これからの企業サイトにあるべきWeb戦略
初出時、本記事内に出所が定かではない表現が含まれておりました。
該当個所: 「2000年代に入り国内のインターネットユーザーが100万人を突破した頃から、」
ここに訂正するとともに、ご迷惑をおかけしましたことをお詫び申し上げます。Web担当者Forum編集部
新しい年度が始まって数か月が経過しました。読者の中には、期せずしてWeb担当部門に配属された方もいると思います。Webというのは近いようで遠い媒体です。普段の生活の中で、何気なくサイトを見たり検索したりすることはあっても、Webで情報を発信する機会は滅多にないものです。ましてや企業名を冠して情報を発信するとなった場合、どんな情報をどのように出していけばいいのか、途方に暮れている方も多いのではないでしょうか。
本稿は、Webサイト構築の専門家としての立場から、企業のWeb担当者として最低限知っておけば必ず業務に役立つ情報をお伝えし、皆さんの業務負荷を少しでも軽減できればとの意図から始まった企画です。
第一部として、そもそも企業のWebサイトとは何か、そこで何を求めるべきか、という概念的なところから話を進めていきます。また、第二部としては、様々なケース別の事例と対策を具体的に紹介し、業務に活かせる実践的なノウハウをチートシートとしてお届けします。ここで述べる話は、新米のWeb担当者のみならず、中堅・ベテランの方にとっても業務に効率化をもたらす有益なものであると思います。自社サイトと自身の業務に照らし合わせつつ読み進めていただければ幸いです。
企業Webサイトの変化
これから企業のWebサイト(当時はホームページと呼称されることが多かった)を語っていく上で、少し時代をさかのぼって考えてみることにしましょう。企業のWebサイトの歴史は浅く、1990年代中頃になって、ようやく企業がWebサイトを設けるようになりました。ただし、当時はサイトを開設していることがステータスであり、その中身は印刷物の会社概要を焼き直したコンテンツがほとんどでした。その中で、ちょっと凝った見せ方をして話題になることが企業Webサイトの役割だったのです。
一方のユーザーも、一部の研究者や学術目的での利用者を除いて、その多くはパソコン好きや新しいもの好きといった特定の人でした。「どこどこの企業のホームページには、こんな情報が載っている」といった話を仲間内で自慢することが企業Webサイトを訪れる目的になってしまっていたのです。
当時はGoogleなどの検索エンジンはまだ普及していなかったため、企業のWebサイトにアクセスするにはその企業のURLを憶えるしかありませんでした。憶えやすいドメイン名が高額で取引されることもあり、特殊な時代であったといえるでしょう。
ところが、日本のインターネット利用が一般家庭にも広まりをみせた2000年代頃から、企業Webサイトの役割が大きく変わりました。ユーザーの意識の変化が大きな要因です。ユーザーは、インターネット上に存在する情報をただ見る状態から、目的に応じて使いこなすように変わっていったのです。もともとインターネットに接続するということは、ユーザー側が費用と労力を負担することになります。時刻表を知るために鉄道会社のWebサイトを訪れる、値段を調べるためにパソコンショップのWebサイトを訪れる、就職活動をするために企業Webサイトを訪れるなど、Webサイトに訪れる人が、自らが抱える問題を解決するためにさまざまなWebサイトにアクセスするようになりました。
検索エンジンの進化も拍車をかけました。サイトをカテゴリ別に分類して登録するディレクトリ型検索から、入力したキーワードに最適なページを表示するロボット型検索へと利用者が移行していったのです。これにより、インターネット全体がユーザーにとっての巨大な辞書、つまり問題解決のツールになったのです。
時代とともに変化した企業のWeb担当者
1990年代、Webサイトの運営体制というのは現在とは大きく異なっていました。インターネットに詳しい少数の社員がボランティアでサイトを構築・運営していて、1人~少数のWebマスターが通常業務と兼任で自分たちが出来る範囲のことをしていたのです。
2000年代になった現在、企業がインターネットの価値を認識するにしたがって、Web専任の部署や担当者が置かれることが多くなりました。リニューアルなど大規模な改修の際には、専用の部署あるいは経営企画や広報などの統括部署が指揮をとり、関連の各部署が参加した「プロジェクトチーム」が設けられます。異なる専門知識、異なるミッション、異なるポジションの人間がWebサイトに関わり、より充実したWebサイトの実現が可能となったのです。
ただし、通常の業務・人事体系に属するWeb担当者の存在が、ボランティア業務とは違う問題を生むことになりました。異なる専門知識、異なるミッションの人間が関わりプロジェクトを進行するために「Webサイト構築のプロジェクトをどのようにしたらよいかわからない」といったプロジェクトマネジメントの問題や「インターネットやWebサイトに詳しくない人が突然担当者になる」「数年の人事異動で担当者が変わり、膨大な量のコンテンツや巨大なWebサイトに関する把握や引継ぎがスムーズに出来ない」といった人事制度の問題などWebサイトの運用に行き詰まり・限界を感じている担当者が増えているのです。巨大化・複雑化の傾向にある企業Webサイトを、複数の部署にまたがって運用するからこその問題が新たに生じているといえるでしょう。
もはやWebサイトは企業にとって特別なものではない
会社紹介の延長で誕生した企業のWebサイトも、今ではビジネス上の重要なチャネルとして戦略的に位置付けられ、いかにしてユーザーとのリレーションを築くかが課題になっています。Webサイトを通してユーザーの抱える問題を解決することで、ユーザーと企業との優良で継続的な関係性が生まれます。ユーザーと継続的な関係を築くことで、さらにユーザーが抱える別の問題(潜在的な問題)が解決されます。こういったユーザーと企業との循環を生み出すことがWebサイトの機能そのものなのです。
企業にとってユーザーとの接点といえば「店舗」「営業マン」「広告」「コールセンター」など実にさまざまです。店舗新設の際に建築物の企画ではなく「店舗運営戦略」を立てる、あるいは広告展開の際に紙面企画ではなく「コーポレートコミュニケーション戦略」を立てる、それが当たり前なことだと考えられます。ところが多くの企業は、自分が出したい情報やしたい事を企業側の都合でWebサイト上に展開させ、訪れる人(ユーザー)にとって「機能しないWebサイト」「戦略のないWebサイト」をつくってしまいがちです。「インターネットは詳しくないから」といっておよび腰になる経営層も少なくありません。建築士の免許がなくても店舗運営戦略が立てられるように、Webサイトやインターネットだけを特別なものとして扱うこと自体がおかしいのです。
企業にとってのWebサイトは、「建築物」「紙面」と同様、単なる「器」に過ぎません。Webサイト戦略とは、本質的に「営業」「顧客サポート」「(社内外の)システムインフラ」などといった複数の重要な戦略にまたがるものです。そのため、全社合意の意思決定にもとづく戦略策定と、全社規模で戦略を実行するための実施計画が重要になります。
Web戦略は企業戦略の上に成り立つ
Webサイトをどう構築するか、Webサイトへの集客をどうするか、Webサイトに関係する事柄とどう連携するかといった「Webサイトありきの戦略=Web戦略」と定義していた企業も多いのではないでしょうか。
Webサイトは、ユーザーにとって企業との接点の1つに過ぎません。店舗でもWebサイトでも商品を購入するし、困ればコールセンターにも電話します。ユーザーとの接点であるチャネルがすべて連動することで初めて成果を出すWebサイトとなります。「WebサイトのためのWeb戦略」ではなく、企業全体の戦略として何をしなければならないか、それを成し得るために企業全体としてどのように取り組むのか、「企業戦略に基づくWeb戦略」がこれからのWeb戦略のあるべき姿です。
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