地図に“渋谷”をいれなければならない理由、商圏を広げるための戦略
コンテンツは現場にあふれている。会議室で話し合うより職人を呼べ。営業マンと話をさせろ。Web 2.0だ、CGMだ、Ajaxだと騒いでいるのは「インターネット業界」だけ。中小企業の「商売用」ホームページにはそれ以前にもっともっと大切なものがある。企業ホームページの最初の一歩がわからずにボタンを掛け違えているWeb担当者に心得を授ける実践現場主義コラム。
宮脇 睦(有限会社アズモード)
心得其の383
商圏設定は正しいか
路面店を営む知人から「近所の客しか来ない」と相談を受けます。客には行動半径があり、それは「移動コスト」と密接な関係を持ちます。一般的には徒歩、自転車、電車・自動車の順に移動コストが高まり、一定の範囲を越えた場所からの来客は期待できません。この一定の範囲は「商圏」と呼ばれます。今が旬の「サンマ」が一尾50円といえば破格値ですが、そのためだけに自動車を1時間走らせることはないようにです。そして、サイトに掲載している「地図」をチェックすると「商圏」の設定が「近所」になっていました。
チラシを作っていた会社員時代の経験則ですが、都市部ほど「近所の客」の比率が高まり、幹線道路沿いにある郊外型店舗では、自動車で30分の距離までが「商圏」となります。そこで、それぞれに合わせて「地図」の作り方を変えていました。
最近は店舗案内に「Googleマップ」などを埋め込むサイトが増えていますが、来店を期待する商売においては残念です。「地図」を工夫することで「商圏」を広げることができるからです。地図は戦略的ツールなのです。
わかりやすさの効能
オススメするのは「手描き地図」です。Googleマップのような細密な地図に対し、簡略化して書き起こした地図の意味です。便宜上「手描き」としましたが、実際には「Illustrator」のようなソフトを使って描かれたものも含み、こちらの方が実用的です。
細密な地図を見た瞬間に「わからない」と思考停止する人がいます。地理の授業でトラウマを抱えたのかもしれませんが、いわゆる「地図が苦手」というタイプです。俗に「男脳」「女脳」として男女を得手不得手に分けることもありますが、性差というより個体差で、地図が読めない男性も少なくありません。
もちろん、地図が読めなくても大切なお客様ですし、苦手意識は対象への興味を半減させます。「たかが地図」で客を遠ざけるのはもったいない話です。彼ら、彼女らの苦手意識を払拭するのに役立つのが「手描き地図」であり、「わかりやすい」と印象づけることができるからです。「わかりやすさ」が苦手意識を薄めることに役立つのは、イラストや写真がふんだんに使われた教科書の馴染みやすさを思い出せば理解できることでしょう。
わずか0.8mの道路幅
手描き地図なら、道路の本数を削り、目印を必要最小限に絞り込むことができます。そして「デフォルメ」ができます。これが「わかりやすさ」の鍵となります。
細密な地図の場合、実際の道幅が縮尺されて描かれます。リアルにおける道路幅6mと8mの印象は大きく異なりますが、2,500分1スケールにおいては2.4mmと3.2mmで、罫線幅ほどの違いしかありません。また、多くの人の空間認識能力は、レーザー測定器のような正確性を持ち合わせていません。通行量の多い通りは広く太く感じ、反対は狭く細く印象に残ります。この「感覚」に沿って、8mを広く、6mを細く描画することが「わかりやすさ」につながるのです。
具体的なノウハウについて「ネットで検索」したところ、ソフトの使い方的な「地図の描き方」はいくつか見つかりましたが、この「デフォルメ」についての記事は見つかりません。そこで次回は地図のデフォルメについて……と、この企画を編集部が許されたならお届けする予定です。
渋谷をいれる理由
それでは「商圏を広げる方法」について。
首都圏の事例で申し訳ありませんが、仮に「下北沢」の地図なら必ず「渋谷」を入れます。渋谷から下北沢駅までは「京王井の頭線」で3分とわずかです。移動コストも会社員や学生なら「定期」をもっている可能性も高く、下北沢への追加コストは130円です。
また、人の認知メカニズムは自分が関係する情報が目に留まるようにできています。そこから地図に「渋谷」の文字を見つけたとき、渋谷駅利用者の多くが、スルーすることができないのです。極論すれば、「渋谷駅」という文言を掲載するだけで、商圏に組み込むことができるという訳です。
こちらは「手描き地図」に描き込むのがベストですが、細密な地図でも「見出し」などに記載することでカバーできます。
ナビ過信の落とし穴
同様に下井草やときわ台なら「池袋駅」を、阿佐ヶ谷や笹塚では「新宿駅」を掲載します。ターミナル駅に隣接していない場合は「ランドマーク」を引用します。東武スカイツリーライン(旧東武伊勢崎線)「小村井駅」の知名度はそれほど高くありませんが、「東京スカツリーから2駅」ならば、スカイツリーの観光客まで「商圏」に組み入れることができると、皮算用できます(※「曳舟駅」でスイッチバックのような乗り換えが必要)。
カーナビやスマホなどのナビサービスの普及により、チラシはもちろん、ホームページなどでも「住所」の入力を求めるものが増えています。しかし、カーナビの普及率は5割前後といわれ、スマホのナビ機能(アプリ)を合わせても飛躍的に伸びることはないでしょう。すると住所入力を求めるチラシは、「非ナビ」の半数の客を置き去りにしているということです。
あやふや客のゲット
また、わざわざ住所を入力してまで来店する客は、目的が明確で購買意欲にも溢れていますが、世の圧倒的多数は、
興味はあるけど積極的に購入する理由もない
という「あやふや客」です。地図にターミナル駅を記載するのも、ランドマークから誘導を目指すのも、こうした「あやふや客」の背中を押すためのささやかな仕掛け、あやふやな購買意欲すらも「商圏」に組み込むための取り組みなのです。
これも文言だけでも対応できますが「駐車場」「駐輪場」の有無も必須です。実際、郊外型の店舗では、「駐車場ありますか」という問い合わせの電話が1日に何度もかかってくるといいます。そしてその何倍も「あきらめている」客がいることでしょう。積極的に求めているお客は、問い合わせをし、ナビに住所入力もしますが、そうでない「あやふやな客」は、わずかな不安でも足を止めてしまうからです。
ホームページへのアクセスはあるのに、近所の客しか来ない。そんなときは「地図」を見直してください。
今回のポイント
地図も広告の一部
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