あらゆる現場に適応するデザインの方法論を体系化する/書評『デザインサイエンス――未来創造の“六つ”の視点』
BOOK REVIEW Web担当者なら読んでおきたいこの1冊
『デザインサイエンス――未来創造の“六つ”の視点』
評者:森山 和道(サイエンスライター)
人間の創造的行為を理論的に説明する新たな科学、デザインサイエンス
デザインが分業化・専門化の過程で失ってしまった「主体性」を取り戻せ
精神価値の充足、環境問題や大規模システムの安全などを解決するためのデザインの方法論、その体系化を目標とする「デザインサイエンス」。その構築を目指して、2004年に慶應義塾大学が文部科学省から採択された21世紀COEプログラム「知能化から生命化へのシステムデザイン」における慶応先端デザインスクールの一環として創設された「デザイン塾」の活動を、二部構成で紹介する一冊。
第一部ではまず産業革命から現在までのデザインの文脈を辿る。そしてこれからのデザインの方向性は「統合化」と「生命化」だと主張する。第二部では、第一部で提示された視点をもとにした具体的なデザイン研究、デザイン作品例が紹介されている。合間には慶應義塾大学で研究中の技術シーズも紹介されている。
19世紀、デザインは「外的デザイン」とエンジニアが行う工学設計である「内的デザイン」に分業され、両者は独自に進化した。そして20世紀、「外的デザイン」「内的デザイン」どちらとも、さらに細かく別れ、専門化していった。これが後に、各デザイン間の齟齬を生み始める。だから統合化がこれからのデザインには必要なのだというのが本書の基本的な主張である。
単に各領域の人間が問題意識や手法を共有するだけではなく、各デザインの基盤を構築することが必要だという。そしてデザイン統合化のフレームワークと価値、意味、状態、属性の4空間の要素間の関連づけでデザイン過程における様々な要素を表現する「多空間デザインモデル」を提案する。
本書ではこれらの取り組みを通して、デザインが分業化・専門化の過程で失ってしまった「主体性」を取り戻そうと主張している。
いっぽう本書が提案するもう1つの方向性が「生命化」だ。一言で言えば、これからのプロダクトは、想定外の状況においてもロバストに、しかも大きなレベルにおいても小さなレベルにおいても適応できるようにデザインされるべきであり、それは生命に学ぶべきではないか、という考え方だ。
第二部では、未来のビークルや統合医療システム、宇宙往還機、人工股関節システム、動植物型ロボットなど、いかにも未来のプロダクトといった色合いの強いモノのほか、地域再開発計画や持続可能な地域・都市構造の模索、そして前述の「多空間デザインモデル」や人工物デザインを支援する創発形状生成システム、ロバストデザイン法などなど、各種研究の一端が紹介されている。
本書が主張する「統合化」と「生命化」という2つのコンセプトは、言葉は違っていても、様々な業界で似たようなことが言われているように思う。だからおそらくみんな総論は賛成なのだ。問題はそれをどうやってきちんと確立された手法にまで持っていくかにある。
素人目に見ても、トップダウンとボトムアップの組み合わせ、ハードウェアとソフトウェアの組み合わせなど、これからのデザインがやらなければならないことは山ほどある。またデザインは、生きて動き続けている生の社会を相手にした活動だ。走りながらであっても使えるような考え方でないと現場には受け入れられにくいだろう。これからのデザインに何が必要なのか。デザインにできることは何なのか。読んだあと自分自身で考えることが一番必要なのだろう。そんな気持ちがわいてきた一冊だった。
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