就職希望者×採用サイト―必要な人材を獲得するための法則
第一部「これからの企業サイトにあるべきWeb戦略」「ビジネス目的を達成するための成果指標と測定方法」では、企業のWebサイトの目的と担当者の役割を明確にし、戦略を持ってサイト制作・運営を行うことの基本概念を解説しました。
今回から始まる第二部では、企業のWebサイトが持つ役割を、対象とするユーザー(ステークホルダー)とサイトのビジネス目標の2軸に分け、それぞれのケースに合った事例と対策を具体的に紹介していきます。各記事の最後には、チートシート形式としてまとめたPDFファイルを掲載しています。全17パターンの業務に直結する実践的なノウハウの中から、あなたのサイトに合ったものをぜひ活用してください。
背景 | テーマごとのWebサイトの現状を説明 | |
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課題 | そのテーマに関して、Web担当者の多くが抱える問題を提起 | |
サイト構築のポイント | データ全体を通しての重要ポイントを解説 | |
コンテンツの具体例 | 数ある具体的なコンテンツの例を提示 | |
リスクと解決策 | 陥りやすい間違いやそれらをうまく回避するためのヒントなど | |
サイトの要素 | サイトに必要な要素の洗い出し | |
サイト構造図 | サイトの構造図や位置づけなど | |
成果の判定指標 | サイトの成果を判定するために確認する指標 | |
補足事項 | その他補足事項 |
対象ユーザーとサイトの目的ごとにまとめた全17パターンの記事一覧はこちらからどうぞ。
「就職希望者×採用サイト」成功の法則
まずは、企業の採用活動を支える採用サイトのあり方について考えていきます。優秀な人材を獲得したいと思うのはどの企業の人事担当者でも同じことでしょう。果たして、企業の採用サイトにはどのような役割が求められているのでしょうか。
企業・就職希望者双方からみた現状
インターネットが重要なツールとなった今日では、リクナビやイーキャリアに代表される採用ポータルサイト(就職情報サイト)が非常に重視されています。かつて、知名度がない企業は就職希望者の集客にとても悩まされていました。しかし、採用ポータルサイトの登場が、集客のみならず初期段階での理解やエントリー機能などを担う強力なツールとして採用担当者の負荷を軽減させることになったのです。
それと同時に、就職希望者にとっても採用ポータルサイトが果たす役割は大きなものになっているといえます。マクロミルが2005年に関東地方在住の短大生・大学生を対象に行ったアンケート※によると、就職活動において「じっくりと企業を選びたい」という意見は8割を超え、さらに「就職活動において重要だと思うツール(複数選択可)」では、実に95%の学生が「インターネット」と答えました。複数の企業を比較したり、選択肢を絞り込んで検索したりできる採用ポータルサイトは、就職希望者にとっても利便性が高いツールだといえるでしょう。
※出展:マクロミル「就職活動に関する意識調査」
http://www.macromill.com/r_data/20051116recruit/macromill_200511_recruit.pdf(リンク先はPDF)
採用ポータルサイトに出稿していれば十分?
採用ポータルサイトは、自社のことを知らない人々への告知ツールとしては絶大な効果があり、就職希望者のメリットを考えても採用ポータルの重要性は今後も変わらないといえるでしょう。ただし、採用ポータルサイトの統一された情報では、企業側からみると他社との「違い」や「より詳細な情報」の提供が難しいのも事実です。そして、よりモチベーションの高い就職希望者ほど、採用ポータルサイトの情報では飽き足らず、各社の採用サイト上でさらに深い情報収集を試みるはずです。企業にとっても、就職希望者にとっても採用ポータルサイトだけでは十分ではないのです。
そこで、採用ポータルサイトを「集客の手段」と位置づけ、自社の採用サイトを採用ポータルサイトで集客した希望者を次のアクションへ導くための「フィルタリング」の役割と位置づけるのが理にかなっています。自社の採用サイトは人材獲得の最大の武器です。人材獲得にとって最も重要なポイントは、企業ブランドの構築手段としていかに採用サイトを活用するかです。
自社の採用サイトの「成果」を定める
では自社の採用サイトにはどんな要素が必要なのでしょう。それをこれから詳しく述べていきます。ただし、その前に1つ考えてほしいことがあります。あなたの会社の採用サイトの目的は次のどちらですか。
- とにかく人を集めたい(面接までの母数を増やしたい)
- 面接前の段階でフィルタリングしたい(コンバージョンを増やしたい)
必要な人材を獲得するという企業本来の目的を達成するためには、もちろんある一定の母数が必要になります。そのため、先に述べたように採用ポータルサイトの活用は必須といえるでしょう。しかし、本当に重要なのは、採用サイトから誘導した希望者をいかに絞り込んで、コンバージョンを増やすか(自社にとって必要な人材を獲得するか)という点です。
コンバージョンを増やすために
それでは、コンバージョンを増やすためのコンテンツの具体例をあげていきましょう。
- 会社の魅力を訴求する
給与や待遇、オフィス環境など企業の魅力はいろいろありますが、モチベーションとやりがいは、就職希望者の志望動機に深く関わる事柄です。また、社会や自分の生活にどのような関わりがあるのか想像できない業種の企業にとっては、その企業が担っている役割、社会や生活との関わり、存在意義を知ってもらうことが、すなわち自社の魅力を訴求することとなり結果的に新入社員のモチベーション向上にもつながるのです。
- 仕事内容を正しく理解してもらう
最近では、中途採用においても異業種への転職が一般的になりつつあります。また、理系・文系を問わず有能な人材を希望する企業も多くみられます。さらに、同じ業界でも企業によって守備範囲の異なる職名が多々あるため、「企業によってどう違うのか」という点は是非知りたいところです。このような場合、具体的な仕事内容の一端を公開して応募者に体験させることにより、自社の仕事を正しく理解してもらうことができます。
- 若年層の早期退職を防止する
企業の採用担当者にとって「離職率」は気になる数字です。早期退職などによる離職率増加の原因は、仕事や職場に対する理解不足・説明不足に他なりません。職種ごとに仕事の流れと内容、1日の過ごし方を紹介し実際の現場をイメージさせることでこの問題の多くは解決することができます。また、入社から現在までを一社員の声だけでなく、その社員に関係する人物(上司、同僚など)からのメッセージを掲載し、多面的に実例を紹介します。こういった紹介コンテンツは、企業側の視点ではなく応募者側の視点・言葉で仕事内容を説明すること、またネガティブな情報も積極的に紹介するという判断も重要です。
- 向上心の高い人物を獲得する
中途採用・キャリア採用に関する企業側の要望でよく見るのが「向上心の高い人」です。向上心の高い人材にとって企業を選ぶ際の重要な判断材料は、自分のキャリアをどのように育てることができるかという点です。教育制度や研究開発に対する取り組み、あるいは企業内ベンチャーに関する実績などもそれらの情報に該当します。
また、評価制度や査定に関する具体的なプロセスを可能な限り開示することで、公明・公正な評価をする企業であることを訴求できます。人材育成・キャリア育成に関する自社の考え方を述べるとともに、あわせて入社後3~5年の社員がどのように成長できたかを紹介する、または転職前と転職後のスキル・年収などを比較して掲載するなど具体的に社員の現在と過去を比較することで、応募者に自分の将来像を喚起させることができます。
採用サイトの失敗がもたらす悲劇
上記にあげたような有効なコンテンツを用意すればすべてうまくいくかというと、そんなに簡単ではありません。必ずどこかに落とし穴が潜んでいるものです。コンテンツ制作と運用面で陥りやすい問題点を2つほどあげてみました。個別に詳しくみていきましょう。
ユーザーが抱える不安を取り除く
重要なのは就職希望者の視点に立つことです。過去に受けた問い合わせや面接で受けた質問を思い起こしてみてください。新卒採用と中途採用、総合職と技術職それぞれに固有の「不安」と、共通の「不安」があるものです。まずは、その「不安」の種類を整理し、採用サイトに掲載する情報やコンテンツに変換していく必要があります。
- 採用サイトでのエントリー前に取り除くべくきもの
- 面接時に取り除くべきもの
- その他、OB訪問などで取り除くべきもの
大きく上の3つに分類し、FAQコーナーを設けたり、採用スケジュールに沿って説明したりする必要があるでしょう。ただ闇雲に「こんなコンテンツがいいかも」といったような思いつきのコンテンツありきでは、就職希望者のための採用サイトの実現から遠ざかってしまいます。
運用面を熟慮したコンテンツを
Flashなどを活用したエンターテインメント性の高いコンテンツで若者受けを狙いたい
自分たちで更新すると手間がかかり、会社説明会などで忙しい時期に更新できない
いずれもよく聞く話ですが、これらはコンテンツの形状と更新頻度や更新の担当者のスキルとのミスマッチという問題を抱えています。更新頻度が高い情報をFlashで制作した画面内に表示してしまい、更新したいときに制作知識のない企業担当者が作業できないといった具合です。
採用サイト(特に新卒採用サイト)は限られた期間に使用することが前提のサービスです。また、採用サイトの更新頻度が高い時期は当然、採用関連のイベントが目白押しで採用担当者の繁忙期と重なるものです。採用活動プロセスのマスタースケジュールを確認しつつ、いつ・どこで・どれぐらいの更新が発生するのか、誰がその作業を担当し、それらの情報はWebサイトのどこに掲載されるのかを照らし合わせつつWebサイト構築を進めることが重要です。
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