続けました。Web Meisterを入れたおかげで、どの職員でも情報を更新することができ、その効果が思わぬ形で発揮されたといえます。これは、以前のシステムでは難しかったでしょう
」(加藤氏)
機能や存在を意識せずに使えることが重要
今回のリニューアルでは2つのサイトが対象だったが、2011年度は残りのサイトのリニューアルも実施する計画だ。サイトの規模としては2000~3000ページほどで、夏から作業に取りかかり、年度内に完了する予定だという。
「Web Meisterには、いろいろと機能があって、私たちが使っていないものもたくさんあると思います。ただ、大学サイトに重要なのは先進性や奇抜さではなくて、だれでも利用できるという点です。機能に振り回されることなく、当たり前のことをいかに簡単に続けられるかが、CMSの選定で重要なポイントだと感じています
」(加藤氏)
ポイントCMS導入リニューアルのポイント成果
- 担当者のスキルに依存しない更新環境を構築
- だれが作成しても統一したデザインを保てるように
- 情報発信までのスピードが向上
- デザインの柔軟性と使い勝手を両立したCMSを選択
「Web Meister」
Web MeisterはW3Cの理想を体現するべく、XMLに基づくアーキテクチャーで開発されたCMS。Web制作におけるプロが導入を手助けすることを前提に開発されているのが特徴。法政大学のリニューアルでは、デザインや情報設計だけでなく、組織内で統一したデザインを保つための制作ガイドラインも作成し、運営をサポートしている。
- XHTML、XMLを知らなくても編集ができるマニュアルを必要としない操作性
- ユーザインタフェースとコンテンツの分離
- コンテンツを構造化することで管理
- XMLのインポート、エクスポートによる外部連携
- 所在地:東京都渋谷区神宮前6-35-3 コープオリンピア704
- 設立:2008年7月1日
- 代表取締役:糟谷 博陸
- URL:http://www.x-yz.co.jp/
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