左脳的発想で作るCI。デフォルメでは省略を意識する
コンテンツは現場にあふれている。会議室で話し合うより職人を呼べ。営業マンと話をさせろ。Web 2.0だ、CGMだ、Ajaxだと騒いでいるのは「インターネット業界」だけ。中小企業の「商売用」ホームページにはそれ以前にもっともっと大切なものがある。企業ホームページの最初の一歩がわからずにボタンを掛け違えているWeb担当者に心得を授ける実践現場主義コラム。
宮脇 睦(有限会社アズモード)
心得其の弐百十七
教わったもっとも大切なこと
昭和後期から企業は、それまで以上に「イメージ」を大切にするようになり、文化や芸術活動を応援する「メセナ」とともに「CI」が注目され、多くの企業においてシンボルマークやロゴマークが作り直されました。フジテレビがそれまでの「8」のマークから、「目玉のマーク」に切り替えたのは昭和61年(1986年)で、昭和から平成となり、バブルに突入して流れは加速します。当時、駆け出しのプログラマだった私は、居酒屋で人生の師匠でもあった上司に「ウチの会社も作りましょう」と提案すると、ニヤリとわらって答えます。
CIってのはな、広告代理店が客から金をひきだすための方便だ
師匠は続けます。日本にはそもそも「家紋」や「旗印」「暖簾印」などの「シンボルマークの文化」があり、その「英語名」がCIに過ぎないといい、テーブルにあった醤油ビンを持ち上げ
キッコーマンは昔からあるだろ
と、ロゴを私に向けました。そして続けた台詞がその後の人生を決めたといっても過言ではありません。
プログラマなら“仕組み”や“仕掛け”を見極めろ
Web担当者に通じる言葉です。今回はロゴやシンボルマークの作り方の実際ですが、どちらも前回に引き続き「CI」と強弁します。その後、広告代理店勤務を経て、「CI」で小金を稼いでいることは師匠には秘密です。
マル囲みでできるCI
私の師匠が指摘したように、日本でCIは日常的に使われておりました。社名の一文字を「丸」で囲んだものは、最たるもので、昔の「マルハ」や「丸井」のCIは一文字を丸囲みしたもので、漢字、平仮名、カタカナ、アルファベットを丸で囲むだけの一番簡単なCIです。「ワード」の「丸囲み」機能を使えばクリック一回で作ることができ、「フォント」を変えればバリエーションは豊かです。この方法なら「絵心」は不用です。
ホームページに貼り付けるには、ワードの画面を開いた状態で「スクリーンショット」を撮り、歴代の「ウィンドウズ」に標準装備されている「ペイント」で開いて余計な箇所を切り取れば完成です。
文字を並べただけでも
イラストレーターやフリーハンドなど「お絵かき(描画)ソフト」がなくてもCIは作れます。「ユニクロ」や「Panasonic」のように、文字を並べただけでも立派なCIとなっているようにです。さらに文字の大小を変化させることで豊かなバリエーションが生まれます。このときも大切なことは、前回に触れた「わかりやすさ」です。
弊社のCIは、アルファベットを並べて直線的に処理しただけのものです。ここに「わかりやすさ」を加えます。先頭のAの左斜面は「業績の右肩上がり」をイメージし、隣のSだけ色を変え「Special」や「Super」の含意をもたせ、「AS」を大文字にしているのはホームページが果たす役割として「Advertise & Sales(広告と販売)」があることを強調しており、その状態を表す「mode」を接続した……と。屁理屈ではありません、こうして「理由」を説明できることが「わかりやすさ」なのです。
ロゴは左脳でつくる
絵心があるなら、さらに高度な「デザイン」にチャレンジします。もちろん「わかりやすさ」を絡めながらです。俗に絵心は「右脳」で処理し、論理は「左脳」とされますが、CIは「左脳」の仕事です(脳科学の世界では右脳左脳と、単純に機能の区別はできないそうです)。つまり、屁理屈……もとい「理由」から考えていくのです。
右の例(図案提出予定)はテレビゲーム販売業のロゴで、クライアントに説明した「理由」はこうです。
ファミコンのコントローラである「十字キー」がモチーフ。社名に含まれる「東」は、十字キーをそれぞれ東西南北に重ねて、「東」にあたる右移動キーの色を変えることで表現。そして、全体的に丸みを与えることで「若葉」の若々しさと、幸運をもたらす「四つ葉のクローバー」を表現しています。
若葉やクローバーは「色ありき」からの「あとづけ」です。もちろん「みどり」はこの会社社長の好み。ヴィジュアルにおいても「色」は重要なファクターです。
デフォルメは連想ゲーム
ちなみに先ほどの「丸囲み」にはこういう「理由」などいかがでしょうか。
- 御社のまわりをお客さんが輪になって囲む
- 角のない輪により社会との調和を表す
- 地球の中心に御社がある
理由を考えるコツは「連想ゲーム」です。先ほどのテレビゲーム販売業の例では次のようになります。
- テレビゲーム
- コントローラ
- 十字キー
- 東
前回のヤスリ屋の「亀甲」は「ダイヤモンド」→「指輪」→「多角形(多面カット)」→「六角形」、電気工事では当初「電気」→「電流」→「カミナリ」となったのですが、「落雷」や「漏電」のイメージはよくないと仕切り直し、一般人がもっとも身近に感じるであろう「コンセント」にたどり着いたのです。
ネットにおけるロゴとはつまり
特徴を大袈裟にし、目立たないものを省略することがデフォルメ作業になりますが、CIでは「省略」に重点を置きます。省略することで縮小しても図柄がつぶれにくくなり、単色でもわかりやすくなるからです。コントローラは十字キーだけにフォーカスし、ヤスリは肝心の「目」を省きました。「Web担当者Forum」のロゴは「WEB」の文字は、「E」の真ん中の横線が省略されています。極力ものを捨てる「断捨離」的な発想で取り組むといいでしょう。
さらにCIはこんな活用もできます。図は構想中のものになりますが、これは左右の「階段」のまんなかに「エキスパンダー式」のリフトのギミックを単純化したもので、「リフトの専門家であり、職人で、スペシャリスト」という「お題」をクライアントにだされたときの回答です。「ぼんやり」としてものを「なんとなく表現」するのにもCIは最適です。
CIを構成する要件は多々あり、ロゴやシンボルマークはその1つに過ぎません。しかし、これを設定することで客の信頼度が高くなるのは前回触れた「自分だけのCI」での経験です。日本人は古くからシンボルマークに慣れ親しんでいることが、その「仕組み」だと睨んでおります。
今回のポイント
わかりやすさは連想ゲームで
デフォルメは省略を意識
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